「POP YOURS 2026」特集座談会|二木信、松島広人、USB、つやちゃんが今年の注目ラッパーを語り合う (2/4)

ユーモアあふれるYELLASOMA、確かなラップスキルを持つRama Pantera

二木 今回ニューカマーには福島県相馬市出身のYELLASOMAも出ますね。相馬弁をたまにさり気なく使うラップが粋だし、地元をREPする表現が面白い。例えば「大漁」って曲とか。あのセンスをデカい会場のライブでどう見せて盛り上げるかが気になりますね。

松島 それはもう、熱心なヘッズの人たちによる被せパワーで大丈夫なんじゃないですかね(笑)。

つやちゃん YELLASOMAのキャラクターはいそうでいない。人気が出るのはわかる。

USB やっぱりWatson以降の流れもありますよ。

つやちゃん ユーモアという意味ではね。

USB  Watsonの友達のNeroやLucyとも音楽性が近いんですよね。

二木 同じくニューカマーのRama Panteraも、しっかりビートにラップをハメていくタイプで。J・ディラ風のつんのめったビートでラップする「On & On」もすごくよかった。こういったラッパーの人たちがあの大きいステージで、どういうパフォーマンスをするかはいつも注目してますね。

つやちゃん Rama PanteraはDaichi YamamotoのレーベルAndlessからリリースしていますよね。「POP YOURS」は、とにかくラップできる人をちゃんと連れてくるというのが一番の審美眼としてあると思う。結局、毎年それを一番に感じる。ちゃんとライブでラップができる人か否かを、すごく見てる。

松島 そこにも「POP YOURS」のラップに対する思いを感じますよね。

ドリルシーンを代表するPxrge Trxxxper、X 1ark

二木 あと自分は、今年のニューカマーだとX 1arkが気になっています。あのにじみ出るブルースに、新しい世代の感性を感じたんすよね。もちろんANARCHYだったりDADAだったり、貧困や孤独を歌うことで力に変えてきたラッパーは今までもいたと思うんですけど、X 1arkはちょっとまた違う感じがして。

松島 社会的な歪みの投影みたいなものはSieroくんの楽曲からも感じます。

USB X 1arkの盟友で、去年の「ラップスタア」のPxrge Trxxxperもそうじゃないですかね。

つやちゃん ビートによるところもかなり大きいと思います。というのも、ドリルがマイクロジャンル的なところからこの1、2年でいよいよヒップホップのメインストリームになったじゃないですか。以前だったらトラップ以降のサブジャンルって感じだったのが、完全にメインジャンルになった。それによるリリックとの化学反応というのは間違いなく生まれてますよね。

USB 「POP YOURS」にはラインナップされてないけど、僕は日本の10代のドリルのパイオニアは999dobbyだと思ってて。そこからPxrgeが売れる形にしていったのかなと思います。売れるラッパーとしてのドリルを作り上げた。Pxrgeはちゃんとフックを作るじゃないですか。曲として成立させてる。

つやちゃん ビジュアルの話になっちゃうんですけど、Pxrgeって日本でしか生まれないラッパーの風貌だと思うんですよ。ファッションも含めて、耽美性がある。まさか、あんな風貌の人がドリル畑から出てくるなんて思ってもなかった。

二木 ドリルってことで言うと、X 1arkが「Drillばかり歌っても満たされない心で俺には何が残る」(「Rainy feat. Bene Baby」)ってラップしてて。「ドリルを歌う」って表現することにハッとするものがあった。

松島 ドリルはもう新しい花形になってますよね。トラップのように。

二木 そうそう。文化史的に見れば、シカゴやNY、ロンドンのドリルとギャングカルチャーとの結び付きというのは無視できないわけですけど、「ドリルを歌う」って表現を聴いたときに、日本でドリルが独自の定着をしてきたんだろうなというのも感じて。

つやちゃん それだけもう、前提になったと。PxrgeとX 1arkを同じ日に入れてるのも熱いなと思いました。切磋琢磨してきた仲じゃないですか。同じ日にぶつけるんだという運営の狙いが見えますよね。一緒に曲も出してるし、共演もあるかもしれない。

USB そういう裏の見方も面白いですよね。フィーチャリングしてるラッパー同士が同日に出るみたいな組み合わせの妙が「POP YOURS」はけっこうあるじゃないですか。

松島 お客さんもけっこう「これとこれがいるってことは、あの曲やるかな」って予想して楽しむようになってますよね。組み合わせで言うと、個人的には2日目のTerminal 6 STAGEにラインナップされているSEEDA × DJ ISSO × she's roughの「CONCRETE GREEN」が楽しみですね。jellyyとかNagatomiのような「UDG FRESHMAN CYPHER 2026 - JPN」のメンツがフックアップされている。

最速でブレイクするKianna

松島 去年はWorldwide Skippaがスターダムを駆け上がっていきましたけど、今年ニューカマーとして「POP YOURS」に登場するKiannaは、「UDG FRESHMAN CYPHER 2026 - JPN」に出てから、それ以上のスピードで上がっていってるなと思います。最近EMPIREと契約して、カニエの娘とも交流してましたね。

つやちゃん Kiannaは自分でビートを作れるのが強いですよね。しかも全部いい。

松島 トレンド的に最速の動きをしてる人って、今までは日の目を見るまで時間がかかるか、アンダーグラウンドでカルトヒーロー化するかの二択だったんですけど、そのどちらでもなくいきなり「POP YOURS」に出ちゃうところに夢があるなと。しかも半年、1年もかからずに。Kiannaって、そういう意味ではバックボーンがないんですよね。「ラップスタア」的なところとも関係ないし、日本のシーンで誰々とやってきたっていうのもない。そこがカッコいいな、と。

USB 「UDG」の動画自体、海外受けがめっちゃいいんですよね。

松島 「UDG」に参加しているメンバーだとSieroが国内で見つかった感じがしますけど、Kiannaは世界中に見つかった気がしますね。

USB リリックを深く読み込ませるというより、音で聴かせる感じじゃないですか。海外向きですよ。

松島 ハッキリ発音しないマンブルラップを通り越して、言葉自体が音のパーツになってる感じですよね。

「u-ha」「CONCRETE GREEN」に集結する新世代

松島 KiannaとかSieroというオルタナティブなラッパーが順当に上がっていった一方で、そういう人たちが受け入れられる土壌を作ったのは、lilbesh ramkoの周りにいたkegønやlazydoll、AssToroのようなアーティストだと思うんですよね。彼らは無意識的にアンダーグラウンドなシーンを地ならしする役割を引き受けたんですが、そうやって舗装された道を通っていったのがSieroやKiannaとも言えるわけで。そんな彼らがニューカマーにラインナップされていなくて残念な気持ちもあったんですが、Terminal 6にラインナップされているTohjiのパーティ「u-ha」で、そういう部分もちゃんと拾われてる感じがするんですよね。

つやちゃん それはすごくわかる。lilbesh ramko周りの熱量をどこまで「POP YOURS」が拾うのかというのは、この1、2年ずっと気になって見ていました。

松島 SEEDAさんたちの「CONCRETE GREEN」のほうにもそのあたりのサンクラ勢が食い込んできていて面白いですよね。

USB SEEDAって前からやっぱそういうの好きだよね。「ラップスタア」でも、サンクラとかデジコア系をずっと推してる印象がある。

松島 ずっと好きですよね。Peterparker69という名前がつく前から、JeterとY ohtrixpointneverと一緒にやってたわけだし。

松島 ともすれば徒花みたいな扱いになりかねない人たちをちゃんと見てフックアップしてくれている大人がいるというのは、当事者たちにとっても心強いはず。

USB その周辺だと、僕は「u-ha」に出演するAssToroが好きで。勢いで曲を出す人っていっぱいるし、特に若い人たちってバンバン出しがちだけど、AssToroはその中でもすごい作曲力があるなと思って。

松島 AssToro、okudakun、lazydollのような、いわば「ディープサンクラ勢」みたいな人たちって、すごくトラックメイキングやエンジニアリングに注力する傾向がありますよね。やっぱり自分でビートも打つ人ならではというか。今「ラッパーのオルタナティブ」がなんなのかっていうと、それはサウンド面も含めたセルフプロデュースを全部自分でやり切るタイプだと思います。Kiannaもまさにそうで、ビートメイクまで全部やるし、そのビートがキメラ的にさまざまなジャンルを縫合するような感じで新しくてカッコいい。「u-ha」に出るSarenとかもそのタイプで、彼はサウンドエンジニアに近い仕事を裏方でやったりもしている面白い存在です。

USB 僕はやっぱり自作の人が好きなんですよね、基本。しかもAssToroはちゃんとカッコいい。勢いもあるし、曲としてもちゃんとしてる。

松島 もはや歌うことが主軸じゃなくて、ビートメイクが主軸なんですよね。今までのラッパーとは主従が逆というか。「u-ha」はコロナ禍のハイパーポップ現場をある種アーカイブしたような枠になってますよね。DJも、cyber milkちゃんとかE.O.Uとか、あとwagahai is nekoっていうTikTok経由でものすごくバイラルを生み出したニュースターがいたりとか。やっぱりTohjiが「u-ha」を、あくまでクラブ的な場所としてずっとやってきたから成立するキュレーションなんだろうなと思います。

USB そういったサンクラ的なシーンって、熱心なファンが付いてるなと最近思うんですよね。思ってたよりかなり熱心。ちゃんと1人ひとりにファンがいて、「なんとなくシーンが好き」よりも「この人が好き」っていうガチのファン。

松島 それは本当にそうですよね。2022年頃には、lilbesh ramkoの年間のライブをほぼ全通してるお客さんもいたぐらいですし。

つやちゃん なんというか、コロナ禍の有象無象の人たちがいたときと比べて、だいぶ絞られてきましたよね。だからこそ、パーティやイベントで面子が被ることが多くなった。

松島 だいぶ被ってますね。なんというか、コロナ禍ってそれまでシーンへの進出を塞いでいた蓋が1回取れて、ゲームがリセットされた感覚があったんですよ。でも今はまたもう1回蓋が完成した感じがして。だから、今はシーンに出る取っかかりがなくなって相当歯がゆい思いをしてる人が多いんじゃないかなと思います。めちゃめちゃいいものを作って出しても無風、みたいな。

USB シーンに入りやすい時期が終わっちゃったってことですね。

松島 あくまで肌感覚ですけど、2024年頃には終わった感じがします。

二木 だからこそ、「POP YOURS」はそこを察知して今面白いことやってる人たちを紹介しようとしているわけですよね。

松島 そうそう。こういうのもありますよ、こういうのもありますよ、って。例えばファッションブランドにも、誰でも着れる服とショーやコレクション用のものがあるじゃないですか。「これ誰が着るの?」みたいな。「POP YOURS」は継続的に成功を収めてきたことでそういう幅が出せるようになってきたし、いろんなところにパワーを注入する余裕ができたんでしょうね。