Ryu☆が自身のデビュー20周年を記念したアルバム「starmine 2020 : Mare Nectaris」を4月29日にリリースする。
「starmine」で音ゲー作家としてデビューしたのち、「BEMANI」シリーズの主力コンポーザーとして活躍し続けてきたRyu☆。約5年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作では、デビュー曲をリアレンジした「starmine 2020」や、Ryu☆が正体を伏せてゲームの“大ボス曲”として提供した「Mare Nectaris」を筆頭に、DJ YOSHITAKAやSota Fujimoriといったコンポーザーたちとのコラボ曲、青龍、tūmahaB名義の新曲など、20年のキャリアを積んだRyu☆ならではの多彩な音楽表現を楽しむことができる。
音楽ナタリーではアルバムの発売を記念したインタビューを実施。デビュー曲「starmine」への思いや制作プロセスの変化などを語ってもらい、音ゲー作家として前線に立ち続けている彼の創作活動の源泉に迫った。
取材・文 / 倉嶌孝彦
原点でありマイルストーン
──コンスタントに音源を発表しているイメージがあったので、Ryu☆名義のオリジナルアルバムが5年ぶりと知って驚きました。
自分でもビックリしました(笑)。「Seventh Heaven」(2015年2月発売)以来だと、そんなに経つのかと。ただこの5年でベストアルバムを3作品リリースしていたり、青龍名義でアルバムを出したりもしていたので、そんなに間が空いた実感はなくて。ベストアルバムに収録される曲もすべて音をアップデートさせていたし、感覚的にはとにかく曲を作り続けていた5年間でした。
──ひさびさのオリジナルアルバムのタイトルにデビュー曲の名前を付けた理由は?
ちょうど今年が「starmine」でデビューしてから20年のタイミングだったんです。しかも1stアルバム「starmine」のリリースからも約10年なんですよ。なので、まずは自分の代表曲である「starmine」という楽曲を核に、いろいろ肉付けする形でアルバムを作ってみようと考えました。実は「starmine」という曲は高校生のときに作った曲で、最初はタイトルも違ったんです。最初は「happy smile」という名前でした。「happy smile」で作った8小節のメロディがすごく気に入っていたから、「beatmania」の公募に出すならこのメロディしかない!と思って。それで「starmine」という曲を送ったのが僕のデビューのきっかけだったんです。今振り返ってみると、「starmine」ってメロディがよくできすぎた曲だと思うんですよね。
──高校生の頃から温めていた“よくできすぎた”メロディでデビューを果たして、その後の楽曲制作のプレッシャーにはならなかったんですか?
自分ではそこまで意識していなかったんですが、当時一緒にイベントを回っていたTaQさんとかいろんな方に「この曲を乗り越えるのは大変だぞ」と言われることが多くて。それくらい「starmine」を評価してくれたと思う反面、プレッシャーに感じることもありました。結果として20年曲を書き続けてこられたので、 20年書き続けてこられたということは、「starmine」というハードルをちゃんと乗り越えられたってことだと思います。
──今のRyu☆さんにとって「starmine」という楽曲はどういう存在ですか?
やっぱり僕にとっての原点ですね。それだけじゃなく、デビュー10周年で「starmine」というタイトルの1stアルバムをリリースして、その10年後の20周年で「starmine 2020」という曲を生み出したわけで、僕にとってのマイルストーンの1つであることも間違いないと思います。今でもあのメロディ、大好きなんですよ。
──アルバムに収録されている「starmine 2020」を作る際にはどんなことを意識しましたか?
キーワードとして意識したのは“リバイバル”ですね。「starmine」はハッピーハードコアというジャンルの曲として「beatmania」に収録されたので、20年前にそのジャンルで主流だったシンセ・KORG M1を引っ張り出してきたり。当時の楽器を使いながらもちゃんと今のEDMの主流の音に寄せてリファインしています。
人間性を排除した大ボス曲
──もう1つの表題曲「Mare Nectaris」はRyu☆さんが正体を伏せ神楽という名義で「beatmania」に提供していた楽曲です。なぜ新しい名義を作る必要があったんでしょうか?
「beatmania IIDX 24 SINOBUZ」という“和”をテーマにした機種の大ボス曲を担当することになりまして、和のテイストを盛り込みつつ、ボスの風格を持った曲を思案しているうちに、これまで自分がやったことがない実験的な曲にしてみようと思ったんです。「Mare Nectaris」はbeatmania史上もっとも難しい曲にしようと思って作り始めたもので、難しいうえに「いったい誰が作ったんだ?」というミステリアスな要素も加えたくて、新しい名義を作ることにしました。
──ユーザーの皆さんに正体はバレませんでしたか?
SNSで検索してみたところ、一部の鋭いユーザーさんが勘ぐってはいましたが、ほぼバレていなかったと思います。というのも、「Mare Nectaris」は普段とはまったく違う作り方で書いた曲なんです。曲のスタート地点が「難しい曲を作ろう」だったので、まずBPM256で32分音符のピアノのアルペジオを入れるというアイデアを主軸に、それを曲として成立させるためにはどうすればいいかと考えながら理詰めで組み立てていったんですよね。そんな工程で曲を作っていると、Ryu☆っぽさ、自分の癖みたいなものが入る隙がない。
──Ryu☆さんは別名義で曲を作る際は、実際のコンポーザーを自分に憑依させたつもりになると以前のインタビューで話していました(参照:青龍「AO-∞」対談 Ryu☆×sampling masters MEGA、sampling masters AYA)。神楽の場合は?
神楽の曲作りは誰かを憑依させるというより、メカニカルに、人間性を排除していった感覚に近いです。だからほかのコンポーザーに似た要素もないと思いますし、Ryu☆っぽくもない。ユーザーの皆さんに正体がバレなかったのはけっこううれしかったですね。
──アルバムにはkors kさん、かめりあさん、BlackYさんの3人がリミックスした「Mare Nectaris」が収録されています。
すごく難解な曲なので、最初はリミックスを投げていいものかどうか悩んだんです。この曲のリミックスはさすがにムチャぶりなんじゃないかって。でも3人共快く引き受けてくれて、なおかつちゃんと「Mare Nectaris」を自分色に染め上げてくれましたね。kors kなんて、リリース前なのにDJでこの曲をかけていたんですよ(笑)。完全にフロアを意識した音作りになっていて、この曲をよくぞここまで変えてくれたなと感動しました。
15年前の曲をリミックス
──アルバムに収録されている「IIDX RED Ending」は15年以上前の曲のリミックスです。なぜこのタイミングでアルバムに?
5、6年前に「BEMANI MUSIC FOCUS」というゲーム内のイベントがありまして。このイベントは各コンポーザーが好きな曲をセレクトしてプレイヤーの皆さんに遊んでもらうというものだったんです。そのとき候補としてDJ YOSHITAKAさんの「IIDX RED Ending」を挙げていたんですけど、最終的には選外になってしまって。どこかでこの曲にスポットを当てたいなと思っていたんですよね。それと自分がDJとしてステージに立つ際に「IIDX RED Ending」をかけたい欲も高まってきて、ちょうどいい機会だからDJ尺の音源を作って、アルバムに収録しちゃおうと。アルバムの中ではかなりの変化球だと思います。
──まさかRyu☆さんの新作に「IIDX RED Ending」が入るとは思いませんでした。
実はユーザー人気の高い曲でもあるから、古参の音ゲーファンにも喜んでもらえると思います。ただ惜しむらくは、アルバム完成後にYOSHITAKAさんから「言ってくれれば、続きのメロディくらい作ったのに!」と言われたことですね(笑)。早く言って欲しかった……。
──「Couleur=Blanche」はYOSHITAKAさんとRyu☆さんの共作ですが、曲作りはどのように?
YOSHITAKAさんはKONAMIの役員をなさっていてすごくお忙しい方なので、膝を突き合わせてガッツリ一緒にというわけにはいかなかったんですが、オンラインでの曲作りをさせてもらいました。YOSHITAKAさんが作った音のデータを確認させてもらいながら、まずは僕が主導で「YOSHITAKAさんとコラボするならこう」みたいなイメージを形にして、それを調整してもらった感じですね。僕の名義の1つ・tūmahaBはYOSHITAKAさんを自分に憑依させたつもりで曲を作るときの名義なので、これまでもYOSHITAKAさんとは何度か“疑似コラボ”をしていたんですよね(笑)。今回ようやく実際にコラボすることができました。
──アルバムにはtūmahaBの新曲「Lagrangian Point Ø」も収録されています。
「Lagrangian Point Ø」は「REFLEC BEAT」のボス曲として作ったもので、ゲームに収録される前にYOSHITAKAさんに聴いてもらったんですよ。そうしたら「オレっぽい! オレっぽい!」って言ってました(笑)。
──Ryu☆さんが表現している“YOSHITAKAさんっぽさ”って、言語化するとどういうものですか?
おしゃれでキャッチー、それでいてひねくれていなくてストレートなコードワーク……みたいな感じですね。自分もストレートなメロディを付けるのが好きなんですけど、YOSHITAKAさんは同じストレートなアプローチでも、より装飾がおしゃれなんですよ。おそらくブラックミュージックを嗜んでいたという音楽的な背景もあって、自分とはちょっと違うアプローチになるんだと思います。
──「Go Ahead!!」はYOSHITAKAさんの相方でもあるSota FujimoriさんとRyu☆さんのコラボによる楽曲です。
「Go Ahead!!」は「Go Beyond!!」という曲の続編として作ったものなんですが、これがなかなか難産で……自分がコラボ曲を作るときは「この2人が組むんだったらこういうイメージ」みたいなものを大切にしたいという思いがあって、どうしても楽曲制作のハードルが上がってしまうんですよね。特に「Go Beyond!!」はユーザーさんに喜んでもらえたこともあって、その続編を期待以上のものに仕上げるにはどうしたらいいかすごく考えました。「Go Ahead!!」では自分が投げた音源に対してSotaさんが素晴らしいシンセとバークリー仕込みのオーケストレーションを入れてくれまして。自分にはなかった発想が返ってきたり、想像していた以上の曲に仕上がったりするのはコラボの醍醐味だなと、改めて感じました。
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DJとしてかけたい曲を