音楽ナタリー Power Push - うたパス Presents あの人と音楽談

Vol. 8 栗城史多

著名人に音楽について話を聞き、定額音楽配信サービス「うたパス」で30曲のプレイリストを制作してもらう本連載。8回目は世界最高峰の山に単独で挑み続ける登山家・栗城史多に話を聞いた。

取材・文 / 小林千絵 撮影 / moco.(kilioffice)

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好きなのは、孤独や困難の先に光を感じられる音楽 ──栗城史多

栗城史多
  • BOOM BOOM SATELLITES

    BOOM BOOM SATELLITES。川島道行(Vo, G / 写真左)の脳腫瘍発覚後も音楽を続けた彼らに共感するという。

  • エベレストを望む栗城。

    エベレストを望む栗城。最終キャンプ地から頂上を目指すアタック前には、ベートーヴェンの「交響曲第9番」を聴いて気分を高めるそう。

自身の姿と重なるBOOM BOOM SATELLITES

栗城史多

「山に何があるのか知りたかった」。これが6大陸の最高峰を登頂してきた栗城が登山を始めた理由だ。登山を始めたのは大学生のとき。当時交際していた女性の影響で山に興味を持ち、彼女との別れをきっかけに大学の山岳部に入部した。スパルタだったという山岳部で彼は、限界を超えた先にある喜びを知り、あっという間に山の魅力に取り憑かれる。現在では最高峰の山々に単独で挑み、「冒険の共有」として自身の登山の様子をインターネットで生中継するなど挑戦を続けている。そんな栗城が「壮大な感じがヒマラヤに合うんですよ。ヒマラヤの空の映像に彼らの音楽を合わせるだけで、すごくいいPVになりそう」と語るバンドが、BOOM BOOM SATELLITESだ。

BOOM BOOM SATELLITESは、川島道行(Vo, G)が患った脳腫瘍の後遺症のため、6月に発売したCD「LAY YOUR HANDS ON ME」が最後の作品であることを発表している(参照:BOOM BOOM SATELLITES、新作「LAY YOUR HANDS ON ME」が最後の作品に)。栗城はそんな彼らに、自身の姿が重なったという。2012年にエベレスト西稜で両手、両足、鼻に重度の凍傷を負い、手の指9本を失ったが、厳しいリハビリの末、2014年7月に登山復帰を果たしたという経緯があるからだ。

「BOOM BOOM SATELLITESはああいった状況の中、すごく明るくて壮大な曲を作ったんです。考えてみれば、自分も怪我を負った当時は靴のひもも結べなくて大変な状況だったけど、魂だけは無限の可能性で満ち溢れていました。彼らの音楽を聴いていると、指を失って周りから『引退だ』と言われながらも、復帰を信じてリハビリをしていた頃の気持ちを思い出しますね」

孤独や困難の先に光を求めて

栗城は登山のたびに“テーマソング”を決めている。それは初めての海外遠征だった、2004年の北米最高峰のデナリ(マッキンリー)登山時から変わらない。ちなみにデナリ登山時のテーマソングはくるりの「ワンダーフォーゲル」だった。

「ああ、自分はこれから本当に山を登って世界中を冒険するんだなあ……そんな感情と曲がぴったりマッチしたんですよ」

テーマソングはロックだけじゃない。アタック(最終キャンプ地から頂上を目指して登ること)前にはベートーヴェンの「交響曲第9番」が合うという。

栗城史多

「『第九』って、年末年始に流れていることが多いですよね。そのせいか、自分の中ではこの曲に対して『新しい世界の始まり』とか『生まれ変わり』というイメージがあって。アタックにも似たイメージがあるんですよ。山頂へ行って帰ってきたら生まれ変われるんじゃないかっていう感覚がある。『第九』はそういう気持ちを高めてくれます」

今回の企画のために栗城が制作したプレイリストのタイトルは「エベレストで聴きたいプレイリスト」。彼はそのラインナップを見て「こうやって見てみたら全体的にちょっと暗いですね」と笑う。

「孤独とか困難、苦しみとか迷いみたいなものが人生の本質なんじゃないかなと僕は思っていて。そういうものと向き合っていくことが生きていくことなのかなって。ただ、苦しみや孤独、困難は終わらないものではないということも、山を登ることでよくよくわかっている。そんな人生を感じさせる、最後に一筋の光のある音楽が好きなのかもしれないですね」

危険とわかっていても山に登り続ける栗城に、最後に「山に何があるのか?」を聞いた。

「僕には、山登りが楽しいっていう感覚があんまりないこともあります……困難の連続なので。例えばエベレストって、登って帰って来るのに2カ月かかるんです。上のほうは酸素が通常の3分の1だから5分もたないので、登って下がってを繰り返しながら徐々に標高を上げていく。最後の3日間なんて、ほぼ寝ずに登るんですよ。横になって寝ると呼吸が浅くなり、死んじゃうんです。しかも食べ物もあんまり持っていけない。空腹で真っ暗で不眠で、気温は-35℃。ホントに死に近いんですね。それでも頂上に射す光を求めて登り続けているんです。苦しみや困難が強ければ強いほど達成したときの喜びはすごく大きい」

栗城史多選曲

テーマ「エベレストで聴きたいプレイリスト」

  1. TM NETWORK「GET WILD」
  2. TM NETWORK「SEVEN DAYS WAR」
  3. TM NETWORK「STILL LOVE HER(失われた風景)」
  4. BOOM BOOM SATELLITES「LAY YOUR HANDS ON ME」
  5. BOOM BOOM SATELLITES「STAY」
  6. BOOM BOOM SATELLITES「STARS AND CLOUDS」
  7. BOOM BOOM SATELLITES「DIVE FOR YOU」
  8. Sigur Rós「FESTIVAL」
  9. Sigur Rós「Hoppípolla」
  10. Sigur Rós「Glosoli」
  11. Underworld「Born Slippy」
  12. Underworld「Rez」
  13. Underworld「Pearl's Girl」
  14. たま「さよなら人類」
  15. globe「DON'T LOOK BACK」
  16. globe「FACE」
  1. globe「Feel Like dance」
  2. さだまさし「風に立つライオン」
  3. 中島みゆき「ファイト」
  4. 中島みゆき「糸」
  5. 小澤征爾「交響曲 第9番 ニ短調 作品125 《合唱》 第1楽章: Allegro ma non troppo, un poco maestoso」
  6. 小澤征爾「交響曲 第9番 ニ短調 作品125 《合唱》 第2楽章: Molto vivace」
  7. 小澤征爾「交響曲 第9番 ニ短調 作品125 《合唱》 第3楽章: Adagio molto e cantabile」
  8. 小澤征爾「交響曲 第9番 ニ短調 作品125 《合唱》 第4楽章: Presto」
  9. くるり「ワンダーフォーゲル」
  10. akeboshi「曇り夜空」
  11. LUNA SEA「Tonight」
  12. Inner Circle「Games People play」
  13. Arcade Fire「No Cars Go」
  14. チューリップ「青春の影」

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栗城史多 選曲

栗城史多がエベレストで聴きたい曲を集めたプレイリスト。栗城は実際にこれらの曲を聴いて気持ちを高めて、世界最高峰の山々を登っている。

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栗城史多(くりきのぶかず)

1982年、北海道生まれの登山家。大学山岳部に入部してから登山を始め、6大陸の最高峰を登る。2012年にエベレスト西稜で両手・両足・鼻が重度の凍傷になり、手の指9本の大部分を失うも、2014年7月にブロードピーク(標高8047m)に無酸素・単独登頂し、復帰を果たした。2009年から「冒険の共有」と銘打ち、登山の様子をインターネットで生中継していることでも話題を集めている。また人材育成のアドバイザーとして、企業や学校で講演を行っている。