初のライブ映像作品から紐解く、斉藤朱夏がステージに立ち続ける理由 (2/3)

1人の少女の人生を表現したかった

──これまでのライブと比べると、「つぎはぎのステージ」は1曲目の「ワンピース」から異色の始まり方でした。暗い照明の中でひと筋のスポットライトの光を浴びながら、アカペラで歌い始めるという。それまで朱夏さんのライブは「くつひも」や「月で星で太陽だ!」といった曲が1曲目にきて、アッパーなテンションで始まることが多かったと思います。

「つぎはぎのステージ」では1つの小さなステージから大きなステージに走っていく1人の少女の人生を表現したかったんですよ。だから、1曲目の照明は暗くてシンプルなものにしたかった。セットリストもブロックごとに物語を意識していたり。とにかく「斉藤朱夏の人生をこの1時間半で見てくれ!」って。最初の衣装は白いワンピースにしたんですけど、それはアーティストを目指してオーディションをたくさん受けていた頃に、ワンピースを着て行っていたことが多かったから。私はここから始まったという。

「ワンピース」を歌う斉藤朱夏。

「ワンピース」を歌う斉藤朱夏。

──あの白いワンピースはパッチワークになってるんですよね。

そう。もちろん「つぎはぎのステージ」というタイトルから着想しているところはあるんですけど、あのいろんな生地は、たくさん受けたオーディションを表しているんですよ。オーディションを受けては落ちてしまうというのを繰り返して、その経験が集まって1つのワンピースになっているんです。

──このライブから照明や演出に深く携わるようになったとドキュメンタリーでおっしゃっていましたが、それは自然な流れで?

そうですね。スタッフさんから「照明の希望ある?」と聞いてもらって、「あっ、そこらへんまでやっていいんだ」と思ったら、今度は「全部やりたい!」ってなっちゃって(笑)。とはいえプロの意見が一番だとは思うから、曲のイメージを伝えたうえで、アイデアをスタッフさんと出し合いながら作っていきました。そういうところにも携わったからこそ、あのライブはいつも以上に緊張したのかな。

──セットリストも朱夏さんが決めたんでしょうか?

自分で1回全部考えて、それをスタッフさんに見せて、どうしようかというのを話し合いましたね。あのステージのセットリストを考えるのはめっちゃ大変でした。

──ライブの軸となるアルバムの楽曲自体が濃いからこそ、間にどの曲を入れていくのかが難しそうですね。

いろんなパターンを考えて。どれが自分が一番表現したいものなのかなと考えたときに、最終的にこのセットリストになりました。あのライブでは、ブロックごとにちゃんと物語を表現したかったんですよ。1曲目の「ワンピース」から2曲目の「くつひも」につながるのは、ワンピースを着て、そこから靴を履いてくつひもを結んで、ステージに行くというイメージで。そのあと「恋のルーレット」で恋に落ちたり、「あめあめ ふらるら」でちょっと憂鬱な日があってもいいよねと思ったり。で、5曲目と6曲目の「パパパ」と「ぴぴぴ」は……。

──Zeppツアーでもそうだったと思うんですが、「パパパ」と「ぴぴぴ」を並べるのは朱夏さんの中では鉄板の流れなんですかね?(笑)

鉄板になってきました(笑)。やっぱりこの2曲は並べたくなるんですよ。ここをくっつけることによって、個人的には気持ちが上がるんです。

──「ぴぴぴ」でみんなでダンスしたり、「Your Way My Way」ではペンライトで赤チームと青チームに分かれてゲームをしたり、「しゅしゅしゅ」ではみんなでタオルを回したり、朱夏さんのライブの楽しみ方というのがどんどん作られているのがいいなと、去年ライブを観ていて感じました。

「ぴぴぴ」を踊る斉藤朱夏。

「ぴぴぴ」を踊る斉藤朱夏。

私のライブでみんなの歓声を聞いたのって、最初の「くつひもの結び方」(2019年11月に東京・TSUTAYA O-EASTで行われた1stワンマンライブ)だけなんですよ。

──そのあと、コロナ禍の影響で声を出せない状況になってしまって……。

そうなんです。本当は声を聞けるのが一番なんですけど、どうしてもまだ難しいという状況もあって、振り付けであったり、みんなで一緒に音楽を楽しめるようなことを考えてきました。お客さんもすごく曲を聴き込んでくれていて、例えば「恋のルーレット」ではペンライトを回してくれたり。みんながそれぞれ楽しみ方を考えてくれているから、私もそれを超えるような楽しみ方を常に提示していきたいなと思っています。

──いい関係ですね。お互いに楽しみたいという気持ちがあって、どんどんライブの遊び方が増えていくという。

みんなのペンライトを振るタイミングが合いすぎてて、びっくりしますもん。「打ち合わせしてるの?」っていうくらい、本当に合ってるんですよ。それを見たら、こっちも負けてらんないなと(笑)。

──朱夏さんのライブの中でも「しゅしゅしゅ」の盛り上がりはすごいですよね。もともとライブで盛り上がるナンバーが欲しくて作られた楽曲だったと思いますが、その役割を見事に果たしているという。

「『しゅしゅしゅ』、マジでありがとう」って思ってます(笑)。「しゅしゅしゅ」のイントロが始まった瞬間に会場の熱気がぐわーっと上がるので、みんなこの曲が好きなんだなあって。毎回セットリストに入れたくなる楽曲ですね!

“斉藤朱夏になった瞬間”だった

──セットリストの中でも特に印象的だったのは、ライブ中盤の「よく笑う理由」「ヒーローになりたかった」の流れでした。明るくて元気なパブリックイメージの裏にある弱い部分も含めて、朱夏さんの心の内側がこれでもかというくらいさらけ出されていて。

このゾーンが一番丸裸でしたね。カッコよさとか見せ方とか、どうでもいいやというくらい、ただただ今見せたいものを全部投げるという感じだったので。ド直球すぎたと思うんですけど(笑)。

──このブロックが「自分の人生を見せる」という「つぎはぎのステージ」の軸になっていると感じました。

めちゃめちゃ大事なブロックでした。だから、どうやって歌おうかなというのをリハで毎日毎日すごく考えたんですよ。でも、当日はその考えたものをすべてなくしましたね。もうそのときに感じていることを全部出そうと思ったら、いろんな感情が湧き出てきて。人生を歌っている楽曲を今ここにいる“君”に届けられてすごいよかったなと率直に思いましたし。ある意味、ここが私のスタート地点かなと思いました。本当に“斉藤朱夏になった瞬間”だったんですよね。真っ裸で、そのまんまの私を受け入れてくださいというブロックだったので、あの瞬間に自分が覚醒しました。

斉藤朱夏

斉藤朱夏

──「ヒーローになりたかった」と、そのあとの「セカイノハテ」はアコースティックバージョンで披露されて、朱夏さんの剥き出しの歌が際立っていました。

アコースティックってすごく緊張するんですよ。音数も少なくなるし。でも、ある意味それがよかったんだろうな。とにかく自分が今歌いたいように歌い上げました。不安でバンドメンバーの目を見てましたけどね(笑)。「セカイノハテ」はもともとファンクラブのイベントでバンドメンバーのえみちゃん(西野恵未 / Key)のピアノ1本でやったんですよ。そのときに「めっちゃよかったね! ヤバいね!」という話になって、えみちゃんから「ライブでもアコースティックでやりたい」と言ってもらって。アルバムに「ヒーローになりたかった」のアコースティックバージョンが収録されてるし、その流れで「セカイノハテ」もやっちゃおうということになったんです。ファンの方も「アコースティックのブロックがすごくよかった」と言ってくれていてうれしかったです。