osageがシングル「マイダイアリー / 透明な夏」でソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューを果たした。
東京・下北沢で結成されたosageは2017年春より精力的に活動を始め、2018年10月にSUPER BEAVER、sumika、Czecho No Republicらが所属するmurffin discsによる新人オーディション「murffin discs audition 2018」でグランプリを受賞。昨年秋にはドラマ「君となら恋をしてみても」に提供したエンディングテーマ「夜煩い(feat. 石野理子)」が話題になるなど、今注目を浴びている若手バンドの1組だ。
メジャーデビューシングルには、キャッチーで爽快なラブソング「マイダイアリー」と、ノスタルジックな雰囲気が漂うサマーソング「透明な夏」を収録。インディーズからメジャーへの階段を駆け上がっていくosageの魅力が詰め込まれた渾身の両A面シングルとなっている。
音楽ナタリーではメンバーにインタビューを行い、メジャーデビューした心境と、シングルに込めた思いについて話を聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実
今までやってきたことは間違いじゃなかった
──メジャーデビューおめでとうございます。
一同 ありがとうございます!
──7月27日に東京・WWW Xで行った「ENSEMBLE TOUR 2024」のファイナル公演で、ファンの皆さんの前でメジャーデビューを発表していましたね(参照:osage、メジャーデビュー後の世界に描く進化と変わらない信念)。
山口ケンタ(G, Vo) SNSでサラッと発表するのではなく、メジャーデビューに対する思いを直接話したいなと思ったんです。アンコールの冒頭でスクリーンに告知映像を流して、そのとき僕らは舞台袖にいたんですけど、悲鳴にも似た歓声が聞こえてきて。そのあとステージに出ていってからも拍手がなかなか鳴りやまず、「こんなにたくさんの人が喜んでくれているんだ」と思いました。メジャーデビューをしても大きく発表しないアーティストさんも中にはいらっしゃるじゃないですか。だけど僕らはお客さんの気持ちを直接受け取って、「僕らの活動に賛同して一緒に喜んでくれる人がこれだけいることが誇らしい」「今までやってきたこと、培ってきたものは間違いじゃなかったんだ」と実感できたので、こういう形を選んでよかったです。ライブが終わったあと、ソニーの方とお話するタイミングがあったんですけど、「こんなに喜んでくれるのは我々レーベルスタッフとしてもうれしい」とおっしゃっていました。
──発表直後には4人それぞれのMCがありました。どんな気持ちでしゃべっていましたか?
ヒロクサマ(B, Cho) あんなに喜んでもらえるとは思っていなかったので、純粋にうれしかったです。同時に、osageのワンマンライブ史上一番大きなキャパシティの会場で、力を貸してくれるスタッフの数も一番多かったので、身が引き締まる思いでした。もちろんメジャーデビューがゴールではないから、しっかりといろんな人の思いを背負っていかなきゃなと。
田中優希(Dr) 僕はお客さんに「メジャーデビューとはこういうものだよ」「自分たちは得体の知れないものに突き動かされるわけじゃないんだよ」とちゃんと伝えたいなと思いました。なのでMCでは、自分の気持ちをしゃべるよりもメジャーデビューについて説明することに時間を割きましたね。自分たちがここまで来られたのは、今まで応援してくれた人たちのおかげだと感じています。お客さんがワクワクするような曲やライブを作っていくことが自分たちにできる恩返しだと思っているし、クサマの言う通り、メジャーデビューがゴールではないけど……僕らは長く続けてきたバンドだから、やっぱり達成感みたいなものはありますよね。あとは金廣に引っ張られて、感動したところもあって。
金廣洸輝(G, Cho) 僕が泣いちゃったからね(笑)。自分は「報われた」と感じていました。MCで話したんですけど、osageのリードギターとしての葛藤がずっとあったんですよ。メンバーにはいろいろと相談していたけど、お客さんの前で弱音を吐いたり、SNSでつぶやいたりしたことは一度もありませんでした。自信を持てた今だからこそ、ずっと葛藤があったことを初めてお客さんに打ち明けられたし、ホッとしたからか、嗚咽混じりになっちゃって。
──いつ頃から自信を持てるようになったんですか?
金廣 ツアーが始まる前くらいですかね。今まではお客さんの目を見ることができなかったし、ギターソロで自分から前に出ていけなかったんですよ。だんだん手元に余裕が生まれて、気持ちの余裕も生まれるようになってからは、そういうこともできるようになって。
田中 ちょっと前、同じ宿の2人部屋に一緒に泊まったとき、金廣は俺が寝ようとしている横でずっとギターを弾いていたんですよ。誰よりも練習してるから、そりゃうまくなるよなっていう。
クサマ 僕ら3人は金廣が苦しんでいる姿を一番近くで見てきたし、ときには厳しい言葉をかけることもありました。同じように僕も3人に見守ってもらっていたし、いろいろな言葉をかけてもらった。もちろんほかの2人に関してもそうだと思います。そうやってこの4人でここまでしっかりやってこられたことが、何よりの財産なのかなと。
──クサマさんが「『メジャーデビューしても変わらない』と言ったほうがみんなは安心するかもしれないけど、僕らはずっと変わり続ける」とおっしゃっていたのが印象的でした。メジャーデビューにあたっての決意表明というよりは、「そもそもosageは変わり続けているバンドだから」という意識からくる発言だったんじゃないかと。
クサマ そうですね。ちょっと尖った言い方になってしまいましたが、今までずっと変わり続けてきたバンドだから、これからも当然変わり続けるだろうと伝えたいがための言葉でした。
山口 osageの音楽性をひと言で言い表すのは難しいと思うんですよ。横ノリのダンスチューンもあれば、全編打ち込みの曲もあるし、オーセンティックなバンドサウンドのバラードも、テンポの速いロックナンバーもあって……本当にいろいろなタイプの曲をやってきたので。WWW X公演で「セトモノ」という昔から大切にしている曲をやったとき、「オルタナティブロックを聴いてくれ!」と言いましたけど、オルタナティブロックもまた定義するのが難しい音楽性じゃないですか。「そっか。オルタナって言えば、自分たちの音楽を定義したり制限したりしなくてもいいのか」ということで、僕らとしてはしっくりきているところがあって。
クサマ 好きな音楽ややりたい音楽のジャンルは、その時々で変わっていくと思うんですよ。それはたぶんリスナーの人も一緒だろうし、音楽を好きな人はみんなそうだと思う。
田中 うちの場合、「俺たちはこういう方向性だよね」と決めちゃうと長く続かない気もするし、いろいろなものを取り入れながらどんどんチャレンジしていきたいです。そのうえで、お客さんには安心して聴いてもらいたい。どんな曲をやっても「やっぱりosageだよね」と思ってもらえるくらい、自分たちのアイデンティティを曲から感じ取ってもらうことができたら、さらにいろいろ挑戦ができるようになると思うので。
クサマ そこに関しては「山口ケンタが歌う」ということがキーになっていると思う。
金廣 それはあるね。僕は山口の声は唯一無二で、評価されなきゃおかしいとずっと思っているんですよ。メジャーデビューしたら、今までosageを知らなかった人に聴いてもらえる機会も増えると思うんですけど、聴いたら絶対に刺さります。一番のファンとして、断言します。
山口 真横で恥ずかしいな(笑)。
金廣 それに、osageの曲はメロディが強いから、大衆的というか王道ではあると思う。そのうえで僕は、音楽好きの人がニヤッとするポイントを曲の中に入れ続けたいんですよね。
田中 で、気付かれたいよね(笑)。音楽オタクの人たちに「こいつら絶対、このアーティスト好きだろ」って話題にしてほしい。
金廣 そうそう。
山口 osageってバンドマンにめちゃめちゃモテるバンドなんですよ(笑)。「あのバンドがosageの曲をリハでやってたよ」という話もよく聞きますし。同業だからこそ僕らのこだわりに気付いてくれた人が、「こういうアーティスト好きでしょ?」と声をかけてくれたりもしますし。そういうニヤッとするポイントに、よりたくさんの人が気付いてくれたらうれしいなと思います。気付いてもらえたら、その人にとってのosageの楽しみ方が2倍、3倍にも膨れ上がるんじゃないかと。
わかりやすく“ザ・osageテイスト”
──では、メジャーデビューシングル「マイダイアリー / 透明な夏」について聞かせてください。2曲とも王道のギターロックサウンドですね。
山口 今もまさにいろいろな楽曲が生まれ続けている最中で、いろいろなアプローチが可能な分、「メジャーデビュー曲はどんな曲にしよう?」とすごく悩みました。この2曲はわかりやすく“ザ・osageテイスト”というか。一聴して「あっ、osageの音だ」と思ってもらえるような曲なんじゃないかと。
田中 とにかく早くお客さんに聴いてもらいたいという気持ちが強かったので、1曲目の「マイダイアリー」はWWW X公演で初披露させてもらいました。お客さんも、初めて聴くはずなのにイントロから受け入れてくれているような表情をしていて。演奏中は「だよね、受け入れてくれると思ってたよ」みたいな気持ちでしたね。
金廣 僕はすごく緊張してました。
山口 ピックを持つ指が震えてたよね。
金廣 ドラムの4カウントのあとに一番大事なカッティングの1音目があるから、そこでコケたら台無しだなと。イントロを乗り越えてからは、楽しく演奏できました。
──冒頭然り、ツインギターの絡みがフックになっている曲ですよね。osageは山口さんがベースボーカルだった頃から、2本のギターをどのように鳴らすかに面白みを見出していたバンドだったなと、この曲を聴いて思い出しました。
山口 シングルコイルがジャキッと絡み合う感じが「ニュートラルe.p」(2019年4月発売のEP)とか「October.」(2019年10月発売のミニアルバム)の頃っぽいですよね。近年、ライブで僕がギターを弾かずに歌う曲が増えてきたんですよ。曲調の幅が広がってきたことも、金廣にギターを完全に任せられるようになったことも大変喜ばしいことなんですけど、個人的にはもっとギターを弾きたくて(笑)。この曲を書いた時期は、L-Rのギターがしっかり鳴っているような曲を無意識に欲していたんだと思います。「これぞosageだよな」という感じで。
──メロディも印象的だし、歌の存在感も抜群です。近年の山口さんのボーカルからは、歌でバンドを引っ張っていこうという頼もしさを感じます。ご自身のボーカルの変遷をどのように捉えていますか?
山口 もともと楽器を弾くのが好きだから、学生の頃は楽器の練習ばかりしていて、歌に対する意識は50%もなかったんですよ。osageを組んでからはキャパオーバー状態で。自分で作っておきながら弾けないフレーズもあったし、ベースボーカルだったので、「これ歌いながらスラップするの?」という感じで構造上無理なポイントもありました。そのあとギターボーカルになって、ライブでハンドマイクで歌うような曲も生まれて。いろいろな曲を書いていく中で「自分は歌なんだ」「100%、120%の意識を歌に向けないとダメだ」というふうに心境が変化していきました。そうやって曲が増えていって……あとは去年23公演のツアーを回ったりとか、大きな野外フェスに出させてもらったりとか、いろいろな経験を積む中で、ボーカリストとしての自分に自信を持てるようになっていった気がしますね。
クサマ メロが強力なので、山口からデモを受け取った時点で「この曲はどういう方向に持っていっても大丈夫だな」という感触がありました。サウンドをゴリッとさせちゃっても問題なさそうというか。むしろ中途半端にやるよりも、思い切ったほうがいい結果につながりそうだなと。そのあとは、アレンジャーのレフティさん(宮田'レフティ'リョウ)と「こういうふうに攻められたらカッコいいよね」と話し合いながら形にしていって。
田中 パッと聴くとキャッチーな曲だけど、楽器は思いのほか太い音で鳴っているんですよ。ドラムもこういう曲の場合は軽快なサウンドになりがちだけど、音がわりとゴツいんですよね。キックの余韻も長めに残っていたりして。だけどそれによって全体が重たくなるんじゃなくて、むしろノリがよくなっていて。僕ら4人の音の好みとケンタの書く曲のポップさが今までにない形で噛み合っていて、すごく満足感があります。こういう曲をバンドの自己紹介として、メジャーの一発目で出せるのは大正解なんじゃないかと。
自分たちの原点に戻ってこられた
──「マイダイアリー」は「別冊マーガレット」で連載されている結木悠さんのマンガ「君を忘れる恋がしたい」とのコラボソングなんですよね。
山口 そうなんです。「君を忘れる恋がしたい」は中学時代に恋に落ちた2人が大学で再会してからのお話なんですけど、今まで作中で描かれてこなかった高校時代のエピソードを結木先生が番外編として制作されて。その番外編に主題歌があったら、というイメージで制作しました。歌詞は1番が主人公の志乃目線、2番は瀬名という男の子目線で、交換日記のやりとりを思わせる内容にしていて。それで「マイダイアリー」というタイトルなんです。
金廣 ケンタの歌詞には毎回驚かされますけど、この曲の歌詞も素晴らしいなと思います。特に「私の想い×君+強がった嘘と本音の2乗」というところがいいなって。
──サビの頭が「ねぇダーリン」なのもいいなと思いました。Mr.ChildrenをはじめとしたJ-POPアーティストへのリスペクトや、「osageはこれからメインストリームで戦っていくんだ」という意思が表現されているようで。
山口 そこは意図せずなんですけど、僕もミスチルが好きなので自分から「ダーリン」という言葉が出てきたときに「あっ、これは」と思いました。歌い出しの「ねぇダーリン“絶対”で居たいな」というフレーズは、コラボの話がなければおそらく書いてなかったんじゃないんですかね。「ダーリン」もそうだし、「絶対」もそう。恋愛において「絶対」と言い切れることはあまりないと思うんですけど、それでも言い切ってしまうような“恋は盲目”感、大胆さを感じていただけたら。そしてキュンキュンしていただけたらうれしいです。あと、このタイミングで自分たちの根底に戻ってきたような気持ちもありました。
──というと?
山口 志乃と瀬名は高校時代にまったく会えていなかったけど、お互いにずっと思い合っていたんだろうなと想像しながら歌詞を書いたんですよ。姿を確認できずとも相手を思い続けること、実体のないものに思いを馳せることは、osageがずっと描き続けてきたことでもあって。「君恋」は軽音サークルでの話がメインになっていて、僕らも軽音サークルで組んだバンドだから、通ずるところがいろいろとありました。それもあって、自分たちの原点に戻ってこられたのかなと思ってます。
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今しか歌えない曲を歌いたい