音楽ナタリー Power Push - ラスマス・フェイバー
「学戦都市アスタリスク」の世界を彩る試み
坂本真綾との信頼関係
──アニメのエンディングテーマとなっている坂本真綾さんの「Waiting for the rain」は神秘的な雰囲気で始まり、サビで一気に盛り上がる展開が印象的なナンバーですね。
「Waiting for the rain」の最初のデモには、実はAメロとBメロしかなかったんだけど、それを真綾さんのディレクターに聴いてもらったら「ここに壮大でハデなサビを付けてくれ」というリクエストが届いて(笑)。結果的に自分でも気に入っているサビを加えることができたんだけど、すごく大変だったね。特に今回は、劇伴をトータル40何曲と作っていた最中に並行して作らなければいけなかったからね。
──彼女はインタビューで「もう彼は私のことをすっかりわかってくださっているのでお任せした」と言っていました(参照:坂本真綾「FOLLOW ME UP」インタビュー)。
そう言ってもらえるのはとてもうれしいね。真綾さんからは、以前彼女に提供した「幸せについて私が知っている5つの方法」(2015年1月リリースのシングル)レベルのクオリティの高い曲が常に求められているから、僕もすごくエネルギーを注いだよ。あの曲を作るだけで1カ月はかかったと思う。でもサウンドプロデュースを含めて1カ月でできたのは、むしろすごくラッキーだったと思えるくらい、完成させるまで非常に大変な作業ではあった。まあ僕だけではなく、真綾さんも英語詞で歌唱しなければならなかったのは大変だっただろうから、みんな大変だったということだね(笑)。彼女が素晴らしい歌唱をしてくれたおかげですごくいい作品に仕上がったと思うし、この曲は自分でも特に気に入ってるんだ。
──ラスマスさんにとってシンガー・坂本真綾さんはどういった存在ですか?
真綾さんは独特な存在感のある声を持ったアーティストだと思う。だから彼女に曲を提供するときは、単に「女性ボーカルに曲を提供する」というようなマインドでは絶対に書けない。やっぱり「真綾さんのため」という気持ちで書かないといけないくらい特徴のあるアーティストだね。それに彼女は経験も豊富だから、こちらがどんな声、どういう歌をイメージしているかもすぐに理解してくれる。過去に何度か会ったことで性格もわかってきたし、今では彼女の曲は自然と作れるようになったよ。
「うさぎドロップ」が大好き
──アニメ「学戦都市アスタリスク」は近未来的な世界観、バトルシーン、ラブコメ要素などがミックスされた作品です。実際に観てラスマスさんはどう思いました?
最初は学園もののような軽い雰囲気でスタートしたけど、話が進むにつれてどんどんシリアスになっていくよね。西洋のテレビ番組だと、シリアスなものだったらずっとシリアス、カジュアルなものはずっとカジュアルだから、「学戦都市アスタリスク」のように雰囲気がどんどん変わっていくのは、すごく興味深いと思って観ているんだ。
──ラスマスさんはどんな日本のアニメが好きですか? 理由もあわせて教えてください。
僕は「うさぎドロップ」が大好きなんだよ。
──ええ! 話の流れからハリウッド映画のような作品がお好きなんだとばかり思ってました。意外ですね(笑)。
あはは(笑)。世代的にもストーリーに共感できる部分があったのと、ほかのアニメにはあまりない、複雑なテーマが描かれているのが好きだったんだ。あとは「ノエイン もうひとりの君へ」という作品の、哲学的な要素や量子力学などの物理の要素が入った緻密な構造になっているストーリーにはすごく刺激を受けたね。ほかに、人気のある作品で言うと、「STEINS;GATE」「DEATH NOTE」「鋼の錬金術師」も好きだし、「ファンタジックチルドレン」も外せない。あと「マクロスプラス」を17、18歳ぐらいで観ているので、「マクロス」シリーズはもちろん大好きな作品だよ。
さらにチャレンジしたい
──ラスマスさんはアニソンのジャズカバーアルバム「プラチナ・ジャズ」をいくつもリリースしていて、こちらのシリーズは毎回ジャンルや年代が幅広い楽曲ラインナップになってますね。このセレクトにはラスマスさん自身のアニメ作品の好みが反映されているんでしょうか? それとも単純に楽曲の魅力を基準にしているとか?
後者だね。「プラチナ・ジャズ」の選曲は、まず日本のスタッフから100曲ぐらいのアニソンのリストを送ってもらって、音を聴きつつ僕とアレンジャーとでまず半分くらいに絞るんだ。そこからさらに時代的に偏りがないかなど、作品のバランスを日本サイドと考えてカバーする曲を選んでいくんだよ。「この曲はボーカルバージョンにしたい」とか「ソフトな感じのアレンジでいきたい」とか、音楽的な調整をして、カバーされたあとの雰囲気も含めて、最終的にラインナップを決めるんだ。
──「プラチナ・ジャズ」にも参加しているピアニストのマーティン・パーソンさんは「学戦都市アスタリスク」のサントラにも参加していますね。
ストックホルムはミュージシャン同士のコミュニティがとてもしっかりしている。自分が「一緒にやってみたい」というミュージシャンたちに囲まれてるという環境はアーティストとしては本当に幸せだね。マーティンを今回の作品に招き入れたことは、とてもよい選択だったなと自分でも思うんだ。ちなみにサントラには彼だけでなく、僕のシングル「Ever After」でも歌ってくれたエミリー・マクイーワンも参加してくれているよ。
──今回は初めての劇伴でミュージシャン仲間とともに新しい音に挑戦しましたが、次はどういった作品に挑戦したいですか?
そうだね……僕は何か作品を作り終えると、自分の“音のパレット”が大きくなったような感じがするんだけど、それは今回も同様だった。このサントラの制作を通じて、オーケストラと仕事をしたという経験や、制作面における新しい発見だったり、今後への大きな糧を得られたと思っているんだ。近い将来に自分のオリジナルアルバムを作るときにも今回の経験が生きてくると思う。それに劇伴にもまたぜひトライしたい。いろんなタイプのアニメ作品の音楽にトライしてみたいし、今回のようなオーケストラとエレクトロニクスのフュージョンとは別のコンセプトで……例えばまったくエレクトロニクスを使わない音楽にもチャレンジできればと思うよ。
- 「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」 / 2015年12月23日発売 / FlyingDog / 3132円 / VTCL-60416
- 「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」
- 「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」
収録曲
- Asterisk War Main Theme
- Ready Your Blade
- Song of the Bloody Scythe
- Stinger Blitz
- Eventide
- Seven Ways to Fall
- Bravery of Kirin
- Chorale
- Colloquy
- A Juvenile Memory
- The Power Sets Free
- Deadly Dance
- Rise of the Phoenix
- Claudia's Melancholy
- Clouds Gathering
- Sister, where are you
- Quiet Camp
- Jaunty Victory
- A Sigh of Relief
- Jalousie
- The Strain of Asterisk
- Julis' Theme(piano version)
- Hold You in the Wind
- Determination of Ayato
- Waiting for the rain(TV Edit)
ラスマス・フェイバー
1979年生まれ、スウェーデン生まれのプロデューサー。10代後半から地元ストックホルムでジャズピアニストとしてセッションを重ねながら、ハウスミュージックの制作も行い、2002年にデビューシングル「Never Felt So Fly」をリリース。翌年には自身のレーベルFarplane Recordsを立ち上げ、代表曲の1つ「Ever After」を発表した。2008年には1stアーティストアルバム「Where We Belong」をリリースし、2009年にはアニソンと自らのルーツとなるジャズを融合させた「プラチナ・ジャズ」シリーズのプロデュースをスタート。また日本では坂本真綾、中島愛といったアーティストへの楽曲提供も行っており、2015年10月からTOKYO MXほかでオンエア中のアニメ「学戦都市アスタリスク」では、劇伴と坂本が歌うエンディングテーマ「Waiting for the rain」の制作を担当した。