PassCode|日本武道館公演に向かって 南菜生が思い語る

PassCodeが12月23日にメジャー3rdアルバム「STRIVE」をリリースした。

1stアルバム「ZENITH」で掲げた“ラウドロック+電子音+オートチューン+デスボイス”という独自のサウンドデザインをベースに、2ndアルバム「CLARITY」ではさまざまなバリエーションの獲得に挑戦した彼女たち。それらを経て完成した今作では、豊富な球種を操りながらも最終的には剛速球でねじ伏せる本格派投手のようなスタイルを確立し、PassCodeの新たなスタンダードを提示している。

音楽ナタリーではメンバーの南菜生にインタビューを行い、メジャーデビューから「STRIVE」にたどり着くまでの4年間を振り返ってもらいながら、そこでPassCodeが何を獲得してきたのかを探った。また、2022年に実施することが決まった東京・日本武道館公演に対する特別な思いも語ってくれている。

取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 宇佐美亮

自分たちの選択は間違ってなかった

──音楽ナタリーでのインタビューはメジャーデビューのタイミング(参照:PassCode×プロデューサー平地孝次「MISS UNLIMITED」インタビュー)以来なので、約4年ぶりになります。ざっくり振り返って、どんな4年間でした?

メジャーデビューしたからといって何かがすごく変わったということはなくて、協力してくれる人やPassCodeを好きでいてくれる人たちが増えたなっていう感覚ですね。メンバーは相変わらず好きなように楽しくやらせてもらっています。きっとこのレーベルじゃなかったら、ちょっとでもタイミングが違っていたら、こんなふうに自分たちらしく活動できていなかったかもしれない。そう思うと、自分たちの選択は間違っていなかったように思います。私たちならではの“身内感”は変わらずに、手伝ってくれる人が増えて、できることが増えていった。

──何か見えない力でブーストされることなく、一歩一歩自分たちの足で歩んできた実感があるわけですね。

そうですね。本当に一歩一歩、着実に。ほかのグループと比べると成長のスピードを遅く感じてしまって、不安に思うこともあったんですけど。でも、きっとこの速度だからこそ見えた景色もたくさんあったと思うので、PassCodeらしくていいんじゃないかなと思っています。

──この4年間でもっとも変わったのはどういうところだと思いますか?

自分たちの中でできるようになったことや変わったことはたくさんあると思うんですけど、目に見えて一番わかりやすい変化は、観てくれる人が増えたことですね。2016年8月8日にZepp DiverCity TOKYOでメジャーデビューを発表したときは、客席がガラガラだったんです。その年のツアーファイナルを行った新木場STUDIO COASTにも全然お客さんが入らなかったんですけど、去年やったZeppツアーではどの会場にもすごくたくさんの人が観に来てくれて、今年1月の新木場2DAYSも両日ソールドアウトして。変わらずにやってきたことを、こんなにもたくさんの人が受け取ってくれるようになったんだなと感じています。昔は「なんで気付いてもらえないんだろう?」という思いばかりが強かったんですけど、今は「この人たちのために何ができるだろう?」と思えるようになった。考え方の面でもだいぶ変わりましたね。

──迷った時期や、うまくいかないなと感じる時期などはありましたか?

そういう時期のほうが多かったです。メジャーデビューして今田(夢菜)が体調不良でお休みをいただいたりとか。復帰してすぐ本調子に戻れたわけでもないですし、「どうやったらメンバーの気持ちを全力でライブに持っていけるのかな」みたいなところで、すごく迷ったり悩んだり……自分たちの成長速度がすごく遅いようにずっと感じていたんですよ。例えば動員にしても、もっとすごいスピードで伸びているグループがほかにたくさんいるのがわかっていたし。周りからは「順調だね」「順風満帆だね」なんて言ってもらえることが多いんですけど、どちらかというとメンバー内では「もどかしいね」という話をすることが多いです。

南菜生

──それをどのように乗り越えてきたんでしょう?

事務所が大手ではないこともあって、関わっている人数が少ないからこそメンバーの意見をたくさん聞いてもらえたり、「こうしていきたい」という話し合いができたりするんです。私たちはただステージに立ってパフォーマンスをするだけの集団ではなく、裏方も含めたみんなで一丸となって、自分たちで選んだ道を信じて進んできました。もどかしいこともたくさんありますけど、それがPassCodeなんだろうなと思っています。メジャーデビューしてからはいろんな方法で知ってもらえるようになってありがたいなと思ってるんですけど、「最終的にはライブで知ってもらう」という姿勢はインディーズ時代から変わっていない。そうじゃなかったら今のPassCodeにはなっていないと思います。

──メジャーデビュー以前はメンバーの入れ替わりがけっこうあったり、音楽性も定まっていませんでしたよね。でもその後に関しては、ものすごくまっすぐに迷いなく進んできたように傍目からは見えます。

音楽性に関しては、そうですね。メジャー1stアルバム「ZENITH」(2017年8月発表)のときは、1枚目から“頂点”という名を冠した作品を出すことに少し違和感があったんですけど、今になって考えるとその原点があったからこそブレずにやってこられたのかなって。メジャーデビュー以降はそこから派生したものを増やしていっているだけで、いろんな枝が広がってはいるんですけど、最終的には「ZENITH」という“幹”につながっているなと感じています。

──その“幹”を作ったのはサウンドプロデューサーの平地孝次さんですよね。アイドルが歌うものとしては異質な音楽性だと思いますし、メンバーさん的には当初「え、これで行くの?」みたいな戸惑いもあったんじゃないでしょうか。

私はむしろ、ラウドロック路線に変えた最初の1曲目で「PassCodeを続けていくのであれば、こういう道なんだろうな」と感じていました。インディーズ時代の初期はすごくかわいらしい楽曲を歌っていたんですけど、ライブを観に来てくれる方が2、3人しかいないような日も多くて。それから高嶋(楓)や今田が入って「アスタリスク」という最初のラウド曲を出したときに、すごく曲を聴いてもらえた感覚があったんです。良くも悪くもたくさん評価をしてもらえた。

──それまで“普通”のアイドル曲をやっていたときは、曲に対する反応自体がほとんどなかったんですね。

はい。私がもともとバンド音楽が好きだったというのもありますけど、激しい音楽に路線変更することに対して違和感やためらいは全然なかったです。まったく知ってもらえていない状態を経験しているので、それ以下になることはないだろうなと。覚悟が固まっていたと言ったらおかしいですけど、それでPassCodeがうまくいかなくても仕方ないなと思っていました。

──「これで失敗しても納得できる」と思えるくらい、確信めいたものが最初からあったと。

そうですね。

表に立つ4人だけがPassCodeではない

──そしてメジャー3rdアルバム「STRIVE」が完成しました。手応えはいかがですか?

1枚目の「ZENITH」と2枚目の「CLARITY」(2019年4月発表)を経ての3枚目なんですけど、どちらかというと1枚目に近いアルバムだと思っていて。2枚目はPassCodeのできることを増やす方向性のアルバムでしたけど、今回はまた新たな挑戦を始めているというか。コロナ禍以降は思うように活動できていない部分もたくさんあるんですけど、今まで通りのライブができないからといって“音源で完結する”方向に寄せるのではなく、自分たちがずっとライブでやってきたことをそのままアルバムにしたような作品です。あえて今ライブではできないシンガロングを多めにしてみたり。このタイミングで出すからこそ意味があるというか、「リリースしたから終わり」じゃなくて、普通のライブができる日常が帰ってきたときに改めて完成していくんじゃないかな。

──おっしゃる通り、ライブで演奏されてこそ意味を持つ楽曲ばかりだなと感じました。そういう意味では、PassCodeはバンドではないですけど、やっていることはライブバンド然としていますよね。

メンバーだけじゃなくて、作曲の平地さんも「曲が完成するのはライブだ」というふうに言ってくれていて。作曲家の場合、普通なら「CDになったら終わり」という考え方をする人のほうがきっと多いと思うんですけど。

──1人で全部の音を作れるタイプの人は特にその傾向が強いでしょうね。

そうですよね。平地さんは新曲披露のライブを観てやっと「この曲はここで完成した」と思うらしくて。音源やツアーで演奏してくれているバンドメンバーも含め、楽曲制作に関わるすべての人間がライブという場をゴールに設定して作っているからこそ、一体感やライブ感がアルバムにも生まれるんだろうなと感じています。

──そういうお話はチーム内で共有しているんですか?

普段、平地さんと「こういう曲があったらいいな」みたいな話は特にしないんですけど、そう思っているタイミングで「これや! これが欲しかったやつや!」っていう曲が届いたりするんです。言葉を介さずともわかり合えているところなんだろうなと。表に立っている4人だけがPassCodeなんじゃなくて、関わっているスタッフさんとかも含めてPassCodeだと私は思っているんです。そのチーム感があるからこそできることなんじゃないかなって。

──逆に言うと、メンバーから「こういう曲をやりたい」といったお話はまったくしないんですか?

聞かれたら言いますけど、作曲のことは平地さんを信頼して全部お任せしていますね。ただ、昔はそのことにコンプレックスもあったんですよ。ライブで自分の思いを話すたびに「曲も書いてないくせに」みたいなことを言われることが多くて、「曲を書かないと何も話せないのかな」と思うこともあって……。ですけど、今は自分の持ち場に責任を持って、自分がやるべきことをしっかりやろうと。平地さんが作ってくれる曲を信じてるし、自分たちにはそれをベストな形でファンの方に届ける責任がある。

南菜生

──“PassCodeという意思”が中心にあるような感覚なんですかね? 南さんが話す内容はもちろん南さんの意思ではありつつも、PassCodeの意思でもあるみたいな。たまたま曲を作るのが得意な平地さんが作曲を担当していて、たまたまパフォーマンスが得意な4人がフロントを担当しているだけの話であると。

そうですね。チームでPassCodeだと思ってやっています。私たちが平地さんの作る曲を信頼しているように、私たちも信頼してもらえるパフォーマンスができたらいいなと。各々の持ち場に対しての責任と信頼を、何年もかけて培ってきたんです。

──で、たまたま話の上手な南さんがスポークスマン的な立ち位置にいるみたいな。

うーん……もともと私は自分の気持ちを伝えるのがそんなに得意ではなくて。でもずっと続けてきたからこそ「どういうふうに言ったら、PassCode・南菜生の言葉として間違いなく伝わるか」というのは何年もかけて考えてきたことですね。

──話術に関しては、ラジオで鍛えられている部分もあるんじゃないですか?

今やっているラジオ番組(BSCラジオ「LIKE SONG」)は1人しゃべりなので、自分の好きなことをただずっとしゃべっているだけなんです(笑)。それよりも、今年の4月に天野ひろゆき(キャイ~ン)さんのラジオ番組「サタデーミュージックバトル 天野ひろゆき ルート930」(ニッポン放送)で1カ月間アシスタントをさせていただいたことが大きいですね。すごくためになることが多くて。

──具体的にはどんなことを学びました?

天野さんは出会ってからすごくPassCodeのことを気にかけていただいて、リリースなどがあるたびに連絡をくださるんです。あれだけ人気のある方なのに、私たちみたいなそこまで売れているわけじゃないグループにもフラットに接してくださって。トークの技術だけではなく、それ以上に人間性の部分ですごく勉強になりました。自分もそうありたいなって。

──アイドルグループには“お兄ちゃん”的な立ち位置の芸人さんがいるケースが多いですけど、PassCodeにとっては天野さんがそういう存在ですか?

私以外のメンバーは数回程度しかお会いできていないと思うので、わからないですけど……。でも天野さんはライブを観にいらしたときにもすごく温かい言葉をかけてくださって、素直に「がんばろう」って思わせてくれる方ですね。