映画監督と主演女優みたいだね
──リスナーからすると、この「HYDRA」でKIHOWさんの歌唱表現の振れ幅を1つ提示された感があります。
Tom-H@ck 少しだけ個人的な話で、でも大事な話なんですけど、僕がどうやって音楽業界に入ったかと言うと、師匠を見つけて弟子入りしたんですよ。その師匠というのが、オーイシさんと同じ事務所の百石元さんという方で、もう3年間くらいみっちりしごかれたんです。僕自身が若いときにそうやって叩き上げられてきたので、各ユニットの違いと言う意味では、ミスドでは恨まれ役を買って出ていると言うか、KIHOWちゃんに対してはストロングスタイルだと思うんですよね。
──ストロングスタイル。
Tom-H@ck さっき本人も言ってたように、KIHOWちゃんが「いや、その歌い方は……」とか思っているのは僕も見ていてわかるんです。でもここで苦しんで、例えば数年後に今おっしゃったようなボーカルの振り幅がめちゃくちゃ大きくなってたりしたら、それが彼女にとって宝物として残るんじゃないかなと思ってるんで。
オーイシ あれだね、映画監督と主演女優みたいだね。「そう! そこで泣いて!」みたいな。やっぱり、Tomくんには作品の完成形が見えていて、それを組み上げていくための最重要ピースがKIHOWちゃんなんでしょうね。
KIHOW レコーディングの数をこなすうち、そういうディレクションに応えられることが楽しみになったりもして。そこでちょっと気持ちが変わっていった部分もあります。
オーイシ 僕もそれはありますよ。いわゆる自己実現欲求が満たされる感じって言うのかな。やっぱりボーカルは一番目立つ楽器であり、楽曲の顔なので、その意味ではホントに“主演”だと思う。僕も人に曲を提供するときに自分でゴールが見えてたら、無理くりにでもそこにたどり着かせたくなるから、Tomくんの気持ちもすげえわかるなあと。
「踏み台にしていいですよ」っていう思いもある
オーイシ あとMYTH & ROIDってさ、ユニット名もよくできてるよね。
Tom-H@ck どう言うこと?
オーイシ 特に「アンドロイド」っていう言葉が。これはすごくいい意味で言うんだけど、才能ある女性ボーカリストを人造人間、ないしはマリオネットのように見立てて、その裏でTomくんが自由に音楽的なトライアルを実践できている。
Tom-H@ck なるほどね。でも僕としては、その先も見てほしいんですよ。これは初代ボーカルのMayuもMYTH & ROID結成前から自身で言ってたんですけど、最終的には卒業してソロ活動もしたいと。ボーカリストってソロで人気が出ることは最高の幸せだと思うんです。だから最終的にはみんなソロでも人気が出てほしいと思っています。
オーイシ それもずっと言ってるよね。
Tom-H@ck KIHOWちゃんにも言ってる。
オーイシ 加入したばかりでそれを言うってすごいことだよ。
Tom-H@ck いや、ミスドに加入する前から言ってて、そのうえで入ってもらったの。だから「踏み台にしていいですよ」っていう思いもある。
KIHOW そうは言っても、やっぱり入る前から将来のお話をされたので、「そんなことってあるの?」って思いましたね(笑)。
Tom-H@ck 世の中って、最終的には1人でがんばらなきゃいけないじゃないですか。もちろん周りの人の力を借りて前進なり成長なりするんだけど、ホントに苦しいときって、誰も助けてくれないんですよ。みんな「お前のことなんかもう知らねえよ」って離れていっちゃって、気が付いたときには自分の周りには誰もいない。
オーイシ わかる。俺も3回ぐらい経験してるわ(笑)。
Tom-H@ck でも、そこから這い上がる強さをオーイシさんは身に付けてるじゃないですか。
オーイシ いや、もうその都度コテンパンにやられてるけど。
Tom-H@ck そう、そのコテンパンにやられてまた浮上する力を持っている人がアーティストを続けられるんだと思うんです。そうなったときにちゃんと自分の足で歩けるような強さを身に付けてもらいたいなとも思うんです。これってすごく大事なことなんですよ。
これが実践できてるのってEGOISTと澤野弘之さんくらいだと思う
──MYTH & ROIDは、音楽的にとがったことをやっていながら、決して自己満足になっていないですよね。芸術性と商業的成功のバランスを上手に取られている印象があります。
オーイシ それ、僕もめっちゃ思うんですよ。あんな音楽性なのに人が付いてくるでしょ? 悔しいなあ(笑)。
Tom-H@ck それって、そんなにすごいことなんですかね?
オーイシ うわ、これですよ。この当たり前にできちゃってる感じ。
Tom-H@ck だって、オーイシさんも同じことをしてるじゃないですか。
オーイシ 僕のは芸術じゃないもん。
Tom-H@ck いや、芸術じゃないけども、そのキャラクター……。
オーイシ ほら、「芸術じゃない」って言った!
Tom-H@ck キャラクターとしてのアーティスト性っていうのがあるじゃないですか。それって同じことだと思うんですよね。
オーイシ なんか煙に巻かれた気がしますけど……でも、芸術性を追求すると損なわれてしまうのが大衆性ですよね。他方でビジネスには大衆性が欠かせない。っていうところで、大衆性を身にまとった芸術を生み出せるのがすごいなって。あとTomくんは、楽曲をコンテンツに引っかけるのが抜群にうまいと思ってて。今は音楽のみで幅広いリスナーを獲得するのが難しい時代になってるじゃないですか。アニメのタイアップのように、音楽をなんらかのコンテンツに紐付けることでセールスにつなげている。さっき本人は「アニメに寄り添いすぎない」みたいなことを言ってましたけど、端から見ててその紐付けの仕方が非常に手馴れてるなって。
Tom-H@ck じゃあ、それを強みにしてがんばる。
オーイシ これが実践できてるのって、今のアニソンシーンだとryo(supercell)さんのEGOISTと澤野弘之さんくらいだと思うんです。2組とも芸術性や音楽的なインテリジェンスをものすごく感じさせるけど、決してリスナーを置いてきぼりにしない。そこに、今ミスドがすごい勢いで食い込んでる気がしていて。しかもTom-H@ckがすごいのは、アニメ「けいおん!」の楽曲で1度売れてるんですよ。それとはまったく方向性が違うミスドで再び売れるって、どんだけ引き出し持ってるんですかって話で。KIHOWちゃん、この人はね、すごい人なの。
KIHOW わかってます(笑)。実際、そのヒットした「けいおん!」の楽曲の作曲者がTomさんだということも知っていて、それを動機にオーディションを受けたので。だからつながってますよね、私の今までの活動に。
Tom-H@ck 今、すごい居心地が悪い。
オーイシ でしょ?
Tom-H@ck 褒められるの嫌いな人なんで。
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オーイシさん、“魔法使い感”ありますよ
- MYTH & ROID「HYDRA」
- 2018年2月7日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
-
初回限定盤 [CD+Blu-ray]
1944円 / ZMCZ-11852 -
通常盤 [CD]
1296円 / ZMCZ-11853
- CD収録曲
-
- HYDRA(アニメ「オーバーロードⅡ」エンディングテーマ)
- Stormy Glory
- HYDRA(instrumental)
- Stormy Glory(instrumental)
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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- 「HYDRA」Music Clip
- OxT「GO CRY GO」
- 2018年1月24日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
-
初回限定盤 [CD+Blu-ray]
1944円 / ZMCZ-11850 -
通常盤 [CD]
1296円 / ZMCZ-11851
- CD収録曲
-
- GO CRY GO(アニメ「オーバーロードII」オープニングテーマ)
- THE SAILER
- GO CRY GO(instrumental)
- THE SAILER(instrumental)
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
-
- 「GO CRY GO」Music Clip&オフショット映像
- OxT「Number One」
- 2018年1月17日発売 / ポニーキャニオン
-
[CD]
1300円 /PCCG-70415
- 収録曲
-
- Number One(舞台「ダイヤのA The LIVE V」主題歌)
- HOME GROUND(舞台「ダイヤのA The LIVE V」挿入歌)
- Number One(KARAOKE)
- HOME GROUND(KARAOKE)
- OxT(オクト)
- Sound Scheduleのボーカル&ギター・大石昌良ことオーイシマサヨシと、サウンドプロデューサーのTom-H@ckによる2人組ユニット。2013年にアニメ「ダイヤのA」のオープニングテーマ「Go EXCEED!!」を“Tom-H@ck featuring 大石昌良”名義でリリースしたのを契機に2人での活動をスタートさせ、2015年にOxTの名で正式にユニットとなった。同年8月にはアニメ「オーバーロード」のオープニングテーマとして「Clattanoia」を発表。2018年には1月17日に「Number One」、1月24日に「GO CRY GO」と2週連続でシングルをリリースした。
- MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
- プロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」のエンディングテーマ「STYX HELIX」、同オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」、「幼女戦記」のオープニングテーマ「JINGO JUNGLE」と次々にアニメソングをヒットさせる。活動当初は女性シンガーのMayuがボーカルを務めていたが、2017年4月発売の1stアルバム「eYe's」以降、複数のボーカリストを含む多ジャンルのクリエイターが参加するプロジェクトへと進化。2018年2月にはKIHOWがボーカルを担当したシングル「HYDRA」をリリースした。