自分の考えをストレートに示しちゃいけない理由なんてない
──今回リリースされるEPは「Early Project」シリーズの第2弾になりますが、2022年発表の第1弾作品はかなりバンドサウンドに寄せたアレンジが印象的でした。
あの頃はバンド編成ツアーを控えていたから、思い切ってバンドアレンジに統一した作品にしたんです。逆に「Early Project 2」は活動初期の空気感を再現したくて、ひさしぶりに1stアルバム「Lights」をレコーディングしたスタジオを使いました。懐かしいスタジオに戻ってきて、これまでのことを思い出しながら、今自分が作りたいサウンドを追求しました。時間はかかりましたが、自分のことをゆっくり振り返り、理解しながら作れたし、10年前と今が融合するような感覚もありました。
──ある種、原点回帰的な。
まさに「Early Project」というタイトルがぴったりな作品になったと思います。EPは“今やりたいこと”を封じ込めるイメージで作っているので、アルバムとはまた違う気持ちで取りかかれるんです。EPの制作は今後も続けていきたいですね。
──「Early Project 2」は各楽曲でかなり振り切ってアレンジや曲調を変えているように感じたのですが、その中でもすごく大きな変化を感じたのが「Riot」でした。打ち込みのビートを強調したヒップホップ調のサウンドだけでなく、歌詞も世の中に対する怒りをストレートに描いていて、今までのReNさんの楽曲にはなかった作風だなと。
この曲ができたときは世の中の嫌なことに振り回されている、もどかしさを強く感じていました。「Calm Days」は地方ではお客さんとの距離が近い会場でやったんですが、そこでいろんな方から楽しいことだけじゃなく、苦しんでいることについての話も聞いたんです。僕と同じもどかしさを感じている人がいっぱいいて、それを一緒に叫ぶ曲が欲しくなった。もちろん「間違っている」と言われてしまう可能性はあるけど、自分の考えをストレートに示した曲があってもいいし、やっちゃいけない理由はないと思って。
──その一方で怒りを描きつつも、リスナーの背中をあと押しするような優しさも込められているのも印象的でした。
「みんな気付けよ」みたいな態度にはしたくなかったんですよね。どうしたらいいかわからないし、悲惨な出来事が起こっている本当の背景もわからなかったりする。僕らが教わってきたはずの道徳が通用しない、この世の中に対する嘆きを自分なりに表現してみました。ストレートですごく刺々しいと思われてしまうかもしれないけど、何かを感じてくれたり、「そうだね」と言ってくれる人がいたらうれしいです。
──“暴動”を意味する「Riot」という曲名もインパクトがありましたが、これはどのようにして決めたんでしょうか?
「Riot」と聞くと暴力的なイメージが強いけど、僕は前向きに物事を変えていきたいという静かな闘争心、向上心みたいなものが「Riot」だと思っていて。それと重たいビートから連想して、このタイトルにしました。
──ビートだけでなく、サックスの音色を大々的に使っている点も意外でした。
これも僕の中での新しい挑戦の1つですね。サックスが入るだけでちょっとしたおしゃれさ、クールさが入ってくるし、重いビートと組み合わせたサウンドは僕好みだったりします。この音作りは2000年代初頭のUSヒップホップや、東海岸のラッパー・Nasの自分自身の思いや嘆き、境遇を優雅なサウンドに乗せて表現する、そのギャップにカッコよさとクールさを感じて、強く影響を受けました。
音楽にしか出せない、代わりが効かない力がある
──「Riot」はツアー「#CalmDaysTour2」でも披露されましたが、この曲を歌う直前、ReNさんが「嘘が平気でまかり通っていたり、強引にトップへ立とうとしたりする人の姿を目の当たりにして、世の中がおかしな方向に向かっているような気がしています」「音楽を心の底から大事にしていくには、みんなが抱えているプレッシャーや悩みごとが解決できる社会にしないといけない」とお話ししていて、すごく胸に刺さったのを覚えています。
今でもその通りだと思いますね。「何かを変えよう」とか大それたことを言うつもりはないけれど、やっぱり音楽は苦しんでいたり、もがいている人たちに寄り添うものだと考えているんです。コロナ禍に入って数年間、いろんなライブやフェスが中止になったりして、音楽をはじめとするエンタメ全般がないがしろにされてきましたが、やっぱり音楽にしか出せない力はあると思うし、それは代わりが効かないもの。だからこそ、もっと音楽を楽しむ余裕を生み出せるような世の中になってほしいです。
──ラブソングや応援ソングは数え切れないほど存在しますが、あまりに一辺倒になると、どこか現実逃避だけをしているように感じてしまうことがあります。だからこそ、「何かおかしいんじゃないか」と語りかける「Riot」のような楽曲があることはとても重要ですし、ほかの収録曲の説得力も増しますね。
音楽は現実逃避のための大事なツールであるからこそ、僕は対照的なものも表現しなきゃいけないと思っています。それが嫌な人がいても避けてもらうことができますし。きれいなものと汚いものを並べ、最終的にはきれいなものを強調できればベストなので、そういうふうに受け取ってもらえたら、僕も作った甲斐がありますね。
長くつらかった1年を乗り越えて
──「Early Project 2」はすでにライブでも披露されている曲が複数ラインナップされていて、そのうちの1つ「Precious」はさわやかなラブソングではあるのですが、「いつか歩けなくなって やがて しわくちゃになってさ」「いつか塵になって星になっても」など、歳を重ねることや亡くなってしまうことにフォーカスされています。
これは「大切な人とずっと一緒にいたい」という思いを素直に表現していますね。歌詞が優しいストレートな曲だからこそ、サウンドは少しハイスクールロックを彷彿とさせる、にぎやかなアレンジにしました。最近僕の周りで幸せなニュースがたくさん飛び込んできたので、その影響もあるかもしれないです。「Riot」と比べると全然雰囲気が違うので、不思議な感じがしますね。EPに入れるべきか悩んだのですが、ファンのみんなもすごく気に入ってくれたので収録しました。
──「Why so serious?」もすでにライブで披露されている曲ですが、音源だとエレクトロポップからの影響を感じさせるアレンジになっていますね。
シンセサウンドを多く入れて、1970年代のポップスみたいなアレンジを意識しました。この曲はギター1本で作ったときから「こういうサウンドにしよう」と考えていて、音源ではかなり大胆に編曲しました。
──同じさわやかさでも、「Precious」とはまた違った感触ですね。「Why so serious?」の「周りの目を気にせず、ありのままでいる」というポジティブなメッセージは、シンセの音とよくマッチしていて心地よいです。
「細かいことを気にしすぎちゃいけない」という考え方は、僕自身すごく大事にしていることですね。思いっきり前向きな曲にしてみました。
──逆にこのEPが初出となる「Free to go」は、ハミングやコーラスを前面に押し出した、非常にシンプルな音作りになっています。
「Free to go」は朝焼けをテーマにした曲で、ここまでシンプルなアレンジは今までなかったです。ビートを馬の足音、ハミングを風の音に見立て、空気感や世界観、景色のイメージをできる限り歌詞に頼らないで表現しました。EPの中では初期の作風に一番近い曲です。
──ReNさんの楽曲は初期からスケール感のあるものが多かったですが、この曲を聴いて、コーラスやハミングをうまく重ね合わせたり、ちりばめたりすることでスケール感を生み出していることに気付きました。その手法が端的に生かされた1曲ですね。
昔から空間を感じる音楽が大好きで、リバーブの使い方は特にこだわってきたんです。「Free to go」は音数が少ない分、空間の広がりが味わえる音楽を目指しました。心が閉鎖的になったり、臆病な気持ちになったとき、それを解放してくれたのがこういう音楽で。1stアルバム「Lights」はその要素を大事にして作りましたし、「Early Project 2」制作時にはそのこだわりを再認識しました。
──先に昨年末に配信リリースされた「シャンデリア」も楽器はピアノのみで、極力音数を抑えた構成ですが、「Free to go」とはまた違ったシンプルさですよね。
「シャンデリア」は最初ナイロンギターだけで作ったんですけど、ピアノの旋律に合わせて歌うほうがしっくりきて。あえてクリスマスを彷彿させる言葉を使わずに作ったクリスマスソングで、これも空気感を大事にしました。
──確かに、あのシーズン特有のにぎやかなムードは抑えられていて、長くつらかった1年を労うような歌詞になっています。
2024年は元日から大地震があったし、ネガティブなニュースが年末まで続いていて、とにかくつらい1年でしたよね。クリスマスシーズンのつらさをテーマにする歌は珍しいかもしれないけど、2024年だったからこそ作れた曲になったと思います。
まもなくデビュー10周年、次のフェーズに進むために
──「Early Project 2」に収められる5曲はそれぞれ独立しつつ、音作りやテーマに共通する要素がちりばめられ、一貫性が感じられました。1曲ずつ聴いたときと全曲通して聴いたときの印象も異なり、複雑で聴き応えのある作品になりましたね。
サブスクが主流になった今、作品を収録曲順に聴く機会が少なくなりましたが、1曲ピックアップしてそこから興味を持ってもらえることも多いから、そこはないがしろにしないよう気を付けました。全部通して聴くといろんな世界に連れて行ってくれる面白さもあるので、そこもぜひ楽しんでほしいです。
──来年はReNさんの本格デビュー作でもある1stアルバム「Lights」がリリースされてから10周年になります。何か周年企画は予定していますか?
まず、次のフェーズに進むための新曲がいくつか完成したのですが、これまで僕が描いてきた世界観とは大きく変わってくるので、今回のEPにはあえて収録しませんでした。今後やっていきたいことと密接に関わっているので、次回作では新しい世界をみんなに見せることができそうです。それから、今まで作ってきた楽曲もアップデートしたいですね。「Lights」を作った頃はまだ技術的に未熟だったから、今でもよく披露している曲は歌い直してみたいです。ライブもバンドやアコースティックとはまた違う、今までやったことのない特別なスタイルに挑む予定で、にぎやかなアニバーサリーにできるよう仕込んでいきたいですね。
公演情報
ReN「Riot Tour ~今こそ立ち上がれ!~」
- 2025年5月16日(金)北海道 cube garden
- 2025年5月18日(日)宮城県 darwin
- 2025年5月22日(木)広島県 LIVE VANQUISH
- 2025年5月24日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2025年5月25日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2025年6月14日(土)大阪府 BIGCAT
- 2025年6月15日(日)愛知県 DIAMOND HALL
- 2025年6月20日(金)東京都 EX THEATER ROPPONGI
プロフィール
ReN(レン)
声や楽器などの⾳をループさせる楽器・Loop Stationを駆使してパフォーマンスを行うシンガーソングライター。10代でイギリスに単身で渡った際、UKミュージックに衝撃を受け、20歳の春に本格的な音楽活動を開始した。2016年に1stアルバム「Lights」を発表し、翌2017年には自身が多大なリスペクトを寄せるエド・シーランと対談。これまでに「FUJI ROCK FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」といった大型フェスへの出演、Taka(ONE OK ROCK)やメイジー・ピーターズとの楽曲制作など実現してきた。2025年4月には新作EP「Early Project 2」をリリースした。