高橋一(思い出野郎Aチーム)×岡部大(ハナコ)|同世代の2人が音楽と笑いで表現する“光を共有する方法”

“無視されている人たち”のことも歌いたい

──では最後に思い出野郎のアルバムの話を。今作では思い出野郎のプロテスト性であったり、今の時代に対する状況認識のような部分が作品全体に通底していますね。そういう部分は、これまでも楽曲によっては表現されていましたが、今回は作品全体に散りばめられていて。

高橋 アルバム全体にメッセージやイメージが通底している感じにしたくて、今回は曲ごとに歌詞を書くんじゃなくて、まずは文章や詩を混沌とした状態で書いたんですね。その断片を、できあがった曲に割り振って、再構成していくという方法で歌詞を作っていって。本当に社会の状況がどんどん悪くなってるとも思うし、原型になる文章や詩にもそういう認識が表れてたから、その感情や思いが、作品全体に広がっていったんだと思います。

──ダンスミュージックを語るうえで、日本語のメッセージ性が強い歌詞だと、踊る足が止まってしまうから、あえて歌詞を軽い内容にするという言説があると思うんですね。ただ、抑圧や差別と戦うためのダンスミュージックは世界中にあるし、それもダンスミュージックの本質だと思うんです。だから、プロテスト性とダンスミュージックとしての強度が並立した今回のアルバムは本当に素晴らしいなと。

高橋一(思い出野郎Aチーム)

高橋 差別とかヘイトスピーチって、思想とか言論じゃなくて、ただの暴力ですよね。今回の歌詞って、「暴力をふるってはいけない」、ダメなものはダメ、悪いものは悪いっていう、当たり前のことを当たり前に歌ってるだけだから、ある意味では今までよりもつまらない歌詞だと思うんですね。でも、それを歌にするべきだと思ったんです。3rdアルバムだから、今までで一番華やかで、言い方は悪いけど“売れる”感じで行こうって話をしたのに、結果この内容っていう(笑)。

──そのメッセージの帰結点が「平穏で普通の日常が欲しい」という部分にあるのは本当に素晴らしいと思います。

高橋 ヘイトはいろんな場所でどんどん悪化してるし、日本の入国管理局では収容された人が自死したり、ハンストを起こしてるような状況がある。そうやって、自分の生活のすぐ近くには、とんでもない人権侵害や差別が起きてる。そういう状況が“なかったように”されているのは、すごくグロテスクだし、ディストピア的ですよね。そのことを歌詞にするのは自分でも気が重いし、そういう歌詞を入れないほうが、もっと広いリスナーにリーチできるかも知れない。でも、自分たちはそういう状況を無視できないし、“無視されている人たち”のことも、ちゃんと歌いたいと思うんですよね。

キツい現実を形にしても“楽しい”“踊れる”は出せる

──一方で、ダンスミュージックとしての機能性は本当に高いし、踊れるし、聴感的な気持ちよさはこれまでで一番強いとも思うんですね。それはバンドとしての演奏力の向上という部分も作用していると思うし、よいメロディや楽曲の展開をしっかり作るという部分にも注力されていて、非常に音楽性が高く、ポピュラリティを得られるアプローチになっているなと。

高橋 お笑いは、着地点を“笑える”にしないと基本的にはダメだから、こういった内容を取り扱うのは難しいと思うんですね。でも音楽って、何か1つの感情を着地点にしなくてもいいし、こうやってさまざまな要素をまぜこぜにしたり、キツい現実を形にしても、そのうえでも“楽しい”“踊れる”は出せるだろうなって。だからこそ、ミュージシャンはこういうアプローチを図ってもいいと思うし、やりやすいジャンル、やりやすい人から、こういうアプローチも当たり前になっていけばいいとも思うんですね……なんか僕ばっかり喋っちゃってすみません(笑)。

岡部 いやいや! リスナーとしてはすごく面白いです。今のお話を参考にして聴き直さなくちゃ!

将来的には「ハナコフェス」「岡部フェス」を

──制作の方法論にも変化はありましたか?

高橋 今回はまずドラムから決めていったんですよね。曲をセッションで作っていったときの、気持ちよくなるアンサンブルの形がなんとなくつかめてきて、その現状での頂点が「ステップ」とか「楽しく暮らそう」だったんです。だけど、気持ちいいほうに寄って、曲が似てきちゃう危機感があったんで、今回はドラムパターンから強制的に決めて、自分たちにないリズムや、普段やらないアプローチを取り入れたんですよ。リズムを基本にした土台をベースの長岡(智顕)くんと僕で作って、それを素にしたときに、どんなアンサンブルがバンドに生まれるかという制作方法で進めて。無理矢理にでも新鮮さを引き出そうと思ったんですよね。

岡部大(ハナコ)

岡部 やっぱり新鮮さは大事なんですね。

──その意味では、マコイチさんや長岡さんはトラックメイカー的なアプローチで土台を作ったということですね。

高橋 オマージュとして引用したネタを弾き直したりもしてるんで、そういう意味でもトラックメイク的だと思います。バンドの演奏能力が向上したことで実現できることも増えたし、雛形に対して「ここはこうしよう」みたいなアイデアも以前より広げられるようになったんですよね。だから音楽的に豊かに、有機的に作ることができた感じがありますね。ただ、ドラムの岡島(良樹)くんは大変だったと思います。実際に人間が叩けるかどうかわからないドラムパターンをいきなり提示されるわけで(笑)。

──「朝やけのニュータウン」のドラムの展開とか、ちょっと難しそうですね。

岡部 「朝やけのニュータウン」はすごく好きですね。今年の単独で、この曲の雛形になったインストをコントの合間のジングルで使わせていただいてたんですが、そのメロディに歌詞が付いて、より素敵な曲になっていて感動しましたね。聴いていると、朝焼けの空が心に浮かんでくるような、前向きな気持ちになれる曲で、大好きです!

高橋 あの曲はトラップのビートと、Dexys Midnight Runnersの「SEARCHING FOR THE YOUNG SOUL REBELS」みたいなソウル感が混ざらないかなというところから始まったんですよね。確かに全体的に難しくて、実際フジロックのライブでやったら誰も休めなくて、みんな1曲で疲れきっちゃうっていう(笑)。

──では最後に、これからもハナコと思い出野郎の“繋がり”は続いていきますか?

岡部 ぜひお願いします!

高橋 「ハナコフェス」「岡部フェス」とかどうですか? もちろんネバヤンも誘って(笑)。

岡部 すげー!(笑) できるならやってみたいですね。

高橋 今回のアルバムで扱ってることをみんなで共有していきたいけど、その前にライブとして楽しめることがもちろん大事なので、そこには“笑える”も欲しいんですよね。だから、これからも一緒にいろいろなことができたらすごくうれしいです。

岡部 僕らも単独ライブは続けていくし、1つのライブとしてもっともっとよくしていきたいと思ってるんで、音楽面だったりでぜひお力添えいただければ!

高橋 ぜひとも!

ライブ情報

思い出野郎Aチーム presents ウルトラ“フリー”ソウルピクニック
  • 2019年9月22日(日) 東京都 二子玉川ライズ 中央広場 OPEN 10:00 / END 18:00 <出演者> ライブ:思い出野郎Aチーム(12:00 / 14:30 / 17:00の3回公演)
    お笑いライブ:ハナコ / Aマッソ / ゼスト / ファイヤーサンダー / TOY
  • フード&ドリンク ■Curated by OYAT インド富士子×妄想インドカレー ネグラ×ピワン / 三月の水 / TRESOL ■Curated by Creema tipi / Mighty steps coffee stop / RUBBER TRAMP
  • 出店 ■Curated by OYAT BARBER SAKOTA / BLUE LUG / DESPERATE LIVING / hariknitting / iremono / omeal the kinchaku / PEOPLE BOOKSTORE / softs / 猫企画 ■Curated by Creema a.greenpeas / FT2 works / Masayuki Yoshinari / mic / picnic / QUEUE DE RANUN / TAGAKU / ueyama canvas / むらいさき / 段々倶楽部
左から高橋一(思い出野郎Aチーム)、岡部大(ハナコ)。