osageインタビュー|変化を楽しんだ5年間を経て立つ、親密な4人の現在地 (3/3)

心境の変化や憧れを詰め込んだ「Sonic blue」

──1月10日にリリースされた「Sonic blue」は、疾走感のあるアッパーチューンですね。タイトルはご自身が持っているギターからですか?

山口 はい、ギターからです。音楽を始めたての頃のことを歌った曲なんですけど、当時、学校の非常階段で、買いたてのピカピカのギターを持ちながら「でっかいホールでやりたいよね」みたいな話をしていたんですよ。そんな時間があるなら練習しろよと思うんですけど(笑)、今では僕らもステージを見上げる側からステージに立つ側になっていて。そんな中での心境の変化や、「憧れていたものってこれだったんだな」という眩しさみたいなものを歌詞に書きました。

金廣 この曲はライブではもう半年近くやっています。できたときから「早くライブでやりたいよね」と言っていたので、音源化はまだしていなかったけどライブで先にやることにして。

──このアウトロをシンガロングできる日が早く戻ってくるといいですよね。

山口 そうですね。コロナというバケモノが生まれる前、みんなで声出して一緒にライブを楽しめていた頃の話にも通ずる曲になっているんじゃないかと思います。「Sonic blue」はかなり前からデモがあったんですけど、1月17日にリリースした「誰も知らない街で」はこの5曲の中では一番新しい曲で。デモを作っていたときから「osageだなあ」という感じがして、すごく安心感がありました。みんなも「いいね」「これは出したいよね」と言ってくれたので、自信を持って作っていった曲です。

金廣 「誰も知らない街で」で、初めてストリングスを入れてみたんですけど、最後の最後で入れることに決めました。

──Dメロで転調しつつ音像がガラッと変わりますね。歌詞もこの部分だけ質感が違うように感じました。

山口 この曲はメンバー3人に向けて書いた曲なんですけど、この部分だけはすごく赤裸々ですよね。ある意味プロポーズみたいなものなので、ちょっと恥ずかしさもあって。

金廣 僕らは全然気付かなかったんですけどね(笑)。クサマだけがそれに気付いたんですよ。LINEで「これ、俺らに向けて歌ってない?」と言い出して。

クサマ そう。この曲はもともとアウトロがあって、ポエトリーのようなものが入っていたんです。それを聴いてなんとなく「こういうことを言っているのかな」と思っていたんですけど、正確には聞き取れなかったので山口に聞いてみたら「いや、恥ずかしいから消した」と言われて。そこで「あ、なるほどね」と確信に変わりました。

山口 鋭い……。

クサマ 金廣とたなぴーはもう気付いていると思っていたから、僕からはわざわざ言わなかったんですけど。

田中 僕らは言われるまで気付きませんでした。「すげえいい曲だな」と思っていたんですけど、そりゃそうですよね。自分たちのことを歌ってくれているんだから。

田中優希(Dr)

田中優希(Dr)

赤い公園に向けた「赤に藍」

──1月24日にリリースされた「赤に藍」はギターのアレンジが印象的でした。

山口 「ギター2本でチャカチャカやるような曲を作ろうよ」というふうに考えていった曲ですね。これは赤い公園に向けて書いた曲で。ギターソロやアウトロの感じはまんま津野(米咲)さんだし、Bメロの「チャッチャッチャッチャッ♪」っていうのは完全に「カメレオン」(笑)。

金廣 あれは完全にそうだよね(笑)。

山口 そういうオマージュもちりばめたけど、みんなが乗せてきた音には各々の味がめちゃくちゃ出ていて。裏テーマはありつつも、やっぱりosageの音だなという感覚でいます。

──1月31日にリリースされた「yorunokakera」はosage初のツインボーカル曲で、DADARAYのREISとしても知られているnikiieさんが参加されていますね。

山口 「女性ボーカルとのデュエット曲にしたい」という漠然としたイメージがあったんですけど、もともとnikiieさんの歌を聴いて「きれいな声だなあ」と思っていたので、スタッフさん伝いにお願いして。

クサマ あと、nikkieさんの声は山口の声と合うんじゃないかという狙いもあったよね。

山口 そうそう。お忙しいだろうし難しいかなと思っていたんですけど、すぐに「いいよ」とお返事をいただけました。

──nikkieさんの地声と山口さんのファルセットが重なるところ、いいですね。

山口 ありがとうございます。nikiieさん、すごくいい声をお持ちで。レコーディングでもずっとキュンキュンしていました。あと、自分の書いた曲をほかの方に歌ってもらうのが初めてだったので、なんだか不思議な気持ちになりましたね。逃避行がテーマの曲なので、行き先のない旅をしているような歌詞の内容も相まって、夢を見ている感じがしました。

──アウトロでのギター2本の絡みも素敵ですね。このギターを弾いているのは金廣さんと山口さんかと思いますが、フレージングに松永さんの面影も感じました。

山口 デモ自体は松永がいた頃からあったし、松永と一緒にアレンジしたバージョンも過去には存在していたので、そのニュアンスが受け継がれているのかもしれないです。

金廣 2年くらいかけてやっと音源化できたからね。本当にいい曲だから「いや、まだだ」と延ばしに延ばしてきて。

田中 レコーディングの日が近付いていく中で、「5曲中1曲くらいは女声ボーカルとデュエット曲があってもいいんじゃないか」「この曲だったらバッチリハマるんじゃないか」という話も出てきて。実際にnikiieさんに歌っていただいたら、想像以上にバッチリハマって、めちゃくちゃよくなって。そういうふうに2年かけてじわじわと形が変わっていった曲ですね。

山口 アウトロのギターは金廣と僕が2人一緒に前に出ていくようなイメージですね。スタジオでぶっつけで録ったんですけど、元メロを金廣に弾いてもらって、それに対して何テイクか合わせるうちに「これいいな」と思って。

──つまり、osageが今まで培ってきたものをしっかり引き継ぎつつ、今の4人だからこその音が鳴っている曲という。

山口 そういうことですね。ここまでわかりやすいギターユニゾンは今までやってこなかったので、アレンジの幅も広がったと思います。

──ストリングスを入れたりゲストボーカルを呼んだりとたくさん挑戦しているものの、5曲ともしっかりosageの曲として受け取ることができました。そう受け取れたのはメロディやサウンドの記名性によるところが大きいかと思いますが、皆さんご自身の中にも「どんな曲調でもこの4人で鳴らせばosageになる」という感覚があるのでしょうか?

山口 ありますね。せーのでドンと出した音はもう、この4人による聴き慣れた音というか。いろいろな時期を越えて、この4人になって、バンドの目指すべきものが徐々に確立できている感覚があります。だから何をやっても、僕がどんなデモをバンドに持っていっても、この4人のニュアンスが乗ればosageになるんだと。それは絶対的なものとして僕らの中にありますね。

osage

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より大きなところに目を向けて歌詞を書けている

──その‟絶対的なもの”を信じられていることが伝わってくる5曲だなと感じました。そういえばこの5曲の中にはラブソングがないですね。

山口 そうなんですよ。今までの自分にとって、恋愛は歌詞を書くうえでの大きなテーマでした。だけど、嫉妬のようなドロドロとした感情を感じる場面は恋愛以外の日常生活の中にもあるような気がしたので、一旦ラブソングから離れて、違う視点から曲を書いてみようと思ったんです。だからこそ「誰も知らない街で」のようにメンバーに対して歌った曲もありますし、「ニューロマンス」のように現代社会に対するアンチテーゼとして書いた曲もありますし。

──それと関係しているのかもしれませんが、メロディに対する言葉のはめ方にさらに磨きがかかった印象がありました。

山口 ありがとうございます。ラブソングって誰か1人に対して「あなたのことが大事だよ」という思いを伝える曲だと思うんですけど、今は“対1人”ではなく、より大きなところに目を向けて歌詞を書けている感じがしていて。そうすると芸を効かせやすくなるというか、より面白いことを言いたくなるんですよ。だから作る曲が変化したことによる影響は大きいと思いますね。あと、サウンド面において「この4人で鳴らせばosageだ」という絶対的な自信があるので、何を言っても滑らないだろうと。この変化は自分にとって大きなものなんじゃないかと思っています。

──新曲について話していただいたことによって、osageの現在地が見えてきたような気がします。改めてこの5年間はバンドにとってどんな時間でしたか?

山口 ここまでお話しさせていただいたように、バンドの変化も曲の作り方の変化もいろいろとありました。もちろん思うようにいかない時期もあったけど、僕ら自身現状をネガティブに捉えることはなく、都度都度変化を楽しめていたように思います。そんな中で、この4人の体制になって、ようやく役者がそろいましたと言える状態になって。これからosageから出てくる音は自分たちにすら予測ができないという楽しみがありますし、予測できないバンドでありたいという気持ちがやっぱり僕らの中にはあります。でもその一方で、聴いてくれる人には安心してほしい。みんなが好きなosageでいることには変わりないし、これからも、この4人からosageの音楽がしっかりと出てくるので。それを楽しみにしてもらえたらうれしく思います。

──ここから10年、20年とバンドを続けていくにあたって、叶えたい夢や目標はありますか?

山口 「ここでライブしたい」とか、あります?

田中 うーん、正直……。

クサマ 「ない」と言い切るのも違うと思うんですけど、この4人でやっているとなんであれ楽しいんですよ。それこそ月に20日くらい会っているのに、遠征中の車の中でも会話が尽きないくらいなので。だからどうなろうと楽しんでいられたらいいのかなと思いますし、どうなるにせよ楽しんでいけるんだろうなという自信もあります。

田中 俺、前に「とにかくたくさんの人に聴いてほしい」「お茶の間に知られるようなバンドになりたい」と言った気がするんですけど、そこから考えが変わって。もちろんその可能性を捨てたわけではないんですけど、それよりも、聴いてくれた人たちに「この人たちしかいないな」と思われるようなバンドになりたいなと思います。

金廣 あとは、やめないことです。

山口 そうね。続けていれば、結果はついてくるんだろうなと。今はとにかくこの4人で音楽ができる楽しみや喜びが大きいので、1人でも多くの人にそれを拾ってもらえたらうれしいです。

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プロフィール

osage(オサゲ)

2017年に東京・下北沢にて結成されたバンド。山口ケンタ(G, Vo)、金廣洸輝(G, Cho)、ヒロクサマ(B, Cho)、田中優希(Dr)からなる。2018年10月にCzecho No Republic、SUPER BEAVER、sumika、マカロニえんぴつらが所属するmurffin discsによる新人オーディション「murffin discs audition 2018」でグランプリを受賞した。2019年4月に初の全国流通盤「ニュートラルe.p」をタワーレコード限定で発売。2022年1月に5週連続で新曲を配信リリースした。