音楽ナタリー PowerPush -佐々木恵梨

「プラスティック・メモリーズ」OP曲シンガーの不思議で確かなキャリアデザイン

「プラメモ」が見せた新しさ

──ファンの方のリアクションももう聞こえてきてますよね?

発売前から「最近、あんまりCDを買ってなかったんだけど、この曲は買ってみようと思います」って言っていただいたり、あと声を評価していただいたりしてますし、本当にありがたいですね。

──あと林直孝ファン的に「プラメモ」っていかがですか? すごくかわいいラブストーリーでありながらも、あんまりハッピーな展開にはならないんだろうな、って予感もさせてますよね。

そこが新しいなって思いました。「シュタゲ」ってラブストーリー的な要素もあったけど、もっとSF感を全面に押し出してたじゃないですか。でも「プラメモ」はSFでもあり、甘酸っぱいラブストーリーでもあり、切なくもありっていう感じなところが新鮮だなって。で、オープニングテーマだから当たり前といえば当たり前なんですけど「Ring of Fortune」ってちょっとだけ「プラメモ」のストーリーを示唆してもいて……。

──じゃあ曲をじっくり聴いてみると今後の展開がわかる?

かもしれない(笑)。

「踊れるな」じゃなくて「京都っぽい」

──そしてカップリングの「オトニナル」は生感の強いハウス。このサウンドデザインはどなたのアイデアなんですか?

佐々木恵梨

レーベルのスタッフさんと作曲・編曲の横山克さんのアイデアですね。「ボカロっぽい曲」っていうイメージで作り始めたらしくて、本当にあんまり人間の歌いそうのないメロディとアレンジが上がってきたから、私も「おお! これでいいじゃん」って感じで乗って、そこからいろいろアイデアを肉付けしていった感じです。……でもこれハウスというか、ダンスミュージックなんですかね?

──だって強めの四つ打ちのビートの上で、アコギとピアノが跳ねる16分音符でリフを刻んでるし、黒人音楽的ではないけど、ダンサブルですよね?

ああ、なるほど。私、この曲を初めて聴いたとき「踊れるな」じゃなくて「京都っぽいな」って思ったんですよ。学生時代見ていた京都の景色が浮かんできて。

──京都っぽい?

おっしゃる通り、ハウシーな感じで都会的なクールさもあるんだけど、アコギやピアノの音色はすごく温かくて。このクールさと温かさが入り交じってる都市、それが京都!っていう感じがするんですよ。

──なるほど。でも「Ring of Fortune」のボーカルスタイルの話じゃないんだけど、この曲も温度感は気になっていて。サビの最後の1小節、本来だったら一番盛り上がるところでキックとボーカル以外全部の音を抜いてますよね。ブチアゲて終わりにするんじゃなくて、ずーっと心地よく適度にアゲ続ける感じがいいなって。

そういう感じも京都なんです。まあ、私の場合、京都の大学にいた5年間、プログレとかポストロックみたいなことばっかりやってたから、京都感がねじ曲がってるのかもしれないんですけど。

──そしてこの曲は佐々木さんの作詞です。詞にも京都感は反映されている?

反映されてますね。京都を舞台にした物語というか、京都の街の景色とその街にいる人たちの姿を描ければいいなっていう感じで書いたので。

──そのモチーフを持ってきたのは、曲に京都感があったから?

もちろんそれが大前提ではあるんですけど、私自身、京都のことを歌いたかったので。Latticeは全部英語詞だから、私にとってはこの詞が初めて自分が歌うために書いた日本語詞なんです。で、レーベルさんから「自由に書いていいよ」って言われたときふと蘇ったのが「音楽をやっててよかったな」「バンド組めてよかったな」っていう気持ちで。だから「あの頃、あの風景を見ていたから今も音楽ができている」っていう喜びを、その風景と少しの実体験を織り交ぜつつ「オトニナル」っていう言葉に集約させてみたかったんです。

──初の日本語での自作詞曲とはいえ、さすが作家さんというか。その音楽と関われる喜びを「オトニナル=音になる」ってたとえるあたりはやっぱりうまいなあっていう感じがしました。

よかったあ(笑)。私が見た街並みや景色っていう、私個人の体験を基に書いたからちゃんとオリジナリティのある言葉になったのかな?

──そういうふんわりとした調子で書いたらできあがってた? 「テヲ ツナイデ」「マッテ ナイデ」と「ナイデ」で脚韻を踏んだ直後に「ナイテナンカ ナイノニ」と文節ごとに「ナ」で頭韻を踏んだり、テクニカルな詞だなって思ってたんですけど。

あーっ、ホントだ! 韻踏んでる!

──他人事?(笑)

いや、ちゃんと苦労もしたし、悩みもしたはずなんですよ。作詞に時間もかかりましたし。でもいっつもそうなんですけど、その後に感想を聞かれるとなんか「小並感」(※「小学生並みの感想」という意味のネットスラング)しか出てこなくなっちゃうんですよねえ(笑)。

幅の広がった「いろいろ」を楽しみたい

佐々木恵梨

──今回「佐々木恵梨」を看板に掲げてメジャーデビューを果たしました。さて、今後はどんな活動をしていきましょう?

オーディションを受けたのって今年の1月で、2月に私が「プラメモ」のオープニングを歌わせてもらうことが決まって。まだ4カ月も経ってないから今は足が勝手にエスカレーターに乗ってるような感じ、まだ私の重心がそのエスカレーターのスピードについていけてない感じなんです。

──ご自身の気持ちよりも実人生のほうがかなり先行してしまっている?

「あれよあれよ」っていう感じではありますね。

──であればなおのこと、今年下半期何しましょう?

スタッフさんからは「今年は休みないよ」宣言をされてるので、何かはあると思うし、それにちゃんと心からついていけるようになりたいかなあ。あと今まさに作詞の仕事をたくさんいただけているので……。

──あっ、作家さんとしての活動も継続なさる?

来るもの拒まず、いろいろやりますし、いろいろやりたいですね。デビューしたことでその「いろいろ」の幅も拡がると思うので、それはすごく楽しみにしています。

デビューシングル「Ring of Fortune」/ 2015年5月27日発売 / 1296円 / 5pb.Records / SVWC-70074
デビューシングル「Ring of Fortune」
収録曲
  1. Ring of Fortune
  2. オトニナル
  3. Ring of Fortune -off vocal-
  4. オトニナル -off vocal-
  5. モノローグドラマ「To You.」(CV:雨宮天)
佐々木恵梨(ササキエリ)
佐々木恵梨

1989年福岡県生まれのシンガーソングライター。幼少期よりバイオリンとピアノに勤しみ、京都大学総合人間学部入学後、軽音楽サークルで音楽活動を本格化。在学中に結成したバンド・Latticeで楽曲制作、ライブを行う傍ら、プロのボーカリストや作家としてのトレーニングもスタートさせる。大学卒業後はソーシャルゲーム「アイドルマスター ミリオンライブ!」のテーマソングなどの作詞、作曲、コーラスワークを手がける作家、サポートプレイヤーとして活躍。そして2015年5月、テレビアニメ「プラスティック・メモリーズ」のオープニングテーマ「Ring of Fortune」でソロシンガーとしてメジャーデビューを果たした。