プー・ルイ|デビュー10周年、節目のソロ作&会社立ち上げで“アイドル研究”は次なるステージへ

BiSの発起人としても知られるプー・ルイが2020年1月、自身の会社プープーランドを立ち上げた。2019年12月のBILLIE IDLE解散後の動向に注目が集まる中、彼女が選んだ道は自らが社長になり、アイドルグループの社長兼プロデューサー兼メンバーという立ち位置で活動していくというものだった。

また3月11日には、約10年ぶりのソロアルバム「みんなのプー・ルイII」がリリースされる。このアルバムはWACKの渡辺淳之介、SCRAMBLESの松隈ケンタと共に制作された作品。新曲と2010年に発表された「みんなのプー・ルイ」収録曲の再録バージョンが8曲ずつ入った全16曲の力作となっている。音楽ナタリーではプー・ルイに話を聞き、ソロデビューから10年を経て、新たなスタートを切ることとなった彼女の現在の心境に迫った。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 塚原孝顕

「みんなのプー・ルイII」制作に至るまで

──1月に会社設立を発表しました(参照:プー・ルイが会社立ち上げて社長に、新アイドルグループのオーディション開催)が、最近はどのようにお過ごしですか?

2019年末はBILLIE IDLEの解散(参照:BILLIE IDLE、ラストライブ駆け抜け笑顔で解散「幸せでした!」)があったんで、それに集中してました。年始からソロアルバムの制作、会社立ち上げの登記やらがあって、ようやく新しく作るグループの準備をし始めたという感じです。

──ではまずソロ作品についてですが、どういう経緯で作ることになったんですか?

プー・ルイ

BILLIE IDLEの解散が決まったのが昨年の夏で、すぐ渡辺(淳之介 / WACK代表)さんが心配して「(解散を)聞いたのか?」と電話をくれたんです。そのあとすぐ「話をしよう」ってなったのがちょうど3期のBiSのラジオ(TS ONE「SCHOOL OF BiS!」)のゲストに呼ばれたタイミングで、収録帰りにごはんを食べに行って。今後どうするのかと聞かれてざっくりした話をする中で「『みんなのプー・ルイ』を出そうよ」と言われたんですけど、私はそのときそんなにソロに対して乗り気じゃなくて。

──それはどうして?

うれしい話だと思う反面、10年前のソロで売れなかった記憶があったからか、次の活動の主軸としてソロをやるというビジョンはなくて。渡辺さんと雑談している中でも「ソロをやったとしても、その先ってないですよね?」「まあ、ないだろうね」という感じだったし。それでも「ソロで今後ずっとやっていくというのは違うけど、1枚は出そうよ」みたいな話になり、そこから私も次にメインで何をやるかを考え始めました。いろんな人に会ったり、友達とバンドをやろうという話になってメンバー探しを始めたり。「みんなのプー・ルイ」の話はごはんを食べながらのお誘いだったので、本当にやるかやらないかもわからなかったし、返事をしたほうがいいなと。渡辺さんともう1回ごはんに行って、そのときには「私バンドやりたいから、『みんなのプー・ルイ』は出さないです」と伝えました。

──1回は断ったんですね。

でもそのあと、バンドが本格的に始まる前にケンカして解散したんですよ(笑)。二転三転しちゃいましたけど、渡辺さんに「バンドなくなっちゃいました」って伝えたら「大変だな」と言われ……。で、また「じゃあごはん改めて行こうよ」と誘われて、「みんなのプー・ルイII」を作ることが決まりました。

“彼のために”恋愛ソングを歌うアーティスト

──「みんなのプー・ルイII」のコンセプトを聞かせてください。

もともとプー・ルイ(Pour Lui)という名前はフランス語で「彼のために」という意味で、10年前に恋愛の歌を歌っていくアーティストとしてデビューしたんです。今回も10年前と同じことをやるということで、恋愛がテーマの楽曲になってます。私と渡辺さん、松隈(ケンタ / Buzz72+、SCRAMBLES)さんの3人共、10年前とは状況が変わってるけど、コンセプトを当時のままにした作品を出すことで成長を見せられたらなと。

──デビューした当時はラブソングを歌うアーティストだったんですね。

もはや誰も知らないと思いますけど、当時はライブの挨拶で毎回言ってました。「プー・ルイとはフランス語で『彼のために』っていう意味で、恋愛の歌を歌っていくアーティストとしてがんばります!」って(笑)。

──自分のキャラとの乖離は感じなかったんですか?

当時はまだ大学生だったし、人前に立つ経験も全然なかったから「こうしたい」という意思もなかったですね。高校時代にコピバンはやってましたけど、プロとしてステージに立つのは初めてだったから、言われるがままやってた感じ。「これを言って」と渡辺さんに言われて、それをそのままMCで言ってました(笑)。

──ではアーティストとしての自我が芽生えたタイミングは?

私が渡辺さんに初めて意思表示をしたのは、BiSを始めた頃ですね。「もうソロやだ。アイドルやりたい」と言い出したのがたぶん初めての自分の意思表示だったと思います。反抗期みたいな感じですけど(笑)。ソロ活動がなかったらそう考えることもなかったと思います。渡辺さんも当時アイドルをやりたいなんて1mmも思ってなかったから、めっちゃ止められましたもん。

──渡辺さんに止められつつも、グループ結成に向けて動き出したと。

はい。OTOTOYでの企画会議で1年の連載企画で何やるかを決める打ち合わせに参加したとき、私ほとんど好きなものとか伝えられなくて。でも唯一しゃべったのが、「モーニング娘。が好き」って話で、そのときの私が楽しそうにしゃべってたらしく、OTOTOY編集長が「そんな好きならアイドルやりなよ」と。あそこにいた誰もがそんなに深く考えてなかったと思うんですけど、渡辺さんはあからさまに嫌そうな顔をしてて。私はそのとき渡辺さんが大っ嫌いだったし、たぶんお互いに大っ嫌いだったと思います(笑)。アイドルの話に渡辺さんが困った顔を見せてたから、「あ、じゃあやろう」と思って始めたのがBiSですね。

楽しかったソロ曲レコーディング

──10年前の「みんなのプー・ルイ」は、新作を作るにあたって聴き返しました?

聴きました。なんか処女みたいな声してますよね(笑)。かわいいなって思います。

──処女みたいな声(笑)。今はどうなんですか?

今はもうヤリマンみたいな感じになっちゃいましたね。経験が声からにじみ出ちゃって(笑)。

──「みんなのプー・ルイII」にはプー・ルイさんが作詞した新曲も入ってますけど、全部今年に入ってから書いたんですか?

そうです。急ピッチで仕上げました。

──新曲と既発曲の構成ながら、デビュー時のテイストと地続きな印象がありました。

新曲を含めて当時の雰囲気があって、基本ロックサウンドですけど、私は「めちゃめちゃJ-POPだな」と思いました。誰が聴いてもいいなと思ってもらえる曲が多いんじゃないかなといういい意味で。でも渡辺さんが問題作「KEY ASK」の歌詞を書いたんで。

──問題作……?

問題作ですよ、タイトルからして“匂わせ”ってやつですね。

──詳しくはここでは聞きませんが、「KEY ASK」は軽快な四つ打ちのギターロックチューンですね。

ギターロック……あ、そういうことなんだ! 曲調まで狙って歌詞を書いたってことですよね? 渡辺さんって天才的な嫌がらせをしますね(笑)。

──これ載せて平気ですか?

プー・ルイ「みんなのプー・ルイII」ジャケット

まあまあ、世に出てるんで大丈夫ですよ。渡辺さんが書いてる歌詞だし、だいぶ“本筋”とは違うんで(笑)。私の物語というよりかは、渡辺さんが書いた誰かの物語みたいな感覚ではありましたし、楽しんで歌詞を書いてくれたのかなって感じました。「KEY ASK」の匂わせもそうだし、「いりーがる」のサビで「もっとずっと」をひたすら繰り返す歌詞もそう。渡辺さんが「『みんなのプー・ルイ』をやろう」と言ったときのノリが「楽しくやろうぜ」って雰囲気だったんですよ。ソロは10年ぶりだし、いい意味で肩の力を抜いてできました。今、私がWACKにいたらこうはできないと思うんで、こういう作品が作れたのはよかったなって。だって、ジャケ写にしてもふざけてるじゃないですか(笑)。レタッチで目がすごく大きくなっていて、体が半分ぐらいだし、顎も顔もすごく小さくなってますよね。ブックレットを開くとふざけた写真が入ってるんで(笑)。

──アーティストの作品なのに、そのアーティスト自体の宣材写真を面白い方向にいじっちゃうというのは珍しいですよね。

そうそう(笑)。ジャケだけならまだしも、曲でもいじられてますから。でもすごく楽しく作れたなあと思います。