音楽ナタリー Power Push - 六弦アリス

エログロ、メタル、三國無双 “壁サー”がメジャーに叩き付ける意欲作

嘘をつくのがコツ

──六弦アリスの音楽はボーカル以外すべて打ち込みという形を1stアルバムから貫いています。もともとバンドマンだったA助さんが、なぜ打ち込みにこだわるようになったんでしょうか?

A助 実は僕はビジュアル系のバンドをやってたんですよ。ソフトビジュアルっていう。衣装はちょっとスーツ着て、髪の毛もキメるけど、化粧は薄いみたいな。これがまあ虚しくて。バンドの音楽性もものすごいポップなものだったんです。もともと僕はメタルが好きで“The メタラー”って感じだったのに、気が付いたらポップを鳴らしてものすごい笑顔を振りまいていたっていう。そういう背景もあって、僕は普通に「就職しよ」と思って引退したんです。

──バンドを変えるという選択肢はなかったんですか?

六弦A助

A助 僕を含め、みんな演奏が下手だったんです。ただ演奏はいつまで経ってもうまくならなかったけど、曲は書き続けていたから作曲スキルだけは妙に上がっていて。そのうち、パソコンで曲を作るソフト音源のクオリティが高くなり「もう誰かに頼まんでも自分で全部打ち込めばいいんや」って思ったのが最初でした。その延長線上に今いるって感じで。

──とはいえ、今の六弦アリスのサウンドのような“生っぽい”打ち込み音を作れるようになるまでは大変だったのではないですか?

A助 すごく時間をかけて仕込まなきゃいかんので、大変なんですけど、ある意味、誰かに演奏してもらうより手応えがあったというか。適当に打ってもやっぱり“生っぽく”はならないですから。

──生音に近い音を作るコツってあるんですか?

A助 “嘘をつく”ってことですね。楽器の音って本物じゃないですか。パソコンでまったく同じフレーズを打ち込んだら、それは生音の劣化版にしかならないんです。なので、その楽器っぽいニュアンスの音を打ち込むんですよ。それが“嘘をつく”ってこと。例えば普通のギタリストが弾いたらそんなフレーズにならないような、ちょっと下手な人が楽器を弾いてる感じの演出をわざとするんですよ。そうするとリアルになる。うますぎるプレイを打ち込んだらダメなんですよ。

歌詞を昇華させるために哲学を

──六弦アリスは2012年12月から「不思議の国の音哲樂」と題したシリーズの音源をリリースし続けています。“音楽と哲学を融合させる”=「音哲樂」というコンセプトはどこから来たんですか?

六弦アリス

A助 昔から曲を作ったら歌詞も僕が書いていたんですけど、いつからか自分の歌詞に説得力がほしいなあと思い始めて。「青い空 広がる雲 届け私の思い」みたいなふんわりした歌詞を並べるんじゃなくて、どうしてそう思うのか、その結果どうなるか、みたいにちょっと突き詰めていったら哲学に行き当たって。人間の深層心理とか、哲学的なことを取り入れたら自分が書く歌詞をもっと高次元のものに昇華させることができるんじゃないかなって思ったんです。

──もともと哲学については詳しかったんですか?

A助 最初は全然知識がなかったんですよ。ただ哲学を歌詞で書いてみようって思って、哲学者や思想家の本や資料をあさっていたらどんどんハマっていって。哲学って意外といいこと言ってるんですよ。ただわかりやすいものではないから、僕の書く歌詞もかなり深読みしないと何を言ってるかわからないのかもしれませんけどね。

──ボーカルを担当するアンナさんは、A助さんが書く哲学的な歌詞をどう受け止めているんですか?

櫻井アンナ

アンナ わかることのほうがけっこう多いですね。たまに「これはどういうことなんですか?」って聞くこともありますけど。わかりづらい歌詞だなって感じたら「もうちょっとわかりやすくしたほうがいいんじゃないか」って相談したり。

A助 実はけっこうダメ出しをされるんですよ。歌詞だけじゃなくて曲もなんですけど。曲を作ってMP3で送ると、「カスやな」って返ってきたりして。作り直しを余儀なくされる瞬間がある(笑)。

アンナ どうしても合わないって感じる曲があるんです(笑)。

──アンナさんの「合わない」っていうのは、六弦アリスのイメージと違うからですか? それともアンナさん自身がボーカルとして歌うイメージにそぐわないからでしょうか?

アンナ なんて言うんですかね……。作品の流れみたいなものが「なんか違う」と感じるときがあるんです。

A助 ひと言で言うと「この曲が嫌い」ってことやと思うんですけど。あと、彼女はけっこう速い曲も嫌いなんですよ。ドラムがスタスタ言ってると「なんで速いの?」みたいに言ってくる。「『なぜ速い』のか。哲学的なこと言うてくるなあ」と思いますね(笑)。

メジャーデビューアルバム「Secret Twilight Theater」 / 2015年9月2日発売 / とらのあなレコーズ
初回限定盤 [CD+DVD] / 3900円 / TRNA-10010
通常盤 [CD] / 2600円 / TRNA-10011
CD収録曲
  1. Twilight -序幕-
  2. 青いワルツ
  3. 眼球遊戯
  4. 深淵坂の首縊りの家
  5. 同級生
  6. 螺旋階段の悪魔
  7. 人間失格
  8. Moonlight Roses
  9. 蜘蛛と樹海
  10. 老執事の肖像
  11. トワイライト・デス・パレード
  12. 幸福論
  13. Everlasting
初回限定盤DVD収録内容
  • 「青いワルツ」MV
六弦アリス「Secret Twilight Theater」
2015年9月5日(土)東京都 原宿アストロホール
OPEN 16:30 / START 17:30
六弦アリス(ロクゲンアリス)

六弦アリス

メインコンポーザーである六弦A助と、ボーカルを担当する櫻井アンナの2人によるユニット。2006年12月にアルバム「ファンタジア」を発表し、音楽同人サークルとして活動をスタートさせる。2012年12月に発表した「不思議の国の音哲樂 まやかし篇 先見」を皮切りに、音楽と哲学を融合させたシリーズ「不思議の国の音哲樂」を展開。また2013年にはアニメ「Super Seisyun Brothers -超青春姉弟s-」にエンディングテーマ「私になりたい私」を提供。このほか、PCゲームへの楽曲提供も多数行っている。2015年9月にアルバム「Secret Twilight Theater」を発表し、メジャーデビューを果たす。