笹川美和|15年の月日が育んだ豊かな実りの中で

知らず知らずのうちに和音階を好んでいる

──曲順は時系列になっていて、代表作と呼べる楽曲が並んでいるわけですが、聴いていてすごく反応してしまったのは7曲目「都会の灯」からハナレグミのカバー「家族の風景」への流れでした。赤裸々な恋愛模様が歌われた前者から、ほっこりするような後者とのギャップがあまりに大きくて。

あはは(笑)。「都会の灯」はちょうどavexに戻って新たな方向性を示そうとしていたときに作った曲で、声を張らずにニュアンスで歌うというテーマもありましたね。

笹川美和

──歌詞のテーマとしては、この2曲って水と油と言うか。

「都会の灯」はあんまりいい恋愛していないってことを暴露するような歌ですからね。まあ図らずして絶妙な曲順になっていますが(笑)。今回のマスタリングでは曲間にもこだわりましたよ。0コンマ何秒の違いで世界が大きく変わってしまうから。

──また10曲目に収録される新曲「蝉時雨」のメロディは和テイストの笹川美和節が思いっきり炸裂しています。和のテイストが持ち味だと、ご自身では意識していらっしゃる?

いや。でも和のイメージを持たれることがやっぱり多くて、ファンの方からいただくプレゼントも和風なものだったりするから「やっぱりそうなんだ」って。二十代の終わり頃、仲良くさせてもらっているシンガーソングライターの池田綾子さんから「美和ちゃんは和音階が多いもんね」って言われて「そうなんだ!」って気付いたんですよ。知らず知らずのうちに和音階を好んでいるみたいです。あと基本的には歌詞に英語を登場させないから、それも影響しているようですね。

──ちなみに、小さい頃唱歌とかはお好きでした?

ピアノ教室に通っていたので嫌いではなかったですよ。島崎藤村が歌詞を書いた「椰子の実」とか、大人になって聴くとグッときますよね。

──「椰子の実」の歌詞がまた、一人ぼっち感満載なんですよね。

そう、孤独なんですよね。「子供が歌う歌詞じゃないじゃん!」って思う。あまりに寂しすぎません? でも南の島のイメージもあるから、のどかな感じも漂っているのがうまいなあと思う。

1人でウジウジ思い悩む時間が私を作り上げている

ちなみに11曲目の「真実の雫」と12曲目の「高鳴り」、それからまだアルバムに入れてないいくつかの新曲については、ディレクターさんたちと新しい作り方をしてみようと試みたんです。新しいやり方にチャレンジしたり新しい人と出会ったりすると、まだまだ高鳴ることができるんだなって気付くことがたくさんありますね。ただそれはほんの一時的なものでしかない、ってことにもこの年齢になるとよくわかる。わかっていながら、感動を得たいがためにどうしてもそっちの方向を目指してしまうんだな、と。やっぱり死ぬときって、絶望と希望だったら希望を抱きながら逝きたいじゃないですか。「高鳴り」にはそんな願望が表れています。

──でもこの歌詞の中にも自分以外の人の影が見当たらないですよね……。

柔らかい雨が降っている中で、私が1人踊りまくってますね。

──胸を高鳴らせながら踊っている主人公の周りだけ、雨が降っているような気さえしてくる。

うーん、これはもう性質なんでしょうね。暗めの恋愛ソングが多いからちょっと明るめの感じを意識して書いてみたんですが、どうせならもっとキラキラした要素を入れたらいいのに(笑)。

──それができないと。この歌詞からは「私を自由に踊らせて」という主張のようなものが浮かび上がっていると感じます。

うん。やっぱり孤独がないと嫌なんだと思う。生活の中で1人でウジウジ思い悩む時間が私を作り上げているんでしょうね、きっと。「自分で答えを出すから大丈夫」って常に考えているのかも。私、ライブのときも紗幕をかけて歌いたいぐらいで、「こっちを観てほしい!」っていう欲求がほとんどないんです。聴き手のことを考えて音楽をやり始めたのが近年なので、まだまだそういう部分が残っているんでしょうね。そもそも自己満足で曲を作り始めたし、そこから抜けきれないのかも……なんか私、寂しすぎませんか?(笑)

──でも高鳴る思いを抱えたまま、雨の中でいつまでも自由に踊り続けてもらいたい、という気持ちが湧いたりもします(笑)。

いつか誰かのことを心から思えるラブソングが書ける日までね(笑)。でも「孤独が真骨頂の私」って一体……。

以前よりも慈しみの感情を抱きながら歌うようになっているなって気付きました

──ただ、そういった曲と、幼い頃に書かれたという「向日葵」が並んでいると、この曲の無邪気さがとっても眩しく感じられます。

この曲を書いたのは小学6年生の頃だったんですが、私ではないある女の子と、その子のことが好きな男の子についての物語を、絵本を書くように描いたんですよ。それまでは主人公の同世代の1人として感情移入しながら歌っていたんですが、35歳になって改めてこの曲と向き合い、これぐらいの世代の子たちに対して母性のようなものを抱きながら歌っているな、って最近気付いて。

──なるほど。淡い恋物語にエールを送るような気持ちで歌っているんですね。そう聞くと、さっき「不器用だから書けない」とおっしゃっていた応援歌のようにも思えてくる。

笹川美和

確かにそうなんですよね。以前よりも慈しみの感情を抱きながら歌うようになっているなって気付きました。小さな恋の物語から、家族愛も含んだ大きな愛の物語として歌っているところもあるかなって思うんですよね。

──やっぱり笹川さんの歴史が鮮明に浮かび上がるベスト盤になっていますね。

「向日葵」のリメイクをラストに入れようと決めた時点では、この曲が最初に作った曲だってことを意識していなかったんですよ。気付いたのは実はマスタリングのときで、非常に感慨深いものがありましたね。今回、ベストアルバムとして出すけれど「1つの作品としてしっかり聴けるものにしたいね」ってスタッフと話し合っていたので、それは達成できたんじゃないかと感じています。

──時にはダークな部分も顔を出したり、かと思えばスカッとするような晴れ間がのぞいたり、「人生いろいろ」と言うフレーズが似合うベストアルバムになっていると思います。

この人にいったい何があったんだろう、など想像してもらいつつ、ラストでほっこりしていただければ幸いです(笑)。