ナタリー PowerPush - SALU
謎多き新世代ラッパーの素顔に迫る
日本のヒップホップ / R&Bのシーンを牽引するプロデューサーBACHLOGICをして「彼のために自分のレーベルを作った」とまで言わしめたラッパーSALUが、1stアルバム「IN MY SHOES」をリリースした。
ナタリーでは、この作品のリリースを記念して本人へのインタビューを実施。新世代の最注目ラッパーの正体を探るべく、彼の素顔に迫った。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 中西求
社会生活に適合できなかった
──SALUさんは今回1stアルバム「IN MY SHOES」をリリースされましたが、昨年末にフリーダウンロードでミックステープ(※インターネットで無料配布されているヒップホップアルバムのこと。詳しくはこちらから)「Before I Signed」を発表されてますね。
はい。正式な1stアルバム「IN MY SHOES」の前に、まず僕のバックグラウンドを知ってもらおうと思って。
──じゃあ、タイトルどおり“レーベル契約前の自分”のことを歌ったという感じなんですか?
そうです。僕は札幌出身なんですが、いろいろあって学校も辞めてしまい、決まった家もないような感じで18くらいからいろんな土地を転々としていました。
──なるほど。では「Before I Signed」収録の「I Miss U(Remix)」で歌っている「あの頃毎日カップラーメン / でも別に辛くなかったぜ」「家に帰っても誰もいない / 帰る家がない」というのは実体験ということですか?
そうですね。基本的には実体験や自分が感じたことをもとにリリックを書いてます。あとは身近な人が経験したこととか。
──いろんな土地を転々としていた、というのは、実際どんな生活だったんですか?
正直、記事にできないようなことかもしれないです。音楽の趣味が合う人や遊ぶ場所が近い人たちは怖かったっす。でも、僕自身には不良的な要素が全然ないんです。だから、たまにハードな出来事があっても僕の身に降りかかることはなかった。みんな、普通にいい人たちでした。
──そういった出自をあえて明らかにしたのはなぜですか?
僕のような社会生活に適合できなかった人間でも、自分を表現することができるということをみんなに知ってもらいたかったからです。この「Before I Signed」は無料なんで、興味のある人にはまず聴いてもらいたいですね。
ビートジャックから生まれたラップスタイル
──SALUさんの英語と日本語が混ざったようなラップスタイルは、どんな過程を経て生まれたんですか?
実は最初からこんな感じなんですよ。僕自身は英語をほとんどしゃべれないのに(笑)。
──バイリンガルだと思ってました。
小学生の頃、友達のお父さんがアメリカ人で、その人に英語を教わってたんです。あと少しだけシンガポールにいたこともあったから、そのせいかも。
──ラップはかなり練習したんですか?
練習というわけではないんですが、アメリカのラッパーのトラックだけをネットからダウンロードして、そこに自分のラップを乗せることはしてました。例えば、NASのトラックだったらNASの原曲のフロウそのままに聴こえる日本語を音で選んで当てはめていく感じです。最初は意味とかも関係なくフロウの聴こえ方だけを意識してたんですけど、だんだん意味を持たせたくなってきて。そうすると、今度はなかなかきれいなフロウにならない。そこからは1人孤独に研究を繰り返す日々でした(笑)。
──他人のトラックでラップする「ビートジャック」で、今のスタイルが生まれたんですね。
でも、やってたときはビートジャックって言葉も知らなかったんですよ。むしろ人のトラックに勝手にラップを乗せるなんていいのかな?みたいな感じでした。でも、リル・ウェインがビートジャックしてるのを見て、「あっ、アメリカはありなのか」みたいな。誰に聴かせるわけでもなく、60曲くらい録りためてました。
──海外のアーティストではどんな人に影響を受けたんですか?
けっこうみんなが好きな定番のアーティストですね。最近だったら、今言ったリル・ウェインがいるYOUNG MONEY一派とか、ちょっと前だったら50CENTとか。ほかにもジェイ・Z、WU-TAN CLAN、INFAMOUS MOBとかいろんなアーティストを聴いてました。けど、特定の誰かを意識して真似することはなかったですね。むしろ、いろいろなアーティストの好きな部分だけを吸収してました。
CD収録曲
- BALANCE(Pro.by BACHLOGIC)
- BURN IT(Pro.by OHLD)
- STAND HARD(Pro.by BACHLOGIC)
- JUST A CONVERSATION(Pro.by BACHLOGIC)
- DAREDEVIL(Pro.by OHLD)
- ITS YA BOY..(Pro.by OHLD)
- THE WATCHER ON WOODS(Pro.by BACHLOGIC)
- KAZE(Pro.by BACHLOGIC)
- TAKING A NAP(Pro.by BACHLOGIC)
- BUTTERFLY EFFECT(Pro.by OHLD)
- THE GIRL ON A BOARD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
- IN YOUR SHOES(Pro.by OHLD)
- 夢から醒めた夢(Pro.by OHLD)
- TO COME INTO THIS WORLD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
SALU(さる)
1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」という楽曲で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。さらに同年末には、SALU名義での初音源「Before I Signed」をフリーダウンロードという形で発表。そして2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「ONE YEAR WAR MUSIC」から1stアルバム「IN MY SHOES」をリリースした。