「POP YOURS 2026」特集座談会|二木信、松島広人、USB、つやちゃんが今年の注目ラッパーを語り合う (3/4)

オルタナから突破口を開いたPeterparker69、lilbesh ramko

松島 Peterparker69が去年Spotify O-EASTで開催したワンマンに行ったとき、たぶんクラブとかCIRCUSとかWWWとか、いわゆる「都心の音楽好き」が通うようなイベントの流れをすっ飛ばして初めてライブに来てるんだろうなっていう人がたくさんいる感じがしたんですよ。クラブ的ではないお客さんのほうがむしろ目立って。去年はramkoがLIQUIDROOMでワンマンをやったりとか、オルタナティブな人の催しのキャパが広がった感じがありましたが、そうなると「ずっと追ってきた」というより、「最近知って虜になった」って人がかなり多くなるのかなと。

二木 ずっとファンで、たとえばBATICAに出ていたときから見てました、じゃなくて、有名になったあとに「じゃあLIQUIDROOM行ってみよう」みたいな。

松島 そうですね。スタート地点から間近で見ていると、お客さんの集まり方が変化してるのが伝わってきますね。

つやちゃん Peterparker69は突破口を開いたと思う。ああいうスタイルの人たちって、正直ヒップホップシーンでは広がるのが難しいだろうなと思ってたんですよ。ライブや曲がいい悪いとは別の話として、リスナーや運営の嗜好として。だけど、Frost Childrenと海外ツアーを回ったり、野田洋次郎とやったり、そういった分脈でぐんと上がって殻を破っていった結果、そっちはそっちで違うルートでお客さんを連れてくることになった。で、その間にヒップホップシーンの中でもそういったリスナーが増えて、結果的になんかよくわかんないけど「POP YOURS」に普通にいてもおかしくなくなった。

松島 言ってしまえば、ヒップホップがひと昔前のロックくらいの規模まで大きくなってきてるというのもありますよね。だからオルタナも強くなってきてて。

USB そうですね。今ホントにロック好きも普通にヒップホップを聴いてると思うし、かなりチェックしてる。

松島 逆に、バンドやロックをあまり聴かない人でも「フジロック」には行ったりするじゃないですか。お目当てが2アクトぐらいしかいなくても。クラブ畑の人が「フレッド・アゲイン来るならフジロック行くか」ってなるのと同じで、普段ライブハウスに行くような人たちにも「Peterparker見たいから『POP YOURS』行ってみよう」とか「PUNPEEいるし、ピーナッツくんもramkoもいるし、そろそろ見てみるか」ってなるケースはもう相当増えてるんじゃないかなと。

つやちゃん 前よりも「POP YOURS」がオルタナ勢を包括してきてるから、間口が広がってる。

USB 最初、ピーナッツくんが出るとき、「え? ピーナッツくん出るの?」って言われてましたから。でも今はもう「うん、出るよね」みたいな。

松島 この間ピーナッツくんにお話を伺う機会があったんですけど、「そういうところにも出るようになったけど、自分は相当がんばらないとナメられる立場だから」って言ってて。真摯な人ですよね。

つやちゃん そうそう、ピーナッツくんはずっと言ってますよね。アウェイ感を感じながら。

カルト的な人気を誇る「I♡WAKA」「YeYan」

つやちゃん Terminal 6で言うと、「I♡WAKA」がヤバいんじゃないかと思ってて。つまりはMIKADO率いる和歌山勢によるGUNSOステージでしょ、これ。

松島 いやあ、入場規制になるくらいの熱気になるんじゃないですか?

つやちゃん ENELに取材したとき、「YJ EIGHTとかISAKITOKIAっていうまた下の世代も出てきてるんで楽しみにしてて」と言ってたんですけど、さっそく今回ラインナップされてて。和歌山は今、本当にどんどん次が出てきますね。

松島 そもそもNEW COMER SHOT LIVEにもHARKAが入ってますからね。「I♡WAKA」がこのTerminal 6の中では一番事件性がありそうな感じがします。自分はDAY3のYeYanも気になりますけどね。

USB YeYan大好きなんですよ。YeYanのメンバーであるSpiderWebは、東京のシーンで一番イケてるグループだと思います。服装がおしゃれなので一見ファッション先行っぽいですが、歌詞もビートも面白く、しっかり実力がある。中でもビートやミックス、マスタリングまで手がけるマルチな才能のIvyに注目しています。MIKADO、DAB、Manakaなど各地の最先端ラッパーとピンポイントでコラボしているところも新時代を感じさせます。

松島 あと「AMAPINIGHT」は、ちょっと文化系のチャラさがあるギャルたちがやってるアマピアノのパーティシリーズじゃないですか。そこに同じ3日目でYeYanがいるということは、最後の日曜はパーッとやって渋谷っぽい感じで締めるってことなんでしょうね。

クラブカルチャーの楽しみ方を提示するTerminal 6

二木 Terminal 6について、DAY1のGRADIS NICE & DJ SCRATCH NICEは硬派なヒップホップをやってきた人たちだし、DAY3のMinnesotahとMASATOはもともとKANDYTOWNの2人でソウルやファンク、ジャズにも強いですよね。そういうオーセンティックなヒップホップの文化を大切にしつつ、より広範なクラブカルチャーを楽しめる場所をどう作るかっていうのを「POP YOURS」が本気で提示しにきたぞ️っていう感じですよね。実際、自分もこれまで「POP YOURS」に行ってて、ライブを観てるのも楽しいけど、もうちょっとクラブカルチャー的な遊び方の要素があったらさらに面白そうだなと思ってたんですよ。

松島 「POP YOURS」として、ここでクラブカルチャーと再接続しないとって考えてるのかもしれないですね。僕は去年ramkoの応援で初めて「POP YOURS」に行かせてもらったんですけど、やっぱりライブイベントでのDJのギグっていうのは、日本だとまだまだ難しいのかもなって思いましたね。どれだけバンガーなトラックをかけても限界があるというか。そもそもお客さんがそれを聴きに来てないから。ヒップホップってもちろんクラブカルチャーの一端ではあるんだけど、日本だとどうしてもライブハウス的なノリが強いじゃないですか。

USB 昔はライブじゃなくて、もっとDJがメインだったんですよね。DJがスターだった時代があった。だってDJ KRUSHのライブとか信じられないくらい人が入ってたから。今はもうそういう時代じゃない。みんなクラブにライブを観に行ってる。

松島 いやあ、それはもうDJの当事者としてはとても悩ましいところで(笑)。自分はライブメインの企画も大好きだし、個人的にもそういう企画をやったりはしますけど、そういうタイプの現場でDJをやるにあたっては、やっぱり伝え方を相当考えないと難しいし、なんらかの文脈を作ろうとしても、お客さんからしたら「そんなの知ったこっちゃない」となるのは事実としてありますから。

二木 昨年、DOMMUNEでアマピアノを紹介する番組の司会をやらせてもらったときにいろいろ教えてもらったんですけど、DAY3の「AMAPINIGHT」はパーティ自体にコミュニティとしての強さがある感じですよね。遊びに行ってみたいなと思ってたところでした。

松島 AVYSS周りもそうですけど、日本のDJカルチャーの現実として「コミュニティ的な枠組みが与えられて初めて機能する」という悲しさも確かにあって。だからこそ、「POP YOURS」がそこを再接続しようとしてるのは心強いなと。背中を押されるような感じがあって。しっかりコンセプトマターになってますよね。だから「AMAPINIGHT」も、「なんか『AMAPINIGHT』ってヤバいらしい」っていうことだけ画面越しで知ってる人が、初めて体感するいい機会にもなる。ある種見本市っぽい役割もあるのかなと思います。

「ラップスタア」文脈のMasato Hayashi、Sonsi

松島 Pxrge Trxxxperをはじめとして、「ラップスタア」分脈というのも毎年ありますよね。Sonsiもここにいたらいいのにな、と思っていたらKoshyとのタッグで追加出演が決定していて、さすがだなと。

松島 自分は年始に「WWW presents NEW SLANG」ってイベントでMasato Hayashiを観たんですけど、彼がパフォーマンスをしてるときに10代の若いギャルがフロアですごい踊ってて。「ラップスタア」の力って本当に大きいんだなと改めて思いました。

USB Masato HayashiはけっこうBAD HOPイズムがあると思ってて。そっち系の人も来てるんじゃないかな。

二木 Masato Hayashiが今年に入って出した「HIROYUKI」っていう曲あるじゃないですか。舐達麻のリリックへのオマージュというか、引用の仕方とか含めて、いちいちうまいなって思いました。

松島 プレイヤーとして長くシーンにいたからこそ、面白い部分とシリアスな部分を生かしながら、ただの“リリック大喜利ゲーム”で終わらせずにフロウの部分も相当詰めていってる。

つやちゃん Masato Hayashiってすっごいメロウですよね。ああいった出自のラッパーでメロウなラップをする人は、前はいなかったと思う。それもやっぱりBAD HOPが大きくて、彼らがメロウな曲をやるようになったからこそMasato Hayashiみたいなスタイルもリスナーに自然に受け入れられるようになった。だからスタイルが多様化してて。以前はメロウでセルアウトなことをするスタイルとハードコアなスタイルが二項対立的に語られていたけれど、今はもうそうじゃない。ハードコアな出で立ちですごくメロウな曲を歌う人も普通になったし、その逆も然り。価値観が多極化してる。

松島 メインストリームな人がアングラ的な感覚を取り入れてみたり、今はその交換が顕著ですよね。