カネコアヤノの歌声に感じる“織田信長感”
──次はカネコアヤノさんが参加した「マイ草履 feat. にゃん北朝時代」。彼女も歌い始めた瞬間に独自の世界観を作り上げることができるシンガーですね。
ホントそういう人ってすごいなと思う。
──配信リリース時のコメントによると、お寿司屋さんで偶然に会ったのが初対面だったとか。
やっつん(エレキコミックのやついいちろう)に誘われて寿司を食べに行ったら、そこにたまたまアヤノちゃんもいて。当時、彼女はバンド編成でがっつりライブをやり始めた時期で、俺もその映像を偶然観たことがあったんだけど、“シンガーとサポートミュージシャン”みたいな感じじゃなくて、本当のバンドみたいな印象を受けて。それがすごくいいって話をした記憶がある。で、今回お願いしたら、そのとき一緒に食事したことが功を奏して(笑)。
──「マイ草履」は彼女に歌ってほしいという気持ちがあって作ったんですか?
そうだね。作っている途中から彼女の歌声をイメージして。で、実際レコーディングが終わったらイメージ通りだった。アヤノちゃんって、ゆったりした曲を歌っているイメージがあまりないから、そういう意味でも、こういうバラードっぽい曲を歌ってほしいなと思って。まあフィーチャリングしたアーティストに関しては、みんなそうだけどね。「こういう曲を歌ってほしい」ってオファーするわけだから。
──歌入れはどうでしたか?
パッと歌った瞬間に説得力を感じたよね。「こういう感じで歌ってください」って注文したら、みんな歌詞カードにメモとかするじゃん? アヤノちゃんは、その横に小さく猫の絵を描いていたの。それを見て、エンジニアと一緒に「いいねえ」って(笑)。アヤノちゃんも一発オッケーだった。むしろ、フィーチャリングアーティストはそのために呼んでるようなところもあるね。一発で自分のイメージ通りに歌ってくれて、毎回感動するという。あとアヤノちゃんは歌い始める瞬間、「もののけ姫」のサンが戦うときみたいな表情になるんだよね。この例え、伝わるかなー。
──歌の世界に一気に没入する感じというか。
そう。感情の込め方がとにかく素晴らしい。
──この曲の世界観に一瞬で没入できるのは確かにすごいですよね(笑)。
織田信長感があったね。今の時代は女子のほうが信長感が出るんじゃないかな。ナヨナヨした男どもよりも。世の女性の素晴らしさを今、説いています(笑)。
──木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)が信長の草履を懐で温めていたというのは、あまりに有名なエピソードですけど、このテーマはずっと温めていたんですか?
「君の懐のぬくもりがまだ今も残っているよ」っていう歌詞とメロディは、前のアルバムの「ムキシ」を作っていた頃には、すでにできあがってた。文字通り懐で温めてました(笑)。ただ、「マイ草履」ってキーワードに対して、自分はずっと秀吉目線でイメージを膨らませようと思ってたの。でも「僕」と「君」の関係がずっとあやふやで、なかなか歌詞の世界観が固まらなくて。で、あるとき「信長目線にしたらどうだろう?」と思いついたら、両者の関係性が明確になった。
──エピソードとしては秀吉目線になるのが自然ですよね。
「草履を温めておきました」ってね。俺も最初は秀吉目線で考えてたんだけど、どうもうまくいかないなってずっと悩んでいて。信長って強いイメージがあるから「君の懐の温もり」とか言わなそうじゃん。だから、この曲の信長はツンデレだよね(笑)。「この猿!」とか秀吉を罵りながら、実は温もりを求めてるみたいな。
“稲穂つながり”で実現した打首獄門同好会とのコラボ
──「鬼の副長HIZIKATA feat. ぼく、獄門くん」には、打首獄門同好会が参加しています。
打首さんとは“稲穂つながり”(笑)。以前、「氣志團万博2018」で一緒になったことがあって。そのときに、俺が「ほかのアーティストのステージでレキシの稲穂を振らないように」みたいなことを言ったことがあったんだよね。そうしたら、あとから登場した打首さんが、「(レキシ以外で)唯一、稲穂を振ることが許されるバンドがここにいる!」って自分たちの「日本の米は世界一」を演奏して、すごく盛り上がったっていう流れがあったの。
──ああ、なるほどー。
そんな“稲穂つながり”もあって、「そのうち一緒にできたらいいね」って話もしていたし。バンドをフィーチャーした曲をアルバムでやりたかったから今回声をかけさせてもらって。参加してもらうことが決まってから曲を固めていった感じかな。
──意外なことに、今まで新選組をテーマにした曲はなかったですよね。
日本史的にはポピュラーな題材なんだけどね。なんでやらなかったかというと単純にテーマとして難しかったから。坂本龍馬もそうなのよ。なかなか触りづらいところがあった。土方歳三をテーマにした曲も、前から作りたいとは思ってたんだけど、打首さんとやることが決まって、彼らをイメージして「ひじ ひじ ひじ ひじ かた かた かた かた」ってフレーズも書いて。それくらいの軽さにしないと成立しないというか(笑)。同時に「君のことを守るために僕はいつでも鬼になる」っていうエモいフレーズもできたから、ポップさとエモさを併せ持った、いいバランスの曲になったよね。
──レコーディングはどうでしたか?
バンドとのコラボって、せーので一緒に演奏して「イェーイ!」みたいなイメージがあるじゃん? ましてや打首はメタルバンドだし。ところが大澤会長(大澤敦史 / B, Vo)はすごく緻密なんです。
──そうなんですか。
デモも全部自分で打ち込んで作ってきくれたし。俺はそういう細かい部分にこだわる人って好きだから、すごくやりやすかった。「ベースはこの音域くらいでお願いします」とかとにかく緻密なで、完全な音楽オタクだよね。一緒にやって、より好きになった。だから俺もこだわって、歌詞に「PIZZA」って言葉をちゃんと10回入れるようにしたし。小節数でいうと8回しか入らないんだけど、無理やり10回入れた(笑)。
──歌詞に出てくる「ゲンコツインザマウス」っていうフレーズは、どういう意味なんですか?
土方歳三って口が大きいのが有名で、ゲンコツが口に入ったんだって。ちなみに「ゲンコツインザマウス」に続く「それなんざます?」ってフレーズは、俺的にはZAZYの「なんそれ?」をイメージしてるんだけどね。
──伝わりづらい(笑)。
もちろん「R-1」より前に作りましたよ(笑)。ZAZYにもずっと注目していて。この曲はライブでやるのが楽しみだね。
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いつか超えなきゃいけないと思っていた“明治の壁”