こんなに切ない曲なのに、なんでノれるんだろう
──ここからは「Street Light」の内容にも触れていきましょう。1曲目の「Stand Alone」はとても洗練されたR&Bで、リードトラックにふさわしいロマンティックな1曲だと感じました。
藤井 「Stand Alone」は詞が先だったよね? ちなみにこのバンドの歌詞は、全部エモアキが書いてるんです。
福島 「Stand Alone」の歌詞を書くときに考えていたのは、「自分自身がだんだん二分化していくように感じる」ということでした。要は大人になると本音が言えなくなって、その代わりに建前だけの愛想笑いがうまくなっていくんですよね。そこで僕は「スタンドアローン(自立する)=自分自身がひとつになること」と定義してみたんです。で、この気持ちってけっこう恋愛にも似ていると言うか、自分へのラブコールとして歌えるんじゃないかなって。歌詞全体のプロットはそんな感じでしたね。
──ラブソングのように聴こえて、実は自分自身の二面性を表現した曲でもあると。
福島 そう。あと、歌詞については絶対にこの3人で共感できるものにしたいなと思ってます。そうじゃないとウソになっちゃうし。特に今回は今までにないくらいに、歌詞のことをメンバーと何度もディスカッションしました。僕らは作詞と作曲を分業しているので、ボーカルのレオに歌詞のことを伝える作業は大切にしたいんですよね。
──2曲目の「Never Let You Go」はサビから始まる展開にすごくインパクトがあって、1980年代のシティポップを想起させるきらびやかな曲ですね。そして3曲目の「Still」は、サックスなども配した非常に哀感のある曲だなと。
藤井 「Never Let You Go」はまさにど頭のサビのメロディがきっかけで生まれた曲で。あと、この曲に関してはエレピの音がものすごく気に入っているんです。あの音からイメージを膨らませていく中で、ドラムの音にほかの曲より強くリバーブをかけてみたり。「Still」は確かにすごく切ない曲なんですけど、今回はそういう曲もしっかりノれるようなアレンジにしたいなと思って。そこで参考にしたのがメアリー・J. ブライジとか、1990年代のヒップホップやソウルだったんです。
──なるほど。
藤井 あとはローリン・ヒルの「Killing Me Softly」なんかもそうですね。こんなに切ない曲なのになんでノれるんだろうって。それでいろいろ研究していく中で、一度弾いたピアノをサンプリングして、それをPC上でエディットしてみたり。そういうチャレンジもしてみた曲ですね。
冨田 あと、Nujabesだよね?
藤井 そうそう。僕、Nujabesの「Reflection Eternal」が大好きなんです。それであの曲のことを調べてみたら、ピアニストの巨勢典子さんの楽曲がサンプリング元になっていることを知って。しかも巨勢さんは僕らと同じく島根出身で、そこに運命的なものを感じてしまって、ぜひ「Still」であのフレーズを使わせていただけないかと思ったんです。それで巨勢さんに連絡してみたら、「断る理由がない」と言ってもらえて。そういう変遷もあって、「Still」はとても思い入れが強い曲になりました。
渋谷スクランブル交差点への思いを込めて
──4曲目の「Temptation」は、パーカッションを使ったリズムアプローチがとても印象的でした。
福島 この曲の原型はドラゲ(冨田)が作ったんだよね。
冨田 ケツメイシの「君にBUMP」っていう曲があるじゃないですか? 当初はああいう感じをイメージしていたと言うか、もっと暑苦しいくらいの曲があってもいいよなと思いながら、原型となるコードとリズムとベースを打ち込みで用意して、それをレオにうまくアレンジしてもらいました。
藤井 このアレンジについては、ドラゲの思い描いているイメージをエレピでクールな感じに持っていきすぎないように考えました。あと、これはほかの曲にもつながる話なんですけど、PC上で作った曲をいざバンドで演奏してみると、おのずと変化が起きるんですよね。今作はDTMで作った音楽の硬さを3人でほぐして、生演奏のグルーヴに昇華していくような作業がけっこうありました。
──この曲は途中で4ビートに切り替わりますよね。ここに冨田さんのジャズの素養がさりげなく表れているようにも感じました。
冨田 まさにあれは僕がやりたかったアレンジですね(笑)。もちろんアレンジとしての良し悪しはレオがちゃんと判断してくれてますけど。
──5曲目「Bitter Sweet」は、そのDTMの質感が比較的そのまま残されていますね。
藤井 打ち込みだけの曲はこれが初めてなんですけど、けっこううまくいきました。「Bitter Sweet」は「So Far」の特典音源として以前にも発表したことがあるんです。ただ、そのときは全然違うアレンジで。
冨田 バラードだったんだよね?
藤井 うん、すごくウェットな感じと言うか。それを今作ではしっかり踊れるようなサウンドにしたいなと思って。そこで参考になったのがR・ケリーの「I'm A Flirt」。あるいはもっと最近の曲だとブルーノ・マーズの「That's What I Like」みたいな、BPMは速くないんだけどボーカルの符割りから出せるグルーヴでしっかり踊れる、軽やかなアレンジにしたいなと。
──そしてアルバムを締めくくる「Friction」。この歌詞には路上ライブを重ねてきた、渋谷スクランブル交差点への思いが込められていますね。
福島 まさにこれはストリートライブについて歌った曲で、渋谷スクランブル交差点はなんとなく仮想現実みたいな感じがして。あの交差点で生まれる摩擦熱が、渋谷のカルチャーの原動力になっている……そういうテーマで書いた歌詞ですね。僕らはいろんなところでストリートライブをやってきたけど、やっぱりあの交差点で演奏すると、ライブを撮影してSNSに上げてくれる人の総数とか、バズり方が全然違うんですよ。僕らにとって、やっぱりあのスクランブル交差点は特別な場所なんです。だからこそ、こういう曲でアルバムを総括したかったと言うか。
藤井 サウンドについて言うと、僕らは今まで四つ打ちの曲をいろいろやってきたんですけど、ハウスっぽい感じに振り切った曲はまだやったことがないなと思って。だったら、このアルバムの最後にそういう曲をもってきたいなと。それこそほかの曲よりも強いループ感を残して、そのまま駆け抜けていくようなエンディングにしたかったんです。
──個人的にはこの曲にも90年代のR&Bやヒップホップの影響を強く感じました。
藤井 確かにそうですね。「Friction」は意識せずしてそのあたりの影響が出た感じがしていて。今の僕らはいろんな音楽を吸収して、どんどん引き出しを増やしている時期でもあるんですけど、今回の作品でもそれがしっかり形にできたかなと思ってます。
──バンドの注目度が上がる一方で、ストリートライブをやることがだんだん難しくなってきたという点でも、現在の皆さんは活動の分岐点に立っているとも言えますよね。現在はどんな展望を抱いていますか。
藤井 音楽的なことで言うと、ブラックミュージックをもっともっと掘り下げていきたいと思ってます。やっぱりブラックミュージックって、そう簡単に見切りをつけられるような音楽じゃないんですよね。まだまだ知らないものがいっぱいあるし、そう簡単に理解できるものではないってことが、やればやるほどよくわかってきて。とにかく今は自分たちの音楽をもっと突き詰めていきたいと思っています。
- Omoinotake「Street Light」
- 2018年10月10日発売 / NEON RECORDS
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[CD] 1944円
NECR-1017
- 収録曲
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- Stand Alone
- Never Let You Go
- Still
- Temptation
- Bitter Sweet
- Friction
- Omoinotake(オモイノタケ)
- 島根・松江市出身の藤井レオ(Vo, Key)、福島智朗(B, Cho)、冨田洋之進(Dr)の3人によって結成。2012年に活動を開始し、渋谷の路上をはじめ都内を中心にライブを行ってきた。2017年1月にはバンド初のフルアルバム「So far」、8月には1stミニアルバム「beside」を発表。同年11月に東京・Shibuya Milkywayで行われた初ワンマンライブはチケットがソールドアウトとなった。2018年10月にはバンドにとって2枚目となるミニアルバム「Street Light」をリリースした。