最終的には「気持ちっしょ」レキシが語る活動再開までの日々と今後の展望 (2/3)

曲を「出す」ということの意味

──そして、ついに待望の新曲「エレキテルミー」が完成しました。新体制に移ってから、どんな流れで新曲の制作に入っていったんですか?

以前から選曲とかについてはスタッフと一緒に考えてたけど、楽曲の制作や最終的な決定みたいなところは1人でやってたんだよね。でも新体制になって一緒に仕事することになったマネージャーがもともとレコード会社の制作畑にいた人だから、そういう意味で頼れるなと思ったし、頼ろうと思った。曲の内容についてはもちろん、どう出すかみたいなところも含めてね。「出す」っていうのは世に放つという意味はもちろん、自分の中から曲をどう生み出すかということでもあって。それは締め切りも含めて、曲を作ろうと思うことへの気持ちの持っていき方とか……そこから大事だから(笑)。だって、曲を出したい気持ちは常にあるんだもん。でも簡単には出せない。そこを前は1人でやってたけど、今はチームとして考えてる。

──なるほど。

さっき話した「お茶会」みたいに、しゃべりながらアイデアを膨らませる時間を持つことは、言ってみれば世の中に曲を放つということへの初めの一歩みたいなことはあるのかもね。例えばCDが主流ではなくなってきた時代に、曲を出すことってなんだろう?ぐらいのところからいろいろ話したかな。新しいマネージャーはいろんなアーティストと作品を作ってきた人で、客観的な部分と主観的な部分を両方持ってるから、そういう意見も取り入れつつ、まずは1曲作ってみた感じだね。「エレキテルミー」っていうワード自体は以前からあって、これをいい感じで曲にできないかなって思ってたの。それをマネージャーに話したら「お、いいね!」って。まあ、なんでも「いいね!」って言うんだけどさ(笑)。

風呂はすごい

──平賀源内をテーマにした曲を書こうとは、以前から考えていたこと?

平賀源内に限らず、まだまだ曲に書けてない人はいっぱいいるんだよね。平賀源内は学研まんがにもなってるから、それを読み返したりとかして。あと俺らの世代で言えば、なんといっても「翔んでる!平賀源内」だよね。

──西田敏行さん主演の時代劇ですね(1989年放送のTBS系ドラマ。「水戸黄門」などの長寿シリーズを生んだ、月曜夜8時「ナショナル劇場」の枠で放送された)。

そう。あのドラマをリアルタイムで観てたからキャッチーな存在だと思ったし。でも、平賀源内という人物を単体で考えるとものすごくマニアックだし、なんなら晩年に罪を犯して獄中で亡くなってたりもして。

──業績や逸話をいろいろ残しているけれど、ややブラックな側面もあると。

いろいろ考えてる中で、エレキテルという発明品にクローズアップした。しかも「エレキテルミー」っていう単語が出た時点で、もう半分できたと思ったんだよね。

──曲調は、シンプルな音数の打ち込みのビートが印象的な、ラテンテイストになってます。

それはね、風呂場。風呂場で思いついたの。風呂はすごいよ。湯船に浸かってるときかシャワーを浴びてるときにアイデアを思いつくことが多くて……曲もそうだし、ライブについてとか、いろいろ浮かんでくるんだよね。今日も取材に来る前にシャワーを浴びてたら、次のツアーの裏テーマみたいなものを思いついたし。この曲が生まれたのは、湯船だったね。「♪エレキテルミー」ってフレーズが急に降りてきて、その場で急いでiPhoneのボイスメモに録音した。そしたらラテンっぽいピアノのフレーズが頭の中で鳴ったから、それも口ずさんで録音して。Aメロの断片も風呂場で作った。だからほとんど風呂場でできた曲だね(笑)。危ないよ、電気がテーマの曲なのに水場で作っちゃったから。

──感電しちゃう!

それで「ビリビリしたい」ってフレーズが生まれた(笑)。そこから「あ、恋愛の曲にできる!」と思ったんだよね。曲調については、あんまり自分の中にセクシーなラテンの要素ってないんだけど、逆に言うとラテンの知識が薄いからああいう感じのトラックになったのかも。最初に思い浮かんだのは、映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の、レジェンドっぽいお爺さんたちが路上で演奏してる風景。そういうイメージで曲のアイデアを膨らませていったかな。

デモにあった感覚を大事にした

──スティーヴィー・ワンダーの「Don't You Worry 'bout a Thing」あたりに通じるところもありますよね。ゴリゴリのラテンミュージシャンのものとは違う、本職じゃない人がやっている程よいラテンフレーバーというか。

うん、わかるわかる。深く知らないことって逆に大事だから。知りすぎちゃうと自由にアイデアを膨らませられないことってあるからね。

──歌詞の中には「ヒラガラガラガ」というフレーズも出てくるけれど、「ラガ」というワードでレゲエの要素もさりげなく盛り込んで。

そう。あと後半では「カマゲンナイ」ってフレーズも出てくる(笑)。もちろんラテンとレゲエは全然違うっていうのはわかってるよ!

──でも大きなくくりで言えば、どちらも中南米産の音楽だから。

そうそう。それくらい自由な感じでいいかなって。

──気付く人が気付いてニヤリとする感じというか。レキシの曲には、いつもそういう部分がありますよね。クレジットを見ると、演奏は基本、池ちゃん1人でやってるんですね。

そうだね。年明けぐらいに、曲作りのために「Logic Pro」(DAWソフト)を買ったの。それまでは「Pro Tools」をずっと使ってたんだけど、「Logic」のほうが気軽にデモを作れるよって教えてもらって。それで初めて作ったのがこの曲のデモだった。見よう見まねで打ち込んでデモを作ったら、このノリがすごくいいねっていう話になって。それでデモのトラックを、ほとんどそのまま使うことになった。いろいろ音を足してるんだけど、ベーシックの部分はそのままだね。

──これまでのレキシの曲とはまたちょっと違う余白のあるサウンドで、上がりきらないクールなグルーヴ感があって。最初に聴いたときに「お、こう来るんだ!」と、新鮮な印象を受けました。

この感覚は、俺1人の考えだと生まれなかっただろうね。今までだったら、もうひと盛り上がり要素を加えたくなるというか、もうちょっと温度を上げちゃったと思うんだけど、マネージャーとも話して、デモにあった感覚を大事にした。あと今回助かったのは、締め切りがぐっと楽になったこと。デモを作ったあとにメンバーを集めてレコーディングしないのって、こんなに楽なんだと思った(笑)。だからみんな打ち込みでやってるのか!って。

──そういう理由でもないと思いますが(笑)。

ははは。でも自分にとっては、すごく新鮮な感覚だったよね。

すごすぎて説明がつかないキョンキョンのボーカル

──楽曲にはフィーチャリングボーカリストとして、あんみつ姫(小泉今日子)が参加しています。歌詞に恋愛のエッセンスがあることで、ここに女性ボーカルも加えたいということになって、小泉さんに参加してもらうことになったと。

みんなでミーティングをして、楽曲的に女性のエッセンスを入れたいよねという話になって。女性の声が入ったら完成されるんじゃないかみたいなところで、誰がいい?って話になったときに、キョンキョンの名前が挙がったの。

──それまでに面識はあったんですか?

飲み屋かどこかでお会いして、一度挨拶したぐらい。そのときは俺のほかにも人がいて一緒に挨拶したから、向こうは全然覚えてないだろうなって思ったけど。でも、周りに小泉さんとつながりがあるミュージシャンがけっこういるから、それほど遠い存在ではないかな?と勝手に思ってた。

──それこそ、SUPER BUTTER DOG(ハナレグミの永積崇や池田が、かつて所属していたファンクバンド)の「サヨナラCOLOR」を小泉さんがカバーしてますからね。

うん。でも実際にレコーディングで会うまではドキドキだったね。歌ってもらったら、もう「そうですよね~」って思った(笑)。すごいよね、やっぱり。

──小泉さんの声質の部分もあるけど、かわいらしさみたいなところと大人っぽさが同居してる感じのボーカルで。

俺はどっちかっていうと、大人っぽさのほうをイメージしてお願いしたところがあったんだけど、いざ歌ってもらったら……もう、すごすぎて説明つかない。

──理屈じゃない、みたいな。

こっちのイメージを軽く超えてきたね。小泉さんも「なんでも言ってね!」って、すごくフラットに接してくれて。「この部分をこんな感じで歌ってもらったらどうだろう?」みたいな話をスタッフとしてたら、「とりあえず歌っちゃったほうが早いね!」って、すぐにパッと歌ってくれて、めちゃくちゃいいテイクが録れて「はい、決定」みたいな。すごい人って本当にすごいんだなと改めて思ったよね。今までのフィーチャリングボーカルで歌入れが一番早かった。

──小泉さんは、楽曲についてどんな感想を?

スタジオでも「すごくいい曲だね」って言ってくれて。完成した本チャンのデータを送ったら、「みんなが好きになる曲ですね」ってご本人直々に、丁寧な感想のメールを送ってくれた。あれはうれしかったね!