ナタリー PowerPush - Prague
一発録音アルバム「ある篝火について」
ラクをしようとは思わなかった
──当日を思い出して印象的だったことはありますか?
鈴木 当日は準備も含めてかなりドタバタだったんですよ。5分前に金野のベースにトラブルがあって、マネージャーが走り回ってて。でも周囲がバタバタしてるけど、僕は静かだったんです。始まる前は、台風の目の中にいるみたいな感じで。ずっとメモ帳に絵を描いてました。
伊東 僕は「作戦C」の間奏のときにヒヤヒヤした瞬間がありましたね。リハで「このアレンジはちょっと違うかな」って話してたほうのフレーズを僕が本番でやっちゃった。そしたら金野が「おおっ!?」って顔で僕を見て。でも2人でそこをなんとなく乗り切った。
──一瞬の緊迫があったんだ。
金野 ありましたね。でも、そこで曲が途切れたら全部がカッコ悪くなっちゃうんで。映像があるなら、そこを乗りきったときに僕らがすごい笑顔になってるのがわかると思います。
伊東 あとはライブが終わってステージを降りたときに僕らを迎えてくれたスタッフの全力の笑顔も覚えてますね。
鈴木 終わったあとぜんぜん疲れてなかったんですけど、いろんな人に「もう休みな!」って口々に言われて(笑)。観てた人も心臓をギュッと締めつけられたような感覚だったみたいです。
──特に今回のアルバムは「オカルト」のように、かなり技巧的な曲が多いですよね。一発勝負な上に、演奏にアクロバティックな挑戦がある。
伊東 確かに。
──個々のプレイの難易度だけでなく、そこで3人のアンサンブルも成立させなきゃいけない難しさもあるし。
鈴木 「オカルト」はかなりテクニカルな曲ですね。
──「これ、もうちょっとやりやすくしようよ」みたいな発想はなかった?
金野 今回はそういうことを考えたら絶対ダメだと思いました。
鈴木 うん。なかったですね。リスナーに伝わりづらいからシンプルにしようとかはあったけど、誰一人「演奏しやすくアレンジしよう」とは言わなかったな。ラクをしようとは一切思わなかった。思ってたら「オカルト」みたいにギターと歌がポリリズムになってる曲なんてやらなかっただろうし。
金野 といっても、ただ技巧的な作品にすることを狙ったわけではないんです。そこは誤解されたくなくて。表現が行き着く先がそこだったという。難しい、難しくないで言うと難しいってことになっちゃうんですけど、これが正解だったんだと思うんです。
鈴木 要は、曲の持つ魅力を全部詰め込みたかったんですよね。
──このアルバムって、1曲目の「脱走のシーズン」からベースソロがあって、各曲で演奏に耳がいくポイントがあるんですよね。「脱走のシーズン」のような曲で始まるアルバムだから、「オカルト」のようなアレンジに行き着くのも必然だと思います。
鈴木 うん。あの曲が一番、アルバムのテーマとして掲げていた「ここではないどこか」な曲だと思いますね。
「ここではないどこか」に込めた思い
──「ここではないどこか」というテーマは、どこから出てきたんですか?
鈴木 もともとPragueというバンドを始めたときからにあったキーワードなんですよね。誰かの真似をするんじゃなくて、誰もできないことをやる、音楽を通して誰もいない“どこか”に行くというのをイメージしてて。ただ、今回はそれが人に向かっているんです。知らない場所にただ行くんじゃなくて、知らない誰かに出会うというイメージがある。いろんな人と関わって作っていく中で、いろんな人を巻き込むアルバムにしたいと思ったんです。
──伊東さん、金野さんは「ここではないどこか」というテーマにどういう思いを込めました?
伊東 僕の場合は「ここではないどこか」という言葉に、もっと広い場所というイメージを持っていました。常に違った色や形で、いろんな刺激を与えていきたいと思ったので。
金野 自分が思う「ここではないどこか」は、自分たちと同じ世代のミュージシャンが作る、新しいフィールドというイメージがありますね。何かの焼き直しや、何かに関連付けられるのではない音楽やパフォーマンス。それが新しいスタンダードになっていくという。今はそういう流れが断ち切られているようにも感じるので、自分たちの世代が新しい扉を開けていくと思ってほしい。
──タイトルの「ある篝火について」も、アルバムのテーマとつながっているんでしょうか。
鈴木 今回の作品はいろんな人たちの協力のもと作ったので、関わった人たちを1つひとつの小さな火に見立てて、それをくべるイメージでタイトルを付けたんです。僕らはいろんな人に自分たちの音楽を聴いてもらいたいし、ライブでも披露したいと思ってて。一方で、その小さな火は抵抗運動の火でもあるんですよね。僕らがいる場所は、人に「ここが自分の居場所なんだ」って示された場所じゃないんですよ。そこから新しい扉を開いていかなきゃいけない。そういう感覚を持っている人間が、同じ世代にもいる。そういった意志を表して“篝火”という言葉をタイトルに込めました。
──同じ世代で自分と感覚が同じだと思う人はいますか?
鈴木 僕はHaKUの(辻村)有記ですね。僕らの世代って、やっていることがカテゴライズされて、計算式が出てきたからもうこれ以上の発見はないって言われがちなんだけど、そう思われるのが嫌なんですね。実際にそうだったら未来もないし。そういう感覚は、彼や僕以外の同世代のミュージシャンは持ってると思いますね。
金野 僕が音楽を聴いてそういう感覚を感じるのは、同世代というわけではないんですけれど、DE DE MOUSE、パスピエ、THE NAMPA BOYSですね。
伊東 僕は同年代で言ったらサッカーの本田圭佑ですね。なぜか時計を両手にするとか、やたら結果を求めるとか、いろんなところに共感する。実際、同年代であれだけ結果を残している人は他にいないですからね。音楽の話じゃなくなっちゃったけど……。
鈴木 うん、でもわかるよ。
伊東 ああいう人には心を打たれるんですよね。
収録曲
- 脱走のシーズン
- 愛唱歌
- おもちゃ体操
- Scrap and Hope
- 生意気なフェレット
- トランスブック
- インスタントスカイ
- 作戦C
- Fun Park
- 踊れマトリョーシカ
- 魂のシルエット
- オカルト
- オイルランプ
3rd Album「ある篝火について」Release Live 2Days at 下北沢GARAGE
対バン編
2013年4月12日(金)
東京都 下北沢GARAGE
LIVE:Prague / THE NAMPA BOYS / The cold tommy
DJ:filipo(髭)/ 大城嘉彦(APOGEE)
ワンマン編
2013年4月13日(土)
東京都 下北沢GARAGE
※ワンマンライブ
Prague(ぷらは)
鈴木雄太(Vo, G)、伊東賢佑(Dr)、金野倫仁(B)による関東出身の3ピースバンド。同じ高校で3年間同じクラス、軽音楽部、プライベートも一緒にいた腐れ縁の鈴木雄太と伊東賢佑の2人が、同じ音楽専門学校に進み、2006年に金野倫仁と出会って結成。自主制作盤を2枚出したところでレコード会社の目にとまる。2009年9月9日シングル「Slow Down」でキューンレコード(現キューンミュージック)よりメジャーデビュー。2010年7月には1stアルバム「Perspective」をリリースし、2011年5月には初のミニアルバム「花束」を発表した。同年8月リリースのシングル「バランスドール」はテレビアニメ「銀魂」のエンディングテーマに起用され大きな話題を集めた。10月には2ndアルバム「明け方のメタファー」を発売し、11月から初の全国ツアーを実施。2013年1月に東京・渋谷CLUB QUATTROでレコーディングライブ「プラハの春」を行い、その音源を3月に3rdアルバム「ある篝火について」として発表した。