「ロマサガRS」サントラ第2弾発売、伊藤賢治&岩﨑英則にSuiseiNoboAz・高野がインタビュー (2/2)

アレンジャーそれぞれの個性を尊重

──今作には「サガ」オフィシャルバンド・DESTINY 8のメンバーである上倉紀行さんをはじめ、ゲーム音楽作曲家の成田勤さん、弘田佳孝さんらがアレンジャーとして参加していますが、アレンジの担当はどのように決めたんですか?

岩﨑 純然たるオーケストラだと小林洋平さんや関美奈子さん、“歪み系”とかだと弘田さん、変化球だと高野智恵美さん、ロックの場合は上倉さん、オケとエレキギターの要素がある曲は成田さんにお願いする傾向がありますね。

──個人的には小林さんが手がけた「ALONE」のアレンジを聴けたのが特にうれしかったです。「出航」「ポドールイ」などでも新しいメロディが追加されてドキドキしました。アレンジは編曲者に委ねている部分が大きいのでしょうか?

伊藤 委ねる部分を残しつつ、骨組みのデモは全部自分で作っていますね。

岩﨑 デモは音源として普通に完成しているものですよね。

伊藤 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」のサウンドトラック制作時は、ピアノだけのデモをアレンジャーに渡した曲もあったのですが、ゲームデザインとシナリオを手掛ける河津秋敏さんに「イトケン、それはひどすぎるぞ!」と言われて(笑)。それからデモの段階で作り込むようにしています。

伊藤賢治

伊藤賢治

──デモを作るときはどのDAWソフトを使っているんでしょうか?

伊藤 Logic Proです。内蔵音源だけで作っちゃいますから、すごくコスパの高い作曲家だと思いますよ(笑)。

岩﨑 そのデモをそのまま生演奏する場合もあるんですけど、小林さんとかはデモにない旋律を乗せてきたり、けっこう攻めますよね。同じアレンジャーさんと仕事を続けていると、「この人はこれが得意だな」とわかってきて委ねる部分も増えますね。

伊藤 むやみやたらに「こうしてほしい!」と求めたくはないし、それぞれの個性を尊重して、アレンジを面白がれる自分でありたいんですよね。DESTINY 8にしても自分は一番後方でいいから、ほかのメンバーを前面に出して目立たせてくれと言っているんです。

誰でも曲を作れる時代だからこそのこだわり

──今はDAWソフトも発達していますが、本作は基本的に生録音ですよね。オーケストラや生バンド、ボーカルも入ってカラフルかつゴージャスな仕上がりです。特に「CIRCUS 運命の兄弟」や「Entrance-星は集う-」の重厚なオーケストラが素晴らしかったです。

岩﨑 DAWソフトで誰でも曲を作れる時代だからこそ、プロとして何ができるかを考えますし、生演奏、生収録にこだわりたいと思っています。何十年もトランペット1本でやってきた人や、オーケストレーションをアメリカで学んできた人、そういう人たちの叡智やエネルギーを結集して、形にして、音楽をボトムアップしたいという気持ちがありますね。

──「ポドールイ」や「女道化師イゴマール」では女声ボーカルをフィーチャーしていますね。

伊藤 「ポドールイ」はゲーム内のクリスマス限定イベントのために作ることになったんですが、ずっと心に残るエバーグリーンなものにしたいと思って。ボーカリストのKOCHOさんの力も大きいです。

岩﨑 KOCHOさんはいろいろな声で歌われる方で、それこそブルガリアンボイスみたいな声から子供の声まで出せるマルチな方なんですよね。いろんなことに対応できるだろうと。

岩﨑英則

岩﨑英則

伊藤 ピッタリでしたね。ゲーム音楽に歌詞が付いちゃうとイメージが限定されるリスクが高いんですが、「泣けました!」みたいなことを皆さん言ってくれて。

──「聖王廟」のアレンジもクワイアボイスのようなサウンドで神秘的です。

伊藤 あれは口笛なんです。青柳呂武さんという方にお願いしたんですが、口笛の世界チャンピオンなんですよ。

──そうだったんですね。「怪傑ロビンのテーマ ~この世に悪はさかえない!~」は「インペリアル サガ」のサントラにも収録されていたので、これが3回目のアレンジです。

岩﨑 今回の「ロビン」は軽快ですね。「インペリアル サガ」でアレンジを担当した亀岡夏海さんはオーケストラの人なので、低音をトロンボーンやチューバなどで表現するんですが、上倉さんにブラスアレンジをお願いすると、下をスッキリさせてベースやギターで補うんです。ドライブ感があるアレンジだと思います。上倉さんらしいロックテイストも出ていますね。

進化し続ける「サガ」の音楽

──DISC 2に収録されている「イゴマール制圧戦」の楽曲からは、“イトケン節”を超えて、さらなる一歩を踏み出そうとしている印象を受けました。特にテクノサウンドの「Shadow of doubt」は新境地ですね。

伊藤 この曲はファンの間でも人気が高くて。狙って作った部分はあったのですが、自分がテクノを作ろうとすると、どうしても1980年代から90年頃のようなテクノになってしまうので、アレンジャーの高野智恵美さんと探りながら作りました。

──この曲では人気曲「熱情の律動」も歌っていた岸川恭子さんがボーカルを担当していて、妖しい魅力を発揮しています。

伊藤 この曲をきっかけに、アレンジャーの小林洋平さんが岸川さんのボーカルに惚れちゃって。本業のドラマのサウンドトラックにも起用したらしいです。

──ラスボス戦である「オリアクス -世界を穿ち、時を射る者-」は優雅かつ躍動感あるピアノが印象的です。こだわった部分があれば教えてください。

岩﨑 ラスボス戦らしい壮大さを出すために「10型」という編成のオーケストラで制作したんですが、プレイヤーを配置換えした演奏をダビングして「20型」にしたんですよ。こんな機会はないので、すごくテンションが上がりましたね。

伊藤 面白かったですねー。「ロマンシング サガ オーケストラ祭 2022」では「イゴマール戦」の曲を初披露するのでぜひ聴いてほしいです。ついこないだスコアが上がってきたんですが、僕らもビックリしましたね。

岩﨑 めっちゃ長い尺のメドレーになっています。

左から伊藤賢治、岩﨑英則。

左から伊藤賢治、岩﨑英則。

──ちなみに今回レコーディングで苦労した点はありますか?

岩﨑 例えばポップスのシングルをリリースする場合は、A面、B面の2曲を録りますが、ゲーム音楽は曲数が多いので、1日に10曲録るようなレコーディングをせざるを得ない。そんな中で、特にオーケストラは進行がタイトなんですよね。延長になった瞬間に人件費が激増するので、自分がタイムキーパーとして、それぞれの曲にかけられる時間をはじき出します。こだわり出して何回もリテイクしているとレコーディングできない曲が出てくるので、そういうときは「伊藤さん、あと5分です」と容赦なく入っていきます。限られた時間の中で戦って、シングルカットできるような曲を作っています。

伊藤 でも、最初の1テイク、2テイクでほぼ完成しちゃって。3テイク目で細かい部分を手直しするだけなので早かったですよ。日本のミュージシャンは優秀です。

──今後「サガ」の音楽で挑戦していきたいことはありますか?

伊藤 大仰なもの、もしくはその対局にあるシンプルなもの。自分がやりたいものと求められているものを天秤にかけつつ、例えば民族音楽的なアプローチとか、新しいものを出し続けて驚かせていきたいです。

岩﨑 「ロマサガRS」も12月で4周年になりますので、このタイミングで伊藤さんに曲を書いていただくとなると、ロックでもオケでもない今までやっていないものが面白いかなと思っています。

──伊藤さんはX JAPAN、ポール・モーリアやさだまさしさんなどがルーツだと公言なさっていますが、最近の音楽も参考にされているんでしょうか?

伊藤 意識はしています。PENGUIN RESEARCHや神様、僕は気づいてしまったとかはテクニカルだし、ボーカルもすごいなと。あとは坂道グループとかYOASOBIとか、若い人たちが熱狂している音楽を分析して、自分なりにすくい取っていきたいなと思っています。

──なるほど。これからの「サガ」の音楽も楽しみです。本日はありがとうございました。

伊藤 こちらこそありがとうございました。「サガ」愛が伝わってきました。

左から伊藤賢治、岩﨑英則。

左から伊藤賢治、岩﨑英則。

プロフィール

伊藤賢治(イトウケンジ)

東京都出身の作曲家。4歳からピアノを始め、10歳より自己流で作曲を始める。1990年3月に株式会社スクウェア(現:株式会社スクウェア・エニックス)に入社。「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」「ロマンシング サガ」シリーズ、「サガ フロンティア」など数多くのゲーム作品の音楽を担当する。2001年2月にフリーの作曲家として独立し、その後もゲーム作品をはじめ、舞台・テレビアニメなどの劇伴、シンガーへの楽曲提供およびアレンジ、各種プロデュースなど、幅広い分野で活動している。

岩﨑英則(イワサキヒデノリ)

1998年に株式会社スクウェア(現:株式会社スクウェア・エニックス)に入社し、シンセサイザーオペレーターとして活動。「ファイナルファンタジー」シリーズなどさまざまな作品に参加し、「フロントミッション」シリーズではメインコンポーザーを務めている。

SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)

2007年夏に東京・新宿で結成されたロックバンド。2010年1月に向井秀徳プロデュースによる1stアルバム「SuiseiNoboAz」でデビューした。2020年12月に通算5枚目となるフルアルバム「3020」をリリース。2022年6月に7inchシングル「THE RIDER/群青」をリリースした。

高野メルドー(タカノメルドー)

SuiseiNoboAzをはじめ、ゲスバンド、古都の夕べで活動するギタリスト。ゲーム好きとして知られ、スマホゲーム専門メディア「アプリゲット」でスマートフォンゲームのレビューを執筆している。