昨年8月にソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューを果たしたosageが、今年一発目の作品となるEP「フラグメントe.p」をリリースした。「青のミブロ」第2クールエンディングテーマ「フラグメント」など全4曲が収録された本作。EPのタイトルにもなった「フラグメント」はアニメに登場する幕末の壬生浪士組の思いに寄り添った、エネルギーあふれる1曲だ。
音楽ナタリーでは今まさに充実の季節を迎えているosageにインタビューを行い、メジャーデビュー後の日々やEPの制作過程について話を聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実
「今までの活動から物語が続いてる」という感覚
──2024年はosageにとって濃い1年だったのではないでしょうか?(※インタビューは2024年12月下旬に実施)
金廣洸輝(G, Cho) すごく濃い1年だったし、目まぐるしすぎて気付いたら年末になってました。「あれ? 2024年終わる?」って(笑)。
──特に8月から12月にかけては怒涛の日々だったかと思います。8月にシングル「マイダイアリー / 透明な夏」でメジャーデビューし、9月にシングル「ジオメトリック / and goodbye」をリリース。今回のEPの制作もありつつ、ライブ活動も休まず行っていましたよね。
山口ケンタ(G, Vo) そうですね。10月、11月に回ったメジャーデビュー後初のワンマンツアー「Brand New AGE 2024」ではキーボードを入れた編成でライブをしたり、リクエストでセットリストを決めたりといった試みがあったんですよ。新しいことに挑戦する楽しさをライブで感じつつ、ツアーを回りながら新曲の制作もして、あとはお呼ばれのライブにも出演して……という感じで忙しくさせていただきました。
金廣 2024年は「修業編」みたいな感じでしたね。活動のスピードについていこうと必死になりつつ、自分のギタープレイが成長していることもちゃんと実感できています。
──忙しい日々の中で、自分を見失いそうになる瞬間はありませんでしたか?
金廣 そこはやっぱりメンバーがいてくれるから、忙しくても地に足をつけてやれてるのかなって……(照れ笑いしながら)。
ヒロクサマ(B, Cho) メンバー愛がすごいな(笑)。僕もすごく充実した1年だったと思うし、「しんどかった」という感覚はなく「楽しかったな」と思っています。今思えば、2023年春のツアー「23=」が大きかったんじゃないかなと。サポートを入れず、ほぼ自分たちだけで回ったツアーだったんですけど、あのときの経験があったからこそ「メジャーデビューをきっかけに何かがガラッと変わったわけではない」「今までの活動から物語が続いてる」という感覚を持てています。それに、今のほうが体力的にも精神的にも余裕がある気がしていて。
田中優希(Dr) 当時は僕が物販でグッズを売っていたり、ほかの業務もメンバーで分担しながらやっていたりしたから、ライブ当日もすごくバタバタしていました。だけど今はサポートしてくれる人がたくさんいるから、ライブの前もちゃんと余裕がある。だから楽しむ余裕があるし、ライブへの集中力もみんなすごく上がっているんじゃないかと思います。クサマも言っていた通り、総括すると「楽しくなってきた」という感じの1年でしたね。
音楽制作がもっと楽しくなりました
──前回のインタビューで「今後いろいろなクリエイターとの制作を経験してみたい」とおっしゃっていましたが(参照:osage「マイダイアリー / 透明な夏」インタビュー)、その観点から楽曲制作を振り返るといかがでしたか? 例えば「and goodbye」でいしわたり淳治さんと歌詞を共作しました。歌詞の共作はosage初の試みでしたね。
山口 僕はどちらかというと、目に見える情報を描くような写実的な歌詞が多いんですよ。だけどいしわたりさんは、目に見えないものやファンタジーを描くのがすごくうまい。作風は対照的なんですけど、お互いの表現が曲の中で混ざり合って、「別々の場所からやってきたはずなのに、結局は同じ場所にたどり着いた」みたいな感覚になれたのが面白かったです。例えば「カボチャはカボチャのまま馬車にならないから どうしようもなくて君を見失った」という一節はファンタジー的な比喩ですけど、自分が昔から描いていた悲劇のヒロイン像とも通ずる部分があるなと思いました。
──サウンド、アレンジ面ではどのような気付きがありましたか?
金廣 アレンジャーさんとの制作のいいところといえば、今まで触れてこなかった音楽を吸収できたり、自分だけでは思いつかないフレーズを弾いたりできることですよね。音楽制作がもっと楽しくなりましたし、自分たちのプレイも前より洗練されてきたと思います。
田中 「ジオメトリック」のアレンジャーの花井諒さんはギタリスト、「and goodbye」のアレンジャーの島田昌典さんはピアニストでもあるので、アレンジのテイストも大きく違っていて。「ジオメトリック」はギター色強めのロック、「and goodbye」は日本人の心に響くバラードですが、お二人に携わっていただいたことで曲の個性がより濃くなったし、osageはやっぱりロックもバラードもどっちもいけるんだなと思いました。
金廣 ケンタの声があるから、振り切ったアレンジでも成り立つというか。
田中 そうそう。バンドの変わらない強みを再確認しましたね。
クサマ 僕は「透明な夏」のレコーディングのときに、エンジニアさんから「リズム隊の2人は一緒に演奏しているほうがうまいね」と言われたのが一番印象に残っています。たなぴー(田中)とは長いこと一緒にやってきたから、それがちゃんと音に表れているのはすごくうれしい。今回の「フラグメントe.p」では、表題曲以外の3曲はメンバーだけでアレンジをしていて。いろいろなアレンジャーさんとの制作で吸収してきたこと、これまでの成果がこの3曲に詰め込まれていると思うので、そういうところを聴いてもらえたらうれしいです。
誰もが持っている正義
──では、「フラグメントe.p」について聞かせてください。既発シングルからの収録はなく、4曲すべて新曲ですね。
山口 去年の5月に曲作りの合宿をやったので、ストックがあって。今も「すぐにでも音源化したい」という曲が5、6曲あるんですよ。日頃から曲を書いたりスタジオに入ったりする時間は作っているので、「どうにか生み出した」というよりは「常にあふれてくる」ような状態だと思います。
──それは頼もしい。表題曲の「フラグメント」は、アニメ「青のミブロ」第2クールのエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲ですね。アニメで流れるのは1番のみですが、その後の展開も目まぐるしく、バンドのエネルギーを感じました。どんなイメージを思い描きながら制作に取りかかりましたか?
山口 「青のミブロ」の舞台は幕末で、のちの新選組である壬生浪士組が登場するんですけど、彼らの生きた時代って常に明日があるかどうかわからない状況だったんだなと、原作のコミックを読んだときに一番に思って。何がどうなっても受け入れざるを得ない、そういう選択をしてきた人たち=壬生浪士組の葛藤を描きたいと思いました。
──楽曲の冒頭ではまさに「もうどうなったっていいさ」と歌っていますね。
山口 はい。あとは、“誰もが持っている正義”をosageなりに噛み砕いて抽出したいなと思いました。主人公のにおは13歳で壬生浪士組に入って、ちょっと突飛なことをしてしまうこともあるんですけど、自分を貫いて、その純粋さで周りの人を変えていくキャラクターなので。
──歌詞とメロディが一体になったときの語感のよさもありつつ、今話していただいたテーマと向き合ったからこそ生まれたギミックもあって。山口さんの従来の美点とソングライターとしての新しい試み、両方を感じ取ることができました。
山口 ありがとうございます。歌詞には吉田松陰と土方歳三の辞世の句を取り入れているので、その部分に気付いてもらえたらすごくうれしいです。人が散り際に遺す言葉には“願い”が込められていることが多いと思うんですが、一方で、2番Bメロの歌詞にはヘイトを詰め込んでいます。つまり1曲の中でいろいろな感情がごちゃ混ぜになっている。「フラグメント」という言葉には「断片」という意味がありますけど、「物事の一面だけを切り取っても、本質はまったくわからない」「悪とされている側にもその人なりの正義がある」「だから時代や人々は混乱する」ということをこの曲で表現したいなと思いました。だったら、理路整然としてはいけないんだろうなと。これは音作りにも通じる話ですけど、さまざまな要素が雑多に、アンバランスに組み合わさっている状態が、きっとこの曲の正しい形なんだろうなと考えました。
田中 確かに。最初にデモを聴いたときは「スタイリッシュでカッコいい曲だな」という印象だったんですけど、全楽器録り終えてできあがった音源を聴いたら「土臭さが出てきたな」と思ったんですよ。「青のミブロ」の登場人物たちも決してスマートではないから、このサウンドがアニメともうまくマッチしていて。
山口 うんうん。アレンジャーのすってぃさん(須藤優)とのやりとりを重ねていった結果、最終的にすごく派手な音になったなと。生のストリングスも入っているんですけど、ストリングスに負けないくらいバンドサウンドも強いなと思いました。
──須藤さんと一緒に制作するのは「フロイト」「残り香」に続いて3回目ですね。
クサマ 過去2作のときも感じたことですが、すってぃさんのアレンジは、聴いていて広い景色を想像できるのがいいなと思っていて。
金廣 そうだね。アニメソングの、言語の壁を越えて世界に広がっていく感じってすごいじゃないですか。自分のギターを録り終えてボーカルやストリングスが重なったとき、「この曲は、いろんな人に届く曲になるんじゃないか」と思えて。制作中ずっとワクワクしてました。
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バンドとして体の使い方がうまくなってきた