音楽ナタリー Power Push - Orangestar
n-bunaも取材に飛び入り参加!新世代ボカロPの原点と今に迫る
アメリカ在住の高校生ボカロPとしてヒット曲を連発し話題を呼び、2015年にそれらをまとめた1stアルバム「未完成エイトビーツ」を発表したOrangestar。それから2年近くを経て彼が、1月18日に2ndアルバム「SEASIDE SOLILOQUIES」をリリースした。
IAをメインとしたVOCALOIDが歌う儚げで耳になじむメロディ、余白を生かした音作りなど、前作から共通する部分はあるものの、今作を一聴してまず驚かされるのは、全編通して聞こえてくるピアノの音色だ。また独り言を意味する「SOLILOQUIES」というタイトル通りに独白のようにつづられる、少年から大人になっていく1人の人間が抱く感情、例えば孤独や無力感、過ぎ行く日々へのノスタルジーを、彼は自分だけのやり方で美しく作品にとじ込んでみせた。本稿を読み進めていただければ伝わると思うが、それらほとんどを彼は感覚的かつ本能的にやってのけている。
今回のインタビューでは、彼の音楽制作の原点から前作、そして「SEASIDE SOLILOQUIES」に至るまでの歩みをたどり、さらには先日コラボ作品が発表され話題となったあのボカロPとの緊急対談も実現。若き才能・Orangestarの実像に多角的に迫る。
取材・文 / 風間大洋
別に音楽を真面目にやろうとは思ってなかった
──まず、アルバム「SEASIDE SOLILOQUIES」を聴かせていただいて、これまでのVOCALOID音楽というフォーマットのうえで考えると、かなり実験的で挑戦的、そして美しい作品だと感じました。
ありがとうございます。
──ほぼ全編においてピアノがフィーチャーされているのが印象的ですね。
僕は弾ける楽器がピアノだけで……まあ、ピアノもそんなに弾けないんですが、すごく好きなんです。以前習っていたときはそれほど好きでやっていたわけでもなかったんですけど、ボカロを始めて自分で曲を作るようになってから「ピアノがすごく好きだな」って実感して、ピアノメインのOrangestarで1枚作りたいなって思ったんです。
──ピアノを習っていた頃は、クラシックピアノをやっていたんですか?
最初はエレクトーンから、だんだんとクラシックの練習曲なんかも弾くようになって。でも真面目にやっていたのは高1のときだけですね(笑)。ピアノを真面目にやり始めたきっかけが高校の入学試験なんです。僕は最初の1年間、日本の音楽系の高校に通っていたんですけど、そこを受験するとき面接の代わりに「スピーチと歌唱」か「ピアノ」で選べるようになっていて。僕としては「スピーチと歌唱はないな」と思ったので、そこから本気でピアノを練習して(笑)。学科試験も受かって入学できたので、その記念に父親がDAWソフトを買ってくれたんです……別に僕が欲しいって言った訳じゃないんですけどね(笑)。
──最初は「買ってもらったからにはやってみよう」くらいの。
はい。それがだんだん新しい趣味になっていった感じです。
──音楽系の高校に行くくらいですから、もともと音楽が好きだったり、音楽に携わる仕事に就きたかったりしたんですか?
いや、その時点ではそんな気はまったくなくて……学力的にちょうどよかったというか。
──おお……(笑)。
たまたまそれが音楽系の学校だっただけで、最初は別に音楽自体を真面目にやろうとは思っていなかったんです。ただもともと何かを作るのは好きで、昔は絵とか文とかマンガとかも描いてみたりもしてたし、「何かを表現する手段として今は音楽をやっている」というのが自分の中での今の自分の印象ですね。
Cubaseを立ち上げてから何をすればいいかわからないまま1週間
──その後、アメリカに留学したのはどんな経緯だったんですか。
その日本の高校に1年通ったあと転校したんですが、それは音楽とはまったく関係なくて。父親が「英語を勉強しに行こう」と言い出して、家族みんなが巻き添えになったような感じですね(笑)。
──DAWソフトの件といい、冒険的なお父様ですね(笑)。
そうですね。父親の影響はすごく大きいと思います。
──ボカロ投稿を始めたのもその時期ですか。
ボカロを始めたのは日本にいたときで、受験が終わってDAWソフトを買ってもらったあとすぐに作り始めて、春休み中にまず1作目を投稿しました。
──ということは、わりとスムーズにボカロ曲を作れたんですか。
最初は趣味としてしかやるつもりがなかったし、本を読んだり勉強をしたりはしなかったのでCubase(DAWソフト)を立ち上げたときの青い画面のまま、そこから何をすればいいのか全然わからなくて(笑)。その画面と1週間くらい闘った頃に、やっと打ち込みができるようになって、そのまま何となく曲を作りながら色々覚えていった感じですね。
──その当時はボカロ楽曲を聴いていたんですか。
はい。友達がカラオケで歌っていたりして、薦められて。でもニコニコ動画のアカウントは持っていなくて、TSUTAYAとかでボカロのCDを借りて聴いていました。アカウントを持ったのは自分で投稿するようになったときで、投稿するために作ったんですよ。
──それ、珍しいパターンですね。
そうかもしれないですね(笑)。
──Orangestarさんの世代だと、学生時代にボカロ曲もそれ以外の曲も並行して聴くことがナチュラルだったと思うんですが、当時どんな曲を聴いていたんでしょう。
かなりボカロが盛り上がっていた時期でしたね。ボカロPではDECO*27さんとかピノキオピーさん、40mPさんだったり。ほかはバンドものが多かったですね。そこまで手広くはないんですけど、RADWIMPSや相対性理論をよく聴いていました。
──その2バンドの名前が挙がるあたり、音楽的な実験や変わったアプローチがもともと好きなんですね。
そうですね。だからボカロ曲のそういう部分を気に入ったのはあるかもしれないです。
収録曲
- Alice in 冷凍庫
- 水星
- Trash Day
- DAYBREAK FRONTLINE
- Uz
- Still-GATE
- White Landscape
- RIP
- 濫觴生命
- サンダルリープ
- 回る空うさぎ
- 八十八鍵の宇宙
- Freezing Nonsense Theater
- Origin of Life
- Sandalleap
- Sky Passing Around, Moon Rabbit
- Water Planet
- Daybreak Frontline(Acoustic Remix)
- Daybreak Frontline(Acoustic Remix)-Instrumental-
Orangestar(オレンジスター)
ボカロPとして活躍する男性アーティスト。2013年4月に「ノラボク」をニコニコ動画に投稿したのを皮切りに活動を開始し、「アメリカ在住の高校生ボカロP」として話題に。2014年に投稿した「イヤホンと蝉時雨」「アスノヨゾラ哨戒班」が大きな話題を呼んだ。2015年4月に1stアルバム「未完成エイトビーツ」を発表。2017年1月に2ndアルバム「SEASIDE SOLILOQUIES」をリリースした。また同年2月に北海道・札幌で行われる「SNOW MIKU 2017」のテーマソングとして、n-bunaとのコラボ曲「スターナイトスノウ」を制作している。