最初は全然評判がよくなくて、5曲くらい捨てたんです
──「宇宙人のいる生活」というテーマを思いついてから、どうやってアルバム制作を進めたんですか?
西山 最初はストーリーをしっかり作ってみようかって思ったんですよ。僕らみたいな音楽を作ってる奴らが、パーティに呼ばれたことをきっかけに宇宙人と遭遇して、頭をいじられて、アルバムの中盤に入ってるわけのわからないテクノを作るようになって、お別れして、でも最後に何かが残って……みたいな。聴きながらストーリーをちゃんと感じられるように、朝から夜へと進んでいく物語の時系列に沿って曲順を並べて。でも、そのつもりで15曲以上作ったんですけど、何人かに聴いてもらったら全然評判がよくなかったんですよ(笑)。「映画的な作品」を追求すると、自分たちのスタイルだとどうしてもラジオドラマや“架空のサントラ”みたいになっちゃうから、それは違うしなと思って、5曲くらい捨てて、もう少し説明的にならない抽象度になるように作り直したんです。
柴田 曲を並べてストーリーを作るには、アルバム全体を引きで見ながら作り込む必要があるんですけど、chelmicoにラップの部分を書いてもらった1曲目の「PUMP!」は「ドーン!」って声で始まるんですよね。
西山 そうそう、自分たちは「曲に役割を持たせよう」と考えがちなので、2人だけだったら1曲目は「ドーン!」じゃなくて、絶対にもっと柔らかい曲にしていたと思う。何かが始まる前兆を感じさせるような。
柴田 「未知のパーティー」ってリリックもあるしね。
西山 パーティに行くのはストーリー的にはまだ先なのに、主催を差し置いてもう飲み会が始まってるという(笑)。でも、そこも含めて「なんかいいな」って思ったんです。さっき話したような、他人の意識が入ってくる面白さがわかったというか。
柴田 うん、そこで「できあがった曲のほうに考え方を委ねて、そこから見えるものがあるかもしれない」という発想に変わったのはデカかったですね。
──僕はこのアルバムを聴いたときに、chelmicoとの「PUMP!」はオープニングテーマ、LAUSBUB髙橋芽以さんとの「Day After Day」はエンディングテーマみたいだなと感じたんです。つまり、物語の本編はこの2曲の間の部分で。
西山 ああ! それはめっちゃ正しいと思いますね。言われてみると確かに。そう解釈されるのはすごくありがたいな(笑)。
柴田 これからはそういうことにして、人に話していきます(笑)。
──「Day After Day」に関しては、パソコン音楽クラブが過去のアルバムで表現してきたのと近いものを感じました。
西山 そう、最後の曲だけはメタな視点なんですよ。今回のアルバムを作るきっかけになった、変わらない日常の閉塞感をそのまま歌にしているので。そう考えるとエンディングテーマというのは納得できます。
──林青空さんが歌う「KICK & GO」は昨年7月に配信された曲ですが、すでにリリースされているシングルがアルバムに収録されるって、パソコン音楽クラブでは初めてですよね。最初から「次のアルバムに入れよう」と思いながら作っていたんですか?
西山 そうですね。一応そのつもりはありました。アルバムを作ってみて、ハマらなかったらやめよう、くらいの感じで。
柴田 アルバムのコンセプトとかはまだ何も考えてなかったけどね。宇宙人とか。
西山 当時「とにかく夢中になりたい」って思っていたんですよ。
柴田 「See-Voice」の次はどうしようかって話しながら、何も考えずにデモを作ったら三三七拍子になっちゃって(笑)。
西山 「遠くから引きで眺めた風景描写」みたいな音楽ばかり作っていたら、俯瞰することが体に染み付いてしまっていたので、そうでない曲を作ってみようとしたのが「KICK & GO」だったんです。
柴田 結果として突破口にはなったと思ってて。「See-Voice」までの方向性を変えてなかったら、今回のアルバムは「死生観がテーマ」とか言い始めてたかもしれないし(笑)、それを打開できたからよかったです。
頭の中にあったのはスネークマンショーやPUNPEEの「MODERN TIMES」
──ゲストボーカルの人選はどのようにして考えたんですか?
西山 chelmicoのA&Rの方が僕たちのエージェントもやってくださっていた時期があったので、そういう縁で「一緒に曲を作れたらいいよね」ってなっていたんです。いつかchelmicoにフィットする音楽が作れたらお願いしたいなと。
──今回まさにピッタリな機会になったんですね。
西山 「It's(Not)Ordinary」を歌ってもらったMICOさんも同じような感じで。以前から個人的に友達として仲よくさせてもらっていて、SHE IS SUMMERの頃から声が好きだったので「いい曲ができたら歌っていただきたいな」という気持ちが頭の片隅にあったんですけど、今回できあがった曲がすごくはまりそうだったのでお願いしました。髙橋芽以さんは、以前からLAUSBUBが僕らのことをインタビューなどで触れてくれていて。
──メンバーの岩井莉子さんが中学生のときにパソコン音楽クラブが好きで、「高校に入ったらこんな仲間が欲しい」と思ったことがLAUSBUBの始まりだったと聞きました。
西山 はい。それで髙橋さんの声も素敵だなと思っていたので、この曲に合うかもと思いオファーしたんですけど、実際にレコーディングで歌声を聴いたら感動してしまって。
──「Day After Day」の曲調がマッチしているのも相まって、改めて歌のうまさを感じますね。
西山 めちゃくちゃ上手ですよね。このボーカルトラックはピッチについてはレコーディング時の録り音からあまり加工してません。頼んでよかったなと思いました。
柴田 The Hair Kidとは8年くらい前からの付き合いですね。パソコン音楽クラブを始めて間もない頃にMaltine Recordsのtomadさんに依頼されて、今はMilk Talkとして活動してるThe Hair KidとQ.iさんの曲をリミックスしたんです。それから仲よくなって、姫路に住んでるので僕らが関西でやるライブにお客さんとして来てくれるようになって。The Hair Kidはその頃、YouTubeにめちゃめちゃラップをアップしてたんですよ。
西山 ああいうラップができる人って周りに全然いなかったんですよね。それで今回、ハティラスの「Spaced Invader」みたいな曲を作りたいなと思ったときに、The Hair Kidにラップしてもらうことを思いついて。本人的にはもうラップはしばらくやっていなかったのでビックリしたみたいですけど、すごくパワーのある曲になりました。
柴田 The Hair Kidには「UFO-mie」でのラップだけでなく、「Prologue」のセリフや「Ch.XXXX」の歌詞を翻訳してもらったり、このアルバムの英語に関する監修を全部お願いしてます。
──小里誠さんもセリフで参加していますが、これはどういう流れで?
柴田 僕はもともと小里さんが80年代にやっていたPicky Picnicがむちゃくちゃ好きなんですけど、小里さんが僕らのライブを観に来てくださったことがあって、そこから交流が始まったんです。それで「小里さんって存在感すごいし、声はダンディすぎるし、こういう人がアルバムにいたら面白いぞ」ってことになって。
──めちゃくちゃぜいたくな使い方ですよね(笑)。
西山 ホントそうですよ(笑)。小里さんに頼んだのは、今回のアルバムを作る初期段階で、スネークマンショーの作品だったり、PUNPEEさんの「MODERN TIMES」のような、ナレーションがアルバムの構成要素になっているもののイメージが僕らの頭の中にあったからなんです。
柴田 最初、この曲はもっとコントというか、ドラマっぽかったんですよ。
西山 そうそう、アルバムをストーリー仕立てにする方向で進めていたときは、BGMは薄めにして声を前に出して、もうちょっとラジオドラマっぽく録ってみたんですけど、ちょっと大げさでしたね(笑)。