令和オルタナティブロックシーン最前線|ルサンチマン、kurayamisaka、雪国、ひとひら (2/2)

雪国

雪国

今回の「令和オルタナ界隈」という企画が立ち上がったきっかけは、キタニタツヤのX(Twitter)でのポストにある。彼が好んで聴いているという“和式オルタナ”バンドの1組として記されていたのが、雪国だった。

ノーベル文学賞作家・川端康成の代表作をどうしても思い浮かべてしまうこのバンド名は、フロントマンの京英一が命名。その理由は、彼自身が美しい感じるものの象徴が雪国だからだという。

メンバーは京英一(Vo, G)、大澤優貴(B)、木幡徹己(Dr)。大澤と京が2003年生まれ、木幡は2004年生まれで3人とも同学年。高2から大学1年にかけてコロナ禍を経験した世代で、学校に行けない時期に音楽にどっぷり浸り、2023年に雪国を結成した。

雪国が内包している音楽、メンバーが影響を受けてきたバンドやアーティストは驚くほどに幅広い。日本だとindigo la End、きのこ帝国、the cabs、People In The Box、toe、君島大空、青葉市子など。海外ではRadiohead、American Football、スクエアプッシャー、Dusterなどなど。ジャンルでいうとシューゲイザー、ポストロック、エモ、フォーク、スロウコア、ジャズ、エレクトロ……と並べるとキリがない。世代でくくるのはあまり意味がないことだが、この世代ならではの“物心ついたときから、地域や時代を超えて、あらゆる音楽がフラットに存在していた”という環境も、彼らの豊かな音楽ライフに寄与しているのだろう。

活動初期からSNSを使って楽曲を発信し、早耳の音楽ファンを惹きつけていた雪国。その圧倒的なポテンシャルが証明されたのは、2024年6月発表の1stアルバム「pothos」だった。アンビエントな雰囲気のイントロ、美しい深遠を感じさせるコーラスから一転、鋭利なギターサウンドが響き渡る「本当の静寂」で幕を開ける本作。繊細なアルペジオ、ファルセットを生かし、浮遊するメロディとともに「夜が明ける頃 僕達は過去になる」という言葉が浸透してくる「二つの朝」、ノイジーなギターサウンドとゆったりと漂うボーカル、憂鬱や空虚を抱えた“僕ら”の心境風景を描いた歌詞が響き合う「東京」などを収めた本作は、「CDショップ大賞」関東ブロック賞を獲得。ナカコーこと中村弘二(LAMA、iLL、NYANTORA、ex. SUPERCAR)、川谷絵音(ゲスの極み乙女、indigo la End、ichikoro、ジェニーハイ)らにも絶賛され、雪国の名前はインディーシーン注目の的となった。

洗練と前衛を内包したバンドサウンドも素晴らしいが、このバンドの軸になっているのは恐らく、メインソングライターである京の世界観。つまり彼の世界の見方、捉え方だ。それは簡単に言語化できるものではなく、風景、匂い、感情、記憶、過去、未来などさまざまな要素を含みながら、時の流れとともにゆっくりと形を変えていく。それを時間芸術である音楽を通して表現しているのだと思う。

メンバーと同じ大学に在籍しているのざきなつき(G)、rilium(Syn)とともにライブも重ねていて、「FUJI ROCK FESTIVAL」の「ROOKIE A GO-GO」にも出演。リリースも続いていて、今年1月に1st EP「Lemuria」を発表した。そして11月5日に2ndフルアルバム「shion」が届けられた。タイトなビートときらびやかなギター、ささやくようなボーカルによって、世界の在り方と自分の実在を対比させる歌詞がゆったりと広がる「生きる地図」。ミニマルなアンサンブルと幻想的な旋律、寓話のような世界が溶け合う「ひぐらしの夢」。この2曲を聴くだけでも、雪国の創造性がさらに広がっていることを実感してもらえるはずだ。リズムの表現が多彩になっているのも、このアルバムの魅力として挙げられるだろう。

雪国「shion」

雪国「shion」

雪国「shion」

2025年11月5日(水)発売
Pothos Records / Perfect Music
[CD] 税込3300円 / YKQ2-0003

Amazon.co.jp

収録曲

  1. 白色矮星
  2. 君の街まで
  3. セスナ
  4. 生きる地図
  5. 秘密基地
  6. 羽化
  7. ひぐらしの夢
  8. 窓辺のノア
  9. 海月
  10. 星になる話
  11. シオン
  12. ほしのおと

ひとひら

ひとひら

ライブハウスでの地道な活動、同世代・先輩世代のバンドとのつながりの中で、バンドキッズの支持を獲得。インディーシーンで確固たるポジションを得てきた“ひとひら”は、しっかりとした地力を備えたオルタナロックバンドだ。

山北せな(Vo, G)、古宮康平(G)、吉田悠人(B)、梅畑洋介(Dr)の4人でバンドをスタートさせたのが2021年。コロナ禍ではあったものの、結成当初から着実にライブハウスでの実績を積んできた。山北がギターを持ったきっかけは、KANA-BOON。その後、さよならポエジー、österreich、the cabsなどを知ったことでオルタナ、シューゲイザーに興味を持ち、自分自身の志向性を定めていった。ひとひらとして活動を始めたあとは、対バン相手やイベントをともにするバンドにも刺激を受け、自らの個性を磨いたという。

そして2023年11月に1stフルアルバム「つくる」を発表。出会った人や物、見てきた景色や経験から、人格、人生を作り上げていく様相を全12曲を通して描いた。ツインギターの心地よく刺激的なアンサンブルから始まり、曲の後半に向けて一気にテンポを上げていくタイトル曲「つくる」、緻密なアレンジメントや印象的なブレイク、轟音系ギターがナチュラルに共存する「国」など音楽的なオリジナリティを実感できる本作は、“令和オルタナ界隈”にとっても大きな意義を持つ作品だ。

ひとひらは自身のルーツにあるPeople In The Boxとのツーマンライブをはじめ、KOTORI、JYOCHOなどの先輩バンドが主催するイベントに出演。その一方で、Nikoん、kurayamisakaといった同世代バンドとのつながりもしっかり作り上げてきた。その活動スタンスは、シーン全体にとっても大きな刺激となっている。bloodthirsty butchers、eastern youthが台頭した1990年代前半、SUPERCAR、NUMBER GIRL、くるり、中村一義などが次々と登場した1990年代後半、People In The Box、ART-SCHOOLなどが新たなシーンを切り開いた2000年代前半。時期によってさまざまな変遷があった日本のオルタナシーンはやはり、ここ数年で明らかに新たなピークへと向かっている。ひとひらの活動を追っていけば、そのことをしっかりと実感してもらえるはずだ。

そんなひとひらは、11月2日に2ndアルバム「円」をリリース。「終わりから始まるもの」「繰り返される日々」「守られることと自立」「続けることの意味」といった人生の根源的なテーマを掲げた本作には、全12曲が収められている。冒頭から爆発的なテンションのギターが突き刺さるリード曲「See off」、鮮烈な響きをたたえたギターサウンド、骨太にしてしなやかなベースがぶつかり合う「繭」など、ライブの臨場感がリアルに伝わってくる音像も、このアルバムの強烈な吸引力につながっていると思う。シリアスな佇まいと間口の広いポップネスを共存させたメロディライン、そして、日常の中で感じる未熟さや矛盾を見つめながら、人として生き続けるための輪郭を描き出す歌詞も魅力的だ。

「円」のリリースツアー「hitohira en tour 2025-2026」の対バンゲストとしてラインナップされているのは、downt、said、österreich、yonige、ルサンチマン、elephant、Cuckoo、KOTORI、cinema staff。彼らが敬愛する先輩バンド、しのぎを削ってきた同世代のバンドが参加するこのツアーは、「令和オルタナ界隈」の充実ぶりを証明していると言っていいだろう。

ひとひら「円」

ひとひら「円」

ひとひら「円」

2025年11月12日(水)発売
Perfect Music
[CD] 税込3300円 / PMFL-0041

Amazon.co.jp

収録曲

  1. 十二月-Departure
  2. See off
  3. 安全な航海
  4. 塔は白い
  5. Evacuate/Undertake
  6. その景色
  7. 小さな亡霊
  8. ひのめ
  9. 夏至
  10. フェリス