FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」をはじめとするキャッチーな楽曲で多くのバズを生み出しているヒットメイカー・ヤマモトショウが2025年、作家活動10周年を迎えた。これを記念して、1月16日に神奈川・横浜1000 CLUBでライブイベント「SAKKA FES Vol.02 ヤマモトショウDAY」が開催される。イベントにはヤマモトが楽曲提供するFRUITS ZIPPER、fishbowl、虹のコンキスタドール、きゅるりんってしてみて、リルネードの6組が集結。ヤマモト自身もプレイヤーとして参加し、生演奏でライブを繰り広げる。
またヤマモトはイベントの開催に合わせ、ソロプロジェクト・SOROR名義による新曲「decade feat. 逃げ水あむ」を制作。きゅるりんってしてみてのメンバーであり、同世代からカリスマ的な支持を集める逃げ水あむが初めてソロでボーカルを務めている。
ポップバンド・ふぇのたす解散後、ヤマモトは2015年より作家として活動を始め、作詞作曲アレンジのみならず、地元静岡を拠点に活動するアイドルグループfishbowlのプロデュース、音楽ミステリー小説「そしてレコードはまわる」の刊行と多方面で才覚を発揮している。イベント開催に先駆け、音楽ナタリーではヤマモトにインタビュー。逃げ水にも参加いただき、ライブに向けての意気込みや作家としてのこだわりや未来図、新曲「decade feat. 逃げ水あむ」の制作エピソードを語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 臼杵成晃
公演情報
SAKKA FES Vol.02 ヤマモトショウDAY
2025年1月16日(木)神奈川県 横浜1000 CLUB
<出演者>
FRUITS ZIPPER / fishbowl / 虹のコンキスタドール / きゅるりんってしてみて / リルネード
演奏:ヤマモトショウ(G) / 戸澤直希(B) / 谷のばら(Cho) / MICO(Vo)
※チケット完売
SAKKA FES vol.2 ヤマモトショウDAY ニコ生独占生中継
2025年1月16日(木)17:00~
「バズる曲をお願いします」も昔の「ヒットする曲をお願いします」と同じ
──ショウさんが作家デビューして、今年で10周年を迎えます。
ヤマモトショウ そうですね。ふぇのたすが解散した2015年からなので、今年で10年です。
──外部のアーティストやアイドルに曲を提供することになったきっかけは?
ヤマモト ふぇのたすとして活動していた頃、ちょうどアイドルシーンがライブハウスでも盛り上がり始めて、バンドの方針としても「アイドルとも一緒にライブをやれるスタイルにしよう」という戦略があったんです。そこで知り合った人からのちに曲を頼まれるようになったんですけど、自分的に「ああ、こういう形で音楽に携わるのもアリなんだ」という、わりと副産物的なところから始まりました。
──もともとアイドルに精通していたんですか?
ヤマモト アイドル自体には特に詳しくなくて。ただ、僕が小中学生の頃にモーニング娘。がブレイクして、自分から聴こうとしなくても自然と曲が耳に入ってくるタイミングだったんですね。世間ではすごく人気があったし、僕も松浦亜弥さんの曲が素晴らしいなと思ってアルバムを買いましたけど、推しを作るとかそういう感覚ではなかった。なので、たくさん曲を書くようになった今でも“アイドル界の住人”という意識は薄いんですよ。
──さまざまなアイドルに楽曲提供をしていく中で、ショウさん的に最初に手応えを得られたタイミングは?
ヤマモト 作家活動を始めて4年くらいはフィロソフィーのダンスというグループの作詞をメインでやっていたんですけど、作曲家としては、2020年にリルネードの「もうわたしを好きになってる君へ」という曲を書いたときに、ふぇのたすでやっていたことに近いものをアイドルのフォーマットで昇華したら、その時代の最先端であり自分らしいものが作れたという手応えがあって。実際、アイドルファンの方からもいい反応をけっこういただきましたし、今流行っている感じのアイドル曲のプロトタイプは「もうわたしを好きになってる君へ」にあるのかなと思っています。
──ショウさんは作詞作曲のみならず、アレンジやプロデュースも手がけていますが、その中でご自身の軸になっているのはどれだと思っていますか?
ヤマモト やっぱり作詞じゃないかな。自分のオリジナリティを唯一発揮できる場だと思っているので、僕にとってのアイデンティティは作詞ですね。
──それこそ最近はFRUITS ZIPPERしかり、歌詞のキャッチーさに惹き付けられる人も多いですものね。TikTokのショート動画などを観ていると、ショウさんの書いたアイドルソングの歌詞が切り取られていることが多く、そういう場面でより実感させられます。
ヤマモト 最近はショート動画のようなメディアを利用するのが当たり前になりすぎていて、クリエイターと呼ばれる人たちだけじゃなく、アイドルの演者側や、もっと言えば一般の方までもが普通に動画をアップする時代じゃないですか。ショート動画で使われることを前提とした語感のいいフレーズを、メロも含めて作ることが不可分な世の中ですからね。そこにおいては自分の作家性と相性がいいんだろうなと。
──“バズり”を一度経験すると、ご自身の中でも「バズりそうなフレーズ」に対してより意識的になったりするんでしょうか。
ヤマモト 自分からはなくても、周りから頼まれることが増えますよね。まあ、さすがに「バズる曲をお願いします」と直接的には言われないですけど(笑)。ただ、それも今「バズる」という言い方になっているだけで、結局は「ヒットする曲をお願いします」って言われているのと同じ。TikTokでみんなが動画を上げたくなる曲も、昔で言う「みんながカラオケで歌いたくなる曲」と同じですよね。言い方が変わっただけで、作家が請け負うこと自体は昔と変わってないわけです。
「東京を目指さないアイドル」fishbowlの立ち上げ
──2020年代に入ると、作家活動以外にもfishbowlのサウンドプロデュースを手がけるなど、ショウさんのアイドルとの関わり方も変わってきましたね。
ヤマモト 2010年代後半からいろいろとアイドルに関わらせてもらうようになったことで、よかった部分がある一方で、ちょっと限界を感じる部分も見えてきて。そもそも、東京を中心にアイドルグループの数が多くて、もはやレッドオーシャンすぎる。そうなったときに、「地方でまったく別の形で運営するビジネスモデルを作りたい」という意図で始めたのがfishbowlだったんです。ただ、最初は「なんで今さらローカルアイドルをやるんだ?」みたいな反応が多かったですね。コロナ禍というのもありましたし。
──逆に、そのコロナ禍によって世の中が分断されたからこそ、地方で活動する意味も生まれた。
ヤマモト 「今は東京まで行けないけど、地元にも楽しみが生まれた」といったメリットはあるかなと思いましたね。あとは、すべてのローカルアイドルが東京を目指すストーリーに巻き込まれていく中で、fishbowlは東京を目指さないという。日本武道館を目指すことにリアリティが感じられないグループをむしろやる、みたいな感じでしたね。
“いいね”でひっそり立候補
──そんなショウさんが作家デビュー10周年を迎える節目の年に、「SAKKA FES Vol.02 ヤマモトショウDAY」が開催されることになりました。
ヤマモト ずっとライブがやりたかったんですよ。それをX(Twitter)に書いたら、ありがたいことに「SAKKA FES」の方から声をかけていただいて。もちろん「SAKKA FES」のことは知っていたし、1回目に出ていた作家さんたちは作品などでご一緒することもあり(参照:NOBE、浅野尚志、村カワ基成の主催フェス 出演は彼らが楽曲提供したアーティストたち)、「これはいい企画だな」と思っていたから、誘われたときは「やります!」と即答でした。
──ショウさんの楽曲をやるライブだとして、出演者を誰にするかは考えどころですよね。
ヤマモト そこはけっこう悩みました。僕が曲を提供している人はたくさんいるわけで、そこから曲数が多い順に呼ぶのもなんか変ですし。一応どのグループに何曲書いたか、リストを作ったりもしてみたんですけど、ありがたいことに本当にたくさんのグループに曲を作らせていただいてきたんだなと改めて感じる機会にもなりました。それを踏まえて、最終的に現在進行形で一緒に取り組んでいるグループに絞り、加えてすでに解散しているリルネード……さっきお話したように今の自分の基盤を作ったきっかけなので、どうしても出てほしくて1日限定で集まっていただくことになりました。
──さらにこのタイミングで、ソロプロジェクトのSOROR名義による10周年記念ソング「decade feat. 逃げ水あむ」も制作されました。ということで、ここからはあむさんにもお話に参加してもらいましょう。
逃げ水あむ はい!
ヤマモト 10周年なので、「SAKKA FES」を皮切りにいろいろやりたいなと。まずは自分自身に気合いを入れるつもりで、10周年記念ソングを作ってみました。で、僕は基本的に自分では歌わないので、「誰か歌う人いないかな?」とXに書いてみたんですね。もちろん自分でもいろいろ調べてはいたんですけど、その中で「逃げ水あむさんがいいと思います」という声が複数ございまして。
あむ そうなんですか?
ヤマモト 本当にあったんです。もちろん、きゅるりんってしてみての楽曲を作らせていただいているから、声のイメージもできていたんですけど、ソロで歌うことを望まれている方なんだなと考えてみると、ちょっと面白そうだなと思って。それで正式にオファーをさせていただきました。
あむ 声をかけていただいて、ホントにうれしかったです。きゅるしてに曲を作っていただいていたし、今バズっている曲をたくさん作っている方だってもちろん存じていたので、私もそのXの投稿を見て「お!」と思って“いいね”したんです。
ヤマモト 「バズの人がなんか言ってるぞ」みたいな?(笑)
あむ いやいや(笑)。グループでの活動ももちろんがんばりたいけど、もともとは歌うこと自体が好きだから、いつか1人で歌って何か表現してみたいなという気持ちもあって。なので、私のことに気付いてもらえるんじゃないかと淡い期待を込めて、たまたま見つけたその投稿に“いいね”を付けたんです。
ヤマモト 一応きゅるしての曲を書いてるから、言おうと思えば言えるみたいなところもあっただろうけど、かといってスタッフの人づてに言うのもね。
あむ もし自分から売り込んで決まっても、「私なんかが」という気持ちになってしまいそうで。
ヤマモト その絶妙な判断が“いいね”だったんだ。
あむ はい。それがたまたまショウさんの目に留まって「お、逃げ水あむか。いいんじゃない?」と思ってくれたら一番いいなって。そうしたら事務所のスタッフさんから「ショウさんからオファーが来てますよ」と連絡をいただいて、「やったー! 絶対にあの件だ!」と(笑)。
ヤマモト あむさんが“いいね”をしたのを見たファンの方々が「これはワンチャンあるんじゃないか?」と思って、きっといろいろ書いてくださったんですね。そう思うと、SNSってまだまだいろんな可能性がありますよ。