PEOPLE 1はエンディングが決まっている
──「大衆音楽」「GANG AGE」「Something Sweet, Something Excellent」という3作のEPには、それぞれ弾き語りの生々しい質感を持った楽曲が必ず入っていましたよね。あそこにはどういった意図がありましたか?
Deu EPを3枚くらい作るというのは最初から決めていたんですけど、全部トラックものだと鬼のようにコスパが悪い。それに最初の頃のPEOPLE 1って細かい部分は捨ててたんですよ。歌詞と声と世界観だけで勝負しようと思っていて。そういう意味では弾き語りでもいいかなって。むしろ弾き語りのほうが歌詞のよさがわかるし、そもそも僕は荒くてシンプルなものが好きだし。それで入れていましたね。
──先ほど「物語」とおっしゃいましたが、DeuさんにとってPEOPLE 1は、最初から完成された大衆音楽を提示するものではなく、大衆音楽へと向かっていく道程そのもの、ということですよね。だとすると、Deuさんの中でPEOPLE 1はどこに行き着けば完成しますか? 言い方を変えれば何を「完成された大衆音楽」とするか、ということでもあると思うんですけど。
Deu 完成はさすがにしないと思うんです、芸術なので。一瞬だけ完成するかもしれないけど、時代との兼ね合いもあるから完成しないと思う。でも、PEOPLE 1って実は終わり方が決まっているんですよ。すでにエンディングが決まっている物語。そのエンディングにたどり着いたときに、我々は「完成」と言います。
──それは、どういう終わり方を想定されているんですか?
Deu ……ふふっ(笑)。
──なんですか(笑)。
Deu 内緒です。
──……気になるけど(笑)、わかりました。
Deu ……まあ、永遠に続くバンドではないです、PEOPLE 1は。さすがに身を削りすぎているので、永遠にはできないんです。
──「終わりがくる」というのは、ItoさんとTakeuchiさんも承知しているんですか?
Ito そうですね。「終わるんだろうなあ」という前提でいます。最初のEPの曲を聴いたときに、「この人、もう終わりを考えているな」と思った記憶があるんです。まあ、僕らはほとんどDeuさんの手のひらの上で踊らされている感じなので(笑)。僕はそれを知りつつ、騙されつつ、僕は僕で未来を考えていようと思っていますね。
Deu すまんね(笑)。
Ito いえいえ……好きにしてください(笑)。
──Takeuchiさんは?
Takeuchi 終わりを迎えることに対していい悪いというよりは、「面白いじゃん」という感じですね。「Deuくんがそう言うなら、いいよ」っていう。そこから先のことは何も考えていないです(笑)。
Ito Takeuchiさんらしい(笑)。
──Deuさんは、PEOPLE 1が終わったあとも音楽を作り続ける予定ですか?
Deu 希望としては、音楽は続けないです。ただ、その時点での貯蓄額によります(笑)。
──正直だなあ(笑)。
Deu リアルなことを言うと、文章は書くかもしれないです。今、歌詞が書けなくなることはないので、文章を書く仕事はしているかもしれない。でも、音楽はもうやらないと思います。
──なるほどなあ……。
Ito 「どうしよう」って感じですよね、このインタビュー(笑)。
──うん……まあ、1stアルバムのタイミングですし、往々にしてこういう取材は「これからがんばっていきます!」という前のめりなものが多いですけどね(笑)。でも、PEOPLE 1は「将来、音楽やめる」と言っている。
Deu 最高。ロックでいいじゃないですか(笑)。
“君”には優しくできた
──今日のお話を聞いていると、歌詞の解像度が上がりますよね。例えば「怪獣」の「さあさあ怪獣にならなくちゃ 等身大じゃ殺されちゃう」という歌詞はItoさんが言うように、Deuさんの覚悟を感じる。この曲には「全然好きじゃないことも 本当は思っていないことも 君のためなら歌えるよ これからの僕は」というラインがありますけど、「君のためなら歌える」というのはやはり、自分と同じような孤独感を抱えた人たちがいる、という前提から書かれているわけですよね?
Deu そうですね。今回のアルバムの中で「怪獣」は最後のほうに作ったんですけど、その時点で暗い歌詞しか書けなくなっていて。でも、世の中は暗い歌詞をそんなに求めていないんですよね。なんだかんだで、みんな明るい曲が好きなんだろうなと思って。じゃあ、この曲をどうやって明るくしようかと考えたときに、“君”という対象を生み出さないと無理だったんです。まあ、僕には唯一、優しい気持ちになれる人たちがいるので。大衆に向けてはまだまだ優しくはなれないですけど。
──でも、自分と同じような孤独を抱えている人たちになら優しくできた。
Deu そうですね。
結局、失敗作なんだよな
──ほかの曲についても伺うと、「フロップニク」という曲タイトルは、そもそもは人工衛星スプートニクを揶揄する言葉なんですよね。
Deu 「フロップニク」は、PEOPLE 1として曲を出し始めて、それに対する世の中の反応が見えるようになってから作った曲なんですよね。当時、自分たちの曲に対するコメントを見ると「歌が下手」とか書いてあって(笑)。実際、僕は歌が下手だし、「ああ、やっぱり言われた」と落ち込んで。そのときの感情をそのまま歌詞にしています。……やっぱりいびつなんですよ、PEOPLE 1って。矛盾のある人が作っている世界観なので、いびつ。「結局、失敗作なんだよな」と思ったんですよね。J-POPのなり損ないというか、PEOPLE 1のポップイズムには偽物感が強い。嘘だとは思わないですけどね。でも、結局は偽物なんだよなって。それを「フロップニク」という言葉に重ねた感じはありますね。
──偽物としての美学もあるんじゃないですか?
Deu そもそも、僕が“偽物村”生まれなので(笑)。大衆音楽の村の塀の外で生まれているので、基本的にはどうあがいても偽物なんですよ。村のルールを知らないから。でも今の時代に大衆音楽をやろうと思うと、裏の裏のやり方しか通用しないとも思います。「本物っぽいもの」をうまく作ったところでニーズはない。這い上がるストーリーもひっくるめて裏の裏からスタートしないと、商品にはならないなと思ったので。
Itoから見たDeuの覚悟
Ito ……過去に書いた歌詞に出ていますよね、Deuさんのそういうところ。僕は勝手に歌詞を分析して、わかったフリをしていますけど。
──Itoさんは、Deuさんが書く言葉を歌う立場として、歌詞にはどういうふうに向き合うものですか?
Ito 実際のところ、ちゃんとした向き合い方はまだわかっていないんですよ。なので、苦しいんですよね。僕はDeuさんの書く歌詞がめちゃくちゃ好きなんですけど、全然、自分が思い描くようには歌えていない。Deuさんの書く歌詞が伝えようとしていることを僕はまだ理解し切れていないと思うし、そもそも「怪獣」の歌詞のように僕はまだ思えていないんですよ。照れもあるし、覚悟もないから。それが自分の歌い方に出ているなと最近よく思います。今回のアルバムのレコーディングは、Deuさんの家やサポートメンバーの家に行って練習したりして、めちゃくちゃ悩みながら歌ったんです。でも次はもっと、殻を破らないといけないなと思っています。
──Itoさんから見て、Deuさんは覚悟しているように見えますか?
Ito 今回の「PEOPLE」のアルバム制作くらいからは、特に感じています。3枚目のEPまでとは違うなと思う。今までは狭い部屋でのんびり録っていても、何かが迫ってきているわけでもなかった。でも今はPEOPLE 1の周りにはいろんな人がいて、いろんな工程の中で回っているので。何かを捨てて、その場所に何かを入れて、なんとか完成させていく……そういうプロセスが、Deuさんの中では絶対にあったと思うんですよね。そこにDeuさんの覚悟があったんだろうなと勝手に思っています。
ぬるま湯の思い出を閉じ込めた「113号室」
──例えば「113号室」は、恐らくItoさんが言うPEOPLE 1がもともといた“狭い部屋”の感覚が曲になっていますよね。
Deu そうですね。「113号室」ができたのは、「フロップニク」も出たあとで。売れるために始めたPEOPLE 1だけど、けっこうマジで注目され始めて、ショックだったんですよ。その気持ちが如実に出ているのが「113号室」だと思います。やっぱり、それまでぬるま湯にいたんですよね。事務所にもレーベルにも入らず、誰かに手伝ってもらうわけでもなく、3人だけでワチャワチャやっているだけで、本当にちゃんとぬるま湯だった。究極的な話、それが永遠に続けばいいんですよ。みんな大好きモラトリアムが続けばいい(笑)。だって、あの瞬間が一番美しいから。でも、ぬるま湯を出なきゃいけなくなって。これから、どんどんつらくなっていくし、苦しい日々が続くんだろうなと思ったんです。せめて、このぬるま湯の美しい思い出をパッケージングしておこうとして作ったのが「113号室」です。タイトルの「113号室」というのは、僕が住んでいた部屋番号です。
Ito 「アイワナビーフリー」や「東京」も、113号室で録りましたね。
──PEOPLE 1は、曲作りはどのように行うんですか?
Deu 我々の曲作りはちょっと特殊で、先に曲の意味ができるんです。概念が発生し、歌詞やタイトルができて、最後に作曲や編曲という工程がくる。だから、歌詞が暗いとそのぶんバランスを取るために、明るい曲になったりする。
──例えば「東京」であれば、「東京」という概念を先に作って、それに合わせて歌詞を書き、そしてオケを作っていく?
Deu そうです、そうです。「東京」という、すでに世の中にたくさんの名曲がある題名をまず付けて、「このタイトルでちゃんといい曲を作れなきゃ、この先は無理だな」と意識して作っていきました。
──Deuさんは東京出身ですか?
Deu 東京出身です。といっても23区外ですし、ちょっと外れている感じもあって。そういう意味で、この曲も少し俯瞰的な感じがするんですよね。都心部出身の人が描く東京でもないし、地方の人が描く東京でもない。けっこうニュートラルな感じがしますね。
All you need is love
──「常夜燈」は端から見てもPEOPLE 1にとってターニングポイントの1曲という気がするんですけど、どのように生まれたんですか?
Deu この曲は「売るための曲を作ろう」と思って作りました。「バズる曲を作ろう」って。ただ、この曲を作っていたとき僕は絶賛不幸せな時期で(笑)。でも、不幸せな状況は誰のせいでもなくて、自分が勝手に不幸せになっているだけだなと思って。「じゃあ、なんで自分は不幸せなんだろう?」というところから始まった気がします。幸せの相対評価というか、「幸福」というものに対しての自分の考えを書いた曲だと思います。
──Deuさんは、幸福とはどんなものだと思いますか?
Deu そうですね……結局、“All you need is love”かな。愛、確かな愛がそこに存在していれば幸せかもしれないですね。
──Deuさんの口から「確かな愛」という言葉が出てくるのは、意外なような、納得のような感じですね。
Deu 逆に、確かなものなんてこの世に1つもないとも思いますけどね。永遠なんてまやかしだし、一生続くものなんてないし。
──最後に、観念的な質問ばかりですみません。今はPEOPLE 1という場所で闘っていますけど、本来、Deuさんはどんな生き方が理想ですか?
Deu 波風が立つのは嫌だなあ。特に外的要因で何か起こるのが嫌なんです。「なにも起こるな」と思っています。湖みたいな感じがいいです。
Ito 風くらいならいいですか(笑)。
Deu そうね、風が限界(笑)。とはいっても、未練のある自分もいるので。ちゃんと闘ってピリオドを打って、その湖のような世界に行けるのが一番いいです。
ライブ情報
PEOPLE 1 TOUR 2021「ベッドルーム大衆音楽」追加公演
2021年12月20日(月)東京都 TSUTAYA O-EAST
プロフィール
PEOPLE 1(ピープルワン)
Deu(Vo, G, B, Other)、Takeuchi(Dr)、Ito(Vo, G) からなる3ピースバンド。2019年12月に初の音源集「大衆音楽」をリリースして活動を開始すると、ジャンルレスかつ文学的な楽曲と、独創的な世界観を表現したミュージックビデオ / アートワークがインターネット上で話題を呼んだ。2020年9月に「GANG AGE」、2021年4月に「Something Sweet, Something Excellent」とこれまで3作の音源集をリリース。2021年6月に初ライブを行い、10月からは初のワンマンツアー「ベッドルーム大衆音楽」を実施している。11月には1stアルバム「PEOPLE」をリリース。
PEOPLE 1 (@PPP_PEOPLE1) | Twitter
PEOPLE 1 (@ppppeople1) | Instagram