崎山蒼志が水野良樹(いきものがかり)とのコラボ曲「風来」を10月21日に配信リリースした。
「風来」は東海テレビ・フジテレビ系で放送中のドラマ「顔だけ先生」の主題歌。水野らしい開放感のあるサビメロやメリハリの効いた曲構成に美しく揺らぐ崎山の歌声が乗った、双方の魅力を十分に堪能できる作品に仕上がっている。これまで長谷川白紙や諭吉佳作/men、君島大空といった新進気鋭のアーティストとたびたびコラボしてきた崎山だが、メインストリームのど真ん中で長年活躍してきた水野との今回のコラボもまた、彼の新たな一面を引き出すことに成功している。
この曲のリリースを機に、音楽ナタリーは崎山と水野の対談をセッティング。ミュージシャンとしてのお互いの印象や、音楽への向き合い方などについて語ってもらった。
取材・文 / 石井佑来撮影 / 笹原清明
年齢差ダブルスコアの2人
──まずはお二人がコラボすることになったきっかけを教えていただけますか?
崎山蒼志 水野さんがパーソナリティを務めていらっしゃったJ-WAVEの「SPARK」に呼んでいただいたり、HIROBA(水野のソロプロジェクト。水野が作曲、最果タヒが作詞、長谷川白紙が編曲を手がけた楽曲「透明稼業」では崎山が歌唱を担当した)でコラボさせていただいたり、いろいろとお仕事でご一緒させていただく機会がある中で、「水野さんと一緒に曲を作ったら面白いものが生まれるんじゃないか」と思い、こちらからお声がけさせていただきました。
水野良樹(いきものがかり) なんかこっ恥ずかしいですね、出会いの馴れ初めを聞かれているみたいで(笑)。
──水野さんは、もともと崎山さんにどのような印象を抱いていたんでしょうか。
水野 「SPARK」に出てくれたときに弾き語りを目の前で観させていただいたんですけど、この歳にしてすでに自分のスタイルを確立しているのがすごいなと思いました。20代、30代と歳を重ねるにつれて音楽性もどんどん進化していくでしょうし、末恐ろしいなと。
崎山 本当に恐縮です……。
水野 だから今回、声をかけていただけてとてもうれしかったです。崎山さんはこれまで長谷川白紙さんや諭吉佳作/menさんなど、同世代の方とコラボしている印象があったので、「世代が上の自分にも声をかけてくれてありがとう」という気持ちでした。ただ、うれしさの一方で「崎山さんが今持っているイメージを邪魔してしまったら嫌だな」という不安もあったので、今は「うまく形にできてよかったな」と安心しています。
崎山 「イメージを邪魔する」だなんて、そんな……。僕は子供の頃からいきものがかりさんの曲を聴いたり、学校の合唱祭で「YELL」を歌ったりしていたので、水野さんとコラボできて本当に光栄です。
──ちなみにいきものがかりのデビューは2006年ですが、その頃崎山さんはおいくつですか?
崎山 4歳ですね。
水野 4歳!? そうか、4歳か……ボディブローのようにじわじわ効いてくる(笑)。僕が今38歳で崎山さんが19歳だから、ちょうどダブルスコアなのか……。でも、そこまで年下の方とコラボすることはなかなかないので、貴重な経験ですね。こんなに歳が離れていると、聴いてきた音楽も違うだろうし、僕はもう19歳の頃の感覚には戻れないので、普段は受けることのない刺激をもらえました。
コード進行に宿る水野らしさ
崎山 水野さんの曲は普遍的でキャッチーで、さらにその中にちゃんと水野さんらしさが詰まっていて、それがすごい好きでオファーさせていただきました。
水野 今の発言、太字にしておいてください(笑)。もうそれを聞けただけで今日は満足です。
崎山 「風来」を弾き語りしていると気付きやすいんですけど、自分ではあまり使わないようなコード進行があったりして、そういう部分に水野さんらしさを感じているんだと思います。
水野 崎山さんもギターを弾くときの手癖や好きなコードのパターンがあるだろうから、僕のような“異物”が入ってくると新鮮に感じられるんでしょうね。
崎山 弾き語りをしながら「このコード進行、貸していただきたいな」とか思ったりしてます(笑)。
水野 もう、ぜひぜひ。いくらでも使ってください(笑)。
──「風来」は、クレジット上は作詞作曲ともに「崎山蒼志・水野良樹」となっていますが、曲作りはどのような手順で行われたんですか?
崎山 まず僕が歌詞を書いて、それを水野さんにお渡ししてメロディを付けてもらいました。「顔だけ先生」の主題歌でもあるので、歌詞はドラマのあらすじからインスピレーションを得ながら書いていきましたね。
水野 最初の打ち合わせのときに、2人でドラマの資料を見ながら「どうやって作っていこうか」と作戦会議をしたんですよね。全体的なあらすじはもちろんいただけたんですけど、ドラマ自体はまだ観れなかったし、ストーリーに寄せすぎてもつまらないものになっちゃうと思うから「いい距離感を保ちながら作っていきたいね」なんて話をして。楽しかったですね。崎山さんは細かい言葉選びがやっぱりすごいなと。「おどけた」というワードのチョイスだったり、「溜息をさらう」という言い回しだったり。さりげないんだけど、実はスッと出てくるような言葉ではないと思うんです。さらに「鉄塔」「斜陽」とか出てくると、「あー、崎山ワールド!」ってうれしくなっちゃう(笑)。ほかの人が「鉄塔」という言葉を歌うと固い印象になると思うんですけど、崎山さんの声で聴くとしっくりくるんですよ。これをうちの吉岡(聖恵)が歌ったら、たぶん「てっとう」とハッキリ発音しちゃう。もちろんそれはそれでよさがあるんだけど。崎山さんは自分の声に合うワードを選ぶのがうまいなと思います。
崎山 鉄塔は地元の浜松にたくさんあるので、自分の中ではすごく自然な風景で。そういう自分が見てきた景色を歌詞に落とし込みたいという気持ちがあったんです。あと僕は季節の変化や時の流れを描きたいと常に思っていて、今回もそういった部分を意識して言葉を選んでいきました。
ドライな部分をキープする歌声
水野 崎山さんの声は聴けばすぐに崎山さんの声だってわかるくらい特徴的だけど、くどくはないんですよね。例えばHIROBAの「透明稼業」は最果タヒさんの歌詞をもっとおどろおどろしく歌うこともできるだろうし、「風来」だって激しく歌おうと思えば歌えるはずなんですよ。でも崎山さんは歌に感情を込めすぎず、ドライな部分をキープしていて。それって実は難しいことだし、多くの人に聴いてもらうためには大事なことだと思うんです。だからこの歌声は宝物だと思いますよ。
崎山 ありがとうございます。「歌に感情を込めすぎない」ということは自分ではそこまで意識しているわけではないんですけど、冷たさのある曲や起伏があまりない音楽がリスナーとして好きなので、そういう部分が影響しているのかもしれません。言葉にするのが難しいんですけど、何かを訴えかけたり伝えたりするのではなくて、ポーンと放り投げるような声が好きというか。
水野 なるほどね。それを聞いて、なんとなくキリンジの「エイリアンズ」を思い出しました。あの曲は、淡々と歌われているからこそ、シュールな歌詞に聴き手が自由に感情を乗せられると思うんです。切ない気分のときは切ない曲に聞こえるし、落ち着いた気分のときはクールな曲に聞こえる。崎山さんの歌声も一緒で、ドライな部分があるからこそ、それが聴き手に想像させる余白になっているんだと思います。
崎山 あと僕の場合は、歌詞も風景描写などが多くて叙情的なことは意外とそんなに書いていないんです。「風来」に限らず、感情をむき出しにした曲は今までもあまりなかったかもしれません。もちろんそういう曲も大好きなんですけど……(笑)。
水野 そうなんですよね(笑)。そうじゃないものもやっぱり面白いんだけど、それはそれでね。
崎山 ソウルだけで突っ走るような曲も大好きなので。
水野 「こう聴け!」みたいな曲もそれはそれでカッコいいし、矢沢永吉さんのような「俺は矢沢だ!」みたいなスタイルもやっぱりカッコいいから。自分にできるかどうかは別として。
──編曲はいきものがかりの楽曲のアレンジも手がける江口亮さんが担当されています。こちらのアレンジについての印象はいかがですか?
水野 いい意味で非常に面倒くさいアレンジになってますね(笑)。サビ前のフックがすごく効果的で、それが入ることによってよりわかりやすい構成になってはいるんですけど、全体的に崎山さんの曲っぽさもキープしてくれていて。
崎山 最初に江口さんのアレンジを聴かせていただいたとき、全体的にとても素敵だったんですけど、ドラムのフィルがいい意味ですごく変だったので、「こういうの、もう少し欲しいです」と言いました(笑)。
水野 もっと汚してくれと(笑)。
崎山 そうしたら、最後にノイズのようなギターの音も入れてくれて、それがすごくうれしかったですね。江口さんもノイズやフィルを足すのを楽しんでいただけたようで、いろんな音を加えてくださいました。
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“キャッチー”は暴力的