King Gnu常田大希&井口理が語る映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 |タランティーノの愛と流儀が詰め込まれた話題作 2人が見た「夢」と「カッコよさ」

ディカプリオとブラピの関係=常田と僕の関係

──「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は1969年という時代を描いた作品であると同時に、レオナルド・ディカプリオ演じる落ち目のスター役者とブラッド・ピット演じるその専属スタントマン、その2人の関係を描いた作品でもあります。

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」より。

常田 単純にディカプリオもブラピも自分はファンなんで、この2人がタッグを組んでいるのを映画で観られるのはうれしかったです。それだけでも、全然楽しめるっていう。2人の演じている役も、期待を裏切らないというか、期待以上にいい役だったし。

──2人は役者と専属スタントマンという意味ではビジネスの関係でもありますが、ある種の友情でも結ばれている。

井口 そういう意味では、僕と常田の関係にも似てるなと思いましたね(笑)。

常田 えっ? どっちがどっち?(笑)

井口 いや、そりゃあ、僕がブラピのほうでしょ……いや、顔じゃなくて!

常田 (笑)。

井口理(Vo, Key)

井口 あくまでも2人の関係性の話ですよ(笑)。終盤、2人の関係に大きな変化が起こる展開があるじゃないですか。あの一連のシーンで描かれている2人の信頼関係がすごくいいなと。

──ああ、バンドでいうと、解散を切り出すみたいな展開ですよね。

井口 そうそう。あと気が付いたのは、2人はバディ(相棒)の関係ではありますけど、作品を通じて、あまり相手と意見を交わしたり、相手に何か指摘をしたりはしないんですよね。そういう関係って実はありそうでないなって。

──なるほど。確かにそうですね。

常田 きっと2人の価値観が近いんでしょうね。

──そういうところも、バンドの仲間っぽいのかもしれません。

左から常田大希(Vo, G)、井口理(Vo, Key)。

常田 ディカプリオとブラピが仕事を終えて車で家に帰ってきて、車を車庫に駐めて、部屋でちょっとくつろぐみたいなシーンが何度も出てくるじゃないですか。そういう日常の描写が自分はすごく印象深かったんですよね。ああいうなんでもないような生活をゆっくりと味わわないと、人生を楽しむことにはならないんだろうなって。

──え? 今は人生を楽しめてないんですか?

常田 いや、今はずっとバタバタすぎて、家に帰ってきても寝るだけみたいな感じで(笑)。ああやって仕事とプライベートのサイクルがループのように回っている感じっていうのが、大人になるってことなんだろうなって。ちょっとうらやましかったですね。わかる?

井口 わかる。ブラピが住んでるのはトレーラーハウスみたいな質素なところですけど、やっぱり車で家に帰って、まず愛犬に晩御飯を作ってあげるじゃないですか。ああ、こうやって毎日過ごしてるんだろうなって。この作品はそういう何気ないシーンが全部いいんですよね。

常田 タランティーノ作品の特徴って、ベタなところにあると思うんですよね。ベタな展開だったり、ベタな選曲や、ベタな音楽の使い方だったり。でも、トータルで見るとそれがカッコいいっていう。普通、あまりベタを重ねていくとカッコ悪くなったりもする。でも、タランティーノがやるとそうはならない。きっと作品の全体像を完璧にコントロールしてるからなんだろうなって。

井口 「ジャンゴ」(2012年公開の「ジャンゴ 繋がれざる者」)もまさにそうでしたよね。昔の西部劇で散々使われてきたコテコテの音楽を使いまくっているのに、それを逆に新鮮なものとして提示してみせている。物怖じしないというか、思い切りのよさというか、この肝が据わった感じというのはなかなか真似できないですよね。

──確かにタランティーノのやることって、常にストレートなんですよね。実はあまり斜に構えたり、ヒネったりはしてない。

常田大希(Vo, G)

常田 そうなんですよね。音楽もそうですけど、きっと映画でも、詳しくなればなるほど難しいことをしたくなったりする。でも、タランティーノはそういう罠にハマってない。そういうところがカッコいいなって。それは、若い頃よりも今のほうがよりわかるようになってきましたね。

──まだ十分若いですけど(笑)。

常田 でも、若い頃はちょっと恥ずかしいと思っちゃうようなベタなやり方も、経験を重ねていくとだんだんそのよさがわかってきたりするから。タランティーノの作品が教えてくれるのは、そういうところかもしれないですね。あまり飾ったりしなくてもいいんだなって。“どベタ”にパンチを打ち続けて、でも、それがトータルで見るとアートになっているというか。俺とは真逆なタイプというか、嫉妬するところがありますね。

こういう映画がずっと欲しかったんだ

──常田さんは映画音楽の仕事もされてますが、その立場から何か刺激を受ける部分はありますか?

常田 音楽の使い方に関しては「ズルいな」とは思いますよ(笑)。こんなに1本の作品でたくさんの有名曲を使ったりとか、日本映画では絶対に考えられないので。

──ハリウッドの中でもタランティーノの作品の物量はちょっと異常ですけどね(笑)。

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」撮影中のクエンティン・タランティーノ。

常田 映像に音楽を合わせるとき、今の自分の感覚では、映像がメロディで、音楽はなるべくトゥーマッチにならないように心がけるんですよね。だからこそ、今回のタランティーノみたいな力技を見せられると興奮しますね。

井口 やっぱり、タランティーノの作品は夢をくれますよね。今回の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」も、映画を観たあとに思わず立ち上がりたくなるような気持ちになったのはひさしぶりだなって。

──鼓舞される感じ?

井口 はい。こういう映画がずっと欲しかったんだってことに、作品を観たあとに気付かされた感じです。アートが持つ夢の力というか、可能性を思い知らされました。

──ちなみにタランティーノは以前から長編映画を10作品撮ったら監督業を引退すると言っていて、今回の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は9作目なんですけど、自分でもかなり満足度が高いらしくて、「もしかしたらこれを監督引退作にするかもしれない」と言ってるんですよ。同じクリエイターとして、そういう気持ち、ちょっとわかったりしますか?

常田 「King Gnuとして完璧な作品ができたから引退する」ってことですか? いや、言ってみたいですよね。いつかそういうことが言えるように、今はとりあえずがんばります(笑)。

井口 自分はまったくゴールラインとか見えたことがないし、考えたこともないんで、これからも這いつくばって生きていくだけです(笑)。

常田 でも、理はいつか田舎に引っ込みたいって言ってたよね?

井口 ミュージシャンとしてではなく、人生のゴールラインとしては、そうだね……いつか田舎に引っ込んで畑で作物を育てて暮らしたい(笑)。その日が来るまで、東京でがんばっていきます。

左から常田大希(Vo, G)、井口理(Vo, Key)。