その曲に合う言葉は必ずどこかに用意されてる

──ここまでの作曲面のお話が大変興味深いので、ぜひ歌詞についての考えも聞きたいです。

さかい　僕、ヤマさんの全詩集ってやつ買ったんですよ。

山崎　え、マジで？

さかい　「晴男」で「コロンブスでも なかなかうまいこといかないね」っていうくだりがあるじゃないですか。あれを「バスコ・ダ・ガマ」にするとダメだって言っていたのが本当に同感で。「俺バスコ・ダ・ガマも知ってるんだぜ」ってアピールにすると、玄人からはサムい人だって思われそうだし、素人には伝わらなかったりして……近すぎたら稚拙すぎるし、遠すぎたらわけわかんない。だからコロンブスっていう絶妙なところに落ち着かせる。その言葉選びみたいな話って覚えてますか？

山崎　コロンブス……バスコ・ダ・ガマではない……って俺そんなこと言ってた？

さかい　言ってました！（笑） その言葉遊びが面白いです。ヤマさんはしゃべってるときにもそういうものが息づいてますよね。言葉にリズムを感じるんです。だから自分で書いて歌う人しか作れない歌詞だなって思いますね。

──山崎さんは、ソングライターとしてさかいさんの作風をどう思いますか？

山崎　きれいだと思いますよ、すごく。言葉に艶があると思う。

さかい　艶がある……。ちょっとそれ赤字で書いといてください（笑）。

山崎　やっぱり作品を人に届けるには、そのものの肌触りっていうのを俺らは意識しないといけなくて。ただ思いの丈を羅列するんじゃなくて、それを手に取って触ってみようとか、聴いてみようっていう気持ちをお客さんに起こさせないと。細かく考えたらそういう作業も必要なのに、そこって今見落とされてるような気もしますよね。スタイルとか、ファッション的なものが先に行ってて。やっぱり詞ってもっと可能性があると思うし、俺らは「歌」っていう伝える媒体をちゃんと持ってるから、そこにはこだわって、できるまでがんばるべきっちゅうか。それでね、面白いもんで、途中で詞に対して妥協したらやっぱりその曲って行き着いてないんですよ。“自分の作りたい曲”に最終的になってない。その曲に合った言葉って必ず用意されてるの、どこかに。だから俺らはそれを絶対に見つけないといけないんです。けっこうそういう作業だったりするの、作詞って。

さかい　それは本当に書くたびに思いますね。そこの何小節かに乗る適切な言葉が絶対にあって、リズムとか文章のつじつまが合ってても何かが足りなかったりしますよね。

山崎　うん。それは単語なのかもしれないし、そこだけ口語調になるかもしれないし、あるいは擬音語かもしれない。

さかい　そういえばウルフルズの「バンザイ～好きでよかった～」のサビの終わりにある「ラララふたりで」って、デモテープの段階から「ラララ」だったんですって。それをそのまま採用したって聞いたことがあります。今となっては「ラララふたりで」以外考えられないですけどね。「いつもふたりで」じゃないし……。

山崎　大黒摩季さんの「ら・ら・ら」も、歌詞ができなかったんじゃないんやって。もう「ら」なんだって確信して「売れなかったら契約やめるから」とまで言って「ら」で歌ったって。本人から聞いた。

さかい　カッコいい。男前な話ですね。あ、じゃあ「北の国から」の「ああ～ああああ～」（さだまさし「北の国から ～遥かなる大地より～」）もあえてなんですかね？

山崎　あれも倉本聰さんにさださんが「こういう曲なんだ」って説明したんやって。それでいいって言われたって。

さかい　そのおかげで余計な匂いはしてこなくて、音のよさとか風景だけが見えてくる。

山崎　だからさっきの、絵に音楽が寄り添った最たるケースやね。

──そういう、詞と曲とさらに映像が合致した大正解ってやっぱりあるんですよね。

さかい　だからそれがタイアップじゃなくても、どんな曲でも必ず見つけなきゃならないってことですね。すごいいい言葉ですね。絶対にその曲に合った言葉を見つけるって。

お前はインファイターやもんな

──ところで、オフィスオーガスタという事務所の中でお2人はそれぞれどういうポジションなんですか？ やっぱり山崎さんはみんなのお兄ちゃん的存在？

さかい　ちょっと違うと思います。ヤマさんはお兄ちゃんというよりはもっと孤高な感じがするな。でも何かあったときは絶対お兄ちゃんになるんですけど。基本的に飾らない、えばらない、兄貴ヅラしないっていう感じですね。だから音楽人としての先輩ではあるけど、いわゆる体育会系の逆らえない感じではないですね。

山崎　近寄りがたいっていうのは世間的にもちょっとあったみたいね。

さかい　近寄りがたいっていうのは、自分の空気があるからそれを邪魔しちゃ悪いって尊重してる気持ちだと思いますけどね。あんまりズカズカ入っていって「あの曲いいですよね。どうやって作ったんですか？」とか言ったらウザいかなって。卓弥さん（スキマスイッチ 大橋卓弥）とかずっとカバーしてたみたいですから、そりゃ聞きたいだろうに。僕は卓弥さんほど気が遣えない人だから聞いちゃいましたけどね。

山崎　お前はインファイターやもんな。すぐ懐入って……。

さかい　絶対アッパーとフックしかやらないですからね。小刻みなボディ攻撃。

山崎　じゃあ卓弥はアウトボクシング系や。

さかい　そうそう。

──一方さかいさんはオーガスタ集団の中でどんな存在ですか？

山崎　当然ながらミュージシャンシップもあるし、一番音楽的な造詣が深いって感じる。だからセッション性がすごく高い。そういうことが可能な数少ない1人だと思いますよ。

──もはや事務所内に限らず、今の日本の音楽シーンを見ても随一ですよね。

山崎　そうやと思う。あと夜クラブとかライブハウスにも出かけてるみたいだから、今どきフロントに立つ若い人間でいろいろ勉強してるのもいいとこやと思います。

さかい　その、ミュージシャンシップとか音楽の造詣のくだりは太字でお願いします（笑）。

人と何かやるってすごい大切

──そろそろお時間が来てしまいましたので、最後に言っておきたいことがあればぜひ。

山崎　今回、（森）雪之丞さんが作詞してるんだよね。そういう外注の人も入れて、また1人に戻ったときがすごい楽しみですよね。絶対身になってるから、誰かとなんかやったことって。

さかい　そうですね。森さんの言葉でセッションして、バンドもキーボードしか僕弾いてないですし、いろんな人の血が混ざったやつを作りたくて。カップリングの「100％」（小泉今日子に提供した楽曲のセルフカバー）もちょっと引いた感じで歌詞を書いてるし、RADIOHEAD「CREEP」のカバーもあるし。今回はそういう、なるべく自分から離れて遊んだ感じがテーマですね。ずっと1人で作詞作曲してきたから。

山崎　1人でやり続けてると偏屈になるやろ？ やっぱり。俺も意固地になってセルフプロデュースとかやってたけど、良くも悪くも実感が沸かないから。やっぱり人と何かやるってすごい大切ですよね。

さかい　そうですね。そういう時期も欲しいなと思って。きっと次の作品はまた全然違う感じになると思いますよ。