レキシ「レキシチ」特集|7人の著名人が考える7thアルバムのキャッチコピー (5/5)

いつか超えなきゃいけないと思っていた“明治の壁”

──アルバムのラストを飾る「フェリーチェ・ベアト」も素晴らしくいい曲ですよね。バラードがアルバムの中に3曲も入っているのは新鮮な感じもするし、それも相まって前半の永積さんのコメントにある“メロ代官”的な印象が強いのかもしれない。

「フェリーチェ・ベアト」はメロが先にあったんだけど、どんな言葉を乗せても全然しっくりこないっていう状態が何年も続いていて。でもあるとき、「フェリーチェ・ベアト」って言葉を乗せてみたらすごくハマったんだよね。

──フェリーチェ・ベアトは江戸時代末期に来日して、数々の貴重な写真を撮影したイギリス人写真家です。フェリーチェ・ベアトが撮った写真は、教科書などで誰もが1度は見たことがあるはずですよね。レキシには日本史を題材にした曲が数多くあるけれど、こういう視点での歴史の切り取り方はすごく面白いなと思いました。

フェリーチェ・ベアトを曲のテーマにした理由は、歴史よりも音楽的要素のほうが強いかな。知らない横文字が歌詞に出てくる曲とかよくあるじゃない? ああいう感じをイメージして。前だったら、有名な人物じゃないからってことで曲のテーマにするのを避けていたと思うし、ましてやタイトルになんてしなかったと思うけど、言葉の響きとリズムと音感みたいなものがぴったりハマって。

──「フェリーチェ・ベアト」しかり、あとは明治時代や新選組をテーマにした曲が収録されていたり、今作には幕末から明治にかけた近代史観も色濃く出ています。

そうなんだよね。いつかは超えなきゃいけない壁みたいな。明治の壁(笑)。でも、それは「明治」を連呼すればいいって気付いたときにクリアできたかも。幕末から明治にかけては、けっこう血生臭い事件もあったりして、テーマにしづらかったんだけど、「待てよ? 『明治』って連呼すればいいじゃん!」って(笑)。その気楽さが、壁を乗り越える力になった。

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──「フェリーチェ・ベアト」に関しては、曲作りの部分でも、新しいトライはありましたか?

以前は自分の歌の技量に合わせてキーを変えたり、もしくはメロディを変えたりしてたんだけど、あえてこの曲ではそういうことをしなかったんだよね。自分の歌を曲に合わせるというか。今まで以上にメロディを重視しようと思って。でも、それってハナレグミに「発光帯」を書いたことが大きかったのかも。あの曲も自分が歌うとなると、ちょっとメロディを変えてたかもしれないし。

──ああ。なるほど。

タカシだったら歌えるだろうなと思って。あの曲を書いたときと感覚が似てるかもしれない。「発光帯」と「フェリーチェ・ベアト」って、どっちも曲調にThe Beatles感みたいなものがあるしね。

──ちなみにThe Beatlesということでいえば、「縄文ロンリーナイト」って、ポール・マッカートニーの「No More Lonely Nights」(邦題「ひとりぼっちのロンリーナイト」)からの……。

あ、気付いた?

──もちろん気付きます(笑)。でも、タイトルがポール・マッカートニーっぽいから、曲としてもそれらしい雰囲気なのかな?と思ったんですけど、聴いてみたら全然違ったっていう。

そう、全然違う(笑)。最初は「土偶 SO GOOD」、もしくは「縄文のビーナス」とか土偶寄りのタイトルにしようと思ったんだけど、「縄文ロンリーナイト」って語呂がいいもんね。

──曲中で描かれている寂しさや悲しみが、タイトルで絶妙に表現されていますよね。

だって土偶にしか恋ができない人の話だよ。どんだけロンリーだっつーの(笑)。しかも、まだ掘り出せてないんだから。土の中に眠っている彼女(=土偶)に思いを寄せている。だから、縄文の歌であり、現代の歌でもある。すごいよね。すごくはないか(笑)。

縄文から明治時代まで、過去最長の時間軸

──それにしても、縄文から明治時代まで、今作は扱ってる時間軸が過去最長ですよね。

作ってる最中は、近代史に偏るかなと思ったんだけど、最終的に曲を並べてみたら、うまいことバランスが取れていて。不思議だよね。

──「Let's FUJIWARA」はレキシ楽曲の持ち味である、ディスコ調の気持ちのいいグルーヴを感じさせてくれる曲ですね。

これはアルバムの中で一番新しくできた曲だね。今回、メロディ重視の歌モノが多くなりそうだったから、意識してダンサブルな曲を作ったら「やっぱりいいね」って感じになって。

──「摂関政治に邁進 荘園売ってエンディング」って歌詞なんかも、見事だなと思いました。

間奏にフック的な歌詞を入れたいなと思って語呂がいい言葉をつなげて強引に作ったんだけど、こういうパッと書いたフレーズに限って「上手だよね」とか言われるんだよ(笑)。

──「つれづれ」の歌詞にある、「YES 関所で油断した(=Yes, Yes Y'all, You Don't Stop)」とか、語感の楽しさをただただ追求したところから生まれるファンキーさやグルーヴとか、その肩の力の抜け具合が気持ちいいですよね。ちょっとSUPER BUTTER DOG(レキシがかつて所属していたファンクバンド。ハナレグミも在籍)っぽさもあって、そういう意味でも初期の感じに戻っているんじゃないかなと思って。

確かにね。でもそのあたりは、自分じゃよくわからない。そこまで意識もしてないしね。自然とそういう感じになってるんだろうね。

──先ほどから池ちゃんが話しているように、自分の中から生まれてきたものを抗わずそのまま出しているというか。すごく風通しのいい作品になっていると思います。

そうだね。まあ、自分自身に抗いたい気持ちもあるけどね(笑)。今までとは違うやり方を追及して新しい音楽を作ってやろうかなと思う気持ちもあるよ……ボカロで。

──ボカロで?(笑)

例えばね。まず「ボカロって何?」みたいなところから入らなきゃいけないんだけど。まあ、俺がやったとしても“ボカロっぽいもの”になっちゃうんだろうね。オートチューンみたいな音色を、わざわざ声真似で歌っちゃったり(笑)。

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2年半ぶりのツアーで直面する問題とは?

──冗談はさておき(笑)、アルバムのリリースを受けて、5月7日からは「レキシツアー2022 土偶サスペンス劇場 ~消えたレキシ男爵~」が始まります。

バンド編成で全国を回るのは2年半ぶりだからね。まあ、いつものように自分で決めたツアータイトルに首を締められてます(笑)。なんで「消えたレキシ男爵」って言っちゃったんだろうなー。でも、サスペンスは前からやりたかったから、それはそれでうれしい。

──現実的な問題としては、「鬼の副長HIZIKATA」をライブでどう再現するか、というところですよね。

そこが問題なのよ。打首の皆さんがいないところでね。俺がデスボイスを出すのは無理だから。そうだ、デスボイスは(渡)和久(Piano, Cho / 風味堂:レキシネーム「元気出せ!遣唐使」)にやってもらおう!

──負担が大きすぎませんか(笑)。

いや、和久がやります。断言しちゃおう(笑)。和久のデスボイスに注目してください!

──しずる池田改めKAƵMAみたいに、Zに横棒入れて(笑)。

ははは。いいね、それ! DEATH KAƵUHISAになります。

ツアー情報

レキシツアー2022 土偶サスペンス劇場~消えたレキシ男爵~

  • 2022年5月7日(土)東京都 J:COMホール八王子
  • 2022年5月8日(日)東京都 J:COMホール八王子
  • 2022年5月12日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2022年5月22日(日)神奈川 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2022年5月26日(木)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2022年5月28日(土)岡山県 岡山市民会館
  • 2022年6月3日(金)埼玉県 川口総合文化センター リリア(メインホール)
  • 2022年6月5日(日)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2022年6月8日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年6月10日(金)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
  • 2022年6月17日(金)鹿児島県 宝山ホール(鹿児島県文化センター)
  • 2022年6月19日(日)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2022年6月25日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2022年6月30日(木)石川県 本多の森ホール
  • 2022年7月2日(土)新潟県 新潟県民会館
  • 2022年7月8日(金)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2022年7月10日(日)岩手県 盛岡市民文化ホール 大ホール
  • 2022年7月15日(金)福岡県 福岡サンパレス
  • 2022年7月16日(土)福岡県 福岡サンパレス
  • 2022年7月20日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールA

プロフィール

レキシ

1974年福井県生まれの池田貴史によるソロプロジェクト。池田は1997年にSUPER BUTTER DOGのキーボーディストとしてデビューし、2004年からは100sのメンバーとしても活躍。その日本史マニアぶりを生かし、2007年にレキシとしての1stアルバム「レキシ」を発表した。2011年3月に2ndアルバム「レキツ」、2012年12月に3rdアルバム「レキミ」をリリース。2014年6月に4thアルバム「レシキ」を発表し、8月には初の日本武道館公演を行った。2015年9月には青森・三内丸山遺跡でのワンマンライブを成功させる。同年11月に、初のシングル作品である「SHIKIBU」を発表。2016年6月に5thアルバム「Vキシ」をリリースした。同年10月には大阪・大阪城西の丸庭園にて初の野外公演、東京・日本武道館で初の2DAYS公演を実施し、それぞれ成功に収める。2018年1月に放送が開始されたNHK大河ドラマ「西郷どん」のパワープッシュソングに新曲「SEGODON」を提供。4月には地元福井県鯖江市で凱旋となる野外公演を開催した。2018年9月に6thアルバム「ムキシ」をリリース。2020年9月に、「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」の主題歌「ギガアイシテル」を発表した。2022年4月に7枚目のアルバム「レキシチ」をリリース。