ナタリー PowerPush - ROACH

米軍基地に囲まれて育った俺たちの歌「OKINAMERICA」

自分の問題が解決してないことに気付いた

──この辺りで今作の話をしたいんですが、ものすごくいいアルバムができましたね。これは傑作だと思います。

ありがとうございます。

──歌、歌詞、演奏のフォーカスが絞られて、よりストレートになった気がするんですが、どうですか?

インタビュー写真

そうですね。なんか、すっきりしました。1周回って肩の力が抜けたというか。あれもしたい、これもしたいというより、自分はこれです!って感じが出てると思います。前の2作品では夢や希望を歌ってきたけど、それは沖縄を出てからの話なんですよ。沖縄を出てライブをしよう、外の景色を見たい……それは沖縄から出るために歌っていたことなんですよね。それで前の2作品を歌い終わった後、カラッポになったんですよ。「あれっ、俺はこれからもっと未来のことを歌わないといけないのか?」という感覚になったときに、自分の中で未来を歌うことに関して、ひとつ区切りが付いてしまったというか。じゃあ、何を歌えばいいんだろうと思って考えたときに、まだ自分のことを歌っていないんじゃないかと。自分は何者で、どこで生まれて、何に影響を受けたのか、それを歌ってなかったなと。

──なるほど。

あと、沖縄に生まれた以上、避けて通れないこともあるじゃないですか、基地の問題とか。ライブで前向きなことを言いながら、ほんとは見なきゃいけないところを自分で見ていないんじゃないかなと思って。自分の問題が解決していないことに気付いたから、このタイミングで歌うべきじゃないかって。

──今作もヘビーな要素はあるけど、心に真っすぐ響いてくる曲ばかりで。

アルバム名も含めて、自分でもスッとした印象がありますね。歌詞の言葉選びを含めて、以前と比べて明確になりましたね。

沖縄は受け身だけど積極的に外に出ていくべき

──ROACHって、年中全国をツアーで飛び回っていますよね。沖縄から外に出て、初めて自分たちが住む島を客観的に見れた部分が大きいんじゃないですか?

外から自分の島を見れたことは大きいですね。沖縄は良くも悪くも田舎だし……。昔って、沖縄のインディーズシーン自体がすごく盛り上がってたんですよ。他県に行かなくても沖縄だけで賄えるくらいの熱量と音楽好きがいましたからね。今はそこまでの熱量がないから、もっと外の世界に溶け込んで、音楽を作っていくべきじゃないかと思って。

──沖縄のバンドやミュージシャンが?

うん、あと普通の人も含めてですね。沖縄が好きなのはわかるけど、一度外から見てみればいいのにな、と。ROACH企画で「098」(2011年から開催)という沖縄のアーティストばかりを集めたイベントを東京でやってて、若いバンドもたくさん連れて行くんですよ。昔の沖縄インディーズシーンを観て育ったバンドばかりなので、あまり外のものを吸収しすぎると、独特の空気感が消えるんじゃないか、という不安もあったけど。外に出て、いろんなものを吸収しないと、成長しないんじゃないかと思って。それで独特の空気感が消えてしまうなら、そこまでだなと思うし。沖縄は琉球王朝の時代は中国と仲が良くて、今は米軍基地があってアメリカの文化がたくさんある。来るものに対して、沖縄の人はすごく受け入れてきたんですよ。でも自分からも積極的に出ていくべきだなと思うんですよね。人柄が優しい分、あまりガツガツしてない気もして、受け身な感じがするんですよ。外に出て、自分がそういう性格だなと感じたことも大きいですね。沖縄は海を隔てているので、そのハンディキャップは自分で乗り越えていくしかない。それをハンデと取るか、特色と取るかは、自分次第ですからね。

生まれたときからなぜグレーなのか自分なりの答えを探す

──作品に話を戻すと、今作の1曲目「LINE-小さな島の国境線-」は特に素晴らしくて、このアルバムの柱になる楽曲だと思うんですが。

最初に沖縄のことを歌おうと思ったときに、基地の問題とかについて自分の言葉で何か言わなかったら、これからもあやふやな状態が続くし、そこをスルーしてしまったら何も変わらないんじゃないかと思って。いざ歌詞を書いて、改めて自分で読み返すと、「俺はこんなことを思っていたんだな」って気付けたんですよ。この曲ができてから、ほかの曲もバーッとできた気はしますね。

──夢や希望を見るために、まずは自分の足元から見つめ直そうと。「大地をどれだけ区切ろうと 心は区切れない」の歌詞は胸に突き刺さりました。

インタビュー写真

うれしいですね。沖縄にはアメリカ人がいっぱいいて、基地がある周辺の街はその人たちが落とすお金で成り立っている部分もあるし、そういう場所でもライブをやっていたんですよ。コザよりもっと北には金武町(きんちょう)という基地の街があって、そこでライブをやったり、お客さんと一緒にお酒を飲んだりしたこともありました。ニュースで見ている沖縄と、自分の立場から見ている景色とでは温度差を感じるんですよね。テレビだと、ネガティブな部分しか見えなくて、それだけじゃないのになって。例えばMP(ミリタリーポリス)が巡回してて、ライブがたまにヒドくなると、止めに入ってくれるんですよ。そういう中でライブをしていると、全てがフラットに見えるんですよね。音楽で世界を変えるって……できてないかもしれないけど、できてるところもあるんじゃないかって。人種、宗教、年齢を越えて、一緒にみんなで笑い合えたらいいのになあって。音楽に国境はない、音楽が言語だ、みたいな場面を目の当たりにする機会がたくさんあったから。そういう気持ちで「LINE」は書き上げました。別に基地を肯定しているわけじゃないけど、そこにいる人たちはまた別なんじゃないかなって。いろんな問題は置いといて、“人”に向けて書いた曲ですね。

──例えば基地問題一つとっても、何が正しくて、正しくないのか、明快な答えはないかもしれない。けど、その矛盾をはらんだ事柄から目をそらさずにいよう、という決意を感じます。

結局グレーじゃないですか。生まれたときからグレーだから。なぜグレーなのか、自分なりの答えを見つめていくしかないですからね。今回は歌詞を書くにあたって、インターネットでもいろいろと調べたんですよ。でも調べれば調べるほど、どんどん枝分かれして、意味がわからなくなる。とりあえず自分の目に見える真実を言葉にして気持ちを表さないと、何も始まらないと思って。白と黒の意見があるから、みんなが何も言えないのはわかるけど、まずはグレーの部分を自分の言葉で胸を張って言わなきゃと思って。

──腹をくくれたからこそ、以前よりも歌や演奏も真っすぐ伝わってくるんでしょうね。そういう意味で今作は、ROACHの新章が始まったような、とても重要な作品だと思います。

そうなんですよ! 自分でも今作で開けた感じがするんですよね。

ミニアルバム「OKINAMERICA」 / [CD+DVD] 2012年10月3日発売 / 2500円 BULL SHIT RECORDS / DULPICA / DPCD-10002
ミニアルバム「OKINAMERICA」
収録曲
  1. LINE-小さな島の国境線-
  2. HIGH FIVE!!
  3. 耳ヲ澄マセバ
  4. LONE★STAR
  5. テイスト・オブ・ザ・デビル
  6. ウィシュガー
  7. Don't U Remember
DVD収録内容
  1. MADE IN BLOOD
  2. no more silence
  3. MAKE HERE HELL
  4. DNA Never Die!!
  5. 言の葉-koto no ha-
  6. piece of Asia
  7. walk with death
  8. Don't hate but love
  9. Be hardcore in Kin Town
  10. For you, I will
  11. scream with love
  12. 涙の意味-namida no imi-
LIVE INFORMATION
ROACH LIVE TOUR 2012 "OKINAMERICA"

2012年10月14日(日)
沖縄県 桜坂セントラル

2012年10月19日(金)
東京都 下北沢SHELTER

2012年10月20日(土)
埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1

2012年10月21日(日)
東京都 渋谷CYCLONE

2012年10月23日(火)
神奈川県 横浜F.A.D

2012年10月25日(木)
愛知県 名古屋池下CLUB UPSET

2012年10月26日(金)
兵庫県 神戸太陽と虎

2012年10月28日(日)
大阪府 心斎橋CLUB DROP

2012年11月1日(木)
山口県 周南rise

2012年11月3日(土)
広島県 広島Cave-Be

2012年11月6日(火)
京都府 京都MOJO

2012年11月8日(木)
東京都 下北沢SHELTER

2012年11月12日(月)
東京都 渋谷CYCLONE

2012年11月13日(火)
新潟県 新潟RIVERST

2012年11月14日(水)
宮城県 仙台MACANA

2012年11月16日(金)
大阪府 心斎橋CLUB DROP

2012年11月17日(土)
東京都 渋谷O-WEST

2012年11月18日(日)
愛知県 名古屋ライブサーキット「GRAND LINE」

2012年11月22日(木)
兵庫県 神戸太陽と虎

2012年11月24日(土)
岡山県 岡山CRAZY MAMA 2nd ROOM

2012年11月25日(日)
愛媛県 新居浜JEANDOR

ROACH "OKINAMERICA" RELEASE PARTY!!FINAL SERIES

2012年11月30日(金)
大阪府 心斎橋CLUB DROP

2012年12月2日(日)
愛知県 名古屋UPSET

2012年12月5日(水)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO

2012年12月15日(土)
沖縄県 桜坂セントラル

ROACH(ろーち)

プロフィール画像

沖縄在住のメタルコアバンドで、現在のメンバーはtaama(Vo)、くぼっち(G)、勝也(B)、Daisuke(Dr)の4人。ラウドで強じんなバンドサウンドと琉球音階の優しいメロディが結び付いた独自の音楽性で支持を集める。2003年の結成後、地元のライブハウスや米軍基地、基地周辺のバーで精力的にライブ活動を展開し、2006年から3年間にわたってMARVERICKと契約。その後「SUMMER SONIC」や「JACK IN THE BOX」といった大型イベントに次々出演し、2010年にはアメリカツアーを敢行した。2012年は2月に「No Reason in the Pit」、10月に「OKINAMERICA」という2枚のミニアルバムをリリース。