Omoinotake「Ammolite」インタビュー|6年ぶりニューアルバムに詰め込んだ陰と陽

Omoinotakeがメジャー1stアルバム「Ammolite」を9月6日にリリースした。

「Ammolite」はOmoinotakeにとって6年ぶりとなるフルアルバム。最新曲「渦幕」やテレビアニメ「ホリミヤ -piece-」のオープニングテーマ「幸せ」、アニメ「ブルーピリオド」のオープニングテーマであるメジャーデビュー曲「EVERBLUE」といった既発曲に加えて、「Blessing」「Ammonite」「トートロジー」という3つの新録曲が収録される。聴く人やタイミングによって聴こえ方が変わる“多面性”を持つアルバムだが、本作はどのような思いで作られていったのか? メンバー全員に話を聞いた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ

やっと最新の名刺に更新できた

──Omoinotakeは今年で結成12年目。結成10周年を迎えた昨年にはインディーズ時代の楽曲のリアレンジを含む作品「Dear DECADE,」をリリースするなど、これまでの歩みを振り返る機会も多かったかと思いますが、「ずいぶん遠くまでやってきたな」と実感することはありますか?

藤井怜央(Vo,Key) やっぱりライブでは実感しますね。初めてフルアルバムをリリースした2017年にShibuya Milkywayで初のワンマンライブをやったんですけど、あの頃と比べると、ライブに来てくださるお客さんの人数もかなり増えたので。

──次はZeppツアーですしね。

藤井 そうですね。1歩ずつステップアップしてきたなという実感はあります。

冨田洋之進(Dr) 僕は先日、ドラマ「彼女たちの犯罪」の特別上映会に出演させてもらったときに実感しました。映画館で3人でスタンバっているときに「なんかすごいところまで来たな」「この3人でこんなことをする人生になるとは思わなかった」とふと思って。

福島智朗(B) わかる。「登壇」っていう響きがね(笑)。

冨田 そうそう(笑)。そのときに、この10年間を思い返したりしました。西調布のちっちゃいスタジオで始まったバンドが、こんなにたくさんの人に協力してもらって……まだまだこれからですけど、「ここまで来たんだな」と確かに思いましたね。

──そしてこのたび、メジャー1stアルバム「Ammolite」が完成しました。リリースを目前にした今の心境を伺えますか?

藤井 アルバムを出すのが実に6年ぶりなので、「やっと最新の名刺に更新できたな」という感覚です。

福島 先月完成したんですけど、それからずっと「早く聴いてほしいな」って思ってます(取材は8月下旬に実施)。全曲作り終えたときの手応えがすごくあったので。

冨田 僕も、早く聴いてほしいです。今までは録ったらすぐに配信して……という感じだったから、ファンの方がまだ聴いたことのない曲が数曲あるという状況がひさびさなんです。どういうふうに受け取ってもらえるのか楽しみです。

──収録曲の中には新曲はもちろん、メジャーデビュー前の曲や、今までのEPに収録されていた曲もありますね。

藤井 メジャー1stアルバムということで、このタイミングで初めてOmoinotakeに出会ってくれる方もいらっしゃると思うので、いわゆる代表曲はちゃんと収録しておきたかったんです。

冨田 僕らとしては“自分たちの現状をちょっとでも変えてくれた曲”を選んだような感覚です。

藤井 既存曲の中からどれを収録するかを決めるミーティングをしたんですけど、その時点では、陰と陽で言うところの、陽の曲が多かったんですよ。そこから「陰の部分ももっと見せたいよね」という話になり、「渦幕」とか「トートロジー」とか、陰にあたる新曲を作っていって。

福島 最後に完成した曲は「Ammonite」でした。「この曲でアルバムを意味付けられたらいいな」と、最後のピースを埋めたような感覚でしたね。

タイミングによって聴こえ方が変わる

──「Ammolite」というアルバムタイトルはどこから?

福島 アルバムのタイトルを考えているときに「構造色」というワードが浮かんできたんです。CDの裏面やシャボン玉のように、角度によっていろいろな見え方をする特殊な色のことを構造色と言うんですけど、音楽も、聴く人やタイミングによって聴こえ方が変わったりするので、近しいものがあるんじゃないかと。そこで構造色を持った物体を探していったところ、アンモライトという宝石が出てきまして。アンモライトは、アンモナイトが長い年月をかけて宝石化したもののことなんですけど、このアルバムも、長い年月をかけて聴いていただきたいなと。「初めて聴いたときはこう感じたけど、10年後にはこう感じた」という聴こえ方の変化を楽しんでほしい、一生の宝物になるようなアルバムになってほしい、という思いを込めて、「Ammolite」というタイトルを付けました。

──ラストが「オーダーメイド」なのがいいですよね。NHK松江放送局の開局90周年記念テーマソングとして制作された曲だけど、Omoinotakeの10年を思いながら聴ける曲でもあるし、リスナー1人ひとりの人生に寄り添う曲でもある。まさに構造色的な曲と言いますか。

福島  そうですね。島根の若者が書いた“10年後の自分に宛てた手紙”を読んでから書いた曲なんですけど、いただいた500通以上の手紙を読みながら、「本当にそれぞれの人生があるな」と思いました。「こんな田舎は嫌だ」と悩んでいる子もいれば、今がすごく楽しいという子もいる。僕らはその思いのすべてを汲むことはできないけど、それなら500通りの聴き方ができるような、まさに構造色的な歌にしたいという思いがありました。だから、このアルバムをすごく象徴している曲だなと思います。

俺たちだからこそ作れた曲

──完成したアルバムを通して聴いたとき、どんなことを感じましたか?

冨田 ゴスペル調で幸福感のある「Blessing」のあとに「EVERBLUE」のあのイントロを聴いたときに、パーンと開けた感じがして。今までの「EVERBLUE」とはちょっと違う聴こえ方で、アルバムを通して聴く楽しさを実感しました。

福島 「渦幕」から「モラトリアム」にかけての流れもいいよね。「モラトリアム」はけっこう前に書いた歌だから、制作当時のことをいろいろと思い出したりもして。そう考えると、僕らにとっては自分たちの歴史を感じる1枚でもあるんですよね。

──いちリスナーとしても、Omoinotakeの歴史を感じるアルバムだなと思いました。各々の嗜好やこれまで皆さんがソングライター、プレイヤーとして試行錯誤してきたことが、今のOmoinotakeを形作っているように思えるといいますか。皆さんが「これは自分の人生から出てきた表現だ」という手応えを特に感じている曲を1つ挙げるとすれば、どれになりますか?

藤井 僕はドンピシャで「渦幕」ですね。中学生の頃から哀愁漂うメロコアが好きだったんですよ。HAWAIIAN6とか、WRONG SCALEとか。Omoinotakeを始めてからは、バンドの音楽性を見つめ直すために今まで聴いてきた音楽を一旦忘れて、ブラックミュージックを一生懸命吸収した時期もありました。だけど、2019年くらいからかな? 自分のルーツにある音楽と結成後に吸収したブラックミュージックの両方を咀嚼してアウトプットすることが少しずつできるようになってきて。「渦幕」はその最たるものです。さらに最近知ったドリルのビートも取り入れられたし、達成感がすごくあるんですよね。聴いた人がどう思うかはわからないけど、自分は「俺たちだからこそ作れた曲だ」と思っているので、リスナーの方にも同じように感じ取ってもらえたらうれしいです。

──今「ドリル」というワードが出てきたように、Omoinotakeは“現行のトレンドをJ-POPに落とし込む”ということを欠かさず行っている印象があります。楽曲に新しい要素を取り入れるうえで、気を付けていることはありますか?

藤井 うまく言えないんですけど、「このジャンルに挑戦してみました」で終わらせてはいけないという意識は常に持っています。そのジャンルの音楽をたくさん聴いて、取り入れたいビートを乗りこなしたうえで、自分の引き出しにあるメロディとちゃんと融合させたいんですよね。「ビートに負けるようなことがあってはいけない」という強い気持ちを持つというか。アレンジする前の状態で泣けるかどうかも自分の中で1つの基準になっていて。左手でコードを、右手でメロディをピアノで弾いて泣けるかどうかも意識してます。