緑黄色社会|初のCDシングルに込めた、リスナーと自分へのエール

緑黄色社会が初のCDシングル「sabotage」を11月6日にリリースした。

表題曲として10月16日に先行配信された「sabotage」は、TBS系で放送中のいくえみ綾原作ドラマ「G線上のあなたと私」の主題歌として書き下ろされたもの。自分らしさを追求しながら日々挑戦し続ける人たちへのエールが込められた、前向きで強さを感じさせる楽曲だ。NHK総合テレビ「うまいッ!」のテーマソングになっているカップリング曲「Alright!!」は、弾けるような明るさが魅力のポップナンバー。そして初回限定盤にはこの2曲のほかに、6月に行われた自主企画イベント「緑黄色夜祭 vol.9 東京編」での「Alice」と「またね」のライブ音源が追加収録されている。

今回のシングル発売に際し、音楽ナタリーでは緑黄色社会のメンバー4人にインタビューを実施。ドラマという物語とリンクする楽曲の制作過程や楽曲に込められた等身大の思い、そして緑黄色社会として活動する中で感じている変化についてを聞いた。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 武石早代

空っぽからどうするか?

──新曲「sabotage」は、ドラマ「G線上のあなたと私」の主題歌として書き下ろした1曲ですよね。ちょうど昨日ドラマの第1話が放送されましたが(取材日は10月中旬)、いかがでしたか?

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G) 第1話、面白かったですよね! 主題歌のお話をいただいてからまず原作を読んだんですけど、物語も面白いし、音楽が題材になっていることもうれしくて。

穴見真吾(B, Cho) そうだね。僕は登場人物たちがバイオリンを学び始めるところを見て、自分がベースを始めた頃のワクワク感を思い出しましたね。誰かと一緒に楽器を演奏するというのは、僕らもバンドだし、楽器は違えど共感できる部分は多いなって。

小林壱誓(G, Cho) 楽器の話だけじゃなくても、いろんな角度から共感できる話だよね。

peppe(Key, Cho) うん。この物語の登場人物は10代、20代、40代とそれぞれ年齢が違っていて、物語では日常におけるそれぞれの年齢層ならではの悩みが描かれている。だから、すごく広い層の方に刺さるドラマなんだろうなと思います。

──「G線上のあなたと私」の3人の中心人物は、27歳の失業中の女性、19歳の男子大学生、それに40代の主婦というそれぞれがまったく違う立場で、それぞれの問題を抱えていて。だからわかり合えないこともあるし、それでもどこかで通じ合える瞬間もあるという繊細な関係性が描かれていますよね。しかもそんなバラバラな3人が、音楽のもとでは平等であるという。

長屋 そうですよね。私は、波瑠さん演じる主人公の(小暮)也映子さんが婚約破棄されるという、ある意味どん底の状態から物語が始まるのが衝撃でした。でもそのあと也映子さんが「やりたいこともないし、恋人のことも本当は好きじゃなかったのかもしれない」と感じながら「私には何もなかったんだな」と気付くところには、すごく共感できるものがあって。自分には何もないと感じたことがある人は、きっと世の中にはたくさんいるんじゃないかと思うんです。

小林 わかる。僕もいろんなシチュエーションで「自分ってこんなこともできないんだ」と感じることがある。例えば、MC1つとっても「うまく言えないなあ」とモヤモヤすることがあるし、そういう瞬間はきっと、みんなそれぞれにあるだろうなと思う。種類は違ってもみんなが知っている気持ち、というか。

長屋 それに、こういう「私には何もないんじゃないか」という感覚は、歳を重ねるほど湧いてくる気がするんです。私は、世の中に触れる前の小中高生だった頃のほうが、「私はこういう人間だ」とか「私はこういう人間に憧れている」と力強く言えていたんですよね。でも大学生くらいの頃から、バイトを始めたり音楽活動を広げていく中で、他人と自分を比べてしまったりして、どんどん自信がなくなっていった感覚があって。「自分ってなんだっけ?」「私は何がしたかったんだっけ?」「何が好きなんだっけ?」と、考えるようになりました。もちろん、それは今でも解決していないし、きっとこれからも悩み続けることなんだろうなと思うんですけど。

──そういった「自分ってなんだっけ?」という普遍的な自問自答をテーマにしながらも、結果として「sabotage」は力強くてたくましい曲に仕上がっていますよね。

長屋 「sabotage」では、“空っぽからどうするか”ということを描きたいと思ったんです。物語のように、モヤモヤし続けてきた悩みが火種になって何かが変わる可能性だってあるのかなと。

自分をなんとかしたい

──「sabotage」には「愛されるより愛したいとさえ思う」というラインがあるし、映画「初恋ロスタイム」の主題歌として9月にリリースされた楽曲「想い人」にも「愛されながら愛していく」というラインがありました。ここ最近の長屋さんの書く歌詞には、能動的な力強さを感じる部分があるのですが、その点いかがでしょうか? “誰かに何かをしてもらう”というよりも、自分から何かをしたいと思う感情が歌われている気がしますが。

長屋 そうかもしれないですね。

──どちらもタイアップがあって生まれている曲ですが、こういう能動的な力強さは今の長屋さんのリアルな感覚なのか、それともタイアップという外因があったからこそ描けたものなのか、どうなんでしょう?

長屋 「sabotage」は、今の私が納得できる部分と“理想の自分”みたいなものが、不思議なバランスで成り立っている曲だと思っていて。さっきの話にもつながるんですけど、私がバンドを始めた高校生くらいの頃は自分に根拠のない自信があったから、「Alice」のような明るい曲も今よりも素直に歌えていた気がするんです。でも時間が経って、今は意外と暗い歌詞を書く自分に落ち着いていて。そういう中で今回の「sabotage」は、ドラマの制作サイドの方と一緒に主題歌を作るうえで「明るい曲にしたい」というテーマが初めからあって。正直そこは、今の自分自身とのギャップがあって戸惑ったんですよ。最近は「自分を出せていないな」と思うことも多かったので、楽曲に対して「私、こんなに明るく歌っていいのかな」って。でも逆に言うと、「sabotage」では“なりたい自分”を表現できたのかなと思うんです。自分をなんとかしたい気持ちが出ているというか。

──等身大の自分と、何かを変えたいと思う一歩先の自分が同居しているのが、長屋さんにとっての「sabotage」であると。そもそも今の長屋さんが抱えているという“自分を出せていない感覚”は、どういうものなんですか?

小林壱誓(G, Cho)

長屋 最近思うんですけど、私はこれまでその場しのぎで生きてきたような気がするんですよね。例えば学生時代は、勉強ができてテストが得意だったんですよ。でも、今その頃と同じように勉強ができるかっていわれたら、絶対にできない。その場その場で生きてきたんですよね。人間関係も、目の前にいる相手にカメレオンのように合わせてきたような感じがしていて。その都度、自分を作り続けている。だから今さら過去の自分にも戻れないし、どの自分が正解かもわからない……相手によっても場所によっても違うし、どれが本当の自分かわからないんです。自分がいっぱいいるような感じがする。

──まさに、先ほどの「私には何もないんじゃないか」という感覚につながっている問題ですよね。今の長屋さんのお話を聞いて、皆さんはどうですか?

小林 わかるなと思います。僕もまったく同じことを思うので。友達と一緒にいるときの自分と、メンバーと一緒にいるときの自分は違うし。そうやって、それぞれの社会ごとに自分は違う顔を見せているんだろうなと思います。でも根っこにある自分は、絶対に変わらないですけど。

──そういう絶対的な自分って、音楽や表現に出てくるものですか?

小林 そういう部分もあるかもしれないです。でも僕はどちらかというと、曲ごとに全然違うことをやりたいと思うし、どうしたって違うものが出てくるタイプなんですよね。事前にこういう曲を作ろうとガッチリとイメージを固めて曲を作ったことがなくて。とりあえず書き進めてみたら、結果的にこういう曲になったというパターンが多いんです。