笹川美和「豊穣 -BEST '03~'18-」 PR

笹川美和|15年の月日が育んだ豊かな実りの中で

デビュー15周年を迎えた笹川美和が、10月31日にベストアルバム「豊穣 -BEST '03~'18-」をリリースした。

「笑い 笑え 泣き 笑え」というフレーズが耳から離れなくなる1stシングル曲「笑」や齊藤工初の長編監督作品「blank13」の主題歌として使用されたハナレグミのカバー「家族の風景」、大橋トリオが楽曲提供した「紫陽花」、そしてこれからの彼女の行く先を見つめるのに欠かせない新曲などで構成された今作は、まさに五穀豊穣の秋にふさわしい実り豊かな作品に。収録曲の数々からは笹川美和という個性的なシンガーソングライターの艶やかさや華やかさ、または独特な人間観察力や色彩感覚など、さまざまな側面が鮮やかににじみ出る。決して平坦ではなかったというこの15年を振り返り、彼女は今何を思うのか。じっくりと話を聞いた。

取材・文 / 桑原シロー 撮影 / 須田卓馬

感慨深いとはこのことか

──15年の足跡が刻まれたベストアルバムが完成して、どういった思いが湧いてきますか?

ベストアルバムって私にとってはご褒美みたいなもので。デビューした頃はベストアルバムを出す日が来るなんて夢にも思わなかった。でも今年15周年を迎えるにあたって出すことになり、楽曲を通して聴いてみたら「ウーッ」って胸に来るものがあって。リリース順に曲が並んでいるんですけど、声も変化しているし、その当時を思い出したりもして「感慨深いとはこのことか」と思いました。音楽だけでなく、みんなへの感謝やらいろんなものが詰まったアルバムです。

──まさに笹川さんの人生を表すアルバムのようなものになったと。改めてこれまでの音楽活動を振り返ってみていかがですか?

日頃から1音1音、最後の指先1本まで血が通うよう丁寧に歌うことを心がけているんですが、デビュー曲の「笑」や2枚目のシングル「金木犀」の頃はそんな意識を働かせる余裕もなく、ただただ勢いで歌っていました。テクニックなんてそっちのけで、気の向くままに歌ってた。あまり雑念がないと言うか、生命力の塊みたいな感じの歌だったなって。逆に今はそれができない。だから寂しさを感じたりもするんですが。

──なるほど。笹川美和というシンガーはご自身でどういうタイプだと思います?

私は決して歌がうまいシンガーではなくて……。

──そんな自覚が。

それは自信持って言えます!(笑) だからもっとうまくなりたいと常々思っているんですけどね。「こうしたらもっと低音が出るようだ」というように自分なりに発見を繰り返しながら独学でやってきたので、ハンパもんだと思っている部分があって。かつてはレコーディングで完璧に歌い切れたなっていう手応えを得ることはあまりなかったです。そういった反省をライブに反映させるようにしているんですけどね。

──でも今年の初頭にリリースされたオリジナルアルバム「新しい世界」にはカバー曲もいくつか収録され、シンガーとしての1つの到達点を示す作品になっていると思います。

ありがとうございます。この作品では得たものが大きかったです。カバー曲は自分の曲以上に神経を集中させて丁寧に歌わねば、という気持ちもありましたし。そのうえどの曲も個性がしっかりあるものばかりで、いかにして私の作品として表現できるか注意を払いました。そういう作業を経て、自分色というものを再確認することができたんです。「こういうふうにやればどうやら自分色に染めることができるみたいだ」とか「自分のおいしいところはここら辺だろう」とか、1つずつ拾い上げながらレコーディングしたんですよ。

笹川美和

今はあきらめた先にまた新しい道を見つけられることを知っている

──ではソングライターとしては、ご自身をどんなふうに見ていますか?

私は曲の作り方が最初からまったく変わっていないんです。ピアノの前に座ってポロポロと弾いているとメロディが湧いてきて、すると言葉も一緒にこぼれ落ちてくる。歌詞とメロディが一緒に出てくるタイプなんです。以前から意識していたことは「歌詞は詩としても読めるものであらねばならない」ということ。句読点の打ち方や間の置き方などをはじめ、たとえ字余り、字足らずであってもちゃんとリズムがあるものになっているかどうか。それはずっと意識していますね。

──扱うテーマについてはどうでしょう。今回の収録曲の歌詞を追っていくと、共通して見えてくるのが「一人ぼっち」な感じだと受け止めたのですが。

あ、そうなんです! 私は曲を作るとき、どうやら自分の何かを曲に入れないと作れないみたいで。だから一人称が多いんですよね。

──アルバムには3つの新曲が入っていますが、そのうちの1つである「真実の雫」も一人称で書かれています。ただ初期作品と比べると、曲の向こう側に他者への愛が浮かんで見えてくるのが違う点と言うか、もっと大きなストーリーが浮かんでくるような気もします。

この曲は私が答えを求めて作っていたところがあるんですよ。「今のこのモヤモヤした感覚やどうしようもないつらさの理由がいったい何なのかを知りたい」と思いながら書いていたから、どうにか希望的観測で終わらせたかった。「この先に待っているものは絶望ではなく希望であってほしい」。そんなことを思いながら作っていたので、きっと曲の向こうにそういったものが見えたんだと思います。

──答えを求める意識が働くようになったのって、最近のことなんですか?

最近だと思いますね。それは歳を取ったせいもある。「今の私に対しての答えがほしい」と模索し始めたのが三十代になってからで、それ以降の作品にはそういった傾向が出ているかもしれない。

──2013年に発表された「今日」の歌詞に登場する「今日」という言葉の重みも、そういった意識の変化によって生じたものなんでしょうか。

これは二十代後半に作った曲ですが、 あのときは「未来は悪くないから大丈夫」って自分に言い聞かせていたところがあって。「今日はすごく深いことを抱え込んでいるけど、今日は今日でしかないからね」って語りかけている。人間あきらめが肝心で……あきらめを覚えたのはやっぱり歳を取ったせいでもあるんだけど。きっと十代、二十代の頃にはあきらめなんて覚える必要はなかったんですよね。今はいろんな経験をしたうえであきらめた先にまた新しい道を見つけられることを知っている。だから「大丈夫だよ」って言いたいのかな。