「紅白」初出場果たしたOmoinotake|激動の2024年とニューアルバム「Pieces」を語る (2/2)

「情けない」「頼りない」「気持ちはある」

──「P.S.」のあとは「アイオライト」「幾億光年」「蕾」「ラストノート」と、ドラマやアニメ、CMに書き下ろした楽曲が続きます。タイアップ曲でも、それぞれでOmoinotakeの異なる側面を見せようとする気概を感じますが、「幾億光年」以降、不特定多数の人に届く可能性が大きい曲を書くときに特に意識したことはありますか?

藤井 僕ができることはメロディ作りと編曲と歌唱の3つだと思っていて、メロディ単体を取ったときに、メロディアスでキャッチーかどうかは必ず意識していますね。編曲の面では、先ほど「こういうビートでやりたい」というところから始まった曲が多かったと言いましたけど、タイアップの曲も作品から「こういうビートでやってみたら面白いんじゃないか」というヒントをもらえることがすごく多かったです。例えば「アイオライト」だと、“推し”がテーマの1つで、赤楚衛二さんが出演するCMの絵コンテを見て、「弾けるポップなビートが合いそうだな」と思いついて。そこからは、何年も前から温存していたニュージャックスイングをこのタイミングでやろうと考えました。「潜入兄妹」に書き下ろした「ラストノート」は、いただいた台本やリクエストからトライバルなビートが禍々しい世界を作ってくれそうだなと考えて、アフロビートをやってみようと思ったり。バンドのど真ん中に「踊れて泣ける」という軸を掲げていることが非常によかったなと改めて思いました。そのうえで何をするかというふうに考えるからこそ、いろんなビートができた感覚があります。

──Omoinotakeが楽曲の軸に掲げる「踊れて泣ける」の“泣ける”の部分では、歌詞も重要なピースを担っていると思います。エモアキさんはタイアップ曲の歌詞を書くとき、どんなことを大事にされていますか?

福島 どの感情もピークまでいくと涙につながると思うんです。人間の構造上、そうなっていると思う。タイアップに関していうと、いろんな角度の作品がありますけど、例えば「僕のヒーローアカデミア」「潜入兄妹」とか、フィクションで現実味がない話なのに観ている人の心がキャラクターに重なるように描かれていること自体が、本当にすごいことだなと思うんです。人間の共感力にはものすごいものがあると思うし、その共感力を信じてないと作品作りはできないなとも思う。いろんな感情がある中でどの感情をピックアップすべきかは作品が導いてくれて、それをチョイスしたうえでOmoinotakeらしく書いていくことが、僕らがタイアップをやる意味かなと思っています。“Omoinotakeらしく”というのは、語尾1つの話だったり、主人公像がブレてないことだったりもするんですけど。

福島智朗(B)

福島智朗(B)

──エモアキさんは“Omoinotakeの主人公像”にどんなイメージを持っているのでしょう?

福島 「情けない」「頼りない」「気持ちはある」。

藤井 気持ちはある(笑)。

──まさに「ホワイトアウト」の歌詞「人より誇れる ことなんて 君想う 気持ちだけ」ですね。Omoinotakeがラブソングの名手になっていることを、このアルバムで改めて感じました。それはブレない主人公像があるからで。しかもただ単に曲の物語の設定というわけじゃなくて、エモアキさん自身の心や人間の見方としっかりとリンクしているように感じます。

福島 確かに、実際に思ったことのない感情は書けないです。文字数やいろんな制限がある中で、思ってない言葉を歌詞にハメるのは難しいし、刺さらない言葉しか出てこない。歌詞に書いている感情は全部実体験に基づいていますね。

2人だからこそ

──「Pieces」の大きなトピックとしてはもう1つ、SEVENTEENのJEONGHANさんをフィーチャリングボーカルに迎えた「Better Half」の日本語バージョンが収録されています。このコラボレーションはどういう経緯で決まったんですか?

藤井 オファーをいただいたところから始まりました。

福島 JEONGHANさんの入隊が決まっていて、「遠距離」というテーマで書いていきました。自分も遠距離恋愛の経験があったので書いてみたいテーマではあったんです。制作にあたって、兵役中のアーティストの復帰を待つファン心理を理解するため「待ち活」について調べたり、アーティスト本人は兵役中にどんな規則があるのかなども、ちゃんと学びました。整合性が取れないと気持ち悪いし、しかもJEONGHANさんの口から出る言葉だから正確に、大切に書いたほうがいいと思って。「待ち活」している人にとって救いになるような歌になればいいなと思います。

藤井 誰かと一緒にリードボーカルをやるのは初めてだったんですけど、ただAメロ、Bメロ、サビで歌い分けるだけで終わるのもつまらないなと。「2人だからこそ」という部分が曲中にあるといいなと思ったので、Dメロは掛け合いみたいな形で完成するメロディにしました。やっぱり僕の音域がかなり高いんですけど、それぞれの音域を生かしたいなと思った中で、お互いの一番いいところを探ってうまく落とし込めたかなと思います。

──この楽曲は韓国語バージョンもリリースされています。韓国語で歌ってみていかがでしたか?

藤井 難しかったですね。レコーディングには韓国語が堪能な方に立ち会っていただいて、レクチャーを受けながら歌いました。日本語的な発音で歌ってしまうと意味がまったく変わる歌詞もあったので、気を付けました。

──JEONGHANさんと一緒にスタジオに入られたんですか?

藤井 JEONGHANさんは入隊前でバタバタしていらっしゃって、お会いできなかったんです。「今度ごはんをおごります」という伝言をいただきました(笑)。

「紅白」に出続けることを第一に

──2025年はどんなことをやりたいですか? 今の立ち位置やタイミングだからできることも、逆に2024年はできなかったこともあるんじゃないかと思います。

藤井 去年は素晴らしいミュージシャンやアレンジャーの方とご一緒する機会が非常に多くて、メロディ、編曲、歌唱の3つに特化してがんばりたいと思っている中で特に編曲と歌唱において、自分よりすごい人たちを目の当たりにして悔しい思いをしたこともあったんです。Omoinotakeにおける自分のピースを磨くという意味で、人生を懸けてもっともっとブラッシュアップしていきたいです。

福島 バンドとしては「紅白」に出続けることを第一に。個人としては、僕も去年、「それいつやってんの?」みたいな仕事量をやっている超人たちをたくさん見たので、ああなりたいなと思いました。僕は山陰中央新報でエッセイ(「Omoinotake・心の詩」)を連載させてもらっているんですけど、本当にひいひい言いながらやっていて。世の中の超人たちはバンドをやりながら本を出していたりするじゃないですか。あのエネルギーを見習いたいと思います。書きたいことは有り余っているし、それは作詞にもつながってくるはずだと思っているので。書いても書いても書き足りないような感情をずっと作り続けたいです。

冨田 ビートが原点となって生まれる曲が多いので、このバンドで表現したいことをちゃんと100%表現できるように、僕はもっとプレイヤーとして磨きをかけていきたいなと思っています。

公演情報

Omoinotake One Man Tour "Pieces"

  • 2025年3月22日(土)島根県 安来市総合文化ホールアルテピア大ホール
  • 2025年3月28日(金)大阪府 オリックス劇場
  • 2025年4月11日(金)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2025年4月12日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2025年4月18日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年4月26日(土)愛知県 PORTBASE
  • 2025年4月29日(火・祝)宮城県 Rensa
  • 2025年5月2日(金)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

プロフィール

Omoinotake(オモイノタケ)

島根・松江市出身の藤井怜央(Vo, Key)、福島智朗(B, Cho)、冨田洋之進(Dr)の3人によって結成。2012年に活動を開始し、渋谷の路上をはじめ都内を中心にライブを行ってきた。2017年1月にバンド初のフルアルバム「So far」を発表。2021年11月にはテレビアニメ「ブルーピリオド」のオープニングテーマ曲を収めたEP「EVERBLUE」でメジャーデビューを果たす。2024年1月クールに放送されたTBS系ドラマ「Eye Love You」の主題歌「幾億光年」が大ヒットとなり、同年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場。2025年1月にメジャー2ndアルバム「Pieces」をリリースした。