エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)×菅波栄純(THE BACK HORN)|泣ける歌モノを追求する貪欲な2人

ペリカンとバックホーンの共通点は“泣ける”こと

──お二人は歌詞を書くときにどういうものを題材にするんですか?

エンドウ 中学生の頃に歌詞にしていたのは何かに対しての怒りが多かったですね。クラスメイトに対してだったり、テレビのニュースで観た腹立たしい事件に対してだったり。日記のように怒りを詞にぶつけていたんですよ。高校に入ってオリジナル楽曲を作るようになって、そういう怒りの詞とは決別したくてただきれいな言葉を並べたような歌詞を書くようになりました。PELICAN FANCLUBの前身バンドのときには、怒りをまた歌にしたくなって、原点回帰した感じですね。

菅波 へえ、面白い。俺、ペリカンの歌詞って常に表層だけじゃ本当に伝えたいことがわからないようにできてると思ってるんだよね。ミルフィーユみたいに何層にも折り重なっているから何度も聴くと、だんだん本心が見えてくるというか。

エンドウ 見抜かれてますね(笑)。自分がホントに怒ってるっていうのを知られるのが恥ずかしいんですよ。だからあえてポップなサウンドに一見怒っているように見えない単語を使った歌詞を乗せて、怒りの感情を忍ばせてます。

左からエンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)、菅波栄純(THE BACK HORN)。

菅波 なるほどね。怒りと言えば、俺は小中学生の頃、怒ってる人を見るといつも悲しい気持ちになっていたんだよね。人って怒ると意思疎通がまずできなくなって今まで積み重ねてきたコミュニケーションを一切否定するようになるじゃん。それがあまりに悲しくて。そういう理由で自分もエンドウと同じように高校生の頃は怒りの感情を抑え込んでいたんだよ。でもうちのボーカル(山田将司)と出会って、俺が封印していた怒りの感情を彼に歌ってもらうのもいいんじゃないかと思えて。そういう理由があってバックホーンの初期の音楽は怒りとか悲しみが渦巻いてるような感じの曲が多い。怒りの扉は自分1人で活動していたら閉ざしたままいたかもしれない。

エンドウ 僕はその逆でみんなが笑ってるところを見ると悲しくなるんですよ。

菅波 えー! 逆だね!

エンドウ めちゃくちゃ幸せな瞬間みたいなのが一番悲しくなるんですよね。その瞬間はいつか終わってしまうから、それがすごく悲しくて。だから自分の歌詞で誰かを泣かせたいって思ったらめちゃくちゃ幸せな光景を描くんですよ。それが一番曲終わったときに悲しくなるんじゃないのかなって自分は思っているので。

菅波 そういうのが作家の個性になるんだろうね。俺が書く怒ってるような曲って最終的には泣いてほしい気持ちが含まれているんだと思う。

エンドウ バックホーンの曲を聴くと、ウオーって興奮するんですけど、泣き叫びたくなるような要素も感じるんですよね。ものすごく感情が揺さぶられます。

菅波 俺らは性格も音楽の趣味もけっこうバラバラなんだけど、泣けたり切なくなったりできるような曲が好きっていうのが唯一の共通項なんだよね。バックホーンって激しい曲が多いんだけど、4人共ただ激しい曲って全然ピンとこなくて。

エンドウ 僕がバックホーンを最初に聴いたときすごい好きだなって思ったのってCメロなんです。Aメロ、Bメロ、サビと駆け抜けて、Cメロで泣き落とす部分があって……で、そのまま終わったり最後またサビになったりとか、その部分が僕すっごい好きなんですよね。

菅波 それは一番こだわってるところだよね。でも一時期その呪縛にハマって激しい曲の中に静かなパートを入れないと気が済まなくなったことがあったよ。そういう作品を作っていたら、全然俺らのことを知らない人がバックホーンのCDを聴いて「これ全曲同じに聞こえるんだけど」って言ってて、ヤバいなと気付かされた(笑)。

エンドウ でも僕はそこが好きなんですよ。激しい中に切ない要素があるっていうのはバックホーンの音楽で一貫してるじゃないですか。僕はバックホーンのライブを観るとき、いつも最初は腕を組んじゃうんです。でも気付いたときには頭を振って、両手を挙げて「ウオー!」って叫んでる。感情が決壊してあふれ出ちゃうみたいな感覚になるんですよね。バックホーンが激しい曲をやっているときは「この人たちは今のステージで死んでも悔いがないんだな」って思うし、バラードをやっているときは「この人たちまだまだ生きたいんだな」って思う。感情の揺らぎが音楽を通じてダイレクトに伝わってくるんですよ。だからバックホーンのライブを観終わったとき、ものすごく疲れるんですよね。いい意味で。

菅波 ペリカンもライブで感情があふれ出している感じがするけど、CDだとちょっとそこがまた違うよね。

エンドウ CDで伝えたいこととライブで伝えたいことが違うんですよね。CDはやっぱり作品として伝えたいという気持ちが今まで強かったので。でも「Home Electronics」は作品とライブをもっとリンクさせたいっていう気持ちで作ったので、ライブ中に演奏している僕らの気持ちと、それを観ているお客さんの気持ちが同じタイミングで沸点に到達できるような構成、サウンドにすることを心がけました。

菅波 曲もそうだけど、アルバム全体の構成もいいよね。頭3曲は熱量が高くてメロディも泣けるし、歌詞には青春感がある。なんかもうド頭でライブみたいな感覚を味わえる気がするんだよね、この胸に刺さってくる感じが。それ以降もいい曲が続いていくのもすごいところ。「こういう曲もあるんだ」っていう意外な曲もあるし、ペリカンの初期の頃の雰囲気を踏襲しつつ、ブラッシュアップされた「これこれ、やっぱりこれだよねペリカンは」みたいな曲もあってすごいなと思って。

エンドウ ありがとうございます。

新しく取り入れたイメージを共有すること

──今までにない制作の仕方や音の選び方をしたと資料にあるんですが、具体的に今までの制作とどういうところが変わったんですか?

エンドウ 今までは曲を作るうえで「こういう感じのサウンドにしよう」っていうイメージがあって、それに対してどうアプローチしていくのかっていう作り方が多かったんですよね。今回は言葉をテーマとして置いて、それにメンバーそれぞれがどういうイメージの音を鳴らすのか、という実験的な方法で制作をしたんです。アルバムの「夜の高速」って曲なんかはスタジオにみんなで集まって「じゃあ『夜の高速』をお題に曲を作ろう」って言ってそこからそれぞれがイメージを膨らませて作っていったんです。

左からエンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)、菅波栄純(THE BACK HORN)。

菅波 えー! すごい。

エンドウ この曲に関しては歌詞まで即興なんです。あとから手は加えてますけど。だから出だしが「夜の高速」なんですよね。

菅波 その作り方いいね。

エンドウ 何かのお題に対してみんなそれぞれアプローチしていくっていうのが今までとは違うところ。セルフタイトルアルバムのときは僕が中心になってみんなが動く感じだったんですけど、前作の「OK BALLADE」の制作から役割をみんな持つようになってきたんですよね。と言うのも僕が、エンドウアンリの曲をPELICAN FANCLUBが演奏するっていうより、PELICAN FANCLUBが作った曲をPELICAN FANCLUBで演奏したかった。そうするためにはメンバーそれぞれの魅力を曲に出したいと思ったんですよ。例えばシミくん(シミズヒロフミ / Dr)はドラムが抜群にうまいから、それを生かしたリズムパターンとかを採用したかったし。

菅波 シミズうまいもんね、ドラム。

エンドウ そうなんですよ。みんなには「僕はこういう詞を書いたからこれに対して、みんなが思うイメージの音をくっ付けてくれ」みたいなざっくりしたことしか伝えなかったんです。

菅波 そのやり方ですごくいいなって思ったのは「夜の高速」っていうワードに対してみんな違う情景を思い浮かべると思うんですよ。レインボーブリッジを想像する人もいるだろうし、俺は車運転しないから車窓に光がビュンビュン飛んでる光景とかを思い出すんだけど。なんかそのズレさえも内包して曲に仕上げてくっていうのが、バンドっぽいなって。その人間たちが集まってるからこそ鳴らせる音になっていくんだろうなって思った。

エンドウ そうなんですよ。あと僕らは機材車に乗る時間がすごく多いので「夜の高速」というシチュエーションを共有している時間が長いんです。だからイメージするものがだいたい近いなと思ってて、やってみた結果がこの曲で。僕は運転しないので、最初は助手席にいる人の歌だったんです。でもなんかそれって頼りなかったので、運転手のほうに切り替えました(笑)。あと、この曲を作って面白いと思ったのは、メンバーのイメージしている夜の高速のシチュエーションが一緒だったんですよ。みんな東京を出て静岡あたりに向かっていくところを想像していて。

菅波 それすごくない?

──あくまで私の想像なんですけど、夜に東京を出発して静岡あたりで皆さん寝てしまうとかでは……(笑)。

エンドウ そうなんです(笑)。出発してすぐはみんなテンション高いんですよ。で、静岡あたりになってくるとだんだんみんな静かになって眠るっていう。だからここまでイメージが合致したんだと思うんですけど。新曲に関してはどれもそういうふうにみんなのイメージが近くなるように共有するっていうのを心がけて作っていきましたね。それが今までとは明らかに違う制作の仕方だったんです。

菅波 「OK BALLADE」と今作を比べたら俺的には「OK BALLADE」のほうがすごくセルフプロデュース感が強く感じたの。どっちにしろセルフプロデュースなんだけど、今作はまるでプロデューサーでも立てたかのように自分らの魅力がソリッドに曲に込められてる気がしたんだよね。だけど今回はバンド4人で作り上げたっていう話だし、セッション性の高さもある。セッションで作りながらもセルフプロデュース感が出せるのはやっぱりこの4人でいる必然性があるんだろうなと思ったね。

エンドウ 「この音を鳴らすのはPELICAN FANCLUBである」っていう必然性をマストで伝えたいなと思ってたんですよね。今回初めて曲作り合宿もしたんですよ。1週間ぐらい4人で泊まってずっと楽曲を作ってました。それでやっとメンバーそれぞれの生活リズムや、曲作りのときに最初に何から手を付けるのかとか、そういうことを知ったんです。

左からエンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)、菅波栄純(THE BACK HORN)。

菅波 バンド合宿は絶対1回はやったほうがいいよね。そこでいろいろメンバーの素顔を知れたりするから。うちはドラムのマツ(松田晋二)が、けっこうおしゃべりなのよ。4人で同じ部屋で寝てたんだけど、電気を消してみんな寝るモードに入ってるのにマツはずっとしゃべってんの。俺なんてもういびきかきかけてるのに。そういうのを味わえるのが合宿のだいご味だよね(笑)。

エンドウ そうですね(笑)。ホント性格がすごくわかります。その合宿でできた3曲は結局今作には入らなかったんですけど、メンバーのことを深く知れていい機会だったなと思いました。意外とクルちゃん(クルマダヤスフミ / G)は集団行動したがらないんだなとか。だから基本的に僕とシミくんとカミ(カミヤマリョウタツ / B)で一緒にいて、曲を作るときとかもクルちゃんは1人にさせたほうがいいアイデアがあるんじゃないかなと思って別室にほっといたり。

菅波 そのほうがクルマダくんはクリエイティブになれると。

エンドウ そうそう。一方でカミとシミくんはテーブルに向き合って黙々とやってある程度したらしゃべるっていう感じだったんで、傍から見たら受験勉強してる友達同士みたいでしたね。

菅波 それがベストだったんだ(笑)。

エンドウ はい、日を重ねてそういうのがわかって。その間、僕は外に出てアイデアを探していましたね。なんか収穫があったら部屋に帰ってきて、まず最初に1人ギター弾いてるクルちゃんの部屋に行くんですよ。それで「調子はどう?」って聞いて、彼が考えたギターフレーズを聴かせてもらう。カミとシミくんは僕が部屋を出る前に渡した歌詞でフレーズを考えてくれてるんですけど、新しい歌詞で歌ったらその内容に合わせてフレーズを変えていくっていう。

菅波 へー。それ面白いね。

エンドウ みんな歌詞に寄り添ったフレーズを弾いてくれたんだなって、そのときに知ったんですよね。で、歌詞のイメージで彼らがフレーズを変えてくるじゃないですか。そのあとに実際に僕がどこでこういう気持ちになったっていうのを見せるために、みんなで一緒に散歩に行くんですよ。その詞を見せたあとに散歩したりしてイメージの共有がもっと、より具体的に鮮明にできる。それはすごいよかったです。

菅波 いいね。やっぱり歌詞の解釈はそれぞれにあったとしても、大元を共有できるバンドってすごい長続きするってイメージがあるんだよね。俺らは全員歌詞を書くから、たまに「俺だったらそうは書かない」みたいな言い合いになったりもするけど、そういうのも含めて歌詞についてイメージし合えたりするのはいいことだと思う。

PELICAN FANCLUB「Home Electronics」
2017年5月10日発売 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT
PELICAN FANCLUB「Home Electronics」

[CD]
2808円 / UKDZ-0183

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 深呼吸
  2. Night Diver
  3. Luna Lunatic
  4. Black Beauty
  5. You're my sunshine
  6. 夜の高速
  7. ダダガー・ダンダント
  8. 許されない冗談
  9. Trash Trace
  10. 花束
  11. 朝の次へ
  12. Esper
「Home Electronics / PELICAN FANCLUB」
「Home Electronics / PELICAN FANCLUB」

iOS向けアプリ
480円

App Store

PELICAN FANCLUB「Home Electronics」発売記念インストアイベント
  • 2017年5月13日(土)
    東京都 タワーレコード新宿店
    START 12:00
  • 2017年5月18日(木)
    愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店
    START 18:30
  • 2017年5月26日(金)
    大阪府 タワーレコード難波店
    START 19:00
  • 2017年5月27日(土)
    広島県 タワーレコード広島店
    START 18:30
  • 2017年5月28日(日)
    福岡県 タワーレコード福岡パルコ店
    START 18:00
  • 2017年6月2日(金)
    宮城県 タワーレコード仙台パルコ店
    START 19:00
PELICAN FANCLUB TOUR 2017 "Electronic Store"
  • 2017年6月9日(金)
    愛知県 APOLLO BASE(※ワンマン)
  • 2017年6月18日(日)
    大阪府 ROCKTOWN(※ワンマン)
  • 2017年6月25日(日)
    東京都 UNIT(※ワンマン)
  • 2017年6月30日(金)
    福岡県 graf
  • 2017年7月2日(日)
    広島県 BACK BEAT
  • 2017年7月3日(月)
    香川県 DIME
  • 2017年7月11日(火)
    新潟県 CLUB RIVERST
  • 2017年7月12日(水)
    石川県 vanvanV4
  • 2017年7月13日(木)
    宮城県 enn 3rd
  • 2017年7月14日(金)
    千葉県 千葉LOOK
PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)
PELICAN FANCLUB
2012年に結成された4人組ロックバンド。現在はエンドウアンリ(Vo, G)、カミヤマリョウタツ(B)、クルマダヤスフミ(G)、シミズヒロフミ(Dr)で活動している。2014年10月にタワーレコード限定で100円シングル「Capsule Hotel」をリリースし、耳の早い音楽ファンから大きな話題を集めた。2015年1月に1stミニアルバム「ANALOG」を発表。8月にUK.PROJECT内のレーベルDAIZAWA RECORDSよりアルバム「PELICAN FANCLUB」をリリースし、同作の発売を記念した全国ツアーのファイナル公演を11月に東京・WWWにて行った。2017年2月にはAge Factory、パノラマパナマタウンと共に「GREAT TRIANGLE TOUR 2017」を行い、全国6カ所を回る。5月に1stフルアルバム「Home Electronics」を発表し、6月から東名阪でのワンマンライブを含む全国ツアー「PELICAN FANCLUB TOUR 2017 "Electronic Store"」を開催する。
THE BACK HORN(バックホーン)
THE BACK HORN
1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2014年には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 -THE BACK HORN Film-」が公開された。2016年10月にシングル「With You」と、映像作品「KYO-MEIツアー ~運命開歌~」を発表した。2017年2月にかねてより親交のあった宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」をシングルとしてリリース。