ナタリー PowerPush - パスピエ
話題沸騰の文化系ニューカマー 初アルバムは「わたし開花したわ」
祖母が電話口で私の歌を歌ってくれたんです
──自分たちの音楽の“新しさ”はどこだと思います?
成田 いろいろな音楽を聴いていろいろな音楽をやってきたので、それらを混ぜ合わせたら結果的に面白いものになるんじゃないかっていうのはありますね。ただ、僕らはそうして今まで培ったものを生かしてやりたいことをやるけど、それが新しいかどうかを判断するのはリスナーの人たちです。いくら僕らが「これ新しいよ!」って言っても、世間が認めなかったらそうではないと思ってます。
──「わたし開花したわ」に対するリスナーの反響はどうですか?
大胡田 個人的なことなんですけど……。
──どうぞ。
大胡田 祖母が電話口で私の歌を歌ってくれたのがとてもうれしかったです(笑)。
──それは具体的には?
大胡田 アルバムの3曲目の「あきの日」という歌です。
──尊敬するボーカリストとかいらっしゃるんですか?
大胡田 日本の方ですと、小川美潮さんです。
曲から浮かんだ景色を詞にすることも
──そもそもこのアルバムの8曲は、これまでのレパートリーから選りすぐった自信作ばかりだそうですが。
成田 そうですね、やはり自信がないものを出すわけにはいかないので(笑)。今回は初めてのアルバムということで、なるべくインパクトのあるものにしたいな、という気持ちはありましたけど。
──今日は作曲を担当する成田さんと作詞を担当する大胡田さんにお話を伺ってますが、2人の曲作りはどんなふうに進められるんでしょうか?
成田 僕が最初にコードとかメロディを作って、それを大胡田に投げて、というのが基本です。たまに僕が曲に仮タイトルをつけることもあって「パピヨン」という曲はその仮タイトルから彼女が広げていってくれました。あと「うちあげ花火」もタイトルだけ僕が伝えて、というやり方でしたね。
──大胡田さんは詞を書くときはどのように?
大胡田 すごく物忘れが激しいのでノートを持ち歩いてるんです。浮かんだ言葉とか気に入った言葉をノートに書いておいて、それを詞にすることもありますし、成田さんが持ってきてくれた曲から浮かんだ景色を書くこともあります。「うちあげ花火」みたいに既にタイトルがある場合は夜の空を見て、そのとき思ったことをメモしたりもしました。それ以前はただ自分の頭の中のことをメモすることが多かったんですけど。
──今回、スペースシャワーTVのステーションIDにも採用された「電波ジャック」だけ歌詞が2人の共作になっていますよね。
成田 元々僕が詞曲とも作ったものがあって、今回リリースするにあたって大胡田なりに「ここは歌いづらい」みたいなのを彼女が直して、という感じです。
──それから「チャイナタウン」はまさに中国を思わせる曲調で。
成田 僕自身は全然「中国っぽいなあ」って思いながら作ったわけじゃないんですけど、でもああいう音階が好きっていうか、矢野顕子さんとかYMOとかのような日本音階というか中国音階というか、元々僕がすごく好きな要素が自然に出たんでしょうね。それを大胡田に渡したら「チャイナタウン」というワードが出てきて……。
──曲の段階で中国音階を意識していたわけじゃないのに、歌としてはそのように着地する、というのも楽曲制作の醍醐味なのでは?
成田 そうですね。ラフスケッチを渡して「ここにこういう色の塗り方があるのか」って知ったときは驚きと充実感があるし、それこそがやってて面白いところです。
誰でも口ずさめる曲を作りたい
──あとバンドの演奏も、小さくきれいにまとめるのではなく、楽器同士の自由なせめぎ合いがありますね。そこはパスピエの大きな魅力だと思います。
成田 コードだけ伝えて、メンバーが演奏した中から良いピースをピックアップしていくことが多いですね。ひとつ言えるのは僕らの場合、勢いでガーっとやって「これでいいじゃん」ていう曲はひとつもないってことです。何回もやっていくうちに生まれたピースとピースを組み合わせていく作り方なんで。
──それぞれの楽器から自己主張を感じますしね。
成田 メンバーそれぞれの自己主張は大切にしてますね。リハのときからみんなガンガンに飛び出していくんで、いい“飛び出し”はそのままにして、押さえなきゃいけないところは押さえてくやり方で。“飛び出し”がなくなったら音楽はつまらないですから。
──そして演奏もさることながら、パスピエはJ-POPとして気楽に楽しめる"いい曲"が多いと思うんです。
成田 「それがコンセプトです」とまでは言えないだろうけど、「誰でも口ずさめる曲にしたい」というのはあります。だから曲を作ってても「ここの音階はこうしたほうが……」みたいな、1つか2つの音の動きにものすごくこだわったりします。
──なんかサビに向けてはっきりと印象付けたいところは、故意にメロディを単純化しているような感じも……。
成田 あー、そうですねえ。指摘されると恥ずかしいですけど(笑)。
──では最後にこれからの活動について聞かせてください。
成田 いっぱい曲を書いて、いい音源を録って、それをたくさんリリースできたらなあ、というのは思ってます。その中から残る作品が生まれたらいいですね。ライブも、その場の一瞬一瞬を取り入れつつ最高のものにしていきたいです。
パスピエ(ぱすぴえ)
2009年に成田ハネダを中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、ミサワマサヒロ(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定でリリース。2011年11月、初の全国流通作品となる1stアルバム「わたし開花したわ」を発表した。