ナタリー PowerPush - Ryu☆
“サウンドデザイナー”という生き方
裏テーマは「1人Dancemania」
──「過去作の延長線のようなトラックを作ってみた」と言っていましたけど、Ryu☆さんのディスコグラフィを振り返るにアルバム1枚を1つのジャンルで縛ることもできたはずなんです。でも最初に話したように収録曲のジャンルをバラつかせているのは、自身のキャリアや「beatmania」の歴史を振り返る作業の一環ですか?
そうですね。最初のアルバムを出した頃から今まで、そのときどきに影響を受けたサウンドを今の機材でリフレッシュしてみたら、それはそれで原点回帰的だし、皆さん喜んでくれるんじゃないかって思いはありました。だからテクノポップから始まって、ハードダンスやエピックトランスを経由して……。最後の「Plan 8」なんてガバですからね(笑)。でも、どれも自分の音作りに影響を与えてくれたジャンルなので、もう一度トライしてみよう、と。あと今回に限らずなんですけど、アルバムを作るときには裏テーマがあって。
──裏テーマ?
「1人Dancemania」ってことなんですけど。コンピ盤の「Dancemania」って1枚、または1シリーズでいろんなジャンルのダンスミュージックを楽しめるじゃないですか。自分もそれをアルバムでやってみたいんです。オールジャンルのクラブDJっぽいというか、1発目にスーパーキャッチーな曲をコンッと放り込んでおいて、あとはアルバムラストまで、ずっとBPMを上げ続けていく。コンピを聴くときもそうだし、ライブやDJをするときもそうなんですけど、それが自分が好きなパターンというか。「SUPER EUROBEAT」出身だけに(笑)、そういうダンスコンピ的なスタイルが大好きなんですよ。それも単独アーティストのアルバムなのに「コンピか!」って勢いでジャンルをバラつかせた理由の1つです。まあ今回の構成だと「試聴機で1曲目だけ聴いて買ってみたんだけど、なんか後半おかしくね?」「前半と後半が全然違う!」ってことになりかねないんですけどね(笑)。
デザイナー的に生きるためDJ的に振る舞う
──確かにライナーノーツを見ても、ダンスコンピ的、DJ的な意識って感じられるんですよ。各曲について細かくジャンルを紹介していて。自分の曲をきっかけに、みんなに新しい音楽を知ってもらいたいっていう願いが込められているというか。
それももちろんあります。最近ボカロPさんとか若手のトラックメーカーさんと話をすると「beatmania」ファンがすごく多くて。それが何を意味しているのかっていうと、皆さんビーマニでいろんなダンスミュージックを知ってトラックメーカーになったということ。ビーマニが入り口になってるんですよね。だからビーマニのトラックメーカーである自分にはダンスミュージックを紹介する人、ビーマニを通じて若いリスナー層を掘り起こす人という役割があって、その責任は果たすべきなんだろうな、とは思ってます。そんなのプレッシャーも大きいし、ホントは無責任でいたいんですけどねえ。
──やっぱり商業デザイナー的気質が強い(笑)。自分のプロダクトを社会でどう機能させるのかをすごく気にしている。
そうなんですよね。自分の考えるデザイナー的な生き方って、世の中でウケているものはひと通りすべて体験しておくってことで。だから30歳超えていまだに「週刊少年ジャンプ」を読んでますし(笑)。「『暗殺教室』面白いわー」とか言いながら毎週楽しみに。それも「みんなについてくために読むかー」という感覚で嫌々やっているわけでは一切なくて、さっきもお話したとおり、自分がいいと思うものと、リスナーさんが望んでいるものを一致させたいから。で、世間で盛り上がりそうな面白い音やムーブメントを見つけたら、それを自分なりに分析・解析して、さらに自分なりにデザインをして世に送り出す。そういうDJ的な気持ちは強いですね。というか、そういう気持ちしかない。ある意味ミーハーなんですよ(笑)。
新世代にダンスミュージックを届ける喜び
──「新しいジャンルを作ってやる!」みたいな気持ちは?
いやあ、確かにそれが最大の目標ではあるんですけど、気質的に難しいかなあ。やっぱりデザイナーであって、アーティストやイノベーターではない。そこにはやっぱりコンプレックスはありますよ。そういうことができる人には憧れますし。ダンスミュージック界にはけっこうな数の天才がいるじゃないですか。世界がひっくり返るジャンルを作ってしまえる人が。EDM勢もそうでしょうし、初期デトロイトテクノ勢もそうだし。あんなポコポコしたリズムにアナログシンセのぶっといベースが乗った音楽が天下取るなんて、当時は誰も思ってなかったと思うし(笑)。あとUNDERWORLDやDAFT PUNKやTHE CHEMICAL BROTHERSもそう。ロックフェスで通用する電子音楽を作った。要はロックファンをダンスミュージックのほうに振り向かせたわけですから。2つは水と油みたいなジャンルだったのにビッグビートというジャンルを生み出すことで、世界のロックファンを「えっ!?」って言わせてみせた。
──でもご自身にもゲームセンターに出入りする層、言ってしまえばオタク気質の強い子たちをダンスミュージックシーンのほうに振り向かせたって自負はありますよね? 実際ビーマニのRyu☆トラックに影響を受けたボカロPは多いわけですし。
フォロワーさんが出てきてくれている事実は確かに感慨深いし、ハッピーハードコアについては入り口の1人にはなれてるのかなあ、っていう気もしますけど、やっぱりどこか「アーティストです」っていう顔はできないんですよねえ。それにフォロワーさんが出てくると「次世代がやってきた!」「ここで負けたらおまんま食い上げだ!」って気持ちにもなって(笑)。まあそれがモチベーションにもなるんですけどね。自分は自分でまたいろいろ新しい挑戦をしながら、さらに下の世代やこれまでダンスミュージックに興味がなかった人たちに喜んでいただけて、しかも極上のトラックをガンガン届けていこう、って。きっとそれが自分がシーンに与えられた仕事なんだろうし、自分自身その仕事をまっとうできたとき、つまり新しいトラックが誰かに届いたときに最大の喜びを感じるわけですし。
収録曲
- It's my Miracle(Ryu☆Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [REFLEC BEAT colette]
- Affection / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga
- Plan C / Ryu☆
- 405nm / Another Infinity
- Artemis / Ryu☆
- Fly you to the star(Extended Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [beatmania IIDX 20 tricoro]
- Kira Kira / Ryu☆
- Ailes / Ryu☆
- Never Land / Ryu☆
- RaveR / Ryu☆
- TENKU / Ryu☆
- 405nm(Ryu☆Mix Extended) / Another Infinity [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
- Lightning / 雷龍
- Blade / 青龍
- Plan 8(Extended Mix) / Ryu☆ [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
Ryu☆(りゅう)
男性ダンストラッククリエイター。2000年、コナミの音楽ゲーム「beatmaniaIIDX 3rd style」の公募に送った楽曲が同ゲームに採用され、以来「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして活躍。現在に至るまでゲームのサントラを多数手がけている。2009年にRyu☆名義の1stアルバム「starmine」を発表し、翌年の2ndアルバム「AGEHA」はオリコン週間アルバムランキング最高17位をマーク。2011年には3rdアルバム「Rainbow☆Rainbow」、2012年には4thアルバム「Sakura Luminance」をリリースする。またその一方でトラックメーカーStarving Trancerとプロデューサーユニット、Another Infinityを結成。「beatmania」シリーズに楽曲を提供するほか、女性ボーカリストDaisy×Daisyの歌うテレビアニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「永久のキズナ」を制作し、Another Infinity feat. Mayumi Morinaga名義のアニメ「ゆゆ式」エンディングテーマ「Affection」を発表している。そして2013年7月、ソロ5作目となるアルバム「Plan 8」をリリースした。