「ロマサガRS」サントラ第2弾発売、伊藤賢治&岩﨑英則にSuiseiNoboAz・高野がインタビュー

スマートフォン向けRPG「ロマンシング サガ リ・ユニバース」のサウンドトラック「Romancing SaGa Re;univerSe Original Soundtrack vol.2」が5月25日に発売された。

本作は2019年4月にリリースされた「Romancing SaGa Re;univerSe Original Soundtrack」に続く「ロマサガRS」のサウンドトラック第2弾。前作に収録されていない「ロマサガRS」メインシナリオ1部の各イベントを彩った楽曲の数々と、第1部の最終決戦イベント(イゴマール制圧戦)での新曲などが2枚のCDに収録されている。

音楽ナタリーでは、本作の発売を記念して、「サガ」シリーズの楽曲を手がける“イトケン”こと伊藤賢治と「ロマサガRS」の音楽ディレクター・岩﨑英則にインタビュー。ゲーム音楽好きで知られるSuiseiNoboAzの高野メルドーがインタビュアーを務め、“イトケン節”と呼ばれる伊藤のサウンドのこだわりや楽曲の作り方に切り込んだ。

取材・文 / 高野メルドー撮影 / 須田卓馬

幅広いミュージシャンに影響を与えている“イトケン節”

──高野メルドーと申します。ゲームから音楽に目覚めた人間として、神様に会うような気持ちでやってきました。イトケンさんの音楽は前山田健一さんをはじめ、ゲーム音楽の枠を超えて、幅広い世代のミュージシャンに大きな影響を与えています。

伊藤賢治 最近、「サガ」シリーズをプレイしていた子供たちが30代、40代の中堅どころになって、いろんなメディアで「実はゲームが好きだった」と公表してくれているんですよね。やってきてよかったと感じます。以前、革ジャンを着てエレキギターを背負ったモヒカンヘアーの男性の方が震えながら「ファンです……!」と挨拶してくれたことがあって。そういう人もゲーム音楽を好きでいてくれるんだと印象に残っていますね。

──イトケンさんの「サガ」楽曲、特に戦闘シーンの楽曲に影響を受けたロックミュージシャンは本当に多いと思います。自分も学祭で「四魔貴族バトル1」のコピーに挑戦したことがありました。ハープのアルペジオは弾けませんでしたが。

伊藤 E♭mですからね。「四魔貴族バトル」は「1」と「2」どっちを先に作ったのか忘れちゃったんだけど、「2」はEmだったから差別化を図って半音下げたのかも。

伊藤賢治

伊藤賢治

──イントロがとても長い「四魔貴族バトル2」はディストーションギターを採用したということでも有名ですよね。

伊藤 現在は「ファイナルファンタジーXVI」のディレクターである高井浩さんが、当時「ロマンシング サ・ガ3」のバトルエフェクトデザインを務めていたんですけど、高井さんから「そろそろエレキギターの曲作ってよ」と言われて。スーパーファミコンではなかなか難しかったんですけど、押し切られました(笑)。

岩﨑英則 高井さんは下村陽子(「スーパーマリオRPG」「キングダム ハーツ」シリーズなどの音楽を手がける作曲家)さんにも言われていたみたいで「ツーバスドコドコのロックでよろしく」と、いきなりプロレスのサントラをドンと置いたりしていたようです(笑)。

伊藤 それまで自分が作っていた音楽は、だいたいシンフォニックな感じでした。自分はロックに精通しているわけでもなかったし。根本的に自分はピアニストで、なるべくどんな曲でもピアノソロに立ち返れる曲を作りたいと思ってるんです。でも「四魔貴族バトル」を出したらすごくウケがよくて。ロックミュージシャンの方にも通じるところがあったんでしょうね。

──「バトル曲は苦手」とよくおっしゃっていますよね。

伊藤 激しいもの、怒りとか、悲しみとか……戦いに関する気持ちを全部注入すると、精神的、体力的にヘトヘトになるんです。人をたぎらせるには、自分がたぎるしかない。バトル曲ばかり作っていると、「あしたのジョー」状態になりますね(笑)。真っ白に燃え尽きてしまう。

──なるほど。この機会に聞いておきたかったのですが、「ロマンシング サガ」シリーズの通常バトル曲はすべてBmで、ラストバトルはCmで統一されています。意図的なものだったんでしょうか?

伊藤 通常バトルがBmっていうのは、たぶん自分が好きだったTM NETWORKの影響があるかもしれないですね。「Get Wild」もBmなんですよ。Cmはベートーヴェンの「運命」が好きなのもあるし、自分にとって特別なコードなんですよね。

──ベース音がスラップベース音だったのもTMの影響ですか?

伊藤 当時、楽器屋でシンセなどを試し弾きするのはだいたい「Get Wild」のベースからでしたからね。それくらい小室(哲哉)さんからは影響を受けています。

FFに負けてなるものか

──岩﨑さんは伊藤さんとどのように出会ったんですか?

岩﨑 スクウェア(現:スクウェア・エニックス)に入る前は、音楽業界でシンセサイザーオペレーターという仕事をしていました。当時はアナログシンセサイザーのつまみをいじって音色を作らないと、いい音ができない時代だったんです。シンセオペレーターの会社に入って、萩田光雄さん、武部聡志さん、本間昭光さんなどのレコーディング現場でシンセのアシスタントをしていました。そんなときにスクウェアがシンセサイザーオペレーターを「ファイナルファンタジーVII」のイラスト付きで募集しているのを見つけて。生意気にも「ゲーム会社のサウンドクオリティを上げに行くか!」という気持ちで入ったんです(笑)。それで最初に自分が配属されたのが、伊藤さんが作曲を担当する「チョコボレーシング ~幻界へのロード~ 」で。入社直後、自分と同期入社だった河盛慶次さんと植松伸夫さんに呼ばれて、「君たちジャンケンして」と言われたんですよ。それで河盛さんが勝って「じゃあ河盛はFFね」「岩﨑はFF以外のタイトル担当」って(笑)。「スクウェアに入ったのにFFやれないんだ……」ってショックはありましたね。

岩﨑英則

岩﨑英則

伊藤 自分も「サガ」シリーズから抜けたタイミングだったんですよね。その頃は「FF」「サガ」「聖剣」「その他」みたいな感じだったんですが、「FFに負けてなるものか」と死にものぐるいな気持ちでした。

岩﨑 一緒に甲子園を目指した仲間というか、同じ釜の飯を食った仲間というか。伊藤さんはスクウェア退社後も自分に声をかけてくださって、そのご縁が今も続いています。

──岩﨑さんは伊藤さんの音楽の魅力はどこにあると思いますか?

岩﨑 一度聴いたら忘れられないようなイントロ、トランペットのメロディ、ドラムのタム回しやフィル……やっぱりエネルギーが濃いですよね。

──ゲーマーの心を一発で鷲づかみにする強烈な“イトケン節”は、このたび発売される「ロマンシング サガ リ・ユニバース」サウンドトラック第2弾の新曲でも健在です。

伊藤 結局いまだに自分にとって気持ちいいものを出しているだけなんですよね。自分の中の快感と、流行っている音楽を天秤にかけつつ、どう自分の色を出すか、日々考えています。「全然イトケンじゃん! 変わってないじゃん!」と言われてもうれしい評価ですし、「ここが違うんだよ!」と言う感想を見ても「気付いてくれてありがとうございます」と思います。

──岩﨑さんの役割はアレンジの提案などですか?

岩﨑 自分はこのスタジオで、こんな編成で、と座組を作る感じです。基本的には伊藤さんにお任せる感じですが、レコーディングの現場では提案させてもらうこともあります。

伊藤 「こうしましょう」じゃなく「こうするのはどうですか」と委ねてくれるんです。

岩﨑 「サガ」ファンが求めている伊藤さんのサウンドがあるので、僕が「こうしませんか?」というのは違うかなと。自分がこれまで経験してきたものを伊藤さんの音楽と融合させるのが仕事だと思っています。