計画通りは好きじゃない
──EPに収録された新曲は2曲で、1つはレイドバックしたビートとR&Bやジャズなどの要素が混ざり合った「Karma」です。この曲の制作プロセスを教えてもらえますか?
santa 最初はTaroからシンプルな16ビートのデモが送られてきたんですよ。それがめっちゃカッコよくて、みんなでメロディやフレーズを入れながら制作を進めていたんです。そしたら締め切りの2、3日前にEnoとTaro、Imu Samの3人が「ラーメン屋に行ったらヤバいレゲエが流れてて、それがすげえよかった」とか言い出して(笑)。そっからガラッと雰囲気が変わりました。
Imu Sam そうそう、ラーメン屋でやけにドープなレゲエがかかってて(笑)。
Eno 古めのダンスホールですね。とはいえ結果的に「Karma」は全然レゲエじゃなくなったんですけど。
──制作の途中でいきなりアレンジの方向性が変わることはよくあるんですか?
Taro たまにありますね。1stアルバムに入ってる「Kaminari」もそう。最初はみんなでジャムりながら作ってたんですけど、レコーディングの日に雰囲気が変わりました。
Eno 計画を立てるのは好きなんですけど、計画通りにいくのが嫌いなんですよ(笑)。計画通りって、ようは想像の範疇ってことじゃないですか。よくも悪くもそこを飛び出さないといけないし、そうやって限界に挑戦しているところはあるかもしれないです。なので、いきなりアレンジを変えることもあるんですけど、音楽への向き合い方としては誠実だと思うんですよ。自分たちの全精力を注いだほうが曲がグルーヴするんじゃないかなと。
敬愛するShing02との制作
──もう1つの新曲「New Wheels (feat. Shing02)」には、ラッパーのShing02さんが参加しています。
Eno 中学生の頃、Shing02さんがリミックスコンテスト(2014年に行われたShing02とDJ $HINによるアルバム「1200 WAY」のリミックスコンテスト)をやっていて。初めてパソコンでリミックスを作って送ったら、本人から「がんばってください」みたいなメッセージが届いたんですよ。もちろんクオリティとしては全然ダメなんですけど、自分にとっては初めての経験だったし、音楽を始めるきっかけでもあって。1年くらい前にふと「Shing02さんをフィーチャリングできないかな」と思って、ダメ元でDMを送ったら「とりあえず会いましょう」ということになったんです。
──Shing02さん、今はハワイ在住ですよね。
Eno ちょうど日本に帰ってきてるタイミングだったんです。みんなで会いに行ったら、「この日が空いてます」っていきなりレコーディングの日を指定されて。よくわからないまま(笑)、一緒にやってもらえることになりました。
Taro スタジオでの作業もすごかったです。
Imu Sam まず自分たちがレコーディングして、その音源を流しながら、紙にリリックをバーッと書いて。30分くらいで「できました」って。
santa フリースタイルに近い感じでしたね。たぶん“持ちネタ”みたいなものがいくつかあって、それをもとに組み立てているのかなと。
Eno レジェンドの技でしたね。
may_chang santaとImu Samが書いた元の歌詞に“fuck”という言葉が入ってたんですけど、「もったいないからやめたほうがいい」って言われたんですよ。
Imu Sam そう、Explicit(歌詞やタイトルに暴力的な単語、放送禁止用語、露骨な表現が含まれている楽曲)が付くと聴けない人が出てきちゃうからって、アドバイスをもらって。確かにそうだなと思ってほかの言葉に変えました。
──Shing02さんとのセッション、Enoさんにとっては夢の実現では?
Eno そうですね。だからエモい感じで話したんですよ、Shing02さんに。リミックスコンテストに参加して、メッセージをもらって、そこから曲を作り始めてって熱く語ったんですけど、「ああ」みたいなクールなリアクションでした(笑)。
たまたま“メジャーデビュー”の目が出た
──先行配信された「juice」「Side by Side」「Back to Wild」はライブで披露されていますが、すでにアレンジが変化してますね。
Eno ライブと音源は乖離していいというか。そもそも地続きじゃないといけないとは思ってないんですよ。その日の感じもあるし。
Taro 再現はできないですね。
Eno 再現するって、厳密に言うと嘘になると思うんです。レコーディングのときとまったく同じ気持ちでライブをやるわけではないし、演奏やアレンジも変化して当然だなと僕は思ってます。
Imu Sam いい具合に変化してるのでライブを観に来てもらいたいですね。
──「202」のリリース後は、東阪ツアーと大きな動きが続きます。メジャーレーベルへの移籍については、どう捉えていますか?
Eno IRORI Recordsへの移籍も偶然というか、お世話になっている人がポニーキャニオンに移ったから、自分たちもついてきた感じなんですよ。メジャーデビューって言うと「苦労してここまで来た」みたいな印象ありますけど、実際はサイコロを振ったらこうなったというか。
Taro “メジャーデビュー”の目が出た(笑)。
santa メジャーデビューについては今年1月のワンマンライブで発表したんですけど、よくわかってないメンバーもいて。
Taro Imu Samが「IRORI Recordsに行きます」と発表したとき、「そうなんだ!」ってめちゃくちゃびっくりしました(笑)。
Eno なので何が変わるのか、これからどうなるかもよくわかってないんですよ。
──S.A.R.の音楽に触れるリスナーが増えるのは間違いないと思いますけどね。
Eno そうですよね、そう考えるとちょっとミスったというか(笑)。普通に考えたら、メジャー第1弾はもう少しバンドとしての音楽性を確立したような作品を出したほうがいいのかもしれない。でも、今回のEPはいろいろ実験しながら作ったので、バンドにとって過渡期のようなイメージの作品になりました。
──マーケティング的な考えは一旦置いて、今回のEPではバンドの変化の過程をそのままパッケージしたと。ちなみに皆さんは、ポップミュージックを作っている意識はそんなになかったりしますか?
santa いや、そんなことないですよ。
Imu Sam そういう意識もあるんですよ、実は。
Eno うん。これまで僕は本当に日本の音楽を聴いてこなかったんですけど、最近スタッフの人に流行ってる邦楽リストを作ってもらって、今はそれを聴きながら日本の音楽を勉強してるところで。それが次のアルバムには反映されているかもしれないし、もしかしたら“シカトする”選択をしている可能性もあるかもしれない。どっちにしても何かしらの影響はあるんじゃないかなと。
愛を持ってシーンを破壊したい
──S.A.R.の音楽がメジャーシーンで存在感を得れば、とても大きい出来事になると思います。日本のシーンを変えてやる、みたいな思いもありますか?
Eno それはめっちゃあります!
Taro お!
Imu Sam いいね。
Eno 「日本の音楽はカッコいい」と思ってもらえるような曲を作って、みんなに自信を持ってほしいんですよね。「自国の文化はこんなにすごい」と日本人が気付けるきっかけになるものを作れたら、もっと世の中がよくなるだろうし、海外の人にもいい影響を与えられると思うので。シーンを変えるというか、愛を持って破壊したいという感じですね。
──その先陣にS.A.R.が立つと。
Eno “我々が”ということではなくて、文化背景とかを紹介できたらいいという感じですかね。
santa うん。僕らの音楽を聴いた下の世代が何かを始めてくれたらいいですね。
Eno あとは「この音楽はどっから来てるんだろう?」と探してくれたり。
Taro そうやっていろんな音楽を再発見してくれたらいいよね。
Eno うん、そっちのほうが大事。リッチになるとかは俺ら無理だから(笑)。
santa ぜいたくしたいわけじゃないけど、普通に生活できるくらいは稼ぎたいですけどね(笑)。
Imu Sam 携帯代が払えなくて、連絡が取れなくなるとかはヤバいんで。がんばります(笑)。
公演情報
202 : traveling without moving
- 2025年5月17日(土)大阪府 Music Club JANUS
- 2025年5月23日(金)東京都 LIQUIDROOM
プロフィール
S.A.R.(エスエーアール)
音源、映像、アートワークなどあらゆる制作物を自ら手がける6人組のオルタナティブクルー。2024年3月に1stアルバム「Verse of the Kool」を発表し、4月には東京・TOKIO TOKYOにて初のワンマンライブ「Kool Theory」を行った。2025年4月に1st EP「202」をリリースし、ポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーデビュー。5月には大阪・Music Club JANUS、東京・LIQUIDROOMで過去最大規模のツアーを開催する。