斉藤朱夏|“壁”の向こう側の光を目指して

あんなこと書いてごめんなさい!

──2曲目の「止まらないで」は疾走感のあるパンクロックチューンです。こちらもリスナーの皆さんの背中を押す曲になっていると思うんですが、どちらかというと斉藤さんが「止まらないで」とケイさんからエールを送られている曲なんですかね?

そうなんです(笑)。コロナの時期に書いていたメモをケイさんに渡したら……。

──ミニアルバムのインタビューでも、コロナ禍でツアーが中止になって、「この気持ちをどこにぶつければいいんだろう?」と思ったときに殴り書きでメモを書いたとおっしゃっていましたよね(参照:斉藤朱夏「SUNFLOWER」インタビュー)。

勢いで書いたものを「私、今こう思っています!」ってバーっと渡したんです。「もうこの時代に希望なんてないので、どうしますか?」みたいなことが書いてあったと思います(笑)。ほぼやさぐれですよね。

──そんな気持ちとは正反対に、「止まらないで」は困難な状況でももがいて、全力で突っ走っていく曲になっています。「『どうせ』が決まり文句の理論武装 重そうな仮面のその向こう 視線はまだ前を向けるでしょ 逸らさないでよ ねえ」と。そんなやさぐれてるときにこの曲が届いたら、かなり背筋が伸びるような……。

「あんなこと書いてごめんなさい!」って思いましたもん(笑)。「自分の気がちょっと緩んでました!」って。ここでまたケイさんにパーンと奮い立たされた感じでしたね。「この曲の歌詞はあなたに言ってます」とはっきり言われましたから。背筋伸びまくりです。ケイさんには楽曲を通して助けられることが本当に多くて。

──デビュータイミングでは、最初の打ち合わせで「強い人になりたい」と言っていたのに「誰よりも弱い人でかまわない」という曲が届いたり。最新ミニアルバムに収録されている「ひまわり」も、ケイさんからのお手紙のような楽曲でした。

いつもハッとさせられるんですよ(笑)。私が書いた歌詞のプロットに対して、「いやいやそんなこと言ってる場合じゃないぞ」「まだあなたはここまでです。だからがんばってこの先に行きましょう」という曲がきたり。「実はこういうことを思っている」というのをメモに残していなかったりすると、バレてしまうこともあります。歌詞を見て、「うわ! それに気付いたの?」って。毎回楽曲をいただくたびにドキっともするし、「止まらないで」に関してはなぜか涙が出てくるという。

──それはどういう涙なんですか?

自分はいったい何をしているんだろう、やさぐれている場合じゃなかったって。正直今は世の中こんな状況だし、弱っててもいいかなと思ってた自分もいたんですよ。「みんな弱ってるもん。私もいいよね。うん、いいやいいや」みたいな(笑)。投げやりな感じになっていたんですけど、そんなときに「止まらないで」という楽曲をいただいて。「あー、昔の自分はそんなことで弱音を吐かなかったな」って、10代のときに無我夢中で夢に向かって走り続けていた自分を思い出して、自然と涙が出てきたんです。私はここで終わっちゃダメだ。大好きなステージに立てない時期が続いてるけど、この状況はずっと続くものではないから、いつかはステージに立てる。じゃあそのために今何をするべきなのか。そういうふうに少しだけ光が見えました。

「我が道を進め」と言われているような感覚

──特に心に刺さったフレーズはありますか?

やっぱりサビは刺さりましたね。私はステージに立つ人になりたくて、今まで自分から扉を開いてきて。でも苦しいときって、「ああ、やっぱりやめようかな」って扉をちょっと閉じたりもしちゃうけど、「自分で扉を開けたんだったら、その我が道を進め」と言われているような感覚になりました。

──「自分で閉じた扉から 分かるでしょ 聴こえるでしょ 高鳴りのノック ノック ノック」という。

「そうだ、私はまっすぐにしか走れないんだった!」と思って(笑)。そのあとの「少しだけ 少しだけ 何か変わるかも 止まらないで!」というところも、未来がどうなっているかはわからないし、期待するのは怖いけど、そう言われると確かに少しずつ状況は変わるかもしれない。どこかで変わるかもしれないなら、その光に向かってちょっとずつ走っていこうかなって。Dメロの「遠回って 空回って くだらないって思えても 悪くは無いって 悪足搔いていこう」というところにもハッとさせられました。曲調としてはすごく疾走感があって、聴いてるだけで楽しくなるような曲なんですけど、歌詞を見るとメッセージ性のある言葉が詰まってるんです。

──レコーディングはいかがでしたか?

ともかくがむしゃらに、明るく元気に歌いました! 要所要所で歌い方を変えるというよりは、ストレートに歌ったほうがこの楽曲はずしっと響くんじゃないかなって。すごくエネルギーを使う曲なので、ライブで歌うときにセットリストのどこに入れようか、一番迷っている曲でもあります(笑)。

斉藤朱夏

みんなに会いたい気持ちが一番大きい

──3曲目の「秘密道具」はアコースティックのシンプルなアレンジが印象的なバラードソングです。

この曲は音数が本当に少ないので、聴いたときに「むず!」と思いました(笑)。

──確かに歌の力が重要になってくる曲ですよね。

そう。言葉の1つひとつがはっきりと聴こえるような曲なので、これをどうやって歌えばいいんだろうと思って。でも、この曲で言いたいことってすごくシンプルなんです。「君に会いたいよ」「君を知りたいよ」という。

──ネコ型ロボットが現れたらというシチュエーションを切り口に、「例のドアをくれやしないかな いつでも君に会いに行けるのに」「タイムマシンに乗って 私の知らない君に会いに行く」と、最初から最後までずっと「君に会いたい」という気持ちが歌われています。

“君”と“私”の距離感、空気感というのを大切にしながら歌いました。温かくてほっこりするような曲調だけど、“君”に会いたいのに会えないもどかしさを表現したいなって。この曲を聴いてくれた人は、家族や大切な人を思い浮かべて、いろんな気持ちになってくれたらいいなと思います。今はなかなかパートナーに会えない人たちもいると思うので、そういう人たちにも寄り添えるような楽曲になっていたらうれしいです。

──ネコ型ロボットが現れたらもっといろんなことができるはずなんですが、この主人公はただただ君に会うことしか考えていない。それってなかなかすごいことだなと思ったんですけど、斉藤さんならそういうシチュエーションでも「ファンのみんなに会いたい!」って言いそうだなと思ったんですよね。あり得るなと。

ケイさんにもそう言われました(笑)。もちろんネコ型ロボットがいたらいろんなことができるけど、私もすぐにみんなに会えるようにするなって。この曲の主人公と同じ気持ちだったんです。

──斉藤さんのメモの中から「みんなに会いたい」という気持ちをケイさんが汲み取って作った曲なんですかね?

そうですね。やっぱり今はみんなに会いたい気持ちが一番大きくて。みんなこの1年でいろんなことが変わっているんだろうなと思ったら、その1年間、私はみんなのことを知ることができなかったんだという悔しさがあるんですよね。みんな今どういう髪型をして、どういう洋服を着ているんだろうって、すっごい考えちゃいます。女の子だとお手紙で恋愛相談をしてくれる子もけっこういて。あの子の今の恋愛の状況、どうなってるんだろうとか。「就職活動をしています」という子もいるし。そうやって手紙で思いを伝えてくれたり、自分のことを書いてくれたりするのが、やっぱりすごくうれしくて。その子のことがもっと知りたくなるし、私自身のことも知ってほしくなる。

──素敵な関係ですね。

だから私のライブって、お客さんとの心の距離がすごく近い感じだと思います(笑)。

──そんなファンの方々と会える約束の場所もちゃんと決まっていて。6月3日に東京・東京ガーデンシアターでレコ発ワンマンライブがあります。有観客のライブは1年半ぶりですね。

そうなんです! やっとまたみんなと会える場所ができたことがありがたいです。1人ひとりに感謝を届けられるライブになったらいいなと思います。1年半分の思いが込み上げて、重くなっちゃいそうだなと思いながら(笑)。

ライブ情報

斉藤朱夏レコ発ワンマンライブ「セカイノハテ」
  • 2021年6月3日(木)東京都 東京ガーデンシアター