サカグチアミEP「名前」インタビュー|活動10周年を迎え新たな「名前」とともに踏み出す一歩 (2/2)

先輩が亡くなった日に見た黒い蝶

──ではほかの3曲についても伺います。EPのオープニングを飾っている「黒蝶」に見られるサカグチさんのシリアスで鋭い表情は、かなりインパクトがありますね。

ありがとうございます。去年、先輩であるシンガーソングライターのさユりちゃんが亡くなった知らせを聞いたとき、実際に黒い蝶を見たんです。その日にこの曲を書き上げたので、ここに込められた私の思いはめちゃくちゃリアルです。あのとき見た景色や、そこでの気持ちが表現できたと思います。

──そうだったんですね。

自分としては新しい表現ができた手応えがあったので、EPの1曲目に持ってきました。「お、サカグチアミ変わったな」って、一番わかりやすく感じてもらえると思ったので。

──アレンジャーは柿澤秀吉さんですね。

秀吉さんはいろんな相談に乗ってもらうことの多い先輩で、私のギターレッスンもしてくれているんです。この曲もできたタイミングで聴いてもらっていて。そのときは私の弾き語りのデモだったんですけど、「これもうバンドの音が鳴ってるわ」みたいなことをチラッとおっしゃっていたので、今回改めてアレンジをお願いしました。RECも秀吉さんのスタジオでやらせてもらったんです。細かい部分に関しては私のイメージもいろいろお伝えさせてもらったので、イントロのフレーズから一緒に作っていった感覚があります。

サカグチアミ

──この曲でのボーカルについてはご自身でどう感じていますか?

ライブを重ねてきた中で身に付いた鋭さが出てる気がしますね。ライブをやってこなかったら出せなかったであろう声の成分が出てるなと。この曲は以前から弾き語りでは披露していたので、その中で目の前の人に刺さる歌い方を見い出せていたのも大きかったと思います。その正解をレコーディングでぶつけられました。私の中ではヤンキーモードというか(笑)、かわいさとかが垣間見えてはいけない曲だと思っているので、ライブのときも思いきり振り切って歌っています。

私には文豪スタイルが合ってる

──3曲目に収録されているのは、ひぐちけいさんアレンジによる「Life Goes On」です。

ライフソングというテーマに一番忠実なのがこの曲だと思いますね。ひぐちけいちゃんは前に一度、ツアーでバンマスをやってくれたことがあって。そのときにこの曲のライブ用アレンジもしてくれていたんです。その雰囲気がすごくよかったので、音源用のアレンジもお願いしました。音源を一緒に作るのは初めてだったので、最初は探り探りなところもあったんですけど、楽しくやれました。けいちゃんの家でお茶しながら作りました(笑)。

──曲自体が生まれたのは2024年だそうですね。

はい。曲を書くことに対してスランプに陥ってしまったときがあって。そのときに、文豪のように旅先で書いてみたらアイデアが出てくるかなと思い、急遽、八丈島に行ったんです。景色に魅了されながらひたすら歩き続けていたところ、この曲のフレーズが降りてきた。私には文豪スタイルが合ってるみたいですね。そうやって公言しておけば、文豪スタイルを言い訳にお休みとかも取りやすいかもしれないし(笑)。

──この曲はライブで大合唱が生まれますよね。そこも曲を作った段階でイメージされていたんですか?

そうですね。案外、今までの自分の曲ではそういうことをやったことがなかったんですよ。「うたってんねん」ツアーでいい光景が生まれたので、音源にもそれがパッケージできてよかったです。

サカグチアミ

サカグチアミはまだまだここから

──そしてEPのラストナンバーは「歌を歌わなければ」。“歌を歌わなければならない”という決意にも受け取れますし、歌詞にあるように“歌わなければ誰かと交わることはない”という意味にも取れるタイトルですね。

まさにそうです。最初は「途方に暮れた世界」というタイトルだったんですけど、曲に込めたメッセージとしてそこが伝えたいわけじゃないよなってふと思ったので、ダブルミーニングにもなるAメロのフレーズを使うことにしました。

──アレンジは野村陽一郎さん。すごくハッピーな景色が見えるサウンドになっています。

コロナ禍でライブがいつできるかわからない状況になっていた時期に書いたので、もともとはけっこうダークでシリアスな雰囲気だったんですよ。でも「Life Goes On」で大合唱をしたときに、「私がコロナ禍にやりたかったことはこれなんだ」ということに改めて気付けたので、ライブでわちゃわちゃできるようなアレンジを野村さんにお願いしました。けっこう無茶なオーダーだったと思うんですけど、その思いをしっかり昇華してくださって、ものすごくハッピーな曲になりました。

──ダークでシリアスな頃の面影はないですもんね。

そうですね(笑)。野村さんは私が作った弾き語りのデモに対して変化球のアレンジをしてくださる方なので、この人選はバッチリでした。最初はこの曲をEPの1曲目にする予定だったんです。でも、あえて最後に持ってきたことで爽快さや潔さを感じるエンディングになったので、それもよかったなって思います。

──曲の中でサカグチさんがカズーを吹いているのもポイントですね。

カズーの音を入れるのは野村さんのアイデアだったんですけど、私は最初、吹き方が全然わからなくて。蚊の鳴くような音しか出なかった(笑)。「吹くんじゃなくて、くわえたまま歌うんだよ」って教えてもらって、なんとかできたんですけど。カズーがおいしく効いてる仕上がりになったのがうれしいです。

──ライブで生カズーの演奏も聴きたいところです。

まずカズーを買わなきゃ(笑)。キラキラにデコレーションとかしようかな。あははは。

──この曲の冒頭には「誰一人残らず救いたい」というフレーズがありますが、8年前に掲載されたナタリーのインタビューでもまったく同じことをおっしゃってるんですよ(参照:坂口有望メジャーデビュー作「好-じょし-」特集)。その気持ちはまったくブレていないんだなと。

へえ! 全然覚えてなかったですけど(笑)、ええ話ですね。そういう気持ちが自分の音楽活動の根っこになるっていうのは、確かにずっと変わらず一貫してます。

──この10年でサカグチさんの音楽に救われてきた人もたくさんいるはずですよね。

そうですね。10年の節目を迎えたときに、そういうお言葉をいろんな方からいただいたりもして。いろいろ悩んだり、マイナスなことに目が行く瞬間もあったけど、それも全部無駄じゃなかったんだなって今、改めて思いますね。でも私はもっともっといろんな人を救いたい。サカグチアミはまだまだここからだと思っているので、改名を機に出会える人がたくさんいればいいなと思っています。

──1月30日にはEPのリリース記念ワンマンがあります。

まず1月のワンマンに関しては、新体制になった今の気持ちをしっかりパフォーマンスとして見せられるような、ある種、会見の場みたいな日にしたいなと思っています。そこでカタカナのサカグチアミとしてやりたいことをちゃんと知ってもらえたらなって。そのあと全国をツアーをやるときも、ひさしぶりにバンドで回りたいです。それがすごく楽しみ。去年の秋のツアーから同世代のメンバーと一緒にやっているので、今までとはまた違う一体感を味わっていただけるんじゃないかなと。

──1つのバンドとして、いいグルーヴが出ていますよね。それが全国ツアーを回ることでより強固なものになっていくでしょうし。

そうですね。以前はちょっと年上のベテランの方がメンバーだったので、その頃と比べると今のバンドはシンプルに練習量が必要なんです。リハもたくさん入らなきゃいけない。でも、だからこそのいいグルーヴが生まれているような気もして。今回もたくさんの時間を一緒に過ごして、バンドとしての音をブラッシュアップしまくっていくと思うので、楽しみにしていてください!

サカグチアミ

公演情報

リリース記念ワンマン「サカグチアミ」

2026年1月30日(金)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:15 / START 19:00

プロフィール

サカグチアミ

2001年に大阪で生まれたシンガーソングライター。2015年、14歳の頃に地元のライブハウスで活動を始め、2017年に「好 -じょし-」でソニー・ミュージック内のEPIC Records Japanよりメジャーデビューを果たす。2025年10月に行った東名阪ワンマンツアーのファイナル公演で本名の「坂口有望」から「サカグチアミ」にアーティスト名を改名することを発表。2026年1月14日に日本クラウン移籍第1弾EP「名前」をリリース。本作のリード曲「名前」は奥田民生と斎藤有太がサウンドプロデュースを手がけた。