音楽ナタリー Power Push - Orangestar

n-bunaも取材に飛び入り参加!新世代ボカロPの原点と今に迫る

「EDMってなんだ?」ってピンときてない

──今作の中では、世界や社会といった大きなものの中でOrangestarさん自身が感じているある種の孤独や無力感が歌われていると感じたんですが、そのメタファーとしての海なのかな?と。

ああ、それはあるかもしれないです。今回のテーマは「ピアノ」「星」「海」なんですけど、今作を作るうえですごくインスパイアされて、創作の原動力になった話があって。ピアノって88鍵じゃないですか。星座の数も88個なんですね。それはたまたまだと思うんですけど、そのつながりを知ったことでピアノと星というイメージが生まれて。あと、深海は暗くて空気もないし、宇宙とそっくりな世界ですよね。そういう、違うものの中に似た世界があることを表現しようと思ったときに、星と海の相性はすごくいいなと思いました。

──そこで歌われる言葉はどことなく物悲しいものが多いですよね。「夏の空が好きだった」(「Trash Day」)とか「振り向いた背中に夏を見る / それはもう過去の僕なのに」(「八十八鍵の宇宙」)とか。

そうですね。今作は結構テンション低いですね(笑)。これも夏をテーマにしたアルバムではあるし、夏は今でも好きなんですけど。だからその分、この作品に入らなかった曲たちを集めた「未収録OSC」はすごくハイテンションな作品になってます。

──なるほど。でも、ただテンションが低めで悲しいだけの作品ではなくて、「八十八鍵の宇宙」にしても、最後は「そんな全てを 笑って歌って生きていく」って希望を持って締めくくられる。それに先日投稿された「DAYBREAK FRONTLINE」はとても力強い楽曲で。手応え、あったんじゃないでしょうか。

そうですね。あの曲はもう、1stから正統進化したOrangestarというか、自分の中であの頃からずっと超えられなかった何かをやっと超えられたような、それくらい自分でも本当にいいものが作れたなと思っています。

──この曲はいわゆるEDMのスタイルに則っていますよね。

いや、僕はEDMとかあまり聴かないですし、「EDMってなんだ?」っていうくらいで(笑)。ジャンルとしてはなんとなく分かるんですけど、ピンとこないんですよね。

──え。それは意外でした。

僕はいつも通りだと思っていたんですけど、「EDMっぽい」みたいなコメントもありましたね。

──それこそアメリカで触れた音楽の影響なのかなと思って聴いていたんですけど。

あ、それは無意識にはあると思います。Owl Cityのアレンジなんかに通じる部分もありますし……アメリカにいるとき、全然乗り気じゃないのに友達にダンスパーティに連れて行かれて、そこでEDMを耳にしたりはしました。向こうの人ってすごいんですよね。曲がかかるだけでアドリブで踊っちゃったりするから……僕は全然踊らずに曲だけ聴いてたんですけど(笑)。

どの曲も始まりの曲と位置付けられる

──そこでじっと聴いていたからこそ、ダンスミュージックのエッセンスが染み付いたのかもしれません(笑)。そんなリズムの肝をピアノが担う曲もあれば、クラシカルなピアノの裏で四つ打ちのビートが跳ねる曲もあって、全体的にダンサブルな作品でもありますね。

そうですね。雰囲気としては音数も少なくて静かなんですけど、曲調としては明るめなものもあるし、テンポが速めだったりしてます。

──それでも全体として落ち着いた雰囲気になっている要因は、ピアノがメインであることはもちろん、エレキギターやエレキベースを極力排した音作りによるものが大きいと思うんですよ。

今回は「ピアノが好きなOrangestar」として作りたかったのでそうしたんですけど。その中でギターの入る「サンダルリープ」がこの位置に入ったことで、よりギターのよさも感じられる、いいアクセントになったんじゃないかなと。この曲もすごくお気に入りです。

──ほかに個人的な思い入れや工夫したポイントのある曲はありますか。

「Alice in 冷凍庫」イラスト

曲順に関して、「Alice in 冷凍庫」は絶対最初がいいなと思って1曲目にしたんですけど、どの曲も始まりの曲と位置付けられるんですね。「Alice in 冷凍庫」をプロローグとすれば「水星」が正式なオープニングで、物語は「Trash Day」から始まるし、最初の盛り上がりは「DAYBREAK FRONTLINE」だし……みたいな。

──どこから聴き始めても違和感はないと言えるかもしれませんね。

そう、全部そんな感じになっているので、そういう視点で聴いてみてもらえたら。

普遍性が自分の音楽作りの根っこ

──1作目で見せたパブリックイメージと、アナザーサイドとの両方世に出ることになりましたが、現時点で新たにチャレンジしてみたい表現はありますか。

これから作るとしたら、まず電子音がメインのものなんかも作ってみたいですし、バンドサウンドもずっと作りたいです。

──ギター、ベース、ドラム、以上!みたいな?

そういう曲も作りたいですね。1つの枠にあまり捉われずに、そのときの自分が作りたいものをまた作っていく。シンプルで、誰かの生活の一部として日常の中に溶け込めるような、そういう音楽を作っていきたいと思います。

──きっと「普遍的なもの」ってことですよね。

そうですね。ボカロを聴く人かどうかを抜きにして、いろんな世代の、どういう人が聴いても「いい」と思えるのがピアノという楽器だなと思うし、それこそアメリカ人とか、もっといろんな人に聴かせたいと思ったから、きっとそういう普遍性が自分の音楽作りの根っこにあるのかなと思います。

2ndアルバム「SEASIDE SOLILOQUIES」 / 2017年1月18日発売 / 2160円 / DUED-1206 / U&R records
「SEASIDE SOLILOQUIES」
収録曲
  1. Alice in 冷凍庫
  2. 水星
  3. Trash Day
  4. DAYBREAK FRONTLINE
  5. Uz
  6. Still-GATE
  7. White Landscape
  8. RIP
  9. 濫觴生命
  10. サンダルリープ
  11. 回る空うさぎ
  12. 八十八鍵の宇宙
  13. Freezing Nonsense Theater
  14. Origin of Life
  15. Sandalleap
  16. Sky Passing Around, Moon Rabbit
  17. Water Planet
  18. Daybreak Frontline(Acoustic Remix)
  19. Daybreak Frontline(Acoustic Remix)-Instrumental-
Orangestar(オレンジスター)

ボカロPとして活躍する男性アーティスト。2013年4月に「ノラボク」をニコニコ動画に投稿したのを皮切りに活動を開始し、「アメリカ在住の高校生ボカロP」として話題に。2014年に投稿した「イヤホンと蝉時雨」「アスノヨゾラ哨戒班」が大きな話題を呼んだ。2015年4月に1stアルバム「未完成エイトビーツ」を発表。2017年1月に2ndアルバム「SEASIDE SOLILOQUIES」をリリースした。また同年2月に北海道・札幌で行われる「SNOW MIKU 2017」のテーマソングとして、n-bunaとのコラボ曲「スターナイトスノウ」を制作している。