高橋一(思い出野郎Aチーム)×岡部大(ハナコ)|同世代の2人が音楽と笑いで表現する“光を共有する方法”

カラオケで思い出野郎を熱唱

高橋 フジロックにも弾丸で遊びに来てくれたんですよね。思い出野郎だけを観に。

岡部 「フジロックで思い出野郎さんが聴けるなら絶対行くしかない!」と思って、朝イチで越後湯沢に向かって。ただ、バス待ちにハマっちゃって、ライブは途中からになっちゃったんですけど、ステージに近づくにつれて思い出野郎さんの曲が聴こえてきた瞬間は興奮しましたね。ライブも、もちろん最高で。

高橋 それでライブ後にご挨拶したら、「じゃあこれから東京で営業なんで!」ってすぐ帰っていかれて、「ホントに僕らだけ観に来てくれたんですか!?」って(笑)。

岡部 最高の夏の思い出ですね。

──岡部さんは楽器を演奏するなど音楽的な経験はあるんですか?

岡部 いや、聴く専門ですね。カラオケは好きなんですけど。

高橋 何を歌うんですか?

岡部 思い出さんの曲は、めっちゃ歌いますよ。

高橋 うれしいんだけど、僕らの曲って(間奏の)待ち時間、長くないですか?(笑)

岡部 確かに“揺れてる”時間はありますね(笑)。

高橋 僕らの曲をカラオケで歌う人って、増田(薫)くんのサックスのときとかどうするんだろうっていつも思うんですよ(笑)。

岡部 でも、菊田も秋山も一緒に大合唱ですから。ハナコの打ち上げは、1軒目からカラオケなんで。

高橋 すごいっすね。飲み屋でライブの感想を話し合ったりしないんですか?

岡部 もうカラオケするためにライブやってるみたいなもんなんで(笑)。僕と菊田が熱唱して、秋山がアンケートずっと読んでるみたいな。

ハナコが提示する新しい笑いの形

──では思い出野郎側がハナコを知ったきっかけは?

高橋 やっぱり「キングオブコント」とか、最初はテレビでしたね。メンバーみんなお笑いが好きだから、自然にハナコさんの話になったり。

岡部 うれしいなー。

高橋 僕で言うと、制作作業に打ち込みすぎると、精神的にどんどん暗くなっていくので、気分転換するのにお笑いの動画を観ることが多いんですよ。まったく違う脳のチャンネルが働くので、制作する脳が休める感じがあって。

岡部 どんなお笑いを観るんですか?

高橋 ハナコさんも好きだし、Aマッソさんとか、新しい人が多いですね。

──お笑い第7世代とも言われる層ですね。

高橋 僕らが小さいころから見てたお笑いも、もちろん好きだし笑えはするんですけど、やっぱり今の規範に照らし合わせると、ちょっとズレてたり、以前より笑えなくなってる自分がいるんですよね。でも、ハナコさんは今の基準や規範に則っても新しいお笑いはできるんだよ、ということを表現してくれてると思うし、今の時代のスタンダードを提示してると思うんです。

岡部 おー。

高橋 僕らは世代的に、差別的だったり暴力的なお笑いがテレビで流れてたから、そういう価値観の中で育ってきてはいるんだけど、かつては権力側に向けられてたように感じていた毒やシニカルさが反転して弱者の側に向いてしまっているような笑いは今の時代に合わなくなってきてると思うし、自分でも観ててどこか引っかかってしまう。ハナコさんのお笑いには過剰な毒はないんだけど、かと言って、それによってネタが浅くなったり薄まったりしてるわけじゃなくて、別のベクトルで濃密に笑いを形にしてて。そこに“今”を感じるんですよね。だからこそ「キングオブコント」で優勝したのも必然だと思うし、そういうハナコさんが僕らを発見してくれたのがバンドとしてもすごくうれしくて。

岡部 いやー、もうキンキンに冷えたビールが飲みたいですね、今(笑)。

──褒めをツマミに(笑)。

岡部 何杯でもいけますね(笑)。めちゃくちゃうれしいなー。

かわいそうなキャラでも最後は救いたい

──そういう他者に対する優しさだったり、思慮深さみたいなものは両者の表現に通じる部分があると思うし、「繋がったミュージック」のMVを観たときに、2組がつながる必然性もしっかりと感じられたんですよね。

岡部 やっぱりコントを作るうえで、笑われたりネタにされるキャラっていうのは、どうしても生まれてしまうんですけど。

──ストーリーを推進させるような狂言回しがいないとコント自体が成り立ちませんからね。

岡部大(ハナコ)

岡部 でも、そういうキャラにも最後は幸せになってほしいと思うんですよ。ネタの大元を作る僕と秋山は、シチュエーションコメディが好きなんで、話を展開させていくためにも、どうしてもかわいそうな役やキャラが必要で。でも、菊田を含めたブラッシュアップの段階で「このままだとコイツはちょっと悲しすぎるから、最後は幸せにしてあげようよ」っていつもなるんですね。後味をよくしたいというのもあるし、かわいそうなキャラでもやっぱり最後は救いたいなって。

──素敵だと思います。

岡部 お笑いを観る立場としては、意地悪だったり性格の悪い漫才やコントも好きなんですけど、自分たちでやるのは違うよねっていうところもあって。

高橋 いいですね。ハナコのコントって、変な人が出てきても「人ってみんな変だよね、でもみんな一緒だよね」っていう感じがあって。

岡部 だから、ホッとしたいときに僕らのお笑いを観てもらってるというのは、すごくうれしいですね。“親と安心して見られるコント師”っていう肩書きを目指してるんで(笑)。

高橋 決して毒やトゲを否定してるわけじゃないし、そういう表現も大好きなんだけど、今はそれがあまりにも広範化、一般化しすぎていて。例えば“イジる”みたいな芸人さん的な価値観ってあるじゃないですか。

岡部 ええ、はい。

高橋一(思い出野郎Aチーム)

高橋 それは芸人さん同士ではオイシイことだとわかってるから否定する気はないんです。だけど今は、“イジる”ってことを芸人さんではない僕らも自分たちの価値観として内面化しすぎてしまってると思うし、それがあっての“今”なのかなって。その意味でも、ハナコさんのお笑いは、毒やトゲが少なくても演出や物語の構造によって、ちゃんと面白くて新しい価値観を作れるんだということを表現してると思うんです。

岡部 これ、またキンキンのビールが欲しくなるやつですね(笑)。

高橋 音楽についても、例えば差別やヘイトに対して明確に「NO」って言いながら、面白いもの、気持ちいいもの、踊れるものは作れるし、実際そういう表現をしている人も多いので。僕らもそうありたいなって。

──それは今回のアルバム「Share The Light」にも色濃く表れていますね。岡部さんが今回のアルバムを聴かれてのご感想は?

岡部 最高でした! しっとり思い出野郎、ガシガシ思い出野郎、軽やか思い出野郎……いろんな思い出さんを満喫できましたね(笑)。歌詞を聴いていてハっとさせられるフレーズもとても多くて、体だけじゃなく、心を揺さぶられる感じがしました。早くライブで体を揺らしながら聴きたいです。

メンバー3人で怒るとしたら菊田

──「繋がったミュージック」のMVにハナコの皆さんが出演されたのは、これまでのお話のような経緯があってだったんですね。

高橋 ハナコの単独公演に合わせて作った曲だったんで、MVにもハナコさんに出演していただきたいな、と。おかげさまで今までで一番幅広い層に受け入れられた大事なMVになりましたね。それからハナコのお三方の演技力の高さですよ。このMVで斎藤(録音 / G)くんがMVの主役の時代は終わったなと(笑)。

──「去った!」のMVであんなに走らされたのに(笑)。

岡部 僕らも出演させていただけて本当にうれしかったですね。ライブのために作っていただいた、大好きな曲のMVに出られるなんて!って……撮影には大寝坊したんですけど(笑)。

──岡部さん、なんならMVの主役ですよね(笑)。

左から高橋一(思い出野郎Aチーム)、岡部大(ハナコ)。

岡部 そのうえ犬の着ぐるみも忘れましたからね。一番大事な要素なのに。

──ハナコが「キングオブコント」で優勝されたときに披露した犬のコントの衣装ですね。

高橋 しかも撮影後にも、その着ぐるみをスタジオに忘れてって(笑)。

──無意識下では犬のコントをやりたくないと思ってるような行動ですね(笑)。

岡部 商売道具なのになーって(笑)。

──MVでは平行世界のハナコが夢をつかむまでの物語が描かれていますが、劇中のシーンのようにケンカはされるんですか?

岡部 僕ら、そんなに揉めることがないんで、口論するシーンで3人ともその状況に悲しくなっちゃって、泣きそうになってたんですよね。そしたら菊田も「ゴメン、俺も泣きそう」って(笑)。

高橋 仲いいなあ。ケンカはしないんですね。

岡部 ほぼないですね。怒るとしたら菊田。

高橋 へー。意外。

岡部 僕と秋山はルーズなんですけど、菊田はきっちりしてるので、そこで菊田がイライラするんですよね。僕と秋山はいつも5分ぐらい遅刻しがちなんですけど、菊田は20分前には着いてるタイプだから、オンタイムに来てくれれば5分待ちで済むんだけど、結果25分待ちになって、余計に怒るっていう(笑)。

──MVに出演されたのは初めてですか?

岡部 実は2回目なんですよね。以前に組んでたエガラモガラってコンビのときに、若旦那さんの「俺が俺が~世界中が敵になっても~」(2012年)という曲のMVに出演させてもらってて。

高橋 へー。

岡部 高架下で漫才の練習をするコンビの役で出てて。で、今回のMVでもコントの練習をしてるっていう(笑)。