音楽ナタリー Power Push - 最終少女ひかさ「最期のゲージュツ」特集 但野正和(Vo, G)×あいみょん
ハングリー精神あふれる“終われない”2人
ひかさには私のお客さんを持っていってもらっていい
──但野さんは今、「自分が出せるものを出し尽くす」というようなギリギリの表現でステージに立たれているわけですよね。
但野 そうですね。それはすべての土台にある部分ですね。それが「ちょっとカッコ悪いなあ」って思う日もあるんだけど、それでもやっちゃうっていうか、悪あがきしちゃうんです。この間、あいみょんと対バンしたときも、けっこう途中までダメだったなー。
あいみょん いや、なんか「一気に全部のお客さんを持っていこうとしてる!」と思いました。その感じが私は怖かったですけどね。
但野 初めからバーンと行けたらいいんですけど、僕はすごい見ちゃうんですよ、お客さんのことを。最前列に、あいみょん待ちで退屈そうにしてる人がまず見えちゃったから、意地になっちゃって。もちろん会場全体に向けてはいるし、もう勝ち負けとかも考えないようにはなったんだけど、だけどステージに立ったら……嫌なんですよね、振り向いてもらえないのが。
あいみょん あのあと、私のファンの人たちもみんなひかさのことが気になって、「ファンになった」って言ってましたよ。私も対バンってもちろん勝ち負けじゃないけど対決だと思ってるんで、やっぱりお客さんを全部持っていこうとするような人と一緒にやりたいですよ。私はひかさのことが好きだから、ライブに呼んでツーマンしてるから、私のお客さんを持っていってもらって全然いいです。でも、私は但野さんと違って、ライブのときにお客さんのほうを見ないんですよ。お客さんの表情をみると泣きそうになったりするので、ずっと柱とか見てます。
但野 へえー! そうなんだ? それがあいみょんに合ってるやり方なんだろうね。
あいみょん 私、初めてライブをしたときに自分の出番になってステージに出て行ったら、ライブを観てくれてなくて別のことをしてるお客さんがいて、そこからお客さんを見なくなりました。私も負けず嫌いなんで、そういうのを見ちゃうとMCの口も悪くなっちゃうんで。意識しないほうがサラッとできていいんです。
但野 心には相当悪い、寿命を縮めてるようなところあるよね。それでも僕は未だに見てしまうんだけど。
友達と話すことがインプットになるのかな
──3月22日には最終少女ひかさのミニアルバム「最期のゲージュツ」がリリースされます。
あいみょん すごくいいアルバムで移動中もずっと聴いていました。今回のアルバムは完全に新しい最終少女ひかさだなって。最後の曲「さよなら最終少女」なんて全部ラモネス(Key)ちゃんが歌ってたりとか。早くライブで観たいなと思います。「どういう佇まいでこの曲やるんやろ?」とか思いましたもん。
但野 「さよなら最終少女」に関しては思いきり狙って作りましたね。僕が打ち込みで全部作ったからメンバーもこういう曲があるって知らなくて、全部できてからラモネスに「歌って」って渡して。「マジで!?」みたいな感じだった(笑)。これまではライブをやってバンドを転がして音源をリリースしていくというやり方しか知らなかったけど、前のフルアルバム「グッドバイ」を発売してから、しっかりと制作して、作品をリリースできるという状況になったんですね。「どういうアルバムを作りたいか?」ということが考えられるようになって。そうなったらもう、「ライブでできない曲でもいいや」って。「技術的に俺らが5人で再現不可能なレベルでも音源にしちゃってもいいんだ」と思って作ったので。
──そういう意味ではこれまでになく自由な制作だったんですね。
但野 そうなんです。これまでで一番、「音楽やってるな」って感じたかな。アルバムのタイトルも「最期のゲージュツ」にしちゃったから、もうやり残せないじゃないですか。タイトルを先にこれにしちゃったから、やり残しがあったらカッコ悪いと思って自分を追い込みながら作りました。
あいみょん 歌詞を書くときにはいつも感情的にギリギリなんですか? それともスラスラ書きますか?
但野 スラスラはね、今回の作品では1曲もなかったですね。「いくらでも言いたいことなんてある」と思ってたんですけど、やっぱりなくなっていくものなんですね。今回のアルバムは作りたくて作ったアルバムだからこそ歌詞のほうが大変だったな。でもそれも自分に友達がいないのが原因なのかなって思い始めて。以前、本を読むとか映画を観るとかのインプットの仕方だとどんどん枯渇していくって話を聞いたんですね。おいしいものを食べるとか、いい景色を見るとか、自分で行動して取り入れるほうがいいって。「でもそれは芸術じゃないから意味ないだろ」って、僕は信じなかったんだよね。それでずっと家にこもって、友達とも話したりしなかったし。本を読んだり映画を観たりするほうが絶対に実になると思ってたから。
あいみょん 私もそう。
但野 でももしかしたら、友達と話すってことがすごいインプットになるのかなって。人と対話することがもしかしたら足りなかったかもしれないと。今回苦労した結果、そんなことを思いました。
あいみょん 私も友達がいなくても本と映画でまかなえるんじゃないかってずっと思ってる。
但野 でも友達ってもっともリアルな社会とのつながりだったりするじゃない?
あいみょん 私はひねくれ者なので、もし売れたらあのときにバカにしてたヤツらを絶対に無視しようとか思っちゃうんですよ、悔しくて。学生の頃に先生とかに「お前、将来どうすんねん」とか言われて「音楽やりたいかも」って言ったら「絶対やめとけ大学行け」って言われたので。そういう人にも「たまたま道で会ったら絶対に無視したろう」とか、そういう負けず嫌いがあるから、友達を自ら排除したというよりも自然とこうなっちゃった感じがありますね。でも私は妄想で歌詞を書いたりもしますし、数少ない友達のことを見てて感じたことを歌詞に反映させたりもしますけどね。但野さんは人を観察する目はありそうなので友達いなくても大丈夫じゃないですか。
但野 そうなのかな……。
あいみょん 人間に興味がないとかそういうことではないですよね?
但野 それはないです(笑)。でも基本的には自分自身のことを歌ってるので、あいみょんみたいに妄想とか、いろんな方法で歌詞が書けるようになりたいですね。僕は「実体験でしか歌詞が書けないんです」って誇らしげに言ってる人が嫌いなんですよ。ひねくれ者なのかもしれないですけど。それしか書けないってどうなんだ、努力しろよと。
──あははははは!(笑)
但野 だから自分のことも書くけど嘘やフィクションも書きたいし。実話だけがスゴイなんて、それは芸術じゃないってむしろ思うから。やっぱ僕はもっと人と関わらなきゃダメだ。友達がいたら、友達のことが歌になったりするからね。本とか映画からしかインプットしてないから過激って言われる表現になっちゃうのかも。
あいみょん 私の本棚なんて「お前はサイコパスか!」って思うような本ばっかり並んでますけどね(笑)。人の心理を探るようなミステリー小説ばっかり読んでます。
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収録曲
- A.N.Z.N
- ハルシオン
- レイラ
- Rolling Lonely review
- 半分人間
- ロリータ
- さよなら最終少女
収録曲
- 愛を伝えたいだとか
- ハッピー
- MIO
ツアー情報
最終少女ひかさ「GEKOKUJO! -2017巣立ち-」
- 2017年5月14日(日)大阪府 Shangri-La(ワンマンライブ)
- 2017年5月16日(火)香川県 高松TOONICE
- 2017年5月17日(水)広島県 CAVE-BE
- 2017年5月19日(金)福岡県 public space 四次元(ワンマンライブ)
- 2017年6月9日(金)東京都 UNIT(ワンマンライブ)
- 2017年6月11日(日)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL(ワンマンライブ)
- 2017年6月23日(金)北海道 Sound Lab mole(ワンマンライブ)
最終少女ひかさ(サイシュウショウジョヒカサ)
2013年結成。北海道札幌市在住の但野正和(Vo)、ダシュンキ(G)、ラモネス(Key)、KOTA(B)、イワノユウ(Dr)からなる5人組バンド。2015年3月にタワーレコード限定のシングル「いぎありわっしょい」を、2016年4月に初のフルアルバム「グッドバイ」をリリースした。2017年3月には新作ミニアルバム「最期のゲージュツ」を発売した。
あいみょん
兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター。歌手に夢見ていた祖母や音響関係の仕事に就いている父の影響で音楽に触れて育ち、中学時代にソングライティングを始める。2015年3月に発表したタワーレコード限定シングル「貴方解剖純愛歌~死ね~」など、センセーショナルな世界観の楽曲でSNSを中心に話題を集め、同年「tamago」「憎まれっ子世に憚る」という2枚のミニアルバムを発表した。2016年11月に1stシングル「生きていたんだよな」でワーナーミュージック内のレーベルunBORDEよりメジャーデビュー。2017年5月にはメジャー2ndシングル「愛を伝えたいだとか」をリリースする。