音楽ナタリー PowerPush -佐々木恵梨

「プラスティック・メモリーズ」OP曲シンガーの不思議で確かなキャリアデザイン

日本人と黒人の赤ちゃんを産まなきゃわからない!

──そういう学部の場合、研究テーマってどうやって見つけるんですか?

自力で(笑)。自分の好きなこと、興味のあることを研究テーマにする感じですね。

──そうすると、その道のエキスパートは学内に佐々木さんしかいないっていう状態になりません?

どの学生もみんな、そんな感じでしたね。一応研究テーマに近いジャンルを専門にしている教授に就くことにはなっていて、私の指導教授はイタリア美術を研究している方だったんですけど、私の当初の研究テーマは黒人のグルーヴ感についてでしたから。

佐々木恵梨

──それは「近いジャンル」なのか?(笑)

だから私がゼミで何かを発表しても教授も周りのゼミ生も「ふーん」って感じで(笑)。しかも研究を進めた結果「これは私が黒人の赤ちゃんと日本人の赤ちゃんを産んで比較しなきゃわからない」という話に至って……。

──あっ、黒人の持つグルーヴ感って先天的なものなんですか?

そこを知りたかったんです。育った環境によるという説もあるんですけど、骨格の問題であるとも言われているので。黒人のほうが手足が長いから、リズムを刻むとき私たちよりもちょっとモタって見える。それがグルーヴ感を生むんじゃないか、とか、頭蓋骨の骨格が違うから声の響き方が白人や黄色人種とは違うんじゃないかっていう話もあって。だから日本人の赤ちゃんを産んで、その子に日常的に黒人音楽を聴かせまくって、もう片っぽで黒人の赤ちゃんに音頭みたいな日本の音楽を聴かせまくらなきゃいけないな、ってなって。

──本当に環境次第で黄色人種でも黒人のようなグルーヴ感を獲得できるのか、実験をする必要があった(笑)。

そうなんです(笑)。

──結論は出ました?

いや「まだ学生だし、子供はちょっと……」「さすがにムリだわ」ってことで研究は頓挫して(笑)。当時から作詞をしていたので、アリストテレスの「詩学」の中にすでに「悲劇の持つカタルシス」という概念が登場していることを引き合いにしつつ、今のJ-POPの文体論というか、J-POPの歌詞のカタルシス論をまとめる方向に切り替えました。

“林直孝アニメだから”オーディションに応募

──そしてその卒論を提出して、職業作家としての道を歩き始めた。で「アイドルマスター」シリーズのテーマソングをはじめ、いろんな楽曲に詞を提供して、その曲にコーラスで参加したりもしている。けっこう順調な作家人生ですよね。

「順調です!」って言うのは照れくさいんですけど、音楽に携わること自体が好きだし、たくさんの人と何かをクリエイトできる環境も好きだから、楽しく活動はさせてもらってますね。

──ではなぜ今回、佐々木恵梨名義でデビューを?

「プラスティック・メモリーズ」キービジュアル©MAGES. / Project PM

「プラスティック・メモリーズ」のオープニングテーマとエンディングテーマのコンペに落ちたからです。

──へっ!?

私、大学時代からアニメが好きだったんですよ。「シュタゲ」(「STEINS;GATE」)とか「ROBOTICS;NOTES」とかも観てましたし。そうしたらその「シュタゲ」や「ROBOTICS;NOTES」にも携わっている林(直孝)さん脚本の「プラメモ」っていうアニメのオープニングテーマのコンペがあるっていう話があって。テンションが上がって曲をコンペに出したんですけど、あえなく落ちてしまい……。でも「何かで関わりたいなあ」と思ってたら、今度はボーカリストのオーディションの話があったから「受けます! 受けます!」って(笑)。

──志望動機は「私の歌声を聴け」ではなく「林アニメだから」(笑)。

基本的に来た仕事は全部受けようっていうスタンスだから、たぶん林さんの作品でなくてもオーディションは受けていたと思うんですけど、意気込みはちょっと違ってたと思います。

「プラメモ」のオープニングはこっち系だったか!

──言ってしまえば佐々木さんをコンペで負かした楽曲「Ring of Fortune」なんですけど(笑)、初めて聴いたときっていかがでした?

ああっ! こっち系だったか!って。

──「こっち系」?

「アニソン!」っていうよりは、美少女ゲームの曲っぽいというか……。

──確かに切なげでドラマチックなメロディにストリングスを重ねて、よりドラマチックに仕立てる感じってゲームのテーマソング的かもしれない。しかもベースがバキバキ鳴ってたり、突然ギターのフィードバックノイズがかぶさったりと音の遊びも多いから、聴いていてすごく面白いんですけど、レコーディングっていかがでした?

オーディションのときから歌ってる曲だっていうのもありますし、アニメのシナリオも少し見せていただいていたので、そんなに悩むことはなかったですね。曲自体透明感があったし、作品もそういう感じだったから、あまりエモくならないように。サビはガンッと歌おうと思ってたんですけど、いわゆる熱いアニソン的な歌い方ではない。ちょっと温度感低めで歌うべきだろうと思ったし、それをできたかな、と思ってます。メロディのアップダウンの激しいテクい曲……テクニカルな曲だから難しかったりはしたんですけどね。

──そして今、その歌声が毎週テレビから流れてきてますけど……。

さすがに今はもう慣れましたけど、放送が始まった4月の頃は「おお、流れとる! 流れとる!」って感じでした(笑)。第1話の放送はスマホで動画を撮りましたもん。

──いや、テレビ番組自体を録画すればいいじゃないですか。

もちろん今も毎週録画はしてるんですけど、第1話のときは友達を部屋に呼んで上映会をしたので。その風景込み込みで撮ってみました。「おめでとう!」「イエーイ!」って(笑)。

デビューシングル「Ring of Fortune」/ 2015年5月27日発売 / 1296円 / 5pb.Records / SVWC-70074
デビューシングル「Ring of Fortune」
収録曲
  1. Ring of Fortune
  2. オトニナル
  3. Ring of Fortune -off vocal-
  4. オトニナル -off vocal-
  5. モノローグドラマ「To You.」(CV:雨宮天)
佐々木恵梨(ササキエリ)
佐々木恵梨

1989年福岡県生まれのシンガーソングライター。幼少期よりバイオリンとピアノに勤しみ、京都大学総合人間学部入学後、軽音楽サークルで音楽活動を本格化。在学中に結成したバンド・Latticeで楽曲制作、ライブを行う傍ら、プロのボーカリストや作家としてのトレーニングもスタートさせる。大学卒業後はソーシャルゲーム「アイドルマスター ミリオンライブ!」のテーマソングなどの作詞、作曲、コーラスワークを手がける作家、サポートプレイヤーとして活躍。そして2015年5月、テレビアニメ「プラスティック・メモリーズ」のオープニングテーマ「Ring of Fortune」でソロシンガーとしてメジャーデビューを果たした。