音楽ナタリー PowerPush - 「人間交差点 2015」開催記念対談
宇多丸×Zeebra
日本語ラップの来し方行く末
RHYMESTERが主催する初のフェス「人間交差点 2015」が5月10日に東京・お台場野外特設会場で開催される。これを記念して、音楽ナタリーでは主催者の1人でもある宇多丸とキングギドラのメンバーとしてフェスに出演するZeebraの対談をセッティングした。
1990年代から活躍する2人に、日本のヒップホップシーンのこれまでとこれからを深く語ってもらった。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 高田梓
デビュー前に作ったデモテープ
宇多丸 今度出るキングギドラの「空からの力:20周年記念エディション」にあの音源が入るらしいじゃないですか?
Zeebra うん、俺らがデビュー前に作ったデモテープの音源が入るんですよ。
宇多丸 あのデモテープ、当時としては異常にクオリティが高かったよね。「もうこのまま発売できるじゃん」とか思ったし。
Zeebra そうですね、我ながら曲の作り込み方とかは今聴いてもすごく斬新だと思う。ただ俺のラップがね……。
宇多丸 歌詞は同じなんだけど、声の出し方とかキャラとかが今と全然違うんだよね。この後すぐみんなが知ってるジブさんになるんだけど。
Zeebra The Pharcydeみたいな感じだよね。俺自身も今回の再発でひさしぶりに聴いたんだけど、想定の範囲を軽く超えるくらい違ってた(笑)。ぶっちゃけすげーキモいです。でももういいかなって。アーカイブとして笑って聴いてよって感じですね。
宇多丸とZeebraの出会い
宇多丸 俺とジブさんが出会ったのもまさしくそのデモテープがきっかけだよね。1994年かな? 当時はまだ日本のヒップホップシーンも小さくて、みんな本当にチャンスに飢えてたんだけど。そんなときにMTVの「Yo! MTV Raps」って番組が東京にロケに来て、そのためのイベントが開かれたんだけど、実際に番組で使われてたのは、そこには出てなかったギドラのコメントだったんだよね。で、俺ら的には「あのキングギドラってのは何者だ!?」みたいな。「オークランドから来たらしい」とかうわさばかりがシーンですごい飛び交ってて。
Zeebra あははは(笑)。俺らは当時「Yo! MTV Raps」に乱入して無理やりインタビューをしてもらったんだよね。それが放送されてキングギドラって名前だけが先行してるような状況だったんで、あのデモテープを名刺代わりに配ってて。確か当時3曲入りと6曲入りがあって、宇多さんには6曲入りを渡した気がする。
宇多丸 そうそう。誰かの来日公演のときで、ON AIR EAST(現:TSUTAYA O-EAST)の前で、DJ Ken-Boが紹介してくれたの。すっごい雨降ってた日。当時のジブさんはまだ髪の毛が立ってたよね。紹介してもらったときは「これが例の……」みたいな感じ。「Yo! MTV Raps」の印象で怖い人かと思ってたら、すごくフレンドリーでいい人だった(笑)。
Zeebra たぶんThe Pharcydeが来日したときじゃないかな。宇多さんはデモテープをすごい気に入ってくれて、雑誌「Fine」の自分の持ち物を見せるページで俺らのデモテープを紹介してくれたよね。しかも同じ号で(高木)完ちゃんも自分の連載「HARDCORE FLASH」で俺らのでデモテープを紹介してくれてて。実はあれが「キングギドラ」って名前が初めて活字となってメディアに紹介されたものなんだよ。
宇多丸 そうなんだ!?
下北沢スリッツに偵察
Zeebra 俺は最初アメリカのヒップホップシーンしか知らなかったんだけど、こっちゃん(K DUB SHINE)の影響で日本語でラップするようになって。で、日本のシーンはどうなってるのか「Fine」とか「宝島」とかを読んで勉強してたんですよ。それで下北沢のスリッツでヒップホップのイベントやってるのを知って行ってみたんです。
宇多丸 MUROくんがやってた「スラムダンクディスコ」だよね? ジブさんもスリッツに来てたんだ。
Zeebra うん。こっちゃんと3人くらいで偵察に行ったの。
宇多丸 あんな狭いとこだったらすぐバレそうなもんだけど(笑)。
Zeebra 一番後ろにいました(笑)。あのイベントには石田さん(ECD)やRHYMESTER、MICROPHONE PAGER、あとYOU THE ROCK★とかもいて。なんとなくシーンの雰囲気をつかみつつも、俺はライムスとペイジャーが自分たちのライバルだと思ったんです。
宇多丸 その話、初めて聞いた。でもね、ギドラはいいときに出てきてくれた気がする。日本のヒップホップシーンは1992年くらいまではただの島宇宙でさ。ポツン、ポツンと派閥があって、お互い交流もないまま陰口だけ叩いてるみたいな。でもその時代がようやく終わって、お互いピリピリしつつも、それぞれが高め合おうとするような感じになってた。
Zeebra だって俺ら、最初ライムスにも、ペイジャーにも「なんで一緒にやらないの?」って聞いたんだけど、お互い「いいと思うけど、俺らとはスタイルが違うから(一緒には)やらない」って言ってたもん(笑)。でもさ、俺からしたら、The Pharcydeがいたり、ラキムがいたり、ウータン(Wu-Tang Clan)がいたりして、そういういろんなキャラが有機的につながってるアメリカのシーンを最初に知ってたから、グループ同士のつながりがほとんどない日本のシーンが不思議だったんだよね。
宇多丸 あれでもだいぶ近付いてきた感じだったんだよ。そういうタイミングで、ライムスともペイジャーとも話ができるギドラがシーンに登場したことで、いろんなことがすごくうまく回るようになったと思うよ。
Zeebra あの当時でもライムスはちゃんとヒップホップというカルチャーが分析できてて、それを日本のカルチャーの中にハメて曲を作ってるクレバーなグループっていうのがすごくわかった。一方のペイジャーに関しては、もっとパッと聴いたときのカッコよさとか、見た目の雰囲気のカッコよさとかを意識したグループだったんだよね。
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- RHYMESTER Presents
野外音楽フェスティバル 人間交差点 2015 - 2015年5月10日(日)東京都 お台場野外特設会場
<出演者>
RHYMESTER / スガシカオ / KGDR(ex. キングギドラ) / 10-FEET / MIGHTY CROWN / SOIL & "PIMP" SESSIONS / スチャダラパー / SUMMIT(PUNPEE、GAPPER、SIMI LAB、THE OTOGIBANASHI'S)/ SUPER SONICS / レキシ / DJ JIN
- SUMMER BOMB produced by Zeebra
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2015年8月15日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
<出演者>
KGDR(ex.キングギドラ) / RHYMESTER / ANARCHY / KOHH / 2WIN(T-PABLOW & YZERR) / and more
宇多丸(ウタマル)
ヒップホップグループRHYMESTERのメンバー。1989年にMummy-Dとグループを結成してから現在まで常に日本のヒップホップシーンの第一線で活躍し続けている。さらに音楽活動以外にもTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。 RHYMESTERは2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立した。4月29日にシングル「人間交差点 / Still Changing」をリリースし、5月10日に東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催する。
Zeebra(ジブラ)
東京都出身のヒップホップ・アクティビスト。キングギドラのメンバーとして1995年にデビューする。日本語ラップの礎を築いたグループとして高い評価を得つつも、翌年にグループは活動を休止。1997年にシングル「真っ昼間」をリリースし、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。日本のヒップホップシーンの顔役として活動し、2014年に自身のレーベル「GRAND MASTER」を設立。また、「クラブとクラブカルチャーを守る会」を発足し、会長として風営法改正にも働きかけている。さらに夏には自身がプロデュースしたヒップホップ・フェス「SUMMER BOMB」をスタート。2015年8月には2回目が開催される。