ナタリー PowerPush - 笹川美和
5年ぶり“古巣”に帰還 成長と自分らしさの証「愚かな願い」
2003年、シングル「笑」でメジャーデビュー。日本的な情緒に満ちたボーカル、愛おしさと狂おしさが混ざり合う女性の感情を描いた歌によって、際立った個性を発揮してきた笹川美和が、インディーズでの活動を経て、5年ぶりにメジャー復帰を果たした。その最初のアクションは、8月29日にリリースされるミニアルバム「愚かな願い」。静謐にして穏やかな大人のラブソングが並ぶ本作を聴けば、彼女の音楽世界が豊かに広がっていることを実感するはず。今回のインタビューでは、本作の制作はもちろん、メジャー復帰の経緯、地元・新潟での暮らしから今後のビジョンについてまで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
5年間のインディーズ経験はすごくプラスになった
──2003年にシングル「笑」でデビューしたときは、ちょうど20歳でしたよね。
そうなんですよ。もう29歳になったので、すっかり大人ですよね。地元(新潟)は同い年くらいだと家庭を持ってる方も多いので、私もしっかりしなくちゃいけないな、と。周りに迷惑をかけないように(笑)。
──ここ数年はインディーズで活動していたわけですが、笹川さんにとってはどんな時間だったんでしょうか?
そうですね……。2003年にデビューしたときは、ホントに右も左もわからなかったんですよね。「プロモーターの○○さんです」って紹介されても、内心では「プロモーターって何?」って思ってたり。音楽を仕事にするということについても、今振り返ってみると、全然わかってなかったなって。そういう意味では、インディーズで活動したことはすごく良かったと思うんですよ。少ない人数でやっていかなくちゃいけないから、今まで見えてなかったことも見えるようになったというか。今、私としてはやっとスタートラインに着いたっていう気持ちなんですよね。インディーズ活動はムダだったんじゃない?って思われるかもしれないけど、この5年間の経験はすごくプラスになったと思います。
──一貫して新潟に拠点を置いていますが、日々の暮らしについてはどうですか?
そこは変わってないですね。普通の主婦みたいな生活。洗濯物を畳んだり、ごはんを作ったり、お風呂の掃除をしながら、合間にピアノを弾くっていう。普通は逆だと思うんですけどね(笑)。基本的にずっと音楽漬けっていうタイプではないんでしょうね。なので、これといってアーティスティックな話はないんですけど(笑)。
──そんなことないと思います(笑)。そういう普通の暮らしこそが、歌を生み出す基盤になってるんでしょうね。
多分、そうなんだと思います。普通の日常、平凡な生活が大事というか。東京でも書けないことはないと思うんですけど、やっぱり新潟での暮らしがいいんですよね。仕事でこっちに来ることによって、新潟の四季をもっと感じられるようになったし、そこから曲が生まれることも多いので。地元では割とのんびり暮らしていて、東京にいるときはホテルに寝に帰るだけという生活で。そのギャップがいいのかもしれないですね。
「もっとたくさんの人に聴いてほしい」からメジャーへ
──2010年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演したりと、インディーズでも充実した活動ができていたように思うのですが、今回もう一度メジャーでやろうと思ったのはどうしてなんですか?
音楽の幅も広がって、新しい感じの曲ができてくると、やっぱり「もっとたくさんの人に聴いてほしい」という気持ちが出てきて。そういうふうに思うようになったのが一昨年の終わりくらいですね。で、エイベックスの方に相談したら「もう1回、ウチでやってみない? 気持ちが決まったら連絡して」と言っていただいて。
──すぐに気持ちは固まった?
ちょっと迷いましたね。自分の音楽をもっと広めたいという気持ちもあるけど、そのためには覚悟も必要になってくるし。あと、食わず嫌いもやめないといけないなって。
──食わず嫌いっていうと……?
曲作りのことで言えば「ここを変えてみたら?」って提案されても、即座に「ムリですね!」って答えてたんですよ(笑)。そうじゃなくて、まずはやってみてから考えればいいんじゃないか、と。やっぱり以前は頑なだったんですよね。「私はこうでなくてはならない」という思いでギュウギュウに固まってたというか。一生懸命だったんですけどね、もちろん。
──音楽の幅を広げるためには、いろんなアイデアを試すことも大事ですからね。
そうなんですよね。例えば、いいなと思う曲のコード進行を参考にして、自分なりにメロディを乗せてみるとか。そういうことも「そんなのイヤだ」って拒否してたんですよ。でも、実際にやってみると意外と楽しかったり、「こういうコードの付け方もあるのか」って勉強になったりして。あと、“聴きやすさ”とか“王道”とはどういうことか?とも考えるようになって。そういうことをやらない道もあったかもしれないけど、今はいろんなことが学べて良かったと思いますね。
和? ベジタリアン? ロハス?
──8月29日にリリースされるミニアルバム「愚かな願い」からも、音楽性の広がりが伝わってきました。しかも、笹川美和にしか歌えないメロディもたっぷり感じられて。
あ、うれしいです。自分が思う“笹川美和らしさ”は消さないようにしたかったので。
──笹川さんが思う“笹川美和らしさ”というのは……?
「こっちに行きたい」っていうメロディがあるんですよね。今回のレコーディングで初めて言われたんですけど、どうやら3度の音がないらしいんですよね、私の曲には。だから“和”っぽく聴こえるっていう……まあ、理論的なことはよくわからないんですけど(笑)。
──でも、“和”の要素は確実に笹川さんの個性ですよね。
意識して出してるつもりはないんですけどね。そういえば私、ファンの方によく和小物をいただくんですよ。着物の布を使った巾着とか。特にそういうモノを集めてるわけではないんですけど……。
──(笑)。歌を聴いてると、和っぽい小物が好きそうなイメージが湧くんじゃないですか?
もちろんいただくのはうれしいんですけどね(笑)。あとね、いつも魚と野菜ばっかり食べてそうとか、ロハスっぽい生活をしてそうとか……。実際は違うんですけどね、肉好きだし(笑)。野菜は結構食べますけど、それもばあちゃんが作ってる野菜を食べてるだけで。「ナスを食べ切らないといけない。今日はどうやって食べる?」っていう。つまらない生活ですよ、ええ。
ミニアルバム「愚かな願い」/ 2012年8月29日発売 / 2000円 / cutting edge / CTCR-14774
CD収録曲
- 愚かな願い
- それを知らない
- NYにて
- 魔力
- アネモネ
- 家族の風景(オリジナル:ハナレグミ)
笹川美和(ささがわみわ)
1983年2月23日生まれ。新潟県出身のシンガーソングライター。学生時代から地元・新潟を拠点に音楽活動を始める。2003年にエイベックスよりシングル「笑」でメジャーデビューし、シングル9枚とアルバム4枚をリリース。その独創的な世界と歌声が話題を集め、数々のCMやドラマの主題歌に起用される。2007年、インディーズレーベルへ移籍し、ミニアルバム4枚とフルアルバムを1枚リリース。2010年にはFUJI ROCK FESTIVALにも出演。2012年、5年ぶりにエイベックスと再契約して8月にミニアルバム「愚かな願い」を発表する。現在も新潟に在住。地元ならではの感性から生み出される楽曲は唯一無二であり、その音楽性は一般のみならず音楽関係者からも熱狂的な支持を集めている。